6話 続、アイサツ
「オレはなぁ。全ての魔界をブっ潰すために、ここに来たッーー!!」
ーーそのヒイトの言葉に、周りは唖然。
「まずは魔王シュラウド、奴を叩いて魔界クリメイテッドを潰す。ーー他の魔界もあンだろ、それはここより小せえみてぇだし、ここ片付けてからヤってやるよッ!」
「そしてその後は、あたしの旦那になるんだもんねっ♡」
リリリが背後から、ひょこっと顎を出しヒイトの肩に乗せる。
一声を発したのはバヤガだった。
「アッハハハハッ!……馬鹿は休み休み言いな、そんなこと貴様だけでやれるのかい」
成功する可能性めっちゃあるもんねー!っとリリリはバヤガに舌を突き出した。
「オレには天界からのVIPな援助付きさぁ……ババァ、テメェなんかいつでもやれるんだ。今死ぬか後で死ぬかは、よーく考えて選びな!」
ヒイトは立てた親指を下げて、自信満々に言い放つが、そんなことより、周りは天界というキーワードから動揺を隠せず、何を彷彿してたのか、これはおおごと(めっちゃ大事件!)とだけは各々感じ取ることはできていた。
バヤガは、ヒイトから取り上げているディディーヴァを思い返した。
(あながち、嘘でもハッタリでもないな……)
「(ホント威勢だけは良いな、そこは認めるよ)……その言葉、そのまま返すぞーー」
ーー?!
途端、ヒイトは高く飛び上がった。
ヒイトの両足からは、炎が噴射している。その力で空中に飛翔したのだろう。
「待ってヒイト!」
リリリの言葉は届かず、バヤガに向かってヒイトは吹っ飛んで行った。
バヤガから発せられた殺気、狂気が混じる邪気から、本能的にヒイトは先制攻撃に出てしまったのだ。
勢いが乗った拳を、バヤガの目先まで届ける。
その状況でも微動だにしないバヤガは、頬杖をついたままニタリと笑った。
バジジィンッ!!
その瞬間、ヒイトの拳は蹴り上げられた。
(――ん!?)
突如目の前に現れたのは、右足を振り上げている身体中に電気を帯びた何者かだった。
何者は、そのまま強引に回転させた左足をヒイトに向けて振るう。
咄嗟に受け身を取ったヒイトは、その攻撃を受けて後方まで返されてしまった。
ジジジッ!
(クッーー!痺れやがる!!)
ヒイトは覚束無い着地のまま、蹴りを入れた主を見上げた。その者は詰襟の学生服を乱して着ており、そのサラッとおろした金髪の青年は、雰囲気はその辺の悪魔と違く、もはや人間そのものだった。
「オイっ!なんで誰も動かねーんだっ!(……コイツら、俺を試しやがったな)」
そう言いながら金髪の青年は、再度ヒイトへ目を向ける。
「(バヤガ様、ベルゼが寄越してきた用心棒、確かですな)」
シイレの話を耳元で受け、バヤガは立ち上がりながら答える。
「(ただの監視役かと思ってたが、使えそうだ)……カネダ、良くやったぞ。そのままアレを獲れてくれないかのぅ……」
金髪青年ことカネダは、それを聞いて顔がゲッとなった。
「俺はあくまで護衛で来てるんだ。なんで余計な事までやんなきゃいけねーンダよぉっ!」
一方で、それまでぶっ潰れていたドウムの意識が戻った。
「……どう言う状況だ」
「ドウムさん!起きましたか!幹部含め組全員揃ったもののですね……」
そう言い、オービはリリリとヒイトの方へ目線を向ける。
リリリはヒイトに駆け寄っていら様子だ。
ヒイトは電撃を受けた身体の回復を待たずに、早々と態勢を立て直す。
「リリリ、デカイの一発撃つぞ……!」
「待って!!…あそこにいるツルツル頭、あれ攫って逃げるよ!」
リリリの目先の相手は、そう、ジャノであった。
ーー?
見られてる気がすると感じたジャノは、何か不穏な予感がした。
「あの人たち、こっち見てません…?」
ルサルサも嫌な予感を察したのか、ムラサメの背後に隠れ始めた。
……?!
すると、ヒイトから放たれた炎弾がこちらに向かってきているではないか。
(そうかっ――!)
ムラサメは脳裏に過った閃きと共に、脇にルサルサを、肩にはジャノを担いで咄嗟に回避行動に移る。そのまま、もと来た道へと振り返り走り出した。
ズバァァん!!
先程のムラサメ達の位置より、手前で着弾した紅弾によって、付近にいた悪魔達は爆発に巻き込まれた。
ヒイトとリリリは炎弾発射と同時に、向こうでジャノ(ルサルサも)を担ぎ走り出したムラサメを目で捕らえ、それを目指して即座に走り出していた。
(クソっ!逃げられるか!?)
(さっきの奴、組員の新入り?!)
ヒイト達が、目標の入り口にまで到着した頃。背後から気配を察知した。
バヤガがレーキ(T字型の鉄製の熊手)に跨がり、高速で近づいて来ている。また、それを追うよに必死にカネダも向かってきていた。
ーー赤面の岩原は止まず、どこまでも続いている。ムラサメは、先程までの通路を抜け外に出ている。そう、全力疾走でジャノの洞窟部屋に向かっているのだ。
「聞いておるのか!早くワシを降ろせえい!!」
ジャノの言葉に耳を貸さず、足を止めることなく走り続けた。
ドバァン!!
近くの瓦礫が弾け、無数の破片がムラサメ達を襲った。
「キャー!」
「あぶなぁあい!!」
(ーー!!)
ムラサメは無言のまま破片を避け切って、地面を削りながら急ブレーキをかける。そのまま広報を振り向くと、ヒイトとリリリが目前まで迫ってきていた。
ただの追いかけっこにしては疲れている様子なので、どうやら、更に後ろから追ってきているバヤガと交戦しながら、ここまで来た様だ。
「ちょっとー!そこのツルツル頭、こっちによこしなさーい!!」
ムラサメはリリリの言葉を耳にしながら、ジャノとルサルサを降ろした。
「私が貴方達を解放しますっ……!」
ジャノが何か言おうとしていたが、それを無視して、そのままヒイトとリリリの方へ言葉を放った。
「そこの御二方、私と手を組みませんか!!」
「なーにいっ」
「リリリ、待て」
ヒイトはリリリを制し、ムラサメの話を聞いた。
「あなた方の狙いは、こちらの彼を使ってバヤガを脅迫するおつもりだったのでは?」
ムラサメはジャノに手を差しながら説明をした。
「私も、あの組織を崩したい……手立てはあります!どうでしょう?」
『ーー何やら楽しそうね』
ーー!!!!
彼らの上空にもうバヤガが到着していた。バヤガから発生られる邪気から、周りの空気や地面が振動している。
「細かい話は後だ!さっさとオッぱじめようぜっ!!」
全身に浴びた邪気を感じつつ、ヒイトはバヤガの方に向いて改めて戦闘態勢に入った。
ビォン、ビュゥゥウン!!
その途端、肌が裂けるほど冷たい暴風が、急に吹き出した。これが噂のバヤガが操る冷気なのか。辺りの地面の砂が豪快に飛び散り、各々好き放題な驚きの台詞を吐きながら、この暴風を防ぐため腕で顔や身体を隠し防御している。
一方、遅れて到着したカネダは、その様子を見て肩の力が抜けた。
「オレ、いらねんじゃねーの……」
「流石にまだイケるわよね?」
バヤガが腕を振るうと、冷気の威力は更に上がった。
どうやらヒイトに狙いを絞り、威力を上げた様だ。顔を隠していた腕を始め、身体のあちこちに無数に傷ができ、その傷の深さも次第に増してっていった。
(身体がどんどん削れていく……こんな広範囲の中を下手に動いても魔力が消耗していくだけだ…!イチかバチか、魔紅南無を放って冷気を吹き飛ばすか?!)
「――恨むなよ!」
ムラサメは、バヤガの方角へ掌を伸ばした。目がカッと見開いた瞬間、この言葉と同時に異変は起きた。
「アァイアン…メイデンッ!!」
コンマ数秒、バヤガを360度取り囲む様に、周辺には無数の鉄塊が現れた。
ーーズシャァア!!!
それに気づいた時には、既にバヤガの身体中にその鉄塊が突き刺さっていた。
『今のうちに!!』
唐突な出来事に頭の整理が追いつかず固まってしまったが、一同はムラサメの声にハッと目が覚め、再び動き出した。