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第五話~旅立ち前の一夜~

「はあ……疲れた」

「そ、そうですか? 村の祭はもっとすごいですよ?」

「皆で騒ぐってのに、あまり慣れてないんだよ……」


 ガイアドラゴンにゴブリン達の撃退を祝したパーティーが、フォルンの家で行われた。しかし、フォルンの家では広さが足りないため、外にまで人々が溢れていた。

 本当に祭のような騒ぎよう。

 一人で、過ごしていた日々が長かった霊太は、久しぶりに皆で騒ぐということをしたため精神的に疲れてしまい、ぐったりと倒れている。

 太陽もすっかり沈み、月明かりが照らす幻想的な夜空が広がっている。


「お疲れ様です」


 そう言って、水が入ったコップを手渡す。


「ありがとう」


 すっと起き上がり、水を一気飲み。

 コップを返還し、窓から夜空を見上げる霊太。


「こっちの夜空も、月も、俺の世界と変わらないんだな」


 ファンタジー世界だから、月の色が違ったり、月が二つあったりするんじゃないかと想像していたが、実際は地球となんなら変わらない。

 よく見慣れた光景が広がっている。


「師匠。お聞きしてもいいですか?」

「ああ、なんだ? さっそく超能力についてか?」

「それもいいんですが。師匠や師匠の世界について」


 横にぺたんっと可愛らしく座り込み、フォルンが問いかけてくる。

 どうやら霊太や地球について知りたいようだ。


「……正直、そこまで参考にならないぞ? それでも聞きたいか?」

「はい!」


 本当に素直な子だ。霊太にとって地球にはあまりいい思い出はない。両親との思い出はほとんどなく、祖父との思い出が多い。

 霊太が、一人で過ごすようになってからは、人助けをしつつ、両親に祖父母の墓参り。その二つを繰り返していただけだった。

 しかも、人助けをしても感謝から恐怖へと変わっていったことも伝えた。


「―――てな感じだ。どうだ? あまり参考にならなかっただろ?」


 自分のことはほどほどに。

 こっちの世界になくて地球にありそうなものなどを優先的に説明した。


「……えっと」

(やっぱり、そういう反応になるよな)


 霊太の人生は、地球に住むどの人間よりも現実離れしており、ハードだった。超能力というものを狙って近寄ってくる者達、超能力を怖がって逃げ出す者達。

 一時期は、人気のないジャングルで過ごしていた時期もあった。

 今でこそ、あまり気にしなくなっていたが、昔は自分を見る人々の目がかなり気になっていたのだ。


「だから言っただろ。俺の話は」

「私も!」

「ん?」

「私も……小さい頃に両親が死にました」


 霊太の話に触発されたからか、自分の過去を語り出す。姉と二人暮しをしていて、今は一人暮らしということから察してはいたが、やはり両親を早くに失っていたようだ。

 

「私の両親は、昔パーティーを組んで旅をしていた冒険者だったんです。ですが、お姉ちゃんを身篭ってから安全を考えて、冒険者を辞め、故郷であるこの村で暮らすようになったんです」

「……」


 霊太は、フォルンの語りをただ無言で聞いていた。


「でも、私がまだ四歳の頃に、森から押し寄せてきたゴブリンにウルフ、その他のモンスター達の討伐に向かい……父が命を落としました。母は、なんとか生き残ったのですが、この村で治せないほどの傷を負い、数日後に」


 命尽きた。

 ここは高い山々に囲まれた場所にある小さな村。高価な薬を手に入れようとしても、山越えをしなければならない。

 もし山を越え、薬を手に入れられたとしても間に合わない可能性もあった。


(俺より、両親のことを知っているんだな……俺はほとんど覚えていないのに)


 霊太の記憶は曖昧だ。

 唯一鮮明に覚える両親の記憶は、自分のことを涙を流しながら抱きしめている二人の姿。

 祖父の話では、あまりのショックに記憶の一部が欠落した、ということだったが……今思えば、小さい頃からあまり感情のない子供だったのかもしれないと考えるようになった。


 そんな霊太からすれば、フォルンはまだ幸せなほうなのかもしれない。ちゃんと両親の愛情も受け、村人達からの信頼もあり、姉という家族が生きている。

 若干羨ましいと思ってしまったが、すぐ感情を抑える。


「それからは、姉が一人で?」

「はい。姉は当時まだ十歳でした」


 そこで、霊太はふと気になったことがあった。


「フォルンって今何歳なんだ?」


 女の子に年齢を聞くのはどうかと思ったが、どうしても気になってしまったのだ。この世界は、自分達の居る世界とは違う。

 ファンタジー世界のために、見た目と年齢が比例しないとことだってありえる。

 代表的なのは、エルフなどがそうだろう。


「今年で、十二歳になりました」

「てことは、姉は十八歳……俺と同じ年齢なのか」

「え? 師匠って十八だったんですか?」


 なにか含みのある言い方に、霊太は眉を顰める。


「どういう意味だ、それ?」

「あ、いえ! その……凄く落ち着いた人だし、髪の毛もその」

「白いからもっと年上かと思った、か?」

「は、はい……」


 確かに、この髪の色は地球でも目立っていた。しかし、この色は仕方がないのだ。正直に答えてくれたフォルンを霊太はそこまで攻めず、別にいいよと宥める。


「んで、その姉はお前のために都会に行って働き、仕送りをしているってところか?」

「……そ、そうです。毎月私だけでなく、この村のためにも多額の資金を仕送りしてくれているんです」


 フォルン個人ならともかく、村にも仕送りをしている。

 そうなると、フォルンの姉は相当稼ぎのいいところで働いていることになる。

 一つの仕事ではまずありえないだろう。

 もしかすると、副業をしている。もしくは、ちょっと危ない橋を渡っている……。


「姉の職業は? てか、姉の名前は?」

「あ、そういえば教えてませんでしたね。姉の名前はエルル。エルル・クローリーです。職業は、冒険者と聞いていますが」


 両親と同じ道を選んだということか。

 

「冒険者ってそんなに稼ぎがいいものなのか?」

「どう、でしょうか。一流の冒険者なら、一日で数十万も稼ぐとか聞いたことがありますけど」


 一日で数十万など、いったいどんな仕事なのか。

 フォルンの話では、魔石などの換金で数万稼げる時があるそうだ。

 命をかけた危ない仕事だからこそ、冒険者の稼ぎはそこまで高いのか? この近くにはゴブリンやウルフなどの一般的なモンスターしかいないが、王都や帝都などではもっとレベルの高いモンスターと戦える。

 そのモンスターの討伐、魔石の換金を加えれば……。


(となると、ガイアドラゴンの龍石を売ったらどれくらいになるんだろうな)


 これは早く換金したい。地球に居た頃は、政府からの支援を得て生きていた。

 英雄として認められ支援を受けていたわけではない。金をやるから自分達に敵対するな、という意味で金を貰っていた。

 別に敵対しても、霊太には何の徳もないためはなっから敵対するつもりはなかったのだが、金をタダで貰えるというので、貰っていた。だが、こっちではそんなものはないため、自分で稼ぐしかないのだ。

 そう考えると、こっちに来てすぐ龍石という換金アイテムをゲットできたのは運がよかったと言えよう。


「そう聞くと興味が湧いてくるな。姉は、都会に行ったって言っていたが、どこだ?」

「帝都です。文化が一番発達している街ですね」

「そうか。それじゃ、明日にはそこを目指して旅してみるか」


 そうと決まれば、さっさと就寝しよう。

 すでに、入浴も済んでいるので後は毛布を被って寝るだけだ。


「……」


 用意された毛布を被ったところで、フォルンが何かを言いたそうに沈黙する。

 いくら待っても、喋ろうとしないため仕方なく心を読むことにした。


(きょ、興味があるって……ももももしかして師匠はお姉ちゃんのことを……! で、でもでも一度も会ったことがないし、別にそういう意味じゃ……でもでも! お姉ちゃん綺麗だから、実際に会ったら……って、私、何を考えてるんだろー!!)


 なにやら先ほどの発言で勘違いを生んでしまったようだ。


(そ、そうだ! 動揺している場合じゃない! 早くあのことを言わないと! 私も旅に同行させてほしいって!! よーし! 気持ちを切り替えて)

「別にいいぞ」

「すーはー……すーはー……よし! って―――え? 師匠、今なんて」


 驚いているフォルンの頭に手を置き、霊太はもう一度言ってやった。


「だから、旅についてきてもいいぞって。一応、お前は俺の弟子だからな。来たいって言うなら、来てもいいぞ。それと、さっきの興味があるって言ったのは、お前の姉が実際どんな仕事をしているのかってのに興味が湧いただけだ」

「……は、はい」

「よし。じゃあ、明日は早いぞ。さっさと寝ろ。いいな?」

「わかり、ました」


 それでいいと霊太は、フォルンの頭を二回ほどタップし、毛布を被って横になった。


(あわわわ!? そういえば、心が読めるんだったぁ……! 私ってばなんて勘違いをぉ……! って、これも聞こえてるんじゃ!?)

(聞こえてますよ、あわわ狐さん)

(え!? し、師匠の声が頭の中に……)

(念話ってやつだ。言葉を脳内に送り込んでる)

(そ、そんなことまで!? あっ、でもこっちの世界にも似たような魔法。通話魔法というものがありまして)


 なにやら魔法の説明をしだした。明日は早いと言ったばかりだというのに……霊太は、はあっとため息を漏らす。

 

(いいから寝ろ。連れて行かないぞ)

「は、はい! すみませんでした!!」


 よほど連れて行って欲しいのか。それっきり静かになり、しばらくすると可愛らしい寝息が耳に届く。

 疲れていたのだろう。

 ベッドに入って、三分も経たない内に眠ってしまった。弟子の就寝を確認した霊太は、明日からの旅が楽しいものになるだろうと期待しつつ、目を閉じた。

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