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第十三話~聖女の思考~

「なあ、おい。どうなんだ? 聖女様?」


 まるで、生地をこねるかのように片手では収まりきれない豊満な胸を揉む。

 時々、力強く。

 エローカが反応すれば、わざとらしく弱く。顔を近づけているため、エローカの息遣いが直に感じる。


「そ、それは……ひゃうっ……! そ、そんな乱暴に……! や、やめ……あんっ」


 頬を赤らめ、内股で悶える。

 そんな光景を見ていたフォルンは、信じられない光景を見ているかのように震えている。


「あわわわ!?」

「おやおや。なかなか攻めますね、霊太くん。まさか聖女様の胸を鷲掴みにするなんて」

「な、何を冷静に言っているんですか!? 師匠ー! だめですよー!!」

「おっと」


 もう少しで一分が経とうとしていたところで、フォルンが杖を振り下ろし霊太を引き剥がす。

 そして、高速で詰め寄る。

 エローカは、腰が抜けたかのようにその場にへたり込んでしまった。


「聖女様に何をしているんですか!?」

「いや、あの分からず屋が俺の言うことを信じようとしないからさ。俺だって、本当はやりたくなかったんだぞ? こういうこと」


 などと言いつつ、エローカの胸を揉んでいた左手をわきわきと動かす。


「やっぱり大きいのが良いんですか!? 大人な女性が好みなんですかー!?」

「なに言ってんだお前?」

「私だって、後数年すれば大きくなるんですからねー!!」

「フォルンちゃん。あまり興奮し過ぎだよ。少し落ち着いて」


 興奮するフォルンをアルデンスに任せ、霊太はへたり込むエローカに再び近づいていく。


(こ、こんな仕打ち……何人も触れたことがなかったわたくしの体を……あんな……あ、んな……)


 さすがのエローカも、実際にやられては堪えた。

 いや、これは。


(体全体にびりびりとくるあの感覚。まさに……まさに! わたくしは求めていたもの!!)

「おい、大丈夫か?」


 このままではトリップしそうだったので、霊太が声をかける。

 ハッと我に帰ったエローカは、はい……と短く返事をして霊太の手を握り締める。そして、立ち上がったところで気づく。

 

「あっ」


 リュテュカ教会の聖職者は、皆他の者と手を交わしてはならない。その手は、神々へと祈りを捧げるためのものだ。

 そんなわけのわからない決まりがある。無論、聖女であるエローカもそうだ。


「そういえば、お前たちって握手だめだったっけ?」

「は、はい。ど、どうしましょう……この短い間に、わたくしは複数の罪を」


 エローカは罪と言うが、霊太にとっては普通の行為だと思っている。

 本当に聖職者とはめんどくさいものだ。

 霊太はため息を漏らしながら、手を離す。


「気にするな。俺たちが何も言わなければわからないって。なあ?」

「そうだね。安心したまえ、聖女様。私は、この鎧のように口が堅い。聖女様が犯したと言う罪を公言しないと誓おう」

「私もです! それに、聖女様は何も悪くないです! 師匠が悪いんです!!」

「まあまあ。落ち着けよ、弟子。グミ食べるか?」

「食べます!!」


 ぷりぷりと怒る弟子を、霊太はグミを食べさせることで鎮圧させた。自分でやっておいて心配になるほどのちょろさだった。

 おいしそうにグミの感触を楽しんでいるフォルンの頭を撫でつつ、エローカに別れの言葉を告げる。


「じゃあ、そういうことだから。今後は気をつけろよ、聖女様」

「お、お待ちください!!」


 待ちたくない。ここから離れたい。

 わかっている。

 この後、エローカが言う提案を。


「……なんだ?」


 しかし、止まってしまう。止まらなかった止まらなかったで、後々厄介なことになりそうだと思ったからだ。


「助けてくださったお礼をまだしておりません。どうか……どうか、わたくしにお礼をする機会をお許しくださらないでしょうか!」

「お礼、ね。具体的にはどんな礼をするんだ? 俺たちは、色々とやることがあるから手短に済むようにしてくれ」

(具体的なお礼……手短に済むもの……引き止めたいいもののどうしたら)


 どうやら考えていなかったようだ。

 考えるよりも先に言葉が勝手に出てしまった、そんなところだろう。


(……わたくしの体とか?)

(それはやめたほうがいい)

(え? い、今の声は!?)


 ついエローカに思念を飛ばしてしまった。若干声音があれだったので、霊太だということに気づいていない。霊太は、こほんっと咳払いをし、迷うエローカに提案する。


「だったら、教会を案内してくれないか? 俺たち、この街に来てまだ教会内を見てないんだ。二人もそれでいいよな?」

「そうだね。聖女様の案内ならば、教会内も安全に入ることができるだろう」


 教会へは、朝昼晩と決められた時間帯に一般人は入ることを許されている。基本教会を自由に出入りできるのはリュテュカの聖職者のみ。

 そのため一般人が時間外に教会へと入るのは不可能なのだ。


「そのようなことで、よろしいのですか?」

「おいおい。聖女様。教会ってのは、決められた時間にしか一般人は入れないんだろ? 確か、もう朝の祈りの時間は終わってるはずだから……」

「時間外ってことですね!」

「その通りだ。時間外に自由に入れるのはリュテュカの聖職者のみ。そんな教会を案内してもらえるんだ。そんなこと、じゃないだろ?」


 エローカにとっては、もっと過激な提案をしてくるとでも思っていたのだろう。聖女だが、脳内はピンクな変態女なので、簡単に予想できる。


(で、ですよね。普通は、そうですよね……)


 ご覧の通り、暴走していた妄想癖が薄れていっている。


「……わかりました。では、これよりお三方を聖女エローカ・アルティミシエの名の下に。リュテュカ教会をご案内致します」

「ああ、頼んだ」

「わー! 楽しみです! 結局昨日も今朝も教会に入ることができませんでしたから!」


 今朝の祈りの時間で入ろうとしたのだが、フォルンが起きた頃には時間が過ぎていたのだ。朝は五時半、昼は十二時半、夕方は六時半となっている。

 その内、一般人が入ることが許されているのは十五分だけ。そのため住民は時間前に教会前に集合するのが普通なのだという。


「じゃあ、さっそくいくか。フォルン、アルデンス。俺の手を握れ」

「はい!」

「ん? 何をするつもりなのかな?」


 フォルンは慣れたようにすぐ右手を握り締め、アルデンスは首を傾げながら同じく右手を握る。


「えーっと、聖女様は……まあ、見えなければいいか」

「え? あっ」


 空いている左手でエローカの手をぎゅっと握り締めた。


「そんじゃ、近くの裏路地にいくぞ」

「それはどういう―――え?」


 エローカが首を傾げた刹那。

 景色は一変する。

 先ほどまで、教会から遠く離れた裏路地だったのが、振り向けば教会が見える裏路地へと移動した。


「ほう。これも超能力なのかな?」

「まあな。こっちでいう転移魔法みたいなものだ」

「す、すごい……」

「じゃあ、案内頼むぞ」


 移動したところで、さっそく教会へ向かおうとするが、エローカがそれを止める。


「お、お待ちください。霊太様!」

「どうした? まさか、ここまで来てやっぱりだめだって言わないよな?」

「いえ、そのようなことは言いません。わたくしは、一度約束したことは必ず守ると主に誓っております。教会の案内は必ず果たします。ですが、その前にわたくしには成さねばならないことがあります」


 そこで、霊太は思い出す。

 そういえば、約束があるとエローカが言っていたことを。


「そういえば、約束があるんでしたよね? あの、失礼でなければどのような約束を?」

「病に犯された子供の治療です。わたくしは、リュテュカを自らの足で回り、住民の方々とお話をするのが日課なのですが。よく悩みを聞き、相談にのっているんです。そのおり、一人の女性が自分の子供が病に犯されたと」

「だったら、薬とかで治せば良いんじゃないか? それか医者に診せるとか」


 しかし、霊太は考えた。

 そんな単純なことを普通は考えないはずがない。となると、エローカに頼らなければならないほど切羽詰っている。

 金がない、それか病が重い、か。霊太の考える素振りを見て、エローカは話を続ける。


「その女性は、女で一人で四人の子供を育てています。四人の食費や生活費で働いたお金はほとんど残っていないと……」

「だから、医療費に回す金がないってことか。なるほどな。よし、じゃあいくか。場所はどこだ?」

「え? 西通りのパン屋近く、ですが」


 なるほどと頷き、霊太は再びエローカの手を繋ぐ。


「そんじゃ、二人はここで待っててくれ。用事が済んだらすぐ戻ってくる」

「わかりました。お気をつけて、師匠! 聖女様も!」

「では、霊太くん。聖女様の護衛しっかりね」

「おう。いくぞ、聖女様」

「ひゃう!?」


 時間は有限。エローカが何かを言おうとしていたが、そんなものは関係ないと西通りのパン屋近く。もっとも目が届かない場所へテレポートした。


「ほら、着いたぞ。ここからなら、一人でも行けるだろ?」

「……はい。では、後ほど」

「一応、ここで監視してる。終わったら戻ってきてくれ」

「承知致しました」


 ぺこりと頭を下げ、エローカは歩き出す。

 小道からエローカが出てきたことに、人々は驚くが皆頭を下げる。そして、エローカは何事もなかったかのように、手を振りつつ目的地である自宅へと入っていった。


「さて、この間に少しでも調べておくか。あの小太り長のことを」


 と、霊太は近くの住民たちにグルドンのことを聞きまわった。

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