第三話~新たな敵~
なんだかんだあって、異世界で初めて出会った少女フォルンを弟子にした霊太は、彼女の故郷であるアザグ村を歩いている。
とはいえ、フォルンが言うようにそこまで広くない。
ほんの十数分もあれば周囲を探索することができる。
「そして、ここがこの村唯一の鍛冶屋です! とはいえ、武器を作る鉱石が取れる鉱山は、ここから数時間ほど移動しないといけないためほとんどが石や木の武器ばかりなのですが」
店の前には、木の剣が樽いっぱいに入っている。
他にも石でできた斧や槍などが、店の中に並んでおり、鉄製の武器は説明通り少ない。
「へー、でも子供のちゃんばらとかトレーニングにだったらぴったりだろ」
「ちゃんばら?」
「あー……よく子供達が木の棒とかで打ち合ってたりするだろ? あれがちゃんばらだ。俺の世界ではそう言うんだよ」
「な、なるほど! 勉強になります! あっ! ちなみに隣の家は」
フォルンは、丁寧に一軒一軒紹介してくれている。村にある店だけではなく、一般民家でさえ住んでいる人の名前すらも。
霊太としては、そこまでしてくれなくてもいいのだが、嬉しそうに一生懸命に紹介しているフォルンの姿を見ると言うに言えない。
「そして! ここが私の家です!」
「へー、ここが」
いつフォルンの家に辿り着くのかと思っていたところで、ようやく到着。他の家と同じだが、外に生えている木に、秘密基地のようなものが作られていた。
それだけではない。
訓練用に作ったであろう的や、藁人形なども設置されている。
「あっ、そこは私とお姉ちゃんが作ったところなんです。昔はよくお姉ちゃんと特訓していたんですけど」
「上のやつは?」
「あれは、お姉ちゃんが作った見晴台……みたいなものです。高いところから見る景色は格別だ! とか言って一人で作ったんですよ」
話を聞く限りでは、フォルンの姉は相当活発な少女なのだろう。それに、かなり手先が器用のようだ。ふわっと体を浮かせフォルンを抱きかかえつつ中へと入っていく。
「す、すごいですね。空を飛んだのなんて初めてです!」
「そうなのか? 魔法とかで飛べたりしないのか?」
「確かに、飛翔魔法はありますけど。なかなか高度な魔法なので、私はまだ……」
上級魔法を扱えると言っても、色んな種類がある。飛翔魔法とはその中でも、会得が難しいものなのだろう。移動の途中で聞いた話だが、フォルンは上級魔法をまだ一種類しか扱えないらしい。
それも会得するまで数ヶ月はかかったという。
魔法には適正属性というものがあり、適性がない属性の魔法はいくら特訓しようと覚えられないそうだ。フォルンには火、風、水の適正があり、今は風の上級魔法を会得しようと猛特訓中のもよう。
「そっか。でもまあ、お前だったらすぐ覚えられるだろ」
「はい! 頑張ります!!」
窓から見える景色は、確かにいいものだ。村にあるどの家よりも高く、フォルンの家が村の一番奥にあるのも相まって一望できる。
そんな景色を見ていると、フォルンが寂しそうな表情になった。
(お姉ちゃん……)
興味本位で来たが、失敗したと霊太は頭を掻く。
(待っててね……私もいつか!)
(どうやら心配なかったみたいだな)
姉への想いはマイナスのほうではなく、プラスのほうへと向かった。フォルンはずっと姉の背中を追い続けていた。
いつか自分も、と。
思い出の場所へ久しぶりに来たことで、その決意が更に強くなったようだ。
(そのためにも、師匠に超能力についてほんの僅かでもいいから学ばないと!!)
「いや、魔法の修行に専念しろ」
「はう!? も、もしかして心を?」
「悪いと思ったがな。覚えられるかわからない超能力よりも、お前は魔法の修行に専念したほうがいい。師匠として、中途半端は許さん」
「は、はい! わかりました、師匠ー!!」
それでいいと、師匠らしく頷き仲良く下に降りる。
「では、私の家にご招待します! 狭いところですが、どうかしばらくお寛ぐろぎください!」
「ああ、温かいお茶を頼む」
「はい! 私自慢の薬草茶ををお出しします!!」
「普通のお茶はないのか?」
薬草という言葉に、少し嫌な予感がした霊太は他のものがないかと言うが、フォルンは首を傾げる。
「他の?」
「例えば、緑茶……はないか。いや、というか意外と薬草茶が緑茶だったり?」
ファンタジー世界で緑茶はあるものだろうか? 紅茶やコーヒーならばあるだろうが……と考えていると、村長が慌てた様子でこちらに向かってくる。
とはいえ、もうかなりのご老体。
他の村人達に支えられながら、ようやくと言うほどの時間がかかりつつ到着した。
「ど、どうしたんですか? 村長」
「はあ……はあ……はあ……げほっ!? げほっ!?」
「フォルン。とにかく、水でもいいからもってくるんだ。このままだと村長やばいぞ」
「わかりました!」
まずは村長の復活が最優先。
フォルンが水を持ってくるまで乱れた呼吸を整えさせ、ゆっくりと喉を潤させた。そして、大分落ち着いたところで村長が喋り出す。
付き添いの村人達に説明を受ければよかったのだろうが、わざわざ村長自ら来てくれたのだ。
それを無下にすることはできない。
「落ち着きましたか?」
「あ、ありがとうフォルン」
持って来た水を飲み干した村長は、コップをフォルンに返しつつ呼吸を整える。
「それで、何があったんだ?」
大分落ち着いたのを見計らい、霊太が問いかけた。
「じ、実は南の森からゴブリン達が大量に出てきているそうで」
「ゴブリンが?」
ゴブリンと言えば、ファンタジー世界では有名な生物の一体。
小鬼のような姿がイメージとしては強いが、こっちの世界ではどんな姿なのだろうか? 個人的にかなり気になるところだが、今は村長の話を真面目に聞くことに専念する。
「どうやら、ガイアドラゴンがいなくなったことで、今まで身を潜めていたモンスター達が活発化し始めたようなんです。森に薬草を採りに行っていた村人がいち早く発見し、知らせてくれました」
やはりそういうことだったかと、霊太は頷く。
ガイアドラゴンほどの生物が居るとなれば、他の生物は簡単には動けない。もし、何かをしようものならやられてしまうからだ。
だからこそ、ガイアドラゴンに見つからないようにずっと身を潜めていた。
が、その脅威がなくなった今、自分達は自由。
暴れてやる! ということだろう。
ずっと我慢していた分、ゴブリン達はかなり凶暴化をしているに違いない。村長の慌てようには、これで納得がいった。
「それで、俺に討伐してくれってことか?」
「は、はい。ガイアドラゴンを倒したあなた様ならば、ゴブリン達をも! ほ、報酬はちゃんとお支払いします! 今、村で戦える者達が森へ先行していますが……」
凶暴化しているゴブリン達を倒せるかどうか心配ということだろう。
人助け。
昔ならば、自分の力を有効に活用し、困っている人達を助けてきた。それがいつしか人々に恐怖を植え付けることになることと知らず。
なら助けないか? この世界でも、いずれ自分の力を見た者達が恐怖し、避けるようになるから。
……否。
もう怖がられるのは慣れた。今更怖がられるから助けになどということは考えていない。
ここは異世界。自分のように異質な力を持った人間や、モンスターが大量に居る世界だ。
そんな世界だったら、自分も普通に見えるかもしれない。
(それに)
と、フォルンを見詰める。
(なんだか弟子ができちゃったからなぁ……かっこ悪いところは見せられない)
ならば答えはひとつ。
考えるまでもない。
「わかった。ゴブリン達を倒してくる」
「おお!」
「でだ。報酬なんだが」
ガイアドラゴンを倒したほどの者が、自ら提案する。
いったいどんなものを? 冷や汗を流しながら、村長が耳にしたものは……。




