卵焼きづくり
「お待ちしておりました。今から、ロテルには使用人たちのまかない飯を作っていただきます。」
「はい」
調理室に到着すると、調理担当のメイド、ルカが待っていた。
「今日作るのは、たまごやきです。卵を割って、巻いて、焼くだけ。簡単なので、ご安心ください」
「はい、頑張ります!」
私は、用意されていたフライパンを手に取り、油をしく。
そしてコンロに置き、火をつける。
強さはどのくらいがいいかな?
とりあえず中火、っと。
「私は食堂で待っております。できたら私が食べて採点しますので」
「分かりました!」
フライパンがあったまってきた。卵を割らなければ。
えっと、机の端でコンコン、っと。
バキャッ ぐしゃっ‼
卵は割れた。
割れたのだが、なんというか、うん。
粉砕というか、粉々というか、握りつぶしたというか。
メティ、なんでこうなった…?
〈応。マスターは握力が常人より強力であると思われます〉
なにそれ聞いてない。
まあいいや、一応フライパンの中に落ちたし。
固まってしまったので、「巻く」という作業が不可能になったが、食べられるだけありがたいと思いましょう。
…あれ?
私はふと、机の端っこの方に置いてあるビンに気が付いた。
大きさや形から、七味か何かかな?と思い、手に取ってみる。
ラベルには、
「かくしあじ いれるとおいしいよ 」
と、手書きで書いてあった。
え、なんだこれ…?
かくしあじ、って書いてはあるけど中身はヤバイ調味料、とか、そういうベタなやつだろうか…?
いやでも、ベタ過ぎやしないか?
だったら、本物の隠し味?
にしては怪しすぎる。
中身は黒い液体。見るからに危ない。
でも、本当に隠し味だったら?
そうだよ、そんなヤバいやつが調理室にあるわけないでしょ。
うんうん、よし、入れよう!
…なんて思っていた時期が、私にもありました…。
ビンのふたをあけ、1・2滴卵焼きに落としたのだよ。
すると、何という事でしょう!
美味しそうな黄色い卵焼きが、見る間にどす黒く変色し、鼻孔をつきさすような匂いがあたりに立ち込めたではありませんか!
…どうしよう?
こういうときは、味見である。
私は、つまみぐいや味見が大好きなんだが、さすがに目の前のこれを好き好んで食べようとは思えなかった。
しかし、しょうがない。
私は覚悟を決めて、卵焼きを一口、ぱくりと口に放り込んだ。