スキル
私は、転生してから一週間、勉強に励んだ。
特に、こっちの世界の常識等について。
まず、時間や月日、あらゆるものの単位と数え方は前世と一緒。
唯一違うのは、お金の単位。
お金の単位は「マト」と「ニル」。1マトは日本円でちょうど1円くらい、ニルは日本円で1000円くらい。
次に、魔法がある。
魔力は、人間にはある人とはない人がいる。私は、魔力があるという。
人の平均の魔力で使える魔法は明かりをつける魔法とか、水を一滴出す魔法とか。
魔族がいて、魔族は人の倍くらいの魔力をもっている。
魔物はいる。前世にいたような動物はいない。
あと、ギルドがある。
依頼を達成し、報酬をもらう、という仕組みだそう。
他にもたくさんたくさん勉強したけれど、もう思い出しきれない。
ま、必要になったら思い出すだろ。
【勉強お疲れさまね、ロテル】
あ、ライル。
【うふふ、頑張ってるロテルに、わたくしから贈り物をしたいの】
贈り物?
別に気にしなくてもいいのに。
ま、もらえるものはもらうけどね!
【それじゃ、これが贈り物よ。】
ぴこんっ
「スキル 鑑定 対象の説明・ステータスの確認
スキル 告知 あらゆる事象・情報を司る精霊がスキル化したもの 」
機械音が流れる。
え、えっとー、どういうことっすかねライルさん?
【うふふ、わたくしに聞かなくても、「告知」が教えてくれるわよ】
こ、告知?
えー、とりあえず、スキルってどういうこと?
〈応。スキルとは、能力のこと。ある程度マスターした能力がスキル化してより強力になることがある「後天性スキル」と、生まれたときからもっている個人・個体の特殊なスキル「先天性スキル」がある。
例:たくさんの魔物に好かれた→「魔物使い」 後天性スキル
剣の修業をし、ある程度身につけた→「剣士」や「剣技」など 後天性スキル
生まれつき回復能力が高い→「自然治癒」 先天性スキル
生まれつき運動能力が高い→「武の才」など 先天性スキル 〉
へー。ってことは、私のもっているスキルは、ええとさっきライルが「贈り物」って言ってた「鑑定」と「告知」?
〈それは、正解にして不正解です、マスター〉
ま、マスター?私が?
スキルの行使者だから、かなぁ…。
ていうか、なんだそのクイズみたいな答え方は。
〈マスターは、先天性スキル「美食家」をもっています〉
え、何それ。
なんか何となく凄そう。
あれか?意思とか材料とかだけで、美味しいものつくれちゃうとか?
そうなったら、なに食べよっかなー。
ピザかなー、アイスかなー、チョコレートかなー!
私は美味しい妄想を、ぐふふ、という完全に悪役側の笑い声をもらしながらしていた。
〈美食家の効果 不味いものを不味いものとして認識せず、全ての料理が美味
に感じられる。また、それは毒や催眠薬などマイナスの効果
を及ぼすものに関しても同様である。
注意:美味しく感じられても体に害があることは変わりませ
ん。食物の安全には細心の注意を払いましょう。〉
ん?
私は、何度も説明を読み返した。
えーと。
要するに、私のスキル「美食家」は、
①不味いものが美味しく感じられる。
②害のあるものが美味しく感じられる。
ということである。
…ってふざけるなよ!?
それただの究極の味音痴じゃねえか!!
ていうか、解毒作用ないんなら美味しくても意味ないじゃん!!むしろ危険だよ!!
返せ、私の夢を!
儚く消えた私のピザやアイスやチョコレートを返せー!!
〈応。スキルは破棄できません。〉
いらねえよこんなスキル!
ていうかこんなスキルどうすりゃ役に立つのさ!?
〈応。食事は人生の最大の楽しみの一つです。その楽しみを最大限に引き出してくれるのがこのスキルとなっております。〉
いらねー!
このささやかな気遣いは嬉しいけどこのスキルいらねー!
心の底からいらねー!
【まあまあ、そんなこと言わないで。あなたが望んだ「不思議な能力」じゃない】
不思議だけど不思議過ぎてもはや危険なのよ!!
ライル、あんたは常識からずれている…そう私は思うぞ。
お家柄にしろスキルにしろ、なんというか、私が望んだ言葉通りだよ。うん、確かに「私の願い」を叶えてくれたさ。
でも、なんというかね…まあいいや。
もう今から反論しても遅いし。
最後の願い、「相棒はもふもふのわんこ」に期待するとしよう…。
〈漢らしい性格はマスターの長所ですね〉
告知のスキルが褒めてくれた。
機械音に褒められるのってなんか不思議な気分だが。
ていうか、本とかではこういう、アドバイス系のスキルには感情はないのが一般的だけど、「告知」には感情があるんだね。
〈応。わたしは元々、情報を司る精霊。自我と感情があります。しかしスキル化しておりますので、マスターを裏切ることは断じていたしません。〉
そうかそうか、頼りになるよ。
【うふ、気に入ってくれて嬉しいわ。じゃあね、また今度。】
そう言って、ライルの声は溶けるように消えていった。
―ライルの声が消えてから、数時間後。
私は、勉強をひと段落させ、休憩していた。
しかし、私はふとそこであることに気付く。
「あれ…勉強しなくても、『告知』が教えてくれるんじゃね…?」
〈マスター。大正解でございます〉
ショック過ぎて目眩すら覚える私の頭に、
ぴんぽーん!
と明るい音が虚しく響いた。