第十八話~表と裏~
フォルンたちと別行動を取り、離れた場所からグルドン邸をの様子を窺っていた。ヘッドホンからは、シャカシャカと気持ちを高める音楽が流れている。
グルドン邸では、何の疑いもない表情で高級な料理を食らい、高級な酒を飲んでいる。本当に、本当に心の底から楽しんでいる。
「まったく。表では、こんなにも楽しい光景が見えるって言うのに……」
肩を上げ、透視で邸内を覗く。
邸内では、シスターたちやグルドンの兵士たちが巡回をしている。そして、丁度エローカたちとグルドンが部屋へと入っていくのを確認した。
(さてさて、もうちょっと奥を見てみるから)
邸内をざっと見てみたが、怪しいところもなく、消失した少女たちの姿もなかった。消失した少女たちの似顔絵は記憶している。
似顔絵がかなりうまかったため、見つければすぐわかるだろう。
(さすがに邸内にはいない。隠すならやっぱり……)
地下室があると読み、下へと視線を向ける。
左へ、右へと向け……捉えた。
地下室へと繋がる階段。
そこから更に下へと透視を続ける。
(当たり、だな)
硬い鉄の扉の前に、兵士が複数。
その奥には、数人の少女たちが捕らえられていた。その中に、二日前に消息を断ったノエルの姿も。
ひどく怯えている。中には、涙を流している少女も。
考えたくもないが、グルドンに何かをされたのは明白だ。
「……異世界でも同じか。人ってのは、どうしてこんなにも醜いのか」
音楽を止め、ヘッドホンを外した霊太は一気に、地下室内へとテレポートする。
「え? な、なに。誰?」
「あー……怯えなくてもいいっていうのは無理か」
それは当然だ。急に密閉された地下室に人が現れれば、誰だって疑い怯える。ただ、騒がれないだけまだマシだ。
先頭に立って、話しかけてきたのはノエルだ。
栗色の長い髪の毛をサイドポニーに束ね、赤いエプロンを身につけている。強気で、活発そうな少女だ。他の少女たちは、部屋の隅っこで頭を抱え怯えていたり、抱き合っていたり。どれだけのことをされたのか……。
霊太はその場にしゃがみこみ、人差し指を口元に近づけ、声を潜める。
「俺は、お前たちを助けに来た者だ。あんた、ダイルさんの娘ノエルだな?」
ダイルの名を聞いた刹那、ノエルは警戒心を解き、声を潜めながら近づいてくる。
「本当に、助けに来てくれたの?」
「ああ。だから、聞かせて欲しい。いったいグルドンはお前たちをどうしようとしているのか。……酷かもしれないが」
と、後ろで怯えている少女たちに視線を送る。
「……わかったわ。あたしから話す」
霊太は聞いた。グルドンが何をしているのか。
聞くに堪えないものだった。
予想通りと言えば予想通り。ノエルはまだ何もされていないが、すでに被害に遭った者たちから聞いた話のようだ。全てを話したノエルは、今にも人を殺しそうな表情になっているのに気づいた霊太は、肩に手を置く。
「よく話してくれたな。後は、俺たちに任せろ」
「よろしく、お願いします……!」
「おう。そんじゃ、まずはここから出るか」
「出る? でもどうやって」
「簡単なことだ」
ノエルに頼み、他の少女たちに手を繋ぐように伝える。
最後に、ノエルが霊太に触れたところで、霊太はテレポートを使った。
「そ、そんなここって」
「ノエル!」
「お、お父さん? お父さん!!」
移動先は、教会内。
そこで待っていたのは、ダイルとアルデンス。他にも、姿を消した少女たちの家族が居た。
「やあ。どうやら当たりだったみたいだね」
「まあな。頼むぞ、アル。グルドンには、隠密を得意とする連中も居るみたいだからな。少女たちを奪い返しに来たら、撃退よろしくな」
「もちろん。弱き者を護るのは騎士の務めだ。さあ、霊太くん。悪者を……懲らしめてきたまえ」
「おう。任せておけ」
父と娘の抱擁シーンを目に焼きつけ、霊太はフォルンへと思念を飛ばした。
・・・・・☆
「グルドン様。エローカ様ならびにシスターの皆様方は、予定通りパーティーを楽しんでいます」
「報告ご苦労。まったく……今宵は楽しい楽しい誕生日なのに」
と、グルドンはぶどう酒が入ったグラスをテーブルに置き、ため息を漏らす。
「あのお三方のことですか?」
「ああ。あの三人は何なんだ。監視役は、おかしなことを言う。突然消えた? 何を馬鹿なことを。そんなこと、幽霊か空間転移を使わない限りありえない。かと言って、唯一の魔法使いであるあの【千狐族】の少女では魔力が足りない」
グルドンはやれやれと部下の怠慢さに呆れながら、執事であるセルヴァに声をかける。
「それで? あの三人はもうこの街にはいないんだな?」
「はい。くまなく探索しましたが、どこにも姿はありませんでした」
「そうか。では、監視役の処罰は後にするとして、今宵はどいつで楽しむとするか」
悩みの種がいないことがわかったグルドンは、にやりと怪しい笑みを浮かべる。
「そうだ。この前捕らえた娘は、なんと言ったか?」
「西通りのパン屋の娘ノエルです」
「そう、ノエル。ノエルか。あの娘は、なかなか美味そうだった。前の娘よりはいい声で泣いてくれることを期待しよう。くっくっくっく……おい。住民たちはいい感じに楽しんでいるか?」
「はい。それはもう」
「まったく、馬鹿な奴らだ。餌を与えられているのにも気づかないとは……」
楽しそうに笑いグルドンは、セルヴァと共に部屋から出て行く。
廊下に出ると、教会のシスターたちと自分の部下たちが巡回していた。どこから誰が来ても、すぐ対処できるような配置だ。
が、とある場所にはグルドン直属の部下しか配置していない場所がある。その近くには、地下室へと下りる階段があった。悠然と階段を下りていくと、広々とした部屋に辿り着く。
「変わりないか?」
頑丈そうな鉄の扉の前には、兵士たちが立っていた。
グルドンが来たことに気づき、一礼する。
「はい。大人しいものです」
「それはいいことだ。今から、喉が嗄れるまで叫んでもらうからな。無駄に叫ばれても、こっちの楽しみがなくなる」
「それで? 今宵は、どの少女を?」
「この前捕らえたノエルという娘だ」
「かしこまりました」
兵士の一人は、腰元の鍵を手に取り、鍵穴に入れ開錠する。
そして、いかにも重そうな音を鳴らしながら鉄の扉を開けると。
「きゃー、なんなんですかー、あなたたちー……なーんてな」
「なっ!? き、貴様どうしてここに!?」
無駄に下手な演技で、霊太が出迎えた。
「なんで? それはこっちの台詞だ。なんで地下室があるんだ? グルドンさんよ。いったい、ここはどんなことをするためのところなんでしょーか? ええ?」
「い、いやここは」
「あっ、言い訳は俺じゃなくて……さあ、どうぞ」
「―――なっ!? あ、あなたがなぜここに!?」
霊太がその場から紳士的に退き、暗闇から出てきたのは……エローカだった。
「グルドンさん。どういうことなのか、ご説明して頂けますか?」
「い、いやここはですね。罪人を捕らえるための牢屋でして」
「罪人と捕らえるならば、警備兵に引き渡せばよろしいのでは?」
「警備兵に引き渡す間、閉じ込めておく必要があります。こちらも、急に襲い掛かられては困りますから」
「ですが、今は罪人は一人もいません。なのに、どうして兵士を配置しているのですか? それと、先ほどノエルという名前を聞きました。その名前は、先日より消息を断った少女の名前。しかも、捕らえた、と」
「そ、それは……」
いつもの穏やかな雰囲気とは違い、罪人を断罪しているかのような威圧感のあるエローカに、グルドンは追い詰められていく。
すると、背後でセルヴァが動きを見せる。
が。
「おっと、動くんじゃねぇぞ」
「なっ!? か、体が……!?」
霊太の力によってそれを阻害。何度も動こうとするも、ぴくりともしない。
「そろそろ最終段階に行こうか。いくぞ、エローカ」
「はい」
霊太は、エローカの腰を抱き、一気にグルドンへと距離を詰め、顔面を片手で鷲掴みにする。
「では、移動しまーす」
刹那。
薄暗い地下室から、一気にグルドン邸外へ。それも丁度、人々の視線を集まるように中央に移動したグルドンは何が起こったのかさっぱりという反応をしている。
「な、なんだ?」
「グルドンさん? それに、エローカ様も?」
「え? え? なにが、どうなってるの?」
「き、貴様いったいなにを」
「なにって、今から罪人の贖罪するんだよ」
と、霊太はポケットに手を突っ込みあるものを取り出した。




