第二十話~いざ行かん~
「上級悪魔ねぇ」
「なるほど。それで、わたくしも気づけなかったわけですか……」
「くっくっくっく! 貴様が倒した悪魔は、我が一部にすぎない。さあ、私の本気をみ―――せぇ!?」
「話が長い」
たらたらと話すグルドンを霊太は、地面に伏せさせる。
悠然と歩き、目の前で立ち止まった。
「上級悪魔ってのは、本当なのか?」
「もち、ろんだ」
「他の悪魔と大きさ以外なにが違うんだよ」
「私は、人間の負の力を源に、操ることができる。我が宿となったグルドンはかなりの野心家だった。ゆえに、私が力を貸してやったのだ」
「へえ。じゃあ、お前はグルドンじゃなくてなんて名前なんだ?」
「誰が、貴様なぞに……ぐうっ!?」
まあそれもそうかと霊太は、地面にクレーターができるほどの力でグルドンを抑えつけた。
「師匠ー!!」
「お? フォルンか。大丈夫だったようだな」
そこへ、邸内にいたフォルンがシスターたちと共に駆け寄ってくる。
「わわわ!? な、なんですかこの……馬?」
「上級悪魔だと」
「やっぱり! さっきも突然兵士さんたちが悪魔になって! なんとかシスターさんたちと戦って撃退しました!」
「やるじゃん。さすが俺の弟子だ」
「えへへ」
フォルンの笑顔を見たところで、霊太はエローカに視線を送る。
「なあ、こいつを倒せるほどの術。扱えるか?」
「……はい。今扱える最上級の術を発動します」
「頼んだぞ。上級悪魔さんは、俺が押さえ込んでてやる」
力強く頷いたエローカは、太ももから何かを取り出す。どうやら投げナイフのようなものを装備していたようだ。
それを全て指の間に挟みこみ、目を閉じる。
「開け天門、白き秩序を齎せ」
刃にオーラが纏ったナイフを天へと投げる。
どういうわけか、投げられたナイフはグルドンを囲むように地面へ突き刺さった。
突き刺さったナイフを角として、サークルが浮かび上がる。
聖なる光により、グルドンを浄化していく。
「ぐおおお!?」
「あ、あれは光属性の中でも最上級の術!」
「へえ、そうなのか」
魔法は、定められた呪文詠唱をしない限り最大火力を発動しない。そのため呪文短縮は、速度はあるが威力が低いのが難点だ。
とはいえ、中級、上級と高位の魔法になればなるほど呪文詠唱は長くなる。
「輝く閃光、降り注げよ天雨、暗雲を払い、神なる裁きを!! 《ジャッジメント》!!!」
そして、ナイフは更に輝きを増す。
陣はグルドンを挟むように出現し、光の雨が降り注ぐ。
「この程度ぉ……!!」
手を、足を、翼を、体を貫く。
それでもグルドンはやられない。
「くうぅ……!」
「くはははは!! 所詮は人間!! 上級悪魔たる私がやられるなど……!!」
赤き目を輝かせ、何かを発動しようとするグルドン。
狙いはもちろんエローカだ。
しかし、霊太が居るかぎりそんなことはさせない。
「ほい」
「ぐおおお!?」
なにかが発動する前に目を潰した。
「いまだ、エローカ!」
「は、はい!!」
グルドンが怯んだところで、エローカは全魔力を込める。陣は、更に巨大化。降り注ぐ光の雨は、一つとなり巨大な槍となりて、グルドンを貫いた。
「ぐおお!? こ、こんな……人間如きに……! 貴様さえ、貴様さえいなければぁ!! 何者なんだ、貴様は!!」
消えていくグルドンは叫ぶ。
そんな問いに、霊太は。
「超能力者」
「なんだ、それ、は……」
まあ理解できないだろうな、と霊太は肩を上げた。
・・・・・☆
グルドンは、その野心から悪魔になった。
悪魔とは、負の感情から生まれ、それを食べ成長する。人間の皮を被るため感知され難い。
今回も気づくのが遅かったのはそのせいだろう。
リュテュカのまとめ役グルドンが悪魔になっていたことはすぐに広まった。協力していた兵士たちのほとんどは悪魔で、そうでない者たちはどうやら操られていただけのようだ。
これを王都へと報告したところ、代わりの兵士たちを配備された。次のまとめ役については、決まるまでは最高司祭オドルが代役をする。
「いやぁ、霊太くんの予想は当たったね。本当に取り返しに来たから撃退したよ」
「悪魔だから教会には入れず、うろうろしていたんだって?」
「ああ。いつまでもうろついて居られるのも迷惑だったのでね」
グルドンの一件から数日が過ぎた。
事件解決の功労者として、霊太たちは大いに礼を受けていた。だが、そろそろ旅立ちの日。泊まっていた宿で荷物をまとめている最中だ。
「この先、リュテュカはどうなるんですかね?」
「王都から代わりの兵士たちが来たみたいだし、護りは大丈夫だろう。後は、グルドンの代わりになるまとめ役だな」
荷物をリュックサックに詰め込み、収納空間へと放り込む。
礼とばかりに、かなりの食材などを渡された。
金を使わずに済んだのは良い事だ。
「私的には、オドルさんかエローカさんが良いと思います」
「私もそう思ったが、オドルさんはあくまで次が決まるまでの代役だと言い切っていたからね」
オドルはリュテュカの最高司祭という役割がある。そこから退くことはない。かと言って、まとめ役を同時にやるのは歳も考えて、無理がある。
そのためエローカに白羽の矢がたったのだが。
「そういえば、エローカさんはどうして断ったのでしょうか?」
「さあな。ぶっちゃけ、オドルさんより支持は多かったみたいだけど、なんかの理由で断ったみたいだ」
最近は、エローカとも会っていない。また悪魔が現れるかもしれないということで、ここ数日は悪魔除けの結界張りや、巡回などをやっている。
霊太たちも手伝うと言ったのだが、ゆっくり休んでほしいと丁重に断られた。
「よし。んじゃ、行くか。アルはこのまま俺たちについてくるってことで、いいんだよな?」
「もちろんだ。君たちと旅をすれば、面白いことが次々に起こりそうだからね」
「……」
「どうしたんだ?」
一人、窓から外を眺めたまま動かないフォルン。
なにやら寂しそうな表情をしている。
「このまま何も言わずにお別れ、なんですよね」
「まあな。今日は王都から来た兵士たちと今後について話し合いをしているみたいだからな。忙しくて、挨拶なんてできないだろ」
エローカはオドルと一緒にリュテュカの今後について話し合っている。まだ始まったばかりなので、終わるのは相当先だろう。
「あ、あの! エローカさんの話が終わるまで待ちませんか?」
「……まあ、急ぐ旅じゃねぇし」
「うむ。私も待ってもかまわないよ」
これと言って急ぐ用事もない。可愛い弟子のわがままを聞いてやるのもいいだろうと、霊太たちは数時間待つことになった。
そして、エローカと別れに挨拶をしようと思ったのだが。
「今度は、エローカか」
「いったい何なんだろうね」
今度は、エローカに待ってくれと言われた。場所は、北側入り口。
霊太たちが旅立つ方向だ。
「大体予想はできるけどな」
「え? そうなんですか?」
予想と言ったが、心を読んだため理解できたことだ。しばらくすると、オドルと共に大荷物を抱えてやってきた。
「み、皆さん! お待たせしました!」
「おう。旅支度はできたか?」
「はい! ……って、え? あ、あの霊太様。どうして」
どうしてわかったのか。それを聞きたそうにしているが、誰が見てももうわかることだ。
別れの挨拶をしたらさようなら。
なのに、待っていてくれ。
そして、大荷物を抱えてきた。そこから導き出される答えは……ひとつ。
「旅支度ってことは、もしかして!」
「こいつ、俺たちについてくるみたいだぞ。たぶん、理由はもっと聖女として力をつけるためってところか?」
「……全て、お見通しなのですね。さすがは霊太様です」
「で、ですがいいんですか? 今、こんな状況で。わ、私としては嬉しいんですけど」
今のリュテュカは、まだまだ混乱状態だ。まだまだ悪魔が出る恐れはある。結界を張り、王都からの増援が来たとはいえ、住民たちの不安は消えていないだろう。
そのためにも、一番信用されているオドルとエローカが必要だ。
「ええ。大丈夫ですよ。リュテュカの住民もそこまで柔ではありませんから。それに、エローカはリュテュカだけではなく、全ての人間のために旅をすると決意したのです。ならば、止めることなどしません」
「わたくしは、自分の力不足を知りました。そして、まだまだ悪魔に脅かされている人々は世界中に居ます。もうあんなことが起こらないように。いいえ、起こさないためにわたくしは修行の旅に出ようと前から決めていたんです」
「それで? どうして、俺たちと一緒に行きたいって思ったんだ?」
本当は知っているのだが、知ったうえで彼女の口からしっかりと聞いておきたかった。
「……あなた方からは、光を感じます。全てを救済する光を。おかしいと思うかと思いますが、わたくしは、その光について行きたいと思ったのです」
「まだ俺を神の使いだとか思ってるのか?」
「たぶん……そうなのでしょうね。申し訳ありません、しつこくって」
くすっと笑うエローカに、霊太は眉を顰める。
(そ、それに、この方について行けば……ふふ、ふふふ……)
真面目なのか、不真面目なのか。
ただただ自分に正直な彼女と旅をするのも面白いだろう。
「エローカのことよろしくお願いできないでしょうか?」
「私は良いとも」
「わ、私もです!!」
最後に、霊太へと視線が向けられる。
「ああ、俺もいいぞ。けど、聖女様。危険なことが山ほどあるから、覚悟したほうがいいと思うぞ?」
「望むところです。それを乗り越えてこそ、成長できるというものです」
「んじゃま、ちょっと集合。記念に写真撮ろうと思う」
「写真?」
旅仲間が増えたところで、霊太はスマートフォンを取り出す。
霊太以外何をするのか理解できていない様子だったが、三人は言われた通り霊太を中心に並ぶ。
「はいチーズって言ったら笑顔になれー」
「え? あ、はい」
「笑顔と言っても、私は鎧なので表情を変えることはできないのだがね」
「え、笑顔ですか……」
スマートフォンを片手に、霊太は三人を一度見る。
「んじゃ、いくぞー。はいチーズ」
一斉に笑顔になったところで、画面をタップ。
カシャッという音が鳴り、一枚の写真が撮れた。それをまだ何をしたかわかっていない三人とオドルに見せ付ける。
「おお! 私たちです! 私たちが居ます!!」
「これは一瞬で絵を描いた、のかな?」
「まあそんな感じだ。俺たちの世界で、こうやって記念写真っていうのを撮るんだよ」
「じゃあ、今回のはパーティー結成記念ってことですね!」
「そんなところだ」
異世界記念というフォルダを作り、霊太はそこに保存した。
バッテリーのこともあるため、どんどん撮影はできないが、何かがあれば今後もこうやって写真を撮っていこう。
そう思いながら、電源を切った。バッテリー節約である。
「やることもやったし。いくか?」
「はい!」
「楽しい旅の始まりだね」
「オドル様。行ってまいります!」
「ええ。お気をつけて。皆さんに神のご加護があらんことを……」
オドルが祈る中、霊太たちは旅立つ。
この先、どんなことが待っているのか。より一層のわくわくを求めて。
新作は、明日の昼に!




