第一話~ファンタジーとの出会い~
「ふえええええええん!! どうして、普通のうさぎさんがなんですかぁっ!?」
「愚かなり亜人の少女よ。これで我と戦う価値が無いと理解できたであろう? さあ、少々心もとないが……貴様を食し、我が糧としてやろうぞ!!」
「ひいいいっ!?」
十メートルは超えているであろう大きなトカゲ。いや、大きな翼が背中から生えており、二本足で立っており、言葉を喋る。
普通のトカゲではない。おそらく、ファンタジー世界の生き物であるドラゴンだろう。こんな生物、地球にはいない。
しかも、そのドラゴンが見下ろしている少女も異質だ。
地面にぺたりと座り込み、自分の身の丈よりも長い杖を抱きしめ、涙目でドラゴンを見詰めている。腰元まで長い、薄い茶色の髪の毛。
そして、キツネのような長い獣耳にもふもふな尻尾。年齢は、十代前半ぐらいだろうか? それほど幼く見える。
「へえ。これが、ドラゴンか」
「ほえ? だ、誰ですか!?」
「異世界人だ」
「え? え? 異世界人?」
少女にとっては、絶望的な展開。しかし、霊太にとってはわくわくが止まらない展開。ドラゴンに恐怖し、もう死んでしまうんだと思い泣いていたであろう少女は、突如として現れ平然とドラゴンと対峙している霊太に、きょとんっとした表情で見詰めていた。
「何者だ、貴様。我を前にして、悠然と立っていることは褒めてやろう。だが、自ら我が糧になりにくるとは……やはり、人間とは愚かな存在よ」
「糧? 誰のことを言っているんだ?」
「貴様のことだ。わからぬのか?」
まったくわからないとばかりに霊太は頭を掻き、ドラゴンを指差しながら少女へ問いかけた。
「なあ、あいつすげぇ偉そうなんだけど。そんなに偉いのか? ドラゴンっていうのは」
ドラゴンという存在は知っている。だが、それ地球という世界での話。竜という存在が本当にいたなどと言われているが、ドラゴンはどうだ?
創作物の中の存在。
それが霊太の認識だ。ゆえに、色んな創作物の設定が異世界と同じなのか。それが気になっている。
「え、えっと。ドラゴンは、世界最古の生物で、普通の人が何人束になっても簡単には勝てない存在なんです。それこそ、強力な魔法を扱えたり、魔剣や聖剣などの特殊な力を持った武器を扱えないと……しかも、目の前に居るのはドラゴンの中でも硬い鱗に守られた【ガイアドラゴン】なんです! 私も、一応上級魔法を扱えますけど、それすら効かないほど硬いんです!!」
上級魔法ということは、魔法の中でももっとも上の威力を持つ魔法ということなのだろう。それを使ってダメージすら与えられない。
つまり、先ほども少女が言ったように、魔剣や聖剣などの類の武器でないと倒すことは難しいということか。地球の創作物でも、勇者がドラゴンを倒すような物語があった。だからこそ、なるほどと納得をしたうえで、霊太はにやりと笑う。
「やっぱりドラゴンってそんな感じなのか」
霊太は、少女からの情報を聞いたうえで、ガイアドラゴンへと近づいていく。それを見た少女は、驚愕した声で霊太を止めようとする。
「な、なにしているんですか!? 武器もなしにガイアドラゴンに近づくなんて!」
「その通りだ、愚かな人間よ。さあ、その細い体切り裂いてくれる!!」
霊太よりも確実に大きい爪が、容赦なく振り下ろされる。もうだめだ! と少女も杖を抱き目を瞑る。
だがしかし。
「ぬうっ!?」
「え?」
巨大な爪は、霊太に当たる前に静止した。いや、止めたというのが正しいだろうか。これには、ガイアドラゴンも少女も何が起きたのか理解できず驚愕している。
「なぜだ。なぜ動かぬ!?」
「止めたからだが? 自己防衛ってやつだ」
当たり前のように呟きつつ買い物袋を持ったまま霊太は、垂直に浮く。ガイアドラゴンの目の前に辿り着いたところで、興味津々に見詰めながら、ぐるぐると二周する。
その間もガイアドラゴンは、ぴくりとも動くことができない。
「へぇ。本当に鱗に覆われているのか。なあ!」
だいたいの観察が終わった霊太は、少女へと話しかける。
「へ? も、もしかして私のことですか?」
「ああ。あっ、そうえいば名前聞いていなかったな。俺は霊太だ! お前は?」
「ふぉ、フォルンって言います」
真後ろに世界最古の生物が居るというのに、のん気に自己紹介をすることに少女―――フォルンはかなり困っているようだ。
それでも、霊太は構わず語り続けた。
「じゃあ、フォルン! お前は、こいつにどんな魔法を放ったんだ?」
「え、えっと。炎の上級魔法で《バーンフレア》です」
「で? どこに当てたんだ?」
「胸部、です」
それを聞いた霊太は、胸部近くに移動し何度も頷く。炎の上級魔法を当てた部分であろうところには、若干焦げた痕が見える。
ほとんどダメージはないようだが、これも硬質な鱗に守られているからなのだろう。
「き、貴様! 我に何をしたと言っている! 答えぬか!?」
先ほどから必死に動こうとしていたガイアドラゴンは、自分を無視してのん気に話している霊太に怒りを露にした。
「だから、止めてるって言ってるだろ? さて」
十分にドラゴンのことを調べた霊太は、手をかざす。
「とりあえず」
「ぐおお!?」
静止していたガイアドラゴンの左腕が動き出す。そのまま徐々に後ろへといくが。
「ん? やっぱりちょっと硬いか。じゃあ、ちょっと強めに」
なかなか動かないので、いつもより力を強める。
「ぐあああああっ!?」
ゴキン!!
骨が折れる音とガイアドラゴンの悲鳴が響き渡る。
「骨は折れるか。やっぱり、ファンタジー世界の生き物とはいえ生き物だな」
腕を折られたガイアドラゴンは苦痛の表情で、二歩ほど下がる。
霊太は、一度地面に着地してフォルンに問いかける。
「なあ、お前はどうしてガイアドラゴンと戦おうとしたんだ?」
魔剣や聖剣などが必要なほどの存在に、上級魔法が扱えるとはいえ一人で戦うなど無謀にもほどがある。誰でもそう思うだろう。
「そ、それは……このドラゴンがこの地で暴れて、占領しているせいで近くの村々が苦しんでいるんです。そこで、村一番の魔法使いである私が」
と、杖を力強く握り締めるフォルン。
「誰か一緒に戦ってくれる人とか、助けてくれる人はいなかったのか?」
フォルンに背を向け、こちらを睨むガイアドラゴンと対峙する。
「この近くは、山岳地帯に囲まれていて、依頼を出してもそれまでの道のりが大変過ぎて、それに相手はドラゴンですから。皆……」
「怯えて、誰も助けに来ないか」
それもそうだろう。普通ならば、こんな巨大な化け物に挑むなど命知らずのすることだ。
事情を把握した霊太は、ぽんぽんっとフォルンの頭を二度タップする。
「そういうことなら」
一歩、また一歩とガイアドラゴンに近づいていき。
「俺が助けてやる」
フォルンを安心させようと、力強い言葉を送った。
「で、ですが!」
霊太の力は十分にわかったはずだが、それともフォルンはまだガイアドラゴンのほうが強いと思っているようだ。
「心配するな。ドラゴンと言っても命ある生き物っていうのはわかった」
「人間風情がぁ!! 我が最大火力にて葬ってやろう!!」
「ぶ、ブレスがきます!! あれは……龍術です!!」
「龍術?」
激怒したガイアドラゴンが口を大きく開き、光が集束させる。光には、いくつもの魔方陣、いや龍が刻まれている陣だから龍陣が何重にも重なっている。
「り、龍術はドラゴンのみが扱えることができる術です! その威力は一撃で山を吹き飛ばすほどだと言われています!! あわわわ……! も、もうお仕舞いですぅ!!」
「へえ、そんなにすごいのか」
それを見て、聞いた霊太は、好都合だとばかりに再度手をかざす。
「食らうがいい! グランド!」
「自らの術で沈め、ガイアドラゴン」
龍術が吐き出される寸前を狙って思いっきり口を閉ざした。
それにより、集束されていた膨大なエネルギーが爆発し、ガイアドラゴンの頭が……吹き飛んだ。
「成功か」
「す、すごい……あのガイアドラゴンを圧倒してる」
ぴくりとも動かないガイアドラゴンは前に倒れる。
本当に死んだのかと近づいていき、しばし確認。頭が吹き飛んでいるのだから普通の生物ならば死ぬ。しかし、相手はファンタジー世界の生物ドラゴンだ。
頭が吹き飛んだぐらいでは死なないかもしれない。
「……ふむ。死んでるな」
死亡を確認した霊太は、ゆっくりとフォルンのところへと戻っていき、ぐっと親指を立てる。
「終わったぞ」
「ほ、本当に倒したんですか? あっ!」
「ん?」
どうしたんだろうとフォルンの声につられて振り返る。
そこで見た光景は光の粒子となって消え去っていくガイアドラゴンの巨体。
残ったのは、二メートル。いや三メートルはあるだろうか? それほどの巨大な緑色の石だった。
「なんだこの石」
ぺしぺしと叩きながらフォルンへと問いかける。
「りゅ、龍石です! しかも、ガイアドラゴンの!!」
「龍石ってのは?」
「ドラゴンの力が蓄えられている特殊な石のことです。モンスターだった場合は、魔石と言うんですが。このような特殊な石は、換金したりその力が宿った武器や防具などが作ることもできます」
へぇと興味津々に見詰め、龍石を浮かせる。
「そんじゃ、さっそく換金しよう。この世界での資金を手に入れるために」




