ギルド『蒼星』にて。
コンコンと扉を軽く叩く。
「失礼します」
重厚な扉を開け、部屋に入る。細長いテーブルの一番奥、いわゆる誕生日席、に紺髪のプレイヤー、そしてそのすぐ後ろにもう一人女性プレイヤーが立っていた。
「ああ、ZAC君か。いつも一番乗りだね」
「ギルマスこそいつもお早いじゃないですか」
クラン蒼星のクラマスターである彼は眼鏡の奥に覗く濃紺の瞳を細め、困ったように笑った。
俺はトップクランである蒼星の末席とはいえ幹部の座を貰ったからな。誇りを持って行動しなければ…!
…それにしてもあの二人はまだ来ないのか?あの男は兎も角カノちゃんが遅れるのは珍しいな。
「ごめんなさーい!遅れましたぁ~」
音を立て扉が開く。ふわふわとした髪の可愛らしい少女が少し慌てた様子で入室してくる。
「カノ君、大丈夫だよ。」
彼女は奥から二番目の椅子に座ると周りをキョロキョロと見回した。
「……あれ、竜円はまだ来てないの?」
「うーん、……あ、いや、丁度今来たみたいだね」
扉が乱暴に開けられるとともに男が一人部屋に入ってくる。遅刻しているというのに堂々とした様子でふてぶてしく奥から二番目の椅子に座った。
「よお、クラマス」
「…こんにちは」
…何故、注意しないのだ!遅れてきたというのに悪びれる様子も無い!そんなだから此奴になめられるのに!
批判するようにギルマスと男、竜円、を睨む。竜円は一瞬此方に視線を向けるがまったく気にかけず、ギルマスは困ったように笑うだけだ。
「…そろそろ会議を始めた方がいいのでは?」
それまで無言でギルマスの後ろに立っていた女プレイヤーが呆れたように言う。
「それもそうだね。有難うユリ」
「いえ」
彼女は副クランマスターであり、幹部の第一席だ。
「よし、じゃあ迷いの森攻略についてだけど、何か意見はあるかな?」
迷いの森。第二フィールドであり、フィールド全体が巨大な森になっている。今、俺達を含めたトップクランはここのフィールドボスを倒せないでいる。
...まあ、ギルド内外でのいざこざもあって第2フィールド攻略にはあまり時間を割けていなかったせいもあるのだろう。
しかし、そもそもフィールドボスに辿り着けないのだ。フィールドボスのエリアが巨大な迷路のようになっているのだ、迷路ではモンスターもでる。その為万が一フィールドボスに辿り着けても満身創痍、ボスには勝てないのだ。我々も未だクリア出来ていない。
とはいえ、だ。回数は少ないがフィールドボスには何度か到達できているし、そのうち倒せるんじゃないか。きっと到達できた時にたまたまパーティの人数が足りてなかったり、トッププレイヤーが同行していなかっただけだろう。
「今まで通り攻略するのでは駄目なのですか?」
俺がクラマスに質問を投げかける。竜円はそんな俺を鼻で笑った。
「今まで通りじゃ出来ねぇって判断したからわざわざ会議開いてるんだろ、もう少し頭使えよ」
「なっ、なんだと!」
頭を使えだと⁉お前には言われたくない!
椅子から立つ。後ろでガタンと椅子が倒れるような音がした。
「そこの二人、喧嘩するなら外でやってください」
…チッ…命拾いしたな!
あーくそ、何でこんなのが幹部なんだ!もっと相応しい幹部を向かい入れるべきだろう!?何より俺が第4席であいつが第3席なのが何よりも気に入らない...
「んー、弱体化アイテムとか?ありそうじゃない?」
あいつの態度に腸が煮えくり返っているところで横から鈴を転がすような声がした。カノちゃんだ。
…ま、まさかカノちゃん!俺を庇って⁉
「…弱体化アイテムですか…」
「確かに!第一フィールドでも弱体化アイテムは発見されていましたよね!十分あり得ますよ!」
「それもそうですね…他に意見は?」
いつの間にか副マスが会議を仕切っているが、いつものことなので誰も気にしない。
「迷路にパターンみたいのはないのか?」
「…うーん。パターンが分かるほどボスに到達してないんだよね...何より時間がかかりすぎるかな?」
ふっ…馬鹿め!そんなこと考えてみればわかるだろう!
「「「(……ブーメラン…(かな?)(だね)(ですね))」」」
「……ごほん…では、取り合えず迷路攻略に4割、弱体化アイテムもしくはそれに準ずるものの捜索に6割でどうでしょうか。また意見などあるようでしたら挙手するように」
「うん。僕はそれで良いと思うよ」
「賛成~!」
「いいんじゃねぇか?」
「同じく賛成です!」
「では、そのように。詳しくは後ほど各自にお伝えいたします。..では次にーーー」
......
「本日の確認事項としましては以上となります」
「それじゃあ皆、お疲れ様。幸運を祈るよ...」