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君への手紙

君の終末の予定は

作者: まさかす

 この手紙を読んでいるという事は、私はこの世に居ないという事でしょう。だから、ここに書き留めておきます。


 私は毎日死ぬ事ばかり考えています。「明日、目が覚めるだろうか。覚めずに終われないだろうか」と、そんな事を毎晩、眠る前に思っています。


 親に迷惑が掛からない様に。兄弟に、親族に、友人に、知人に、迷惑が掛からない様に、この世から消えたい。そう思っているはずなのに……。


 新しいテレビドラマが始まる。私の好きな俳優が出るようだ。

 ――ああ、面白そうだな。見たいな。


 行列の出来る料理店のニュースが報道されている。

 ――ああ、美味しそうだな。食べたいな。


 好きなマンガの新刊が発売される。

 ――ああ、面白そうだな。読みたいな。


 死にたいと思っているのに、欲求をくすぐる情報に惑わされる。結局、自分は生きることを望んでいるという事なのだろうかと自分に問いかけますが、答えは出ません。


 居場所が無いと口にしてしまうと決まって「居場所は自分で作るものだ」と言われます。きっとそうなのでしょう。その為にみんな努力しているのでしょう。ええ、分かっています。

 

 努力から生まれる才能、努力から磨かれるスキル。きっとそうなのでしょう。私が何もしていないだけなのでしょう。ただただ、全ての事から目を背け、逃げたいだけなのでしょう。ええ、分かっています。


 やりたい事もない。何の為に生きるのか分からない。未来への展望が全く見えない。


 些細な事でも良いから――――私が生きる理由が欲しい。





 そんな手紙を見つけた。手紙を書いたのは私の大叔母で、大叔母の遺品整理の手伝いをする中で見つけた。


 手紙を読んだだけだと遺書の様にも思えるが、大叔母は90歳まで生きた。過去に一度だけ会った事がある程度の遠戚でもあるので、私は葬儀にも出席しなかったが、一応、親族でもあり、遺品整理を頼まれたので手伝う事にした。


 自殺では無く老衰、寿命、大往生。


 きっと大叔母は、こんな手紙を書いた事すら忘れていただろう。甥の子に読まれたと知ったら赤面する事だろう。


 大叔母と懇意にしていた親族に話を聞いたが、そう悪くない晩年を過ごしたようだ。


 大学在学中に同級生と結婚し、まあ裕福では無かったが、良い人生と言えそうな道を歩んだようだ。「生きる意味」なんて言葉が綴られた手紙は、その同級生と出会う前に書かれたという事なのだろう。


 私も若い時、友人と酒を酌み交わしながら語った事がある。


「生きる意味なんて考える必要があるのかな? ほぼ全ての人に記憶が無い時期、つまり、母親から生まれた時点から、無意識に呼吸を始めるのと同じ様に、生きていくだけなんじゃないの? 理由を考えて呼吸をするようになった訳では無いだろ? 生きる意味なんて呼吸するのと同じだよ。生きる意味がどうこうなんて、考える事自体が理解出来ない」


 そんな事を語っていた。今思えば若気の至りで恥ずかしい。


 遺品整理をしている中、遺品の1つ1つに、大叔母の意味のあった人生が垣間見られた。その1つ1つが私からすれば羨ましく思えた。


「生きる理由が欲しい」と言っていた大叔母は何か見つけた。そして寿命を全うした。生きる為に生きている私とは大違いである。「生きる為に生きる」なんて、生きる理由とは呼べないはずだ。


『俺も生きる理由が欲しい……』

 

 私は大叔母の手紙をゴミ袋に放り込み、思わず呟いた。


2019年08月03日 2版 諸々改稿

2019年04月11日 初版

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