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長い夜が明けるように  作者: 紅椿
第一章 新しい世界と藍鼠
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鬱イベント ②

鬱イベントその二だ。







俺はそのままバスに乗り、一番近い病院まで向かう。入院している母の見舞い……いや、違うな、正直に言うと生きてるか確認に行くだけだ。一年以上顔を出さないと叔父と叔母(あいつら)が五月蠅くなるし…まあ、行っても五月蠅いから救いようがないのだけれど。


……おっと愛想笑い(仮面)をつけなければ



旭陽菜()との面会を申し込み、病室に向かう。




見舞いにはもう何回も来ているため迷いなく病室の前に着く。そのまま躊躇なくドアを開けて中に踏み入った。

以前は同室にもう1人入院していたがすでに退院したようで病室にいるのは母1人であった。

(陽菜さん)はドアの開いた音に反応したのか此方に一度視線を向けるも、顔を顰めふいと顔を背けた。


「…陽菜さん(・・・・)、元気でしたか?」


「……ああ、まだ消えてなかったのね...どこぞでのたれ死んでくれれば良いのに」


「ええ、残念でしたね」


俺は一応用意してあった花束を窓際に置いてあった花瓶に飾り付ける。


「あなたの顔も見たくないの...早く消えてくれない?」


「そうですか」


ふむ、中々綺麗に飾れたのではないか?

……正直この人の部屋の花なんて綺麗にしなくていいと思うが、花に罪はないからな。


「……では、失礼しますね」


「……もう顔を見たくないから二度と来ないでくれるかしら…ああ、それかいっそこの世から居なくなってくれないかしら」



そんなに俺の顔を見たくないのならばあなたが死ねば良いのでは?という言葉を飲み込み代わりにニコリと笑みを浮かべる。




まともに会話する気のない人といるのは大変疲れる...。

ああ、でもめんどくさい鬱イベントはこれで終わり、次が今日最後の用事だ。
















最後の用事は父の墓参りだ。

病院から比較的近いため見舞いの際に来ることにしているのである。

…まあ、父と言っても会ったことがないのだが。



取り合えず墓を綺麗に掃除する。此処には俺くらいしか訪れないからな。父方の祖父も偶に此処を訪れていたみたいだが、元々齢のせいもあり頻繁に来れなかった様だし持病が悪化したせいで三年前に亡くなった。祖父はとても物腰の柔らかい良い人…だったと思う。だからといって見たこともない父を慕えるかと聞かれると否と答えるしかないように思えるが。


花束を置き、線香を焚く。








我ながら淡々と作業じみた墓参りだったと思う。……父は俺からすれば赤の他人のようなもので、それに心を込めろと言われても困るのだが。


まあ、今まで俺の生活費の殆どを負担してくれていたのは父方の遺産であるから勿論感謝している。なので墓参りは毎年に一回以上来るようにしているし、掃除もキチンとさせてもらう。



「さて、帰るか...」




















・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・











現在一人暮らししているマンションの自室のドアを閉める。閉めたドアに寄りかさり、ずるずると座り込む。

ああ、電気つけなきゃ……面倒くさいし、後で良いか。





…ちょっと疲れた…。

カノに会いたい………あー、いや駄目だな。今の状態で会いたくない。



普段は心の片隅に押さえつけているドロドロとした黒い、昏いものがあふれそうになる。




…これだからこの鬱イベントが嫌いなんだ。


正直…自分でも何故こんなにも追いつめられるのか解らない。生存確認も確かにストレスはたまるが五月蠅いだけし、見舞いモドキも同じく。墓参りも単なる作業だ。特に問題ない。


確かにあの人たちの言葉に一喜一憂していた時期もあった...でも、もう俺はあの人たちには何の感情も期待も抱いていない。


しいていうならストレスだが、流石にこの程度のストレスで精神(こころ)が弱るほど俺は弱くない。何より母が入院するまでは毎日このぐらいのストレスが溜まっていたのだ。

…問題ないのならば何故俺がこの日の出来事を鬱イベントと称するのか?そんなのは毎年毎年(いつもいつも)自室に帰る度にこう(・・)なるからである。


普段(いつも)は心の奥隅に抑えつけているこの黒い何かが心を浸食していくようなそんな感覚。

なんでこうなるのかも、これが何か俺には解らない…違うな。気付いてるのかもしれない。でも気付かない振りをする。これからも気付かない振りをするのだろう。

そう……





















この(狂気)が俺を塗りつぶすまで。


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