転生
目が覚めた。
ここは?
あたりを見まわす。
人が3人寝られるくらいの、狭い洋室。
その中央にあるベッドの中で、私は今まで寝ていたみたいだ。
見覚えがない部屋。
ここ、どこ?
さっきまで、女の人と会話をしていた気がする。
ええと確か、名前は…「ライル」。
そうだ、私、転生したんだった。
えっと、まず、状況を整理しよう。
私の前世を思い出してみる。
ええと、学生だった。年齢は、思い出せない。
一人暮らしじゃない、家族がいた。
お父さんとお母さんと弟と家に住んでいた、はずだ。
名前は…思い出せない。
ガチャリ
ドアが開く。
17歳くらいの男の人が部屋に入ってきた。
グレーのセーターと茶色のズボンという格好だ。
「起きたのかい?ロテル」
ロテル?ロテルって、誰?
男の人は笑顔で私に近づいてくる。
「誰ですか」
私がそう言うと、男の人の笑顔がぴきっと固まった。
「ろ、ロテル、まさか、覚えていないのか?兄さんだよ、兄さんのヤルフだ よ。」
あー。お兄さんか。
「ええと、ロテルの事も説明しよう。
ロテル・メフィリア。それが君の名前だよ、ロテル。
ロテルは今十才。
一昨日の夜に眠ってからずっと目を覚まさなかったんだ。」
十才?てことは、私って元々この世界にいた人になってる?
でも、その元いたロテルさんはどこに行っちゃったんだろう。
【うふ、起きたのね。】
あ、ライル!
頭の中に声が響いた。
この今の私って、どういう状況?
あと、なんでライルと話せるの?
【えっとね、もともといた「ロテル」という少女は、あなたの器よ。生まれた時から。】
う、器!?それ、かわいそうなんじゃ…。
【ああ、大丈夫。多分あなたが想像しているようなものではなくて、あの少女の魂にあなたの魂が微小だけど混じっていたの。言うとすれば、二人目のあなた。】
は、はあ。
【今、その微小だった魂とあなたの魂が結びついて、完全な人格ができている。それがあなたの状況よ。】
なるほど。分かったような、分からないような。
【私と話せるのは、私があなたに語りかけているから。残念だけど、今はあなたから私に話しかけることはできない。でも私はあなたに話しかけることができるの。素敵ね!またお話ししましょうね。】
そういって、ライルの声は消えた。
「ロテル、大丈夫かい?」
男の人―否、ヤルフさんが私をのぞきこむ。
「あ、はい。ええと、大丈夫です」
ヤルフさんは私の言葉にほっとした表情を浮かべると、私がいたベッドに座った。
「この調子なら大丈夫そうだな。」
…何が?気になったけど、口には出さなかった。
「そうだ、鏡を見るかい?自分の姿を見たら、思い出せるかも」
ヤルフさんはそう言うと、部屋のすみにあった姿見を運んできてくれた。
あごくらいの長さで、一房だけ金髪が混じった黒髪。髪がところどころはねているけど、寝ぐせがついているのか、もともとなのかは分からない。
アーモンド形のきれいな目、瞳はグレー。
形の整った鼻。
肌は、白めだけど健康的な肌色。
何この子可愛い。
笑ったらもっとかわいくなるだろうな。
自分のほっぺをむにっと引っ張る。
すると、鏡の中の美少女も同じくほっぺをむにっと引っ張った。
…ん?
一歩後ろに下がる。
美少女も一歩後ろに下がった。
首を上下に振ってみる。
美少女も首を上下に振った。
…え、
「これ私!?」
「思い出したかい、ロテル。…どうした、そんなに変な顔ばっかして。可愛い顔が台無しだぞ」
私は信じられなくて、いろんな変顔を試してみた。
でも、美少女は常に私と同じ動きをする。
まじか…。
私はベッドに戻った。
「ロテル、兄さんがいろいろ教えるよ。父様と母様に伝えてくるから、少し待っていてくれ」
「あ、はい」
こんなわけで、私の異世界ライフはスタートした。