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第二話~奇妙な師匠と弟子~

「本当に換金しちゃうんですか?」

「そういうものなんだろ」


 異世界へとやってきた霊太は、最初の戦闘でガイアドラゴンを撃退し、見事金になるものを手に入れた。

 霊太の横でふわふわと浮いている巨大な石。

 フォルンは、龍石と言っていた。これは、ドラゴンという種族だけが持っているという特殊な石。その証拠に龍紋というものが刻まれている。

 他にも魔石というものがあるらしいが、小さなものには龍紋のようなものは刻まれておらず、刻まれているのはかなり上位なモンスターだけとのこと。


「そう、ですが。強力な武器を作りたい! とか。防具を作りたい! とかじゃないんですか?」

「俺には武器とか防具は必要ない。欲しいのは、生活に必要な資金だ。そして、知識。……というわけで、こっちの世界について色々と教えてほしい」


 ぱっと見は、一般的なファンタジー世界と認識できるが、それは霊太の見解だ。もしかすると、霊太の常識とは違う点が多々あるかもしれない。

 そのためにも、こっちの世界に詳しい住人に聞くのが一番だ。


「わ、わかりました。私達は居る世界の名は、オラーヴィ。モンスターとか、さっきのドラゴンとか危険な生き物がたくさん生息している世界です。近年大きな街では、色んな技術で発達しているみたいですが、詳しいことは……そのすみません」


 別にいいよと、申し訳なさそうにしているフォルンをフォローする。

 おそらく彼女は故郷から離れたことがないのだろう。

 それは反応を見ればわかることだ。


「他にも魔法という魔力を使った力がありますが……あなたが使ったのは魔法、じゃないですよね? 魔力反応が一切感じられませんでしたし」

「超能力だ」

「超、能力?」

「簡単に言えば、魔力を使わない特殊な力ってところだ」


 正直、霊太にとっても自分の力がどういうものなのかははっきりわかっていない。だからこそ、わかりやすく短めな説明を選択した。


「そ、そんな力が!?」

「まあ、こっちの世界にもあるかもしれないけど」


 驚くフォルンに、若干適当な感じで言うと。


「そうなんですか!?」


 素直に受け入れ驚く。


「いや、知らんけど」

「し、知らない?」

「いや、でもあるかもな。俺こっちには詳しくないし。もしかしたら」

「おお……!」

「……」

「な、なんですか?」


 純粋な子だ。

 霊太の言葉一つ一つを信じて、驚いている。からかいがある子だとは思うが、今はそんなことをしている場合ではない。


「フォルン。あそこが、お前の故郷か?」

「あ、はい! あそこが、私の故郷のアザグ村です!!」


 まだまだ聞きたいことは山ほどあるが、どうやら目的地に到着したようだ。

 フォルンの故郷までは、かなりの距離があるということで、途中までは霊太が近くまで移動していたのだ。それでも、歩いて数十分はかかった。

 よほど遠い場所で戦っていたということだろう。

 フォルンが元気よく走り出すと、村の入り口近くに居た男が、霊太達の姿を見てぎょっとした表情で固まる。


「み、皆さーん!! フォルン。今帰還しましたー!!」


 手を振るのではなく、なぜか杖を振って大声で叫ぶ。

 すると、村人達はぞろぞろと入り口近くに集まってくる。その表情は、まるで信じられないようなものを見るような驚愕したものだ。

 おそらく霊太が持っている龍石もそうだが、フォルンが無事に帰還したことにも驚いているのだろう。


(マジか。ガイアドラゴンを相手に生きて戻ってこれるなんて)

(実は、フォルンってすごい奴なのか? てか、後ろの青年は誰だ?)


 その証拠に、村人達は内心でも驚いている。


「フォルン! 本当にフォルンなのか!? おぉ、よく無事で……!!」

「村長!」


 村人達の中から、掻き分けるように出てきた長い髭を生やした老人。

 どうやらここの村長のようだ。

 大体歳は六十代前半といったところか? 白髪が目立ち、若干腰が曲がっている。


「なあ、フォルンよ。そなたの隣に居る御仁が持っている。いや、浮かせている? ものは、もしや」

「はい! ガイアドラゴンの龍石です!」

「なんと!? ということは、フォルンが!」


 一瞬村人達が、歓喜の声を上げようとしたがフォルンが首を激しく左右に振り、霊太を前に出す。


「こ、この人が倒したんです!」

「なに? この者が。して、この者はいったい」

「霊太だ。異世界人ってところだな」

「異世界人? あぁ、異界人のことですかな?」


 どうやら、こちらの世界では異世界人のことを異界人と呼称するらしい。


「それにしても、フォルン。本当にこの者が、ガイアドラゴンを?」

「見たところ普通? の青年に見えるのだが」


 正直、村長を含めた全ての村人達がとてもじゃないが、信じられないという表情で霊太を見る。

 それもそのはずだ。

 誰が見ても、霊太は防具を装着していないうえに、武器も持っていない。この世界で異界人というのが、どういう存在なのかは知らないが。

 誰が見ても、ドラゴンを倒せるような存在には見えないだろう。


「はい! それはもう圧倒的でした! こう! 手をかざしたらガイアドラゴンがうごあぁ!? って腕が折れて! ブレスを吐こうとしたらまた手をかざして!」


 まるで、説明になっていない。

 身振り手振り、効果音を入れて、子供が演劇でもしているかのようだ。


「待て待て! フォルンよ。さっきから手をかざして、しか言っておらぬぞ!?」

「でもでも! 本当に手をかざしただけでガイアドラゴンをですね!! はぶっ!?」

「少し落ち着け」


 自分の目の前で起こったことを熱弁をしようとしているが、霊太は軽く脳天にチョップを入れて落ち着かせる。


「と、とりあえず、村に入ろう。話はそれからだ」

「は、はい!」

「あっ、ちょっといいか? これ、換金したいんだけど」


 ずっと霊太の横で浮いていた龍石を前に突き出し、換金したいと申し出るが……村長を含め、村人達全員が眉を顰める。


(あぁ、なるほど)


 確かに、この龍石は換金すれば高額な資金を得られる。しかし、山岳地帯に囲まれた小さな村でこの龍石を換金できるほどの資金があるとは思えない。

 いったいどれだけの金額になるのかは最中ではないが、今まで聞いた情報から推測するに、一生暮らせる金額、とまでは言わないが、しばらくは金に困らない程度にはなるはずだ。


「霊太殿。すまないが」

「やっぱり、換金できないか?」

「うむ。ガイアドラゴンの龍石。しかも、それほどの大きさだとすると。換金できる場所は、王都などの都市にある換金場でないと」


 予想通りと言ったところか。そういうことならば、仕方あるまい。できないことを無理強いするほど、霊太も強引な男ではない。


「だが、ガイアドラゴンを倒してくれたお礼をさせてほしい。そこで、こちらの世界のお金を渡そう。今後、この世界で暮らしていくのであれば必要になるだろう」

「そういうことなら、お言葉に甘えるとしよう」

「では、準備がありますので。フォルン? その間に、村を案内してやりなさい」

「はい! お任せあれです!!」


 一度、龍石は村長達に預けることにした。さすがに、龍石を持ったまま村を歩くと目立つということで。それにいつまでも龍石を浮かせているのも霊太としては疲れるのだ。


「霊太さん! どこを見てみたいですか? と言っても、この村はそこまで広くないので。見るところは、露店とかそういうところしかありません」

「そこでいい。この世界のものをこの目で見てみたいからな」

「……」


 どうしたんだろうか? 突然黙ってしまった。何か考えているようだが、どこか恥ずかしそうにもじもじしている。


(よし! もしかしたら教えてくれるかもしれない!)


 どうやら、超能力を教えて欲しいようだ。


「あ、あのー。ちょ、超能力って」

「無理だ」

「え?」


 まだ言いかけだったのに、即答されてしまったことにフォルンは硬直してしまう。


「超能力は、教えて覚えられるって力じゃないんだ」


 そもそも霊太自身も、気づいた時には超能力を使えるようになっていた。別に修行もしていたわけでもないのに、ぐんぐん力は強くなっていき、ついには周囲から化け物を見るかのような視線を向けられるようになった。


「ど、どうして私が言おうとしたことをわかったんですか!?」

「心を読んだからだ」

「それも超能力ですか!?」

「そんな感じ」


 普通ならば心を読むと言えば、怖がるはずだ。しかし、フォルンは純粋に感動を覚えたようで、耳をぴこぴこと動かし、尻尾を左右に振っている。

 

(撫で回したい)


 小動物のような仕草に、霊太は心が揺れたが、ぐっと堪えた。


「で、でもでも! もしかしたらって可能性も!!」

「そうだなぁ。あるかもしれないな。この世界は俺の世界でいう非現実な力がたくさんあるからなぁ」

「ということで、私を!」

「やだ」

「師匠!!」


 ……まったく人の話を聞いていない。彼女は、霊太に弟子入りして超能力を覚えようとしているようだ。

 正直、ここまでしつこく懇願されるとは思っていなかった。これ以上いらない希望をもたれても困るので、ある作戦を立てる。


「しょうがねぇなぁ」


 その返しにフォルンは心の底から嬉しそうに尻尾を大きく左右に振る。

 だが、霊太の口から発せられたとんでもない提案にぴたりと止まる。


「だったら、俺のペットになれ」

「ペット……ですか?」


 にやりと怪しい微笑みをフォルンに向け、霊太は言葉を続ける。


「そうだ。ペットだ。俺に服従し、俺の言うことは絶対。逆らった場合はきつーいお仕置きをされる」

「……えっと」


 先ほどの元気はなくなり、ただただ霊太の言葉を聞いている。

 ちなみに、霊太は本気で言っているわけではない。こうでも言えば、彼女は弟子になろうなんて考えを改めるだろうという霊太の判断だ。

 彼女がなりたいのは弟子だ。奴隷のような存在ではない。これならば彼女も諦めてくれるだろう。


(ぺ、ペット……それって、弟子じゃないんじゃ)


 成功のようだ。彼女の中で戸惑いが生まれている。


「まあ、それが嫌なら弟子になるのは」

(でも、私は……)

「ん?」


 戸惑いが、消えた?


「なります」

「は?」


 杖をぎゅっと、両手で握りしめ、真っ直ぐな瞳を霊太に向ける。

 そして、一呼吸入れて、フォルンは再度叫んだ。


「なりますっ。あなたのペットになります!!」

「嘘、だろ?」


 予想外だった。普通に考えてあり得ないことだ。ペットだ。弟子なんかじゃない。奴隷のように扱われると言ったのにも関わらず、彼女はそれでも弟子になりたいのか?

 それほどまでに、強さを求める何かが彼女にはあるというのか……。


「ですから、弟子にしてください!」

「待て待て。本当に」


「なんでもします! だから、あなたの強さを私に!!」


 押しが強い。どこまでも真っ直ぐで、どこまでも純粋な瞳を向けてくる。

 さすがの霊太も、どう対処したらいいかわからなくなってきた。


「そ、そうだ。えっと……」


 もっと攻めてくると思いきや、なにかを思い出したかのように、とある店へ走っていく。

 なんだ? 心を読もうとしたが、それよりも早くフォルンが戻ってくる。

 その手には……ペットがよくつけているような首輪が。


「こ、これを!」

「まさか、俺に付けろってことか?」

「はい!」


 本気だ。彼女は本気の本気だ。わざわざ首輪まで自分で用意をして、更に霊太本人付けさせようとしている。


(こ、これで。首輪をつければ私は……ぺ、ペットに!)


 いつでもいいぞとばかりに、目を閉じて首輪が取り付けられるのを待っている。霊太は、受け取った首輪とフォルンを交互に見詰め、ため息を漏らしながらも買い物袋を浮かせ、首輪を細い首につけてやった。


「ほら、付けてやったぞ」

「ありがとうごさいます! ご主人様!!」


 深々と頭を下げて、ご主人様と呼ぶが。


「普通に霊太でいい」


 霊太は、それを拒む。


「え?」

「さっきのは、冗談だよ。ああ言えば諦めてくれると思って言ったんだ」


 なのに、フォルンは完全に信じきって首輪までを自ら取り付けるようにと言ってきた。その覚悟に霊太は折れてしまったのだ。

 きょとん、と霊太を見詰める彼女の頭を軽く二回タップして、浮かせていた買い物袋を手にして背を向ける。


「行くぞ、弟子」

「……い、今なんて!?」


 嬉しそうな声音で問いかけるフォルン。

 が、霊太はそのまま歩き出す。置いていかれないように、ついていき、隣に並んだところで今度は霊太のほうから問いかけた。


「なんで、そこまで強くなりたいんだ?」

「……認めて貰いたい人がいるんです。お姉ちゃん、なんですけど。今は、故郷を離れて、都会で活躍しているんですけど」


 これほどまで必死になるということは、彼女の姉は相当才能があるうえに、妹に対して自分より強くなってみせろや、認めて貰いたいと思わせるほどの存在ということだろう。


「……言っておくが、俺は教えるのが下手だ。そんで、お前に教えられるようなことはないに等しい。それでも、いいのか?」

「大丈夫です。一緒に居ることで、色々と学んでいきますから!!」


 超能力者と魔法使いでは、根本から違う存在だ。本当に教えられるようなことはないだろう。なによりも、霊太自身誰かに教えるような存在でもない。


(……あそこで、かっこよく助けたのが悪かったのかな)


 しかし、あそこで助けないのも人として気分がいいものではない。


「師匠。さっそくですが、村案内をしますね!!」

「さっそく、師匠呼びか……」


 だが、この世界を楽しむために、彼女という存在と居るのは……悪くないかもしれないと、元気にはしゃぐフォルンを見て、霊太は笑みを浮かべた。

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