第十五話~教会内の出会い~
「では、私はこれから用事がありますので、失礼致します。エローカ。皆さんの案内頼みましたよ?」
「はい、お任せください。オドル様」
オドルはエローカに言葉を告げ、霊太たちに一礼し、その場から去って行く。
すると、シスターたちが一斉に霊太たちへと近づいてくるではないか。
「あなた様が、エローカ様を助けたお方なのですね!」
「まあ、そうだけど」
「エローカ様の話では、異界人だと聞いております! それは本当なのですか?」
「ああ、事実だ」
「ではでは、超能力という不思議な力を使うと言うのも?」
「事実だ。ほら」
シスターたちの質問攻めに難なく答えながら、霊太は超能力を見せる。フォルンを手を動かさず、その場で浮かせたのだ。
そんな光景にシスターたちは、純粋に感動の声を漏らす。
「本当に、魔力反応がない……」
「これは、本当に神技ではないのですか?」
「違うって。エローカにも言ったが、俺は神自身でも、神の使いでもない。ただの人間だ」
平常心で喋っているが、霊太は異様な光景だと思っている。
当たり前だ。
全員が仮面を被っているのだから。いくら可愛い声で仕草で詰め寄られても、肉眼に映るのは、仮面を被った奇妙な集団だ。
「では、あなた様は本当に【ソウルナイト】なのですか?」
今度は、矛先をアルデンスへと向けられた。一番前に居たシスターの問いにアルデンスはうむっと短く首を縦に振り、ヘルムのバイザーを上げて見せた。
「この通り、私の中は空っぽだ。興味があるのなら見せてあげよう」
「わー! 本当に何もない!」
「あれ? でも、魂が見えないですね」
「声がすごく響きますね!」
「こらこら。中を見ていいとは言ったが、中に入って良いとは言っていないぞ」
シスターたちの会話を聞く限り、街で見た印象とは大違いだ。初めてシスターを見た時は、物静かで、仮面を被っているため怪しい連中というものだ。
しかし、どうだ?
このきゃぴきゃぴした少女らしい元気の良さと好奇心は。
「あなたは、もしや【千狐族】ですか?」
「え? あ、はい。そう、ですけど」
「おー! 本物を見るのは初めてです! あの、耳とか尻尾を触ってもいいでしょうか!?」
「い、いいですけ―――どぉっ!?」
最後まで言い切る前に、シスターたちはフォルンの耳や尻尾をいやらしい手つきで触ってしまっていた。
「きゃー! とってもふわふわしますー!」
「この毛並み……なかなか味わえないものですね!」
「ひゃー!? 師匠ー! 助けてくださいー!」
「あいよ」
揉みくちゃにされているフォルンを助けるべく、霊太はシスターたちを無理矢理引き剥がす。
「お、おぉ! 浮いています!」
「私、こんな風に浮遊したの初めてです!」
「あの! そのまま動かせたりしましすか!?」
怖がるということせず、ただただ純粋に自分たちは浮いている! という嬉しさが湧き上がっているようだ。
なにやら、フォルンがいっぱい居るような感覚だ。
仕方ないので、霊太はシスターたちを右へ左へ、まるで自分たちの力で飛んでいるかのように動かしてやり、下ろした。
「も、申し訳ありません皆さん。シスターたちがご迷惑を」
「気にすることはない。元気が良いことは、若さゆえ。元気がないより、よほど良いと私は思うが……霊太くんはどうかな?」
「元気のいいのは、フォルンで慣れたから別に気にしてない。それよりも、そろそろ教会を案内してくれないか?」
「はい。承知しました。皆さん! そろそろ自分たちの仕事に戻ってください!」
エローカが指示すると、はーいと返事をして去って行くシスターたち。
まるで嵐が去ったかのような静けさの中、背後のステンドグラスへ視線を向ける。
「では、最初にここが礼拝堂になります」
「礼拝堂ってことは、祈りを捧げる場所か?」
「はい。わたくしたちは、毎日ここで必ず三度祈りを捧げます」
「祈り、ねぇ」
個人的には神を信じていない霊太は、毎日のように三度も祈りを捧げている者たちの気持ちがわからない。しかも、決められた時間帯に。
それが本当に届いているのであれば、良いのだろうが。
「霊太様? どうかなされましたか?」
「……なんでもない。んじゃ、次だ次。礼拝堂はこれぐらいでいいだろ」
「わかり、ました。それでは、こちらへどうぞ」
もう少し説明をしたそうにしているエローカだったが、今は礼をしている身。自分のわがままで相手を困らせては礼にならないと判断したのだろう。
次に案内されたのは、シスターたちが入っていったドアの向こう。
礼拝堂に入った時と同じく、長い廊下が続いているが、いくつものドアと窓がついている。近づくと、シスターたちの声が耳に届く。
「あれは……戦闘訓練か?」
窓に差し掛かったところで、景色は見えた。どうやら礼拝堂の裏には広々とした庭のようなものがあるらしく、そこで先ほどのシスターたちが戦闘訓練を行っていた。
「はい。リュテュカの聖職者は古来より魔なる者たちと戦ってきました。そのため、戦闘訓練は日課となっているのです」
「なるほど。では、教会に押しかけたゴロツキの話は事実だったんだね」
「てことは、聖女様も戦えるのか?」
「はい。そ、それなりにですが」
ふーんっと霊太は、意味深な視線をエローカへと送る。
(な、なんでしょう、この視線……ハッ!? まさか、わたくしがあの時わざと襲われようとしたいたんじゃないかと疑っている!?)
正解である。
それなりに戦えるのであれば、あの程度のゴロツキなど簡単に倒せるはずだ。それとも、無闇に人を傷つけてはならないと言うことなのだろうか?
(ど、どうしましょう……このままでは、わたくしの性癖が……)
すでにバレバレであるが、知らないふりをしておこう。
「あの」
「よし、じゃあ次にいこうぜ。ここから見ても、この教会随分と広そうだからな」
「ですね! 個人的に反対側が気になっています!」
「……」
「どうかしたのかな? 聖女様」
「あ、いえ。なにも……それでは、案内を続けますね」
「ああ、頼むぞ」
何事もなかったかのように先頭を立って案内を続けるエローカだったが、内心ではかなり動揺している。
(ば、ばれていない? それともわかったうえで?)
もちろんわかったうえで、知らんぷりをしている。
その間も、教会を平常心で案内している中で、エローカは自分の性癖がばれているのかどうかと随分と心配していた。
そして、そろそろ案内が終わろうとしていた時、とある男性と出会う。
「あっ、エローカ様!」
「ダイルさん。お元気ですか?」
多くのパンが入った箱を持った筋肉質の男性ダイル。
エローカは知り合いのように慣れたように挨拶を交わす。
「いつも元気ですよ。今日も、持って来ましたよ。皆さんで食べてください」
「いつもありがとうございます。あっ、皆さん。紹介します。彼は、時々この教会にパンを送ってくださるダイルさんです」
「どうも。ダイルと言います。あなた方は……あぁ、なるほど。噂の」
おそらくアルデンスを見て理解したのだろう。軽く自己紹介を終えたところで、エローカがあることに気がつきダイルに問いかける。
「あの、ところでノエルさんは?」
「ノエルさん?」
「ダイルさんの娘さんなんです。いつもダイルさんと一緒に来ているのですが」
そこで、先ほどまで元気に振舞っていたダイルの表情が暗くなった。どうやら、何かがあったようだ。
「ノエルは……その、昨日から姿が見えないんです」
「え? どういうことですか? 詳しくお聞かせください」
そして、そんな話を聞いたエローカの雰囲気も一変。
ダイルに詳しい事情を聞くべく、近くにあった食堂へと向かう。
霊太たちも、何か手伝えるんじゃないかと会話に参加した。




