第十一話~聖女との出会い~
「……朝か」
なにやら突き刺さる視線と、体の温もりを感じて霊太は目を開ける。リュテュカで一番安い宿の二人部屋。とりあえずは、初日は何事もなかった。
グルドンの言うように監視の視線を感じ、心の声が聞こえた。
「やあ、いい朝だね。霊太くん」
身を起こすとすぐ部屋の端に置物のように立っているアルデンスが、朝の紅茶タイムとしゃれ込んでいた。
「ああ、おはよう。置物さん」
「いやはや、君達が眠っている間は、平和そのものだったよ。まあ、監視役の人達の視線はずっと感じていたけどね」
「だな。けど、姿が見えない。うまく隠れてるよ」
さすがは監視役と言ったところか。そう感心しつつ、霊太は自分にくっ付いている生き物を確認する。
毛布を剥ぎ取ると、今でも気持ち良さそうに眠っているフォルンの寝顔が見えた。
「深夜に部屋を一度出てから、自分のベッドに戻らず君のベッドに入っていったんだよ。どうやら寝惚けていたようだね」
「なにかくっ付いてきた感覚はあったけど。こいつ、よくもまあ、寝苦しくないな」
このままでは動けないので、霊太はフォルンをそっと剥がしベッドから離れる。その場で背伸びをして、窓から外の様子を窺った。
「こうして見ると、変わった様子はないいい街だな」
「だね。とはいえ、きな臭い。君はそう思っているのだろ?」
と、紅茶を片手にアルデンスが横に並ぶ。
「まあな。あんたも感じただろ? あのグルドンとかいうおっさんから」
「そうだね。表向きは歓迎が大好きな優しい長。しかし、その実体は……と言ったところか」
昨日はこの街の観光を兼ねてマップを頭に叩き込んだ。
そして、今日から本格的な探索だ。
「ところで、霊太くん。君は、元の世界では正義の味方でもしていたのかな?」
「どうしてそう思うんだ?」
「いや、いきなりすまない。昨日の君は、明らかに何かを成し遂げるための前準備をしているように見えてね」
気づかれないようにしていたが、なかなか鋭い鎧さんだと霊太は笑みを浮かべ空を見上げる。
「そうだな……正義の味方、みたいなことはしてたよ。けど、俺のいた世界。地球では、この力はもう恐怖の根源でしかなかった。善意で人助けをしても、な」
「……なるほど」
「だから、こっちに来れたのは本当に嬉しかった。あっちの世界は、俺からしたら窮屈なところだったからな」
とはいえ、心残りがないわけじゃない。
両親に、祖父母の墓参り。
これは毎年やっている。そのためこっちの世界に来てしまったら、もうできないだろう。
(自由に行き来できればいいんだけどな……ま、無理か)
「ん……んー……」
「どうやらお目覚めみたいだな」
「おやおや。隣に誰も居ないから不安がっているみたいだね」
なにやら探す身振りを見せた後、フォルンはゆっくりと目を開けて起き上がる。
大きな欠伸だ。
パジャマも着崩れしている。とてもだらしない格好のまま、周囲を見渡し霊太たちを捉えた。
「あれー? 師匠? アルデンスさん? どうしたんですかー?」
「どうした、じゃない。朝だから起きただけだよ」
「まさに。それと、何か違和感がないかな? フォルンちゃん」
「違和感?」
アルデンスに言われ、まだ眠気眼のまま再度周囲を見渡す。しかし、いったい何のことだか理解できていない様子。
それに対して、霊太はベッドを指差す。
「……あれ? なんで、私こっちのベッドに?」
「お前が寝惚けて俺のベッドに入り込んできたんだよ。ま、夜は冷えたから大助かりだったけどな」
「……」
やっと違和感という言葉を理解したフォルンは、眠気も一気に覚め、体温が上昇していく。
「あわわわ!? もももももしかして、師匠と!?」
「ああ」
「一緒に眠っていたね。私が承認だ」
「す、すみませんでしたー!!」
「別に謝らなくて良いって。寂しかったら、いつでも入ってきてもいいんだぞ?」
にやにやとフォルンをからかうように怪しい笑みを浮かべながら言う霊太と、はっはっはっは! と笑うアルデンス。
「本当ですか!? じゃなくて! か、からかわないでください!!!」
「別にからかってるつもりはないんだけどなー」
「その顔と言い方は明らかにからかってますー! もー!!」
こんなにも騒がしい朝は久しぶりだと、霊太は、怒るフォルンの頭に手を置いた。
・・・・・☆
リュテュカはかつて神が降臨した場所だと言われている。
そのため、教会はより大きく、より美しく、毎日三度は祈りを捧げないといけない決まりになっているようだ。
そして、教会のシスター達は皆、人前で肌を晒すことを許されない。
ただ位の高いシスターならば、顔だけを晒すことを許されている。むろん、聖女も。そのため、一瞬仮面を被った怪しい奴だと思った霊太だったが、それはそういうことなのだと後から理解した。
「めんどくさいな、この街のシスターってのは」
「どうしたんですか? 師匠」
「いや。神を信仰するあまり他人には肌を晒さず、教会に祭っている神にだけ顔を晒す。信仰心が強いのは良いが、のめりこみ過ぎなんじゃないかってな」
地球でも、女性は肌を晒すことを許されないような国があった。しかし、ここはそれ以上。顔まで晒さないなど、何も知らない者から見ればただの怪しい奴だ。
「そんなこと言っちゃだめですよ。神様は偉大なんですから」
「偉大ねぇ……」
どうにも霊太は、神という存在が好きになれない。
祖父からの最後の言葉。
自分の力は神が授けた護る力だと言っていたが、別にこんな力いらなかった。神が授けた力ならば、なぜ自分はあれだけ不幸になったのか。
神とは、人を導き幸せを与えるような存在ではないのか。
(ま、邪神とかいう悪い神も居るぐらいだし。俺の力は、邪神が授けた力だったりしてな)
神と言っても、全ての神が善というわけではないだろう。善があれば悪がある。そうやって世界はバランスを保っている。
この世界だって、そうなのだと霊太は思っている。
「ん?」
三人で街を歩き回っていたところ、妙な気配を感じて足が止まる。
霊太は迷わず裏路地へと駆けていった。
「師匠!?」
「なにかあったようだね。我々も行こう」
妙な気配がする方向へと進むと、そこには四人の人間が居た。その内の三人は男で、一人は女。三人の男は見るからに人相の悪い悪漢。
そして、唯一の女に詰め寄っている。
「へいへい! こんなところにすげー美女が居るぜ!」
「ひゃっはー! いいねいいねー! 金髪美人! 胸も! 腰も! 尻も! マジエロい!!」
「てか、この格好……まさか、聖女様じゃね?」
そこに居たのは、昨日から見ていたシスター姿。が、普通のシスター服よりも装飾により煌びやかで、チャイナ服のようにスリットのあるものだ。
スリットから出ている足は黒い布で見えなくなっている。男たちの言うように、服の上からでもわかるぐらいエロい体をしている。
「ほう。彼女が噂の聖女様」
「わー、本当に綺麗な人ですね……」
追いついた二人もその聖女を見て声を漏らす。
「申し訳ありません。そこを通してもらえないでしょうか? これから約束が」
「へっへっへ! 約束なんて放っておいてよ、俺たちと遊ばないか? 聖女様よぉ!!」
下品な笑い声を上げ、舌なめずりをする先頭の男。
「遊ぶ? すみません。今は、お時間がありませんので」
「じゃあさ! 時間があればいいってことか?」
「ひょー! だったら、今遊ぼうぜ! 今!! 楽しい時間を過ごさせてやるからよ!!」
どうやら聖女エローカは、遊ぶの意味を間違っているようだ。男たちもそれがわかっていながら、チャンスだと思い畳み掛けている。
「た、助けないと!!」
「だね。このままでは聖女様が危ない」
確かに、二人の言う通りだ。
普通なら、ここで助けるべきだ。しかし、霊太は助けなくてもいいような表情になっている。
その理由は。
(あぁ……主よ。お許しください……わたくしは……わたくしは……)
聞こえる。エローカの心の声が。
その内容とは。
(神にその身を捧げた聖女だというのに、この状況に……興奮しております!!!)
そう。つまり、表では世間知らずな聖女のように見えるが、完全に男たちの言葉を理解しており、尚且つこの状況に……興奮するほど、変態だったので助ける気が薄れてしまったのだ。




