第十九話~暴かれし悪~
「罪人?」
「いったい誰が?」
大分酔っているリュテュカの住民たちは、突然の展開に動揺している。
若干酔いが冷めているようだ。
「罪人は、そこで尻餅ついてる男だ」
「はあ? なに言ってんだ兄ちゃん! グルドンさんが罪人? なにを言ってるんだ?」
「おかげで、酔いが冷めちまったよ。冗談でも、そんなこと言っちゃいけねぇぜ?」
まったく信じていない。よほどグルドンのことを信じているのだろう。
普通ならば、霊太が冗談を言っていると思われる。
そんな様子を見て、グルドンもチャンスだと笑みを浮かべていた。
(くっくっくっく。積み重ねてきた信用が役立ったな……最初は、どうなるかと思ったが、このまま)
「はいはい。確かに、普通なら冗談だと思うだろうな。けど、証拠は複数用意してある。まずは、それを見て、聞いてから判断してくれ」
「証拠?」
皆の視線が集まる中、霊太はスマートフォンの画面をタップする。
『そうだ。この前捕らえた娘は、なんと言ったか?』
『西通りのパン屋の娘ノエルです』
「え? この声って、グルドンさん?」
「それに執事のセルヴァさん? あの箱から聞こえるような……」
スマートフォンから聞こえるのは、グルドンとセルヴァの会話。
こっそりとエローカたちが渡したプレゼントの中にスマートフォンを忍ばせていたのだ。
『そう、ノエル。ノエルか。あの娘は、なかなか美味そうだった。前の娘よりはいい声で泣いてくれることを期待しよう。くっくっくっく……おい。住民たちはいい感じに楽しんでいるか?』
『はい。それはもう』
『まったく、馬鹿な奴らだ。餌を与えられているのにも気づかないとは……』
そこで、霊太はもう一度画面をタップし停止させた。
先ほどまで、霊太が冗談を言っているんだろうという雰囲気は一変。静寂に包まれる中、グルドンに視線が集中していた。
「で? これはどういうことなんだ?」
「し、知らん! そんな会話など知らん!!」
あくまでも否定するグルドンだが、住民たちはグルドンへと疑いの目を向け始めている。
(さ、さっきの会話本当なのか?)
(確か、ノエルは行方不明だったよな……それに、餌を与えてるって)
(う、嘘そんなことが……)
とはいえ、これではまだ弱い。そもそもこの世界には音を録音できるようなものはないようだ。であれば、霊太たちが偽造していると思われるだろう。
声を似せる魔法があるとフォルンから聞いているので、可能性はある。
なので、霊太は次なる一手をぶつけることにした。
「じゃあ、次の証拠だ」
スマートフォンをポケットに仕舞い、その場から一度消える。
霊太が一瞬で姿を消したことに驚く住民たちだったが、またすぐ姿を現したことで衝撃が増える。
「はい、まずはさっき会話に出てた……ノエルの父親ダイルさんだ」
「グルドンさん」
一緒に現れたのは、消息を断ったノエルの父親ダイル。グルドンを視界に入れると、悲しみと怒りが一気に押し寄せてきたような表情へと変化する。
「だ、ダイルさん! ノエルちゃんは」
ダイルが喋り出す前に、近くに居た男性が問いかける。
「娘は……無事です。ここに居る霊太さんが助け出してくれました」
「おお!」
住民たちが安堵したところで、ダイルはグルドンを睨み話しかける。
「グルドンさん……いやグルドン。俺は一度あんたのところへ娘のことを聞きに行った。その時、あんたはなんて言ったか覚えてるか?」
「いや、それは」
「娘はここにはいない。ちゃんとパンを配達して、帰って行った」
込み上げてくる怒りが言葉に篭っていく。
その様子は、誰が見ても本物の怒りだとわかるほどだ。
「ノエルが見つからないのなら、私も協力する。あなたのところにパンは好きだから。これからも食べたい……! それがどうだ! 本当はあんたがノエルを! いや、ノエルだけじゃない! 他の消息を断った少女たちも捕らえていたんだろ!!」
「ま、待ってくれダイルさん! 落ち着くんだ!!」
「これが落ち着いていられるか! 俺だけじゃないんだ……霊太さん」
ダイルの視線を受け取り、霊太はあいよっと頷きまた姿を消す。
そして、再び戻ってくるとまた人を連れていた。
「てめぇ! うちの娘になんてことをしやがったんだ!!」
「私たちもあなたのところへ娘のことを聞きに行ったはずよ! なのに、知らないって!!」
「この人の皮を被った悪魔め!!」
現れたのは、消失した少女たちの家族。
次々に、込み上げてくる怒りをグルドンへと言葉としてぶつけていく。
「ままま待ってくれ! これは何かの間違い」
「間違い? ふざけるな! 娘はあんたのせいでまだ怯えているんだ!!」
「まあ待て」
「れ、霊太さん」
今にもグルドンに飛び掛りそうな勢いの住民たちを止め、エローカと共に前に出る。
「グルドンさん。もう止めましょう」
「エローカ様。私は」
「もう終わりです。あなたの悪行はすでに明らかになっています」
「くっ!」
エローカの一言一言がグルドンを更に追い込む。
(こうなったら……)
ちらっと周囲を見渡し、薄気味笑いが漏れ出す。
「くくくく」
「お? なんだなんだ。ついに諦めたか?」
「あっはっはっはっはっは!! こうなったら、手段は選ばん!! そう……手段を!!」
グルドンからどす黒いオーラが放たれる。
エローカは、すぐにそのオーラの正体に気づき、声を上げる。
「皆さん!! お下がりください!!」
「おい、なんだあれ」
「あれは、悪魔のオーラです」
「ほう。まさか、リュテュカのまとめ役ともあろう方が、悪魔だったとはな」
グルドンの体は膨張する。そして、腹が風船のように弾けたと思いきや、まるでさなぎから羽化したかのように馬顔の悪魔が姿を現す。
二本の角を生やし、蝙蝠のような翼、隆々とした筋肉。
全長は、軽く四メートルは超えているだろうか。
「う、うわああ!? ぐ、グルドンさんが悪魔に!?」
「どうなってんだ! 悪魔はエローカ様が浄化したんじゃなかったのか!?」
「いや待て! 俺、浄化された悪魔を見たけど、あんなに大きくなかったぞ!!」
「じゃあ、他にも悪魔がいたってこと!?」
「今はそんなことはどうでもいい! 早く逃げないと!!」
襲われないように、住民たちは逃げていく。
が、グルドンはそれを逃すはずがなかった。
「逃がすか!! もはやこの街はだめだ!! 住民を皆殺しにしてやる!!!」
グルドンが叫ぶと、周囲を警備していた兵士たちが一瞬で悪魔へと変わってしまう。グルドンよりも小さいが、これだけの数は厄介だろう。
「そんな! このままじゃ!」
「はっはっはっは!! やれ!!」
「きゃあ!?」
「うわあ!?」
遠いところで、三十メートル以上はある。いくら早い者でも今からでは間に合わない。
「はい、ストップ」
「なにっ!?」
とはいえ、霊太には関係なかった。
視界に入るものならば、どんなに遠くとも止めることができる。
悪魔たちも何が起こったのかわからずに居るようだ。
「き、貴様! いったい何をした!?」
「止めただけだが? それで、エローカ。悪魔って普通に倒してもいいのか?」
「悪魔は、聖なる力で浄化しないといつか復活します。ですから、わたくしが!」
エローカの体から光が溢れ出る。
魔力とは違った聖なる力を感じる。
「魔を払え、罪を払え、邪なる者に、光の制裁を、善なる者に、光の加護を! 《セイクリッド・フレア・フィールド》!!!」
エローカの唱えた術は、グルドン邸全域に広がる。
停止した悪魔を聖なる炎で浄化し、住民たちは光のオーラに包まれた。
「おー、すげぇな。悪魔が一瞬で消えた」
「光属性の上級術です。詠唱に時間がかかりますが、霊太様が敵を止めてくださったおかげで無事発動することができました」
見た限りでは、敵にはダメージを与え、仲間には何かしらの付与効果を与える術なのだろう。
小さな悪魔は一瞬で消えたが……大きなものは残っていた。
「さすがは、聖女。だが! 所詮は人間の術! 上級悪魔である私を倒せるほどの力はないようだな!!」
多少のダメージを受けているようだが、まだグルドンは生き残っていた。




