第八話~街に向かって~
「あのガイアドラゴンを倒した? それはすごい!」
「まあな」
「すごいんですよ! 師匠は!! 超能力というとんでもない力を使って手をこうかざして! ガイアドラゴンの動きを止めたり! こう手をかざして、ガイアドラゴンの腕をですね!」
村長達に説明したように身振り手振りで、説明していくフォルン。そんなフォルンに対し、アルデンスはおお、そうなのかと真摯に対応している。
横に並ぶとアルデンスの大きさがよくわかる。
二メートル近いため霊太ですら見上げてしまうほどだ。
「まさか、霊太くんが異界人だったとは。であるなら、この珍しい入れ物も頷ける」
「それ、まだ持ってたのか?」
「記念にね。なかなか面白い入れ物だ。かなり丈夫に作られている。素材はなんだろう? こちらでも手に入るものなのかな?」
「手に入るだろ? それ鉄だし」
「やはりそうか。この入れ物は流行る。確実に。飲み物だけではなく、食べ物の保存にもいいだろう」
なかなかのいいところをついている。確かに、地球では色んな缶があり、飲み物の他にも食べ物が入っている缶も存在している。
アルデンスの言うようにこの世界では流行るだろう。
旅をする中で、缶による保存食は何よりも重宝される。
「霊太くん。他にも異世界のものはあるのかな?」
「そうだな……缶コーヒーに……お? こんなのはどうだ?」
まずパーカーのポケットには缶コーヒー。
その他にもズボンのポケットを確認したところ、グミや飴玉などが出てきた。よく霊太が食べているもの。必ずポケットに補充されているものだ。
「これは飴玉……だが、こっちのは?」
「グミだ。ほれ、フォルン」
「え? あ、はい。あーん……おー! なんですかこれ、すごく弾力があります! しかも甘い!!」
「それがグミの特徴だ。弾力のある食感が楽しいんだ。アルデンスは……そういえば、あんた食べ物も大丈夫、なのか?」
ここまでアルデンスの体の構造について少しだけ聞いた。
どうやら、飲んだ紅茶などは魂の栄養分となって消えるらしい。ただ流し込んでいるだけだが、実際に肉体を持っていた頃となんら変わらず、飲んでいるような感覚があるとのこと。
が、空腹にならないため飲まず食わずでも生きて入られるそうだ。ただ、魂の輝きが弱まった時は栄養分を補強しないとふらつくことがあり、それが今のアルデンスにとっての空腹、なのだろう。
肉体があった時よりも色々と感覚が違ってきているが、不自由はないそうだ。眠たくならないうえに、適度に食事を取らなくてもいい。
戦闘においても、痛みがないため鎧の強度を有効的に使って盾役にもなれる。
「大丈夫だ。私もフォルンちゃんの反応を見ていたら、グミを食べたくなってしまった。ひとつ、よろしいかな?」
「ああ、いいぞ。じゃあ、あんたにはぶどう味な」
「では」
ヘルムのバイザーの隙間からグミを入れる。
しばらくすると、ほうっと声を漏らした。
「確かに、この食感は癖になりそうだ。このような食感の食べ物は食べたことがない。まさに異世界の食べ物……」
「し、師匠! も、もう一個! もう一個いいですか?」
「仕方ないな。俺の分がなくなるから、これで最後だぞ」
「は、はい!」
よほど気に入ってくれたのか。二つ目のグミを食すフォルン。霊太も、グミを口の中に入れ、その感触を楽しみながら歩いていく。
そして、しばらくすると。
「やっと抜けたか」
一日半にして山を越えた。
広がるは、緑豊かな草原。
吹き抜ける風が、頬を髪を撫でる。ここからではまだ町らしきものは見えない。地図通りだと、ここからまたしばらく歩かなければならないようだ。
「リュテュカ……どんな町なんだろうな」
「アルデンスさんは、知ってますか?」
「そうだね。確か、そこには美しき聖女様がいらっしゃると聞いたことがある。なんでも、街に潜んでいた悪魔を一人で浄化したとか」
これまたファンタジーな用語は二つも。
聖女に悪魔。
地球でも普通にある用語だが、ファンタジー世界で聞くのとではわくわく度が違う。地球では、本当にいたのかさえ疑問なところだったが、ファンタジー世界であるここでなら聖女も悪魔も実際に居るだろうと確信できる。
「へえ、聖女ね。どんな人なんだろうな」
「や、やっぱりお綺麗な人なのでしょうか……」
「おや? フォルンちゃんは、心配なのかな?」
「な、なにがですか?」
「大好きな師匠が聖女様の美しさに魅了され、取られてしまうのではないか。そう思っているのでは?」
「そそそそそんなことないです! な、なにを言っているんですか!?」
明らかにわかりやすい反応である。気に入ってもらえて嬉しい限りだと頭を撫でつつ、霊太は前へと進んでいく。
(うぅ……でも、聖女様っていうぐらいだから絶対綺麗な人なんだろうなぁ……師匠もやっぱり大人な女性が……)
「フォルン! なにしてるんだ! 早く来いよ!」
「え? あ、はい!!」
別に女性に興味がないわけではない。だが、恋愛という感情は生まれてから一度たりとも芽生えたことがない霊太。
地球で一番綺麗な女性と言われていた者を見ても、まあ綺麗だなという感想や感情しか出てこなかった。人並みの感情はあると思っているが、どこかズレている。
とはいえ。
「心配するな。俺はどこにも行かない」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。だから、元気出せ」
「約束、ですよ? 絶対どこにも行かないでくださいね?」
「約束だ。弟子を置いて、どこかへ行くようなことはしないって」
それを聞いたフォルンは、満面の笑みを浮かべる。
霊太はフォルンと一緒ならば、楽しい旅になりそうだと思っている。なによりも、フォルンのおかげで異世界に来ることができた。
恩人を悲しませるようなことができない。
「はっはっはっは! 美しい絆だ。見ていて心が温かくなる。よかったね、フォルンちゃん。それと、先ほどはからかったりしてすまない。許して欲しい」
「い、いえそんな。アルデンスさんの言ったことはその……事実、ですし」
と、恥ずかしそうに俯きながら呟く。
「これは、大事にしないと泣いてしまうだろうね、霊太くん」
「だな。フォルンは泣き虫だからな」
「な、泣き虫じゃありません! 師匠の前で泣いたのは一度だけじゃないですか!?」
「そうだったか?」
「そうですよ!! もう!!」
今度は機嫌を損ねてしまった。感情が豊かで羨ましい限りだ。
我先にと進んでいくフォルンの後ろを姿を見て、霊太は小さく笑う。
「あっ!」
しばらく進んだところで、フォルンが立ち止まる。
振り向けばまだ木々が生い茂った山が見える。
まさかと少し早足でフォルンの隣に並ぶと……見えた。
「あそこが、リュテュカか」
「そうだ。そして、あの白く一番目立つ建物が、聖女様が居る教会だよ」
「わー、あんなに大きなところだったんだリュテュカって」
丘から見えるのは、壁で囲まれた街。
アザグ村と比べれば一目瞭然。
村と街では規模が違う。しかし、まだこれよりも大きなところはある。王都や帝都、その他の都会はどれほど大きなところなのか。
今から楽しみになった。
「そういえばフォルンちゃんは、故郷以外、人の住む場所を見るのは初めてだったね」
「はい! お姉ちゃんが手紙で教えてくれましたけど。やっぱり実際に見ると、予想以上に大きくてびっくりしてます……」
「フォルン。姉が居る帝都はもっと大きいんだろ? これで驚いていたら、帝都を見た時は腰を抜かすぞ?」
「わ、わかってます! よーし! 行きましょうー!!」
故郷を旅立ち最初の街。
まだ緊張した様子だが、楽しそうにしているようにも見える。その証拠に、尻尾が左右に大きく揺れていた。
「さて、紅茶を出す店はあるだろうか?」
「アル。あんた、呪いで仕方なく飲んでいたわけじゃないのか?」
「実は、コーヒー波だったのだがね。あまりにも紅茶を飲み過ぎて、紅茶もいいかなと思ってしまったんだ」
ある意味、呪いはまだ解けていないのかもしれない。
「まず、リュテュカに到着したら食料調達です! 今後の旅に備えて!!」
「おい、涎垂れてるぞ」
「はっ!?」
「食料調達とか言っておきながら、ただ自分が食べたいだけだろ?」
そんなことはありません! と否定するが、隠しきれていない期待の眼差しと元気に動く尻尾でバレバレである。




