【朗読用台本】呪われた聖剣
使用許可不要。自作発言NG。
かつて、私は聖なる存在だった。聖なる存在として、地上に振り撒かれた邪悪なる存在を監視し、滅ぼすのが私の役目だった。しかし、それは遥か昔のことだ。
今の私は、穢れた存在だ。己の身体に邪悪な力を宿した存在だ。呪われた存在……いや、呪いそのものと言っても良いかもしれない。
邪悪な呪いを宿した私の身体は、当初は観察対象だった。呪いの力が聖なる身体を蝕むと、どうなるのか。私はその実験台だったのだ。
呪いは、時間が経つにつれて次第に非常に強力で凶悪になって言った。そして、気がつけば神でさえも倒すことができない程に増幅していた。
だから、私以外の聖なる存在は私を封印した。聖なる存在の全てを結集しても、私を殺すことができなかったのだ。故に、封じることしかできなかったのだ。
最終的に、呪われた私は一本の聖剣に封じられた。だから、私は孤独である。内部からは絶対に解けない封印の中で、永遠に呪いと共に存在している。誰にも触れられず。誰とも言葉を交わすことなく。他人の姿を見ることさえできない。私は永遠に独りだ。
でも、孤独で良いんだ。そもそも、この身に呪いを宿すことを、私自身が選んだのだから。
呪いと共に生きる道を選んだのは、彼を救う為だった。彼は、強すぎる呪いに身体を蝕まれ、命を落とそうとしていた。私は彼の身体を侵すモノを排除することを試みた。しかし、できなかった。
彼の身体は、呪いと完全に一体化していた。すなわち、呪いを消すには彼を殺さなければならなかった。呪いだけを取り除くことはできなかったのだ。
それでも、私は彼を救いたかった。彼は救われるべき者だ。だから、助けたいと考えた。彼の身を蝕む呪いから、彼を解放したいと強く望んだ。
私は必死に考え、一つだけ方法があることに気づいた。
彼の呪いを、自分の身に移す。私の力を使えば、できるはず。いや、やるんだ。
そう。彼は救われるべき者なのた。彼が存在することで、地上に平和をもたらすことができる。だから、私は彼を救済した。ただそれだけのことだ。たとえ自分の身が呪いに置かされても構わなかった。後悔などしていない。
けれども、どうしてだろう。私は彼のことが心配だ。この手で確かに救ったはずなのに。どうしても彼の身を案じてしまうのだ。何故だろう。
私はこの疑問の答えを見つけるべく、自問自答を繰り返した。この封印から解放されることが無い限り、無駄な思考でしかないのだが。それでも、知りたかった。
彼は、必要以上にお人好しだから? 彼には、意外と抜けている所があるから? いや、違う。そういうことではない気がする。
全く生産性のない物思いに耽る内に、私は一つの結論を見出した。
私は、彼に幸せになって欲しい。しかも、今初めて望んだことではない。 この呪いを身に宿す前、無意識ではあったが、確かに私は彼の幸福を願っていた。そして、できることなら、彼の隣でその幸せを見守っていたかった。
ああ、そうだ。だから私は今でも彼のことが気がかりなのだ。……だが、何故、私は彼の幸せを願っているのだろう。
私は、再び考え始めた。彼の姿や言葉を思い浮かべながら。記憶の中から、彼と過ごした日々を掘り起こしながら。そして、ふと彼の名前を口にした時、気が付いた。
ああ、そうか。
知らず知らずのうちに心の奥底に芽生えていた感情。気づくのにだいぶ時間がかかってしまったな。私は、こういうことには疎いのだ。仕方ないだろう。
それにしても、なんて優しく温かい気持ちなのだろうか。そうだ、私は……。私は、彼を……。