これ以上ない好物件でして
カインさんの言葉に、この場にいた私と師匠の二人は固まった。
二人とも理解が追いつかないのだ。
いきなり「僕と一緒に来てくれませんか?」って言われても、困る。
ナンパなら黙れの一言ですむんだけど。
いやナンパなんて前世でも今世でもされたことないから知らんけどね?
でも侯爵家の方に一緖に来てくれませんか?って言われたら、どう答えていいのか。
これは命令なのか?
権限でいえば命令だけど。
たっぷり時間をおいて、師匠がやっと口を開いた。
「カイン様にお仕えして、使って頂くという意味でしょうか?」
ぬぉう!?
師匠、さらっと何おそろしいこと言ってるんですか!?
人に頭下げんの嫌なんだって!
…まあ、やらかしたのは私なんだけど。
「違います。父から、冒険者としてやっていくつもりなら、せめて貴族としてメイドか使用人を一人連れて行けと言われているんですが、僕はメイドと主人、っていう上下関係が好きではなくて。困っていたんですが、先程のロテルさんの挨拶、とても面白かったです。ロテルさんなら、主従関係をなくしたメイドさんというか…友達や仲間みたいな感覚でいられないかなと思ったんです」
ふぉう!?
こ、これぞ私が今世で「メイドの家だけど人に頭下げたくないなー、主従関係なしでいられる人いないかなー」なんて考えてた最高のパターンじゃないか!!
「敬語はなしで立場も対等。僕から命令もしません。家事はしてもらおうと思ってはいるけれど、主従の関係なくていいって人なら苦手だってかまいません。むしろ協力しあって家事をすればいいと思います。」
えっ嘘ぉ!?
家事出来なくてもいいですと!?
まじで?ねえマジで!?
「僕が求めているものは、メイドとして主人に忠誠を誓うという伝統とは正反対です。でも、どうか!ロテルさん、僕と一緒に来てください!僕の仲間として!」
カインさんがそう言って頭を下げた。
「か、カイン様!どうか、どうか顔を上げてください!メイドに頭を下げるなど…!」師匠が慌てている。
私の答えは一つだ。
決まってる。
「師匠、行かせてください!」
私も師匠に頭を下げる。
かわりに、カインさんが頭を上げて私を見た。
「ロテルさん…!」
ぱぁっと笑顔になる。
師匠ははぁ、とため息をつくと、
「ご当主様方に話して参ります」
と、ドアを開けて外に行った。
私とカインさんは、師匠の背中を緊張した表情で見つめていた。




