21、シンイチ帰国
カブールで、誘拐報道とされたシンイチ。自分の眼で見て、生身で感じたアフガニスタンを、今度は日本に伝える義務がある、と決意する。4ケ月ぶりに東京、西域ラーメン店に戻ったシンイチであった。
店、家族の状況が一変していることに逆に衝撃を受け、シンイチは、父親ハナオの介護、店の営業再建、そしてアフガニスタン報道に遁走する。
ジロウ、カズミ、ユキコはどうしていくのか。そして友人アキヤマは?
シンイチは、カブール最後の夜更けに、事務所のノートパソコンを借りて、メールを送ることにした。友人アキヤマと家族に向けてだ。
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アキヤマへ
だいぶ心配はかけたと思う。カブールにいるってことを、こちらから家族にも知らせていなかったが、一昨日、現地警察とTVクルーが突然やってきて、俺は「誘拐」されていた日本人ということで、インタビューも受け、帰国ということになった。こちらで出会ったAAA医療財団という人たちが計らってくれていたんだ。
もしかして、日本のニュースでも流れているかな。
アフガニスタンからの情報は、日本ではテロ状況以外にほとんど伝えられていない。現地に来てみると実感するけど、この国は今、復興の機運にあふれている。カブールの街、若者たちの素顔は、東京と変わりはない程だ。市内各所に、武装した警官、軍人がみられるけど、それ以外は緊張感もなく平穏。そしてバザールや旧市街地はいつでも活気でいっぱい。すでに戦時下ではない。テロ事件もほんの一部にすぎない。
帰国したら、この国の状況を正確に伝えていきたいと思う。そうそう、卒論も仕上げていかないと。でもテーマが変わるかもな。
今月の学園祭には、間に合うかな。練習もできずゴメン。即興のセッションという形になるかも。わがままだが、よければ参加したい。
では、明日、カブールを発つ。
イヌイ シンイチ
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イヌイ家のみなさまへ
心配だいぶかけました。とても元気で過ごしています。アフガニスタンにいるということを今まで連絡しないでいました。それは、もう少しこちらに滞在したかったからです。カブールという街をもっと歩きたかったし、そしてかのバーミヤーンにも行ってみたかった。
でも今回はその目的が叶えられないまま「誘拐されていた日本人」ということとなり、明日帰国という経過になりました。
「西域ラーメン店」は変わりないですか。父さん、母さん、変わらずですか。では、帰りを待っていて下さい。 シンイチ