第十六話~作戦会議~
「俺たちは、家族でパン屋をやっているんです」
「パン屋って……あの西通りのか?」
「よくご存知で。おっしゃる通り、俺たちのパン屋は西通りにあるパードンという店です。店での販売以外にもこうして配達もしているんですが……昨日、ノエルが配達へ行ったきり戻ってこなくなってしまったんです」
ぎゅっと両手を握り締め、ダイルは視線を落とす。
娘が行方不明になったというのに、教会への配達は忘れない。その商売人魂は感心すべきところだ。
「行き先に心当たりは?」
「全て行きました。昨日の配達先や、知り合いの家。ノエルが行きそうなところは、全て。ですが、どこにもノエルはいませんでした」
警備兵にも、旅人にもノエルのことを聞いたようだが、誰も知らないという。
「……なあ、ダイルさん」
「なんでしょうか?」
「昨日の配達先教えてくれないか?」
「……これに全部書いています」
ダイルから受け取ったのは、配達先の住所が書かれた紙。普通ならば、プライバシー的な問題でこういうものを見せるのはよくないことだ。
が、それだけ切羽詰っているということだろう。
それを確認した霊太は、とある住所に目が止まる。
「この配達先全部に聞きまわったんだよな?」
「はい。皆さん、ノエルがちゃんとパンを配達して、去って行く姿を見たと」
「……なるほど」
小さく頷き、ダイルから受け取った紙を返却する。
「どうかしたのかな? 霊太くん」
「なにかわかったんですか?」
「さあな、確証はないから絶対とは言えないが……ダイルさん。娘の件。俺たちに任せてもらえないか?」
突然の提案に驚くダイルだったが、すぐ頭を下げた。
「手伝って頂けるなら、断る理由はありません。一刻も早くノエルの安否を確認したいですから」
「じゃあ、俺たちは俺たちで調べさせてもらう。もし何か進展があったら報告にくる」
「よろしくお願いします」
「そういうことだ。二人とも、いくぞ」
「はい!」
「では、失礼する」
「聖女様も、元気でな」
とんとん拍子に話を進み、霊太たちが立ち去ろうとしたところで、エローカが呼び止める。
「お、お待ちください!」
「どうした?」
「あの、わたくしにも何かお手伝いできることはありませんか?」
エローカの提案に、霊太はどうしてそんなことを? と。
「ノエルさんとは、小さい頃から仲良くさせてもらっていました。わたくしが聖女だと知っても、普通の女の子のように遊んでくださいました。ノエルさんは、わたくしの親友です。だから」
「なるほど。……気持ちはわかった。だが、忠告しておくぞ聖女様。俺たちと行動していれば、厄介なことになるぞ? それでも俺たちに付き合う気か?」
霊太たちは、監視をされている実。そんな霊太たちに付き合えば、エローカも怪しまれてしまう。ならば、聖女として一人で行動するほうがいい。
別に霊太たちに付き合わなくても、エローカなら手伝ってくれる人たちがたくさん居るだろう。
が、エローカの気持ちは変わらなかった。
「はい。あなた方からは、他とは違う何かを感じています。そして、リュテュカには普通にやっては解決できないような何かが起こっている。そう、あの悪魔が現れてから」
「……詳しく聞かせてくれるか?」
「もちろんです」
・・・・・☆
今から一ヶ月前。
リュテュカに突如として現れた悪魔。表立って人々を襲うではなく、こそこそと人を襲うような姑息な悪魔だった。
エローカは、いち早く気づき聖なる力で浄化した。大きな被害もなく、これでリュテュカもまた平和になるだろう。人々はそう思っていた。
しかし……悪魔が現れてからというもの、リュテュカでは奇妙な事件が起き続けていた。
「行方不明、か。しかも、少女ばかりの」
「はい。必ず七日に一人ずつ。少女が謎の消失をするんです」
「それで、今回はパン屋の娘さん、ということか」
教会から離れ、霊太たちは泊まっている宿の一室へと訪れいた。監視役は、霊太の積み重なるテレポートに翻弄され、見失ったようだ。
現在はグルドンのところへ戻っていることを確認したうえで会話をしている。
「それで、師匠。教会では、ノエルさんの行方に心当たりがあるみたいでしたが」
「ああ。まず、こいつを見てくれ」
テーブルに置かれたのは、ダイルから見せてもらった配達先を書き写したものだった。
「……なるほど」
「ど、どういうことでしょう?」
「申し訳ありません。わたくしにもなにがなんだか」
アルデンスは気づいたようだが、フォルンとエローカは気づいていない。そこで、霊太は他の配達先を書き写した紙を並べる。
「これで、わからないか?」
「……あっ、どこもグルドンさんのところに配達に行っています!」
「ご名答」
最近の配達は、必ずグルドンのところへ行っている。しかも、ノエルが配達する日に限ってだ。そして、ノエルが行方不明になった配達日。
その最後の配達先は……グルドン。
「ですが、ただの偶然なのでは? 霊太様のお考えではまるでグルドンさんが」
「まるで、じゃない。俺は完全にグルドンを疑っているんだ。いいか? グルドンほどの金持ちがわざわざ家族ぐるみで営業しているパン屋にパンを配達させるか? 他にも有名なパン屋があるし、専属の職人を雇うなりしたほうが、よほどいいと俺は思ってる」
ダイルたちには悪いが、霊太ははっきりと言う。リュテュカには、ダイルが営業しているパン屋よりも大きく有名なところがあることを確認している。
パンの種類も多く、従業員の数も比べ物にならない。
普通ならば、そこへ頼むか。専属の職人などに作ってもらえば、焼きたてのパンを食べられる。グルドンならばそれぐらいはできるだろう。
「しかも、だ。こいつを見てくれ」
再び霊太は、テーブルに色々と書かれた紙を投げ捨てる。
「これは?」
「他のパン屋のここ最近の配達日だ」
「いったいいつの間に」
「ノエルのことを話したら、快く話してくれたぞ。どうやらノエルはパン屋の間ではアイドル的存在みたいだな」
テレポートで時間をかけず、リュテュカにあるパン屋全てに聞きに行ったのだ。最初は、どうしてそんなことを聞くんだと疑われたが、ノエルのことを話すと快く教えてくれた。
ノエルは、パンの勉強のためによく他のパン屋に来ているようだ。人当たりもよく、会話がしやすいため老若男女関係なく、人気がある少女だった。
「アイドル? なんですか、それ」
「人気者ってことだ。でだ、これを見てわかると思うが。他のパン屋もグルドンから配達を頼まれることがあるみたいだが……」
「どう見ても、ダイルさんのところが多いね」
「他のパン屋さんは、七日に一度くらいなのに、ダイルさんのところは七日に二回から三回ですね」
そもそも、本来はダイルのところ以外は配達はやっていない。この街の長ということで特別に配達をしている。
だから、回数が少ないのはおかしくはない。正式に配達をしているダイルのところだからこそ、他よりも多いのだろう。誰もがそう思って疑わなかった。だが、霊太はグルドンの本性を知ってしまったためグルドンが犯人だと疑っている。
「……」
「やっぱり、信じられないか?」
リュテュカの聖女として、リュテュカを護りまとめ役として頑張っているグルドンを疑いたくない。エローカはそんな顔をしている。
「はい。グルドンさんとは何度もお話する機会がありましたが。とても優しく、住民のために寝る間も惜しんで働いている。それに、ご自分の誕生日を個人で楽しむのではなく、住民の皆さんと楽しむ。それを毎年のように行うようなお方です」
「そういえば、明日がその誕生日だったね」
「はい。今年も、皆さんに招待状を出して着々とパーティーの準備を行っていることでしょう」
そうやって、住民の信用を勝ち取ってきた。
何があっても自分が怪しまれないように。
現に聖女エローカにも疑いがあっても信じ続けたいと思わせる信用を与えている。が、裏の世界に足を踏み込んだ者には、普通のこと。
表では、いい人を演じ、裏では非人道的なことをしている。そして、ばれそうになって表世界で培ってきた信用や金、権力の力でどうにかする。霊太は、地球でそんな奴らを何人も見てきた。
エローカのように表の顔しか知らない者が、真実を知った時、絶望に満ちた表情になったところも、何度も見てきた。
「それは好都合だ。そのパーティーを利用して、グルドンの悪行を暴いてやる」
「具体的には、どうするんですか? 師匠」
「そうだな……」
腕組みをしながら、フォルンとエローカを見詰め、にやりと不敵な笑みを浮かべた。




