第六話~旅立ち~
「本当に行ってしまうのか? フォルン」
異世界へとやってきて二日目の朝。
太陽がまだ昇ったばかりといった時間帯に、霊太とフォルンは大荷物を抱えていた。フォルンも大分パンパンに膨れたリュックサックを背負っており、この先の旅が心配になってしまう。
重量で、すぐ疲れてしまうんじゃないかと。
「はい! 師匠と一緒に旅をして強くなります! そして、お姉ちゃんとも会ってきます!! それとそれと、いつか師匠に認められるような超能力者に!」
「だからそれは無理があるって言っただろ」
「でもでも! いつか私の中にある秘めたる力が覚醒して!」
「あー、それはありえるかもなー」
「本当ですか!?」
「可能性はないとは言い切れない」
「おー!!」
相変わらず純粋な心持っているフォルンは期待を胸に、姉であるエルルからプレゼントされた杖をぎゅっと握り締め、村長達を見る。
「というわけですので、次帰ってきた時は、驚くほど成長していると思いますので。皆さん、どうかお元気で!!」
「……ああ。フォルンも元気でな。霊太殿に迷惑をかけるんじゃないぞ?」
「わ、わかっています!」
「だが、フォルンだからなぁ」
「ど、どういう意味ですか!?」
故郷を離れるから、しんみりした雰囲気になると思っていたが、そうでもなかったようだ。最後に笑顔で別れの言葉を交わし、フォルンは霊太と共にアザグ村から離れていく。
村長達は、二人の姿が完全に見えなくなるまでずっと手を振っている。対して、フォルンもずっと後ろ向きになって移動しつつ手を振り続けていた。
そして、完全に見えなくなったところで。
「……」
一度立ち止まり、アザグ村があるほうをじっと見詰めた。
「やっぱり寂しいか?」
「い、いえ! 私ももう十二歳です! さ、寂しくなんかありません! 師匠も一緒ですから、一人じゃないですもん!」
などと強気な言葉を言うフォルンだったが、その目には涙が溢れていた。
ずっと過ごしてきた故郷だ。
寂しいわけがない。もう十二歳というが、まだ十二歳。
霊太は、ぽんぽんっと頭をタップしつつついて来いとばかりに先に進む。それに勇気付けられたフォルンは、涙を拭い小走りで霊太の横に並ぶ。
「まずは、あの山を越えるぞ」
「はい!」
まず向かうは、山を越えた先にある街。
とりあえずはそこの換金場でプロの鑑定を受ける。村長達では、龍石がどれぐらいの値段になるのか。まったくわからないそうだ。
そもそも、龍石を換金するなど今まで聞いたことがないとのこと。
ならば、相当の金額になるに違いない。
「ところで、師匠」
「なんだ?」
「あの、龍石目立ちませんかね?」
丁度山の中に入るところで、フォルンがそんな疑問をぶつけてきた。
確かに。
それは、霊太もずっと気にしていた。龍石は、二メートル近くある巨大な石。これをそのまま持っていると確実に目立つ。
しかも、確実に高額な値段になるものだ。
山賊などに狙われるのも明白。
とはいえ、これだけ大きいものをどこに収納しろというのか。魔法などで、どうにかならないものか……。
「えっと……これ? いや、違う。これかな? あっ、違う」
どうしたものかと悩んでいたところ、突然パンパンのリュックサックを漁り始めたフォルン。中からは、本に枕、食器、食料と次々に出てくる物の数々。
いったいどれだけの物が詰まっているのか。
「あっ! これです!!」
漁り続けていると、一冊の本を手に取った。
「なんだそれ?」
「魔道書です!!」
また出てきたよくあるファンタジーアイテム。
魔道書。
それは魔法を覚えるために使われる書物。これが霊太にとっての魔道書知識だが……果たしてこの世界の魔道書はどのようなものなのか。
フォルンは、霊太が見詰める中。おもむろに魔道書を迷いなく開き、ぺらぺらと流し読みをするか如くページを捲っていく。
中には禁書と呼ばれる危険なものもあり、開いただけでも異変が起こる。
そういう知識もあったため警戒していたが、どうやらフォルンが開いたものは危険なものではないようだ。
「魔道書とは、一般的には読んだだけで魔法を覚えられる魔道具の一種です。他にも、自分の術を閉じ込め無詠唱で戦えるようにする魔道書もありますが……これは一般的な魔道書! この中には、収納魔法というものが封じ込められています!」
「収納魔法? てことは」
名前の響きからどんな魔法なのかすぐに理解した霊太は、笑みを浮かべる。
「はい! これで私が収納魔法を覚えれば龍石も、この大荷物も持たなくて済むということです!!」
ちょっとでも移動を楽にするために必死に魔道書を読んでいくフォルン。しかし、霊太は疑問が浮かんだ。これはとても重要なことだ。
「なあ、そんなものがあるんだったらどうして旅立つ前に覚えておかなかったんだ?」
「……そ、それは」
収納魔法など長い旅をするためには絶対必要になる魔法だ。身が軽くなれば、それだけ疲れないうえに、戦闘に置いても楽になる。
だというのに、なぜ覚えておかなかったのか。
「どうしてだ?」
「……ま、魔道書はとても貴重なものでして。中々手に入らない代物なんです。それに一度封じ込められた魔法を覚えてしまうと」
「魔道書はただの真っ白な本になってしまう、か?」
「は、はい……」
修行もせず読んだだけで魔法が覚えられる。
確かに、かなり貴重な代物なのだろう。だからこそ、フォルンがずっと渋っていたのは理解できた。霊太も、納得できる理由だったためこれ以上は追求しないことにした。
「悪かった。別に責めてるわけじゃないんだ。だから、これからのために覚えてくれ」
「はい!」
その後、フォルンは収納魔法を会得。
龍石も、パンパンだったリュックサックも収納空間というところへ全て収納してしまった。空間魔法の一種だとそうで、本当にとても貴重な魔法のようだ。
空間魔法は、他の魔法と違い会得するのが難しい。
だからこそ、収納魔法が封じ込められている魔道書も普通の魔道書よりも高価で貴重なものだというのは明白だ。
そんなものをどうして持っていたんだ? 山道を移動しながら問いかけると。
「あれは、母が持っていたものなんです」
「……つまり形見、ってことか?」
「そう、なりますかね。でも、良いんです! ちゃんと許可は得ていますから!」
フォルンが言うには、まだ母が生きている時、いつか二人が冒険する時に役立ててもいいと言っていたそうだ。
エルルは、その生まれ持っての才能から収納魔法を自力で会得した。
そのため自動的に収納魔法が封じ込められた魔道書はフォルンの物になったとのこと。
「旅立つ勇気がなかった私には持っていても仕方がないものだと思っていました。でも、今はこうして師匠のために役立てることができた! 母に感謝です!!」
「だな。俺も感謝しないとな。お前の母さんに」




