第四話~ゴブリンとの一戦~
「くっ! やはり集団で襲い掛かってくるゴブリンは強いな……」
「お前はもういい歳なんだ。無茶するなよ!」
「お前にだけは言われたくない!!」
霊太が到着すると、そこではゴブリン達に囲まれている二人の男を発見した。銀色の鎧に身を護られ、剣と槍を構えている。
年齢は三十代から四十代ぐらいだろうか? どちらも戦うには、少し年老いているように見える。
鎧も肌も傷つき、汗と血で服が滲んでいる。
「あわわわ!? ラルさんとナーヴさんが……!?」
戦力になるとフォルンも連れて来たが、本物のゴブリンを見た瞬間。
あっ、これなら大丈夫そうだなと確信した霊太は、あわあわしている可愛らしい生き物を抱え、二人の近くにテレポートする。
「うおっ!?」
「な、なんだ君は!? って、フォルン?」
突然姿を現した霊太に驚いた二人だったが、見知ったフォルンを見つけ冷静になる。ゴブリン達も、霊太の登場に動揺しているようだ。
「ふ、二人とも! 助けに来ました! こ、この人は霊太さんです!」
「その名前……そうか。君が、ガイアドラゴンを倒したという」
「なら、心強い助っ人だ!」
「それで、戦況は?」
「見ての通りだ。ゴブリンが二十五体、ホブゴブリンが二体、内四体はすでに撃退済みだ」
足下には、小さな魔石が四個転がっている。
撃退したゴブリンのものだろう。
緑色の肌した小さなほうがゴブリン。三メートルほどの大きなゴブリンがホブゴブリン。全員が棍棒や石の斧を手に持っている。
「ゴブリンは一体一体は大したことはないが、こうして集団で襲ってくるとなかなか厄介なモンスターだ。しかも、今回はゴブリンの中位種であるホブが二体居るから尚厄介だ」
「そうなのか?」
「えっと、ホブは普通のゴブリンよりも体が大きくて、外皮も硬いんです」
ふーんっと、こちらを睨んでいるゴブリン達を見詰め、手をかざす。
「どうやら、お前ら。人を殺すのを楽しんでる口だな……そんなに殺すのが楽しいなら」
「ギギッ!?」
「ゴギャッ!?」
「な、なんだ!? ホブゴブリンがゴブリンを……」
「仲間割れ? いったい何が」
霊太達を囲んでいたゴブリン達が、一体のホブゴブリンに蹂躙され始めた。男達もそうだが、ゴブリン達も驚いている。
当然だ。仲間だと思っていたホブゴブリンに攻撃されているのだから。
「まさか師匠が!?」
きらきらした目で見詰めるフォルンに、霊太はそうだと答える。
これは超能力により、ホブゴブリンを無理矢理操り、襲わせているのだ。ホブゴブリン自身も何をやっているんだ? と困った表情をしている。
「さて、ゴブリンどもは殲滅したな。後はホブだけだ」
あれほどいたゴブリンが全て魔石になってしまった。静寂に包まれる中、霊太はホブゴブリンを操り、もう一体のホブゴブリンへと向かわせる。
「グギャアッ!!」
まるで、裏切ったな! と言わんばかりにもう一体のホブゴブリンが攻撃を仕掛けてきた。
「はい、ご苦労様」
当然、霊太は操っているホブゴブリンに反撃をさせた。
「同士、討ち?」
ほぼ同時に石の斧が体を切り裂く。
しかし、まだ生きているようだ。さすがは中位種。普通のゴブリンならば一撃で死ぬ攻撃に耐えている。とはいえ、もはや虫の息。
これならば誰でも倒せるだろう。
「フォルン。トドメだ」
「は、はい!」
今度は、二体同時に動きを止める。
その間に、フォルンは魔力を高め呪文を詠唱した。
「赤き衝動、弾ける猛火、我が魔力を糧とし、天を穿て! 《フレアサークル》!!!」
発動したのは、火の円。
ただ円ではない。
ホブゴブリン達を囲んだ瞬間、間欠泉が如く、火の柱が天へと昇る。灼熱の業火に焼かれたホブゴブリンは、一瞬にして灰となり消滅する。
術が終わると、ホブゴブリンの魔石が地面に転がった。
ゴブリンのものと比べると一……いや二周りは大きいか? 魔法というものを始めて見た霊太だったが、呪文もさることながら素直にかっこいいと思った。
自分の力とは違い、時間はかかるにしろ使っていると実感できる代物だ。
「や、やりました! 師匠!!」
「ああ。よくやったな、弟子」
「えへへ」
素直に褒められ、嬉しそうに尻尾を振る姿はとても愛くるしい。思わず撫で回したいほどに。が、まだ油断はできない。
目に見える敵はこれで全てだろうが、まだ森の中に潜んでいるかもしれない。
透視と千里眼を使い、さっそく探してみる。
(……どうやら、居ないみたいだな。てことは、とりあえずはこれで一件落着ってところか)
半径二キロメートルほどまで見通してみたが、ゴブリンなどのモンスターは見当たらなかった。
やはりガイアドラゴンと戦った時よりも楽だ。
なんだかんだで、あの時は今以上に力を入れていた。が、今回はただホブゴブリンを操っただけで戦いが終わった。それに加えてフォルンの魔法も効いたのもよかったと言えよう。
「あ、あの」
呆気に取られていた男二人が話しかけてきたので、見通すのを止める。
「あーっと……もうゴブリン達はいないみたいだ。とりあえずは、ご苦労様ってことで」
霊太の言葉を聞いた瞬間、脱力。
その場に座り込み、額に汗を拭った。
「まったく……老体にきついぜ」
「おいおい。お前はまだ俺より若いんだから、頑張ってくれよ」
「若いって言っても、二歳しか違わないじゃねぇかよ。あー、今回は本当に死ぬかと思ったぜまったく」
どうにか先行した二人の命は無事。頼まれたゴブリン達の討伐も終了。
ガイアドラゴンに比べば簡単なものだった。
これで、村長に頼んでいたものを手に入れられると、疲労困憊状態だった二人と魔石を集め終えたを連れ、村へとテレポートした。
「嘘、だろ? 村に一瞬で……」
「これが噂に聞く転移魔法なのか?」
普通に移動すれば、村へは数十分はかかる距離を一瞬で移動したことに二人は驚くが、もう限界のようだ。ぱたりとその場に倒れこむ。
気絶はしていない。
ただ単に、倒れこむほど疲れているだけだ。
「おぉ……! 戻ってきた!! 戻ってきたぞ!! しかも、ラルさんとナーヴさんも一緒だ!!」
一人の村人が叫ぶと、村長を含めた村人達一斉に集まってくる。中には、二人の妻もおり、夫の無事を心の底から喜んでいた。
一人、また一人と霊太の手を握り締めていく中、パンパンに詰まったリュックサックを村長の息子が地面に置いた。
「本当にありがとう、霊太くん。これが、報酬の食料や旅に必要な道具、それにこの世界のお金が入ってる」
そう、霊太が報酬として要求したのは、これからの長旅を考え食料や旅に必要な道具などの旅セット。
こっちに来たからには、色んな場所を見て回りたい。
なによりも、龍石を換金できるような場所はここからかなり遠いと聞いている。
千里眼で遠くを見て、テレポートで一気に移動すればそれほどの長旅にはならないが、それだとつまらない。
自分の足で、移動し辿り着いてこそ旅の意味があるのだと霊太は思っている。
「しかし、このようなものでよろしいのですかな? ガイアドラゴンを倒してくれただけでなく、ゴブリン達の討伐まで」
「私どもからしたら、足りないぐらいなのだが」
「別に大丈夫だ。俺にとってこれ以上にない報酬だからな」
そう言って、リュックサックに今まで持っていた買い物袋を取り付けて軽々と背負う。
「もう行かれるのですか? まだ太陽が高いとはいえ、一日だけでも村で」
せめておいしい料理を振舞わせてください! と言って来るが、霊太は首を横に振る。
「一日でも早くこの世界を旅してみたいんだ。せっかくだけど」
「師匠!」
「フォルン?」
年端もなくわくわくが止まらない霊太をフォルンががっちりとしがみ付くことで足を止めさせる。
「せめて一日だけでも! そう! 私の家でお礼をさせてください!!」
「……」
そこへ畳み掛けるように村人達が迫ってくる。
せめて一日だけでも。
お礼をしないと気がすまない。
私達の気持ちを受け取ってください。
(これは……)
ここまで真摯に迫られるのは久しぶりだった霊太は、断るわけにもいかず。
「わかった。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらう」
ついに折れた霊太にフォルンや村人達は歓喜の声を上げる。まるで、祭かのように大盛り上がりだ。
だが、全然悪い気がしない。
霊太は、笑顔で手を引くフォルンを見て、心の底から笑った。




