第十七話~潜入~
毎年行われるグルドンの誕生日パーティー。
何日か前に住民たちへと招待状が配られ、グルドン邸内、そして邸外全てを使う。夕暮れ時開始され、夜遅くまで騒がしい声が響き渡る。
今夜は満月。
天気も悪くなく、絶好の誕生日パーティー日和と言えよう。そんな中、霊太はある作戦を考えたのだ。
「し、師匠。これ、本当にばれませんかね?」
「おう。大丈夫だって。仮面を被れば、中の人が違うなんてばれないって」
「ですが、私シスターってなにをするのかわからないんですけど」
誕生日翌日の昼頃。
監視役は完全に霊太たちから離れていった。何度も何度も一瞬にして、姿を暗ますので監視役のほうも疲れてしまったのだろう。
あんな奴監視し切れません! と弱音を吐いていたのをしっかりと聞いた。なので、今では霊太たちを監視している者たちはいない。とはいえ、油断することはできない。
監視の目が唯一届かない教会内で、霊太たちは作戦実行のため念入りな打ち合わせをしている。事情を知った最高司祭オドルも快く協力をしてくれた。
作戦はまずこうだ。
招待状を貰っている教会のシスターたちの中に、フォルンを忍び込ませる。毎年のことだが、オドルとエローカはグルドンと対話をするそうだ。
オドルは教会のこともあるので、すぐ帰らなければならないようだが、エローカと数人のシスターは違う。
リュテュカのシスターたちの戦闘力は誰もが知っている。
そのため警備を頼まれるそうだ。
それを利用する。
もし、消失した少女たちがグルドンのところに居て、それを助けたとしても色々と追い込むには足りない。完全に追い込むために、色々とエローカとフォルンにはやってもらわねばならない。
「さて、フォルン。昨日言ったことちゃんと覚えてるよな?」
「は、はい!」
「よし。それじゃ、お前にはこれを渡しておく。使い方は昨日教えた通りだ。いいな?」
そう言って、フォルンに渡したのはスマートフォンだった。これが、グルドンを追い込むための切り札となる。ただうまくいけば、の話ではあるが。
「私も、自分の役割をしっかりと果たそう」
「ああ、頼んだぜ。正直助けるだけなら、俺一人でも簡単にできるんだがな。ああいう奴は、用心深いから念入りに作戦を立てないとやり方次第でなんとかなっちまうからな」
「ノエルちゃんのためなら、私たちも頑張ります!」
「ええ! もしグルドンさんがそんな悪いことをしていたなら許せない!」
「女の敵です!」
「神の名の下に、成敗しちゃいます!!」
他のシスターたちもやる気十分のようだ。当然だが、彼女たちには警備をしてもらいつつグルドンの部下たちの監視、および何か動きがあった場合は対処してもらうことになっている。
「……エローカ」
「は、はい!」
先ほどからずっと喋らず何か考え事をしているエローカ。
緊張した様子だ。
そんなエローカに、霊太はポケットから飴玉を取り出し口に突っ込んでやった。
「むぐっ!?」
「それでも舐めてろ」
「これは……飴玉、ですか?」
「そうだ。信じたい気持ちは大事だ。だが、疑うことも大事なんだ。聖女として、神にその身を捧げた身として、色々大変だろうが……やるべき時はやってやろうぜ。ノエルを助けたいだろ?」
「……はい」
・・・・・☆
「皆さん! ようこそお越しくださいました! 今年も、私の誕生日をお祝いして頂きまことに感謝申し上げます!! 毎年のことですが、今日は食べて、飲んで、騒いで、思いっきり楽しんでいってください!! 私は、皆さんを大歓迎致します!!」
時は過ぎ、夕刻となった。
グルドンは慣れたように集まった住民たちに声をかける。住民たちも、毎年のことながら大いに声を上げ、テーブルに並べられた料理を食し、普段は飲めない高級酒をぐいっと流し込む。
子供たちも、普段食べられない料理をおいしそうに食べている。
そんな様子を見届けたグルドンは、室内へと戻る。
「グルドンさん」
「おお! オドル様! そして、エローカ様。ようこそお越しくださいました!」
「いえ、こちらこそ毎年お呼び頂きありがとうございます」
そこへ、オドルとエローカが訪れる。
グルドンは、満面の笑顔で受け入れ、応接間へと通す。傍つきとして、ついてきたシスターも通され、ソファーに座ったところで、二人のシスターがグルドンに紙袋を渡す。
「お誕生日おめでとうございます、グルドンさん。こちら、誕生日プレゼントです」
「毎年ながら、すみません」
紙袋を受け取ったグルドンは、それを受け取り横に置いた。
「なにをおっしゃいますか。誕生日に、プレゼントを贈るのは当然のこと。それに、グルドンさんは毎年のようにご自分の誕生日だというのに住民たちをこんなにも歓迎してくれているではないですか」
「ええ。ですから、謝ることなどありません」
「これはこれは、ありがとうございます。さて、毎年のことですが。今後のリュテュカをどうやって豊かにしていくかですが」
その後、毎年のようにリュテュカをどう豊かにしていくかの話し合いをした後、オドルは教会に戻る。エローカは、シスターたちと共にしばらくはグルドン邸に残ることになる。
「ふう……き、緊張しましたぁ」
人目のつかない部屋に入り、フォルンは仮面を外す。
「お疲れ様です、フォルンさん」
「うまく行きましたね。後は、作戦通りにグルドンさんがボロを出すかどうかですね」
「はい」
他のシスターが見張っている中、エローカはフォルンの隣に座る。
その表情は少しやるせないものだった。
「エローカさん。やっぱり、まだグルドンさんを信じたいですか?」
「はい。もしかしたら、違うということもあるかもしれないですから」
「人を信じたいって気持ちは大事です。私も、本当は疑いたくないです。グルドンさんは、本当にいい人でしたから」
フォルンも、人を疑ったことなどないに等しい。
だからこそ、どこまでも信じたいと思っているエローカの気持ちはフォルンも理解できる。ただ霊太は、超能力の力でグルドンの本性を知った。だからこそ疑っている。いや……消失事件の犯人だと疑っているのだろう。
「ところで、話は変わりますが」
「なんでしょうか?」
「ずっと気になっていたんですが、エローカさんは私もアルさんも、グルドンさんも。皆、さんづけですよね?」
「は、はい」
「なら、どうして師匠だけ様と呼ぶんですか?」
「え?」
フォルンの純粋な問いかけた。今までを振り返ってみても、フォルンやアルデンス。その他はさんづけだった。オドルは最高司祭であり、エローカも教会の者として様づけをしているのだろうが。
霊太はどうだ?
「どうして、と言われましても」
エローカは思考する。
真面目に、深く、深く思考する。時計の針が動く音が流れる静かな空間で、刻々と時間が流れていく。
シスターの一人も興味があるようで、フォルンと一緒に考えているエローカを見詰めていた。
(なぜ、でしょうか? 自分では無意識に言っていたので、深く考えることはありませんでしたが……そう言われると、確かに霊太様のことだけを―――あっ、また)
「エローカさん?」
フォルンが呼びかけるも、エローカには声が届いていない様子。
まだ答えが見つからないのか、考えに考え、考えている。
(もしかして、まだわたくしは霊太様のことを神の使いだと信じている? でも、それはもう……も、もしかしてわたくしは……)
「エローカ様。顔が赤いですよ? 風邪でもひかれたのですか?」
「え? あ、いいえ。そうではないのです。えっと……申し訳ありません、フォルンさん。自分でもよくわからなくて。でも、おそらくまだ霊太様のことを神の使いだと信じているのかもしれません」
「おー、なるほど」
フォルンは、納得したようだが、エローカ自身はまだ納得していない。
いや、答えに辿り着いているのだろうが……そうだとすれば、と迷っている。
「あっ」
「どうかしましたか?」
「師匠からの念話です。…………なるほど。了解しました」
霊太から念話を受信したフォルンは、真剣な表情でエローカに告げる。
「消失した少女たちを……見つけたようです」




