第十話~企み~
「ようこそ! 私がグルドンです。はじめましてお三方。ささ! そんなところでいつまでも立っていないで、どうかお座りください!!」
なにやら歓迎ムードだが、こっちは怪しいから呼ばれたため歓迎されても素直に受け入れられない。
ひとまずは、ソファーに座る。
霊太とフォルンが隣同士。向かい側にはアルデンスが一人どっかりと。
すると、すぐにセルヴァが二つのポットとカップを持ってくる。
「こちらをどうぞ」
「おお、これが紅茶だね」
「はい。あなたが噂の紅茶を欲しがる鎧さんだということは、知っておりますので。どうぞ、お二人も」
テーブルの置かれたのは、湯気が立ち上る紅茶が入ったカップ。
「いい香りだな。やはり缶とは違うな」
「わー、紅茶って初めて飲みましたけど。いい味ですね」
「ああ。やはり温かい紅茶が一番だね」
とはいえ、こういう場で出されるものにはあまり良い思い出がない。
霊太が脅威になると世界中が思い始めた頃、何度か毒殺されそうになったことがあった。ちなみに今回は、セルヴァの心を読んで毒が入っていないことはわかっているため遠慮なく飲めている。
「ありがとうございます。よろしければ、こちらのケーキもどうでしょうか?」
白いクリームがたっぷり塗られたケーキが目の前に出てくる。
が、霊太はカップを置き無理矢理切り出す。
「歓迎してくれるのは嬉しいが、俺達は遊びに来たんじゃない」
「おっと、これは失礼を。誰かを歓迎しないと、私の気がすまないので。では、本題に入りましょうか」
一度、椅子に座りグルドンがアルデンスを見詰める。
相変わらずヘルムの中に紅茶を流し込むという変な光景だ。
「そちらのアルデンスさん、でしたか? 情報では【ソウルナイト】と聞いておりましたが……なるほど。これは奇妙な光景ですね」
「すまない、グルドンさん。だが、こうでもしないと食べたり飲んだりできないのでね」
あっという間に紅茶を飲み干してしまったアルデンス。
セルヴァにおかわりを頼みつつ、グルドンと向き合う。
「いえいえ。それで、検問所でもお聞きしたと思いますが」
「ああ。私は誓って、この街に危害を加えるつもりはない」
「……ふむ」
アルデンスは嘘をついているわけではない。しかし、アルデンスという存在自体が怪しいためかなり疑い深い目で観察している。
(さて)
いったい何を思っているのかグルドンの心を読む霊太。
(どう見ても怪しい。【ソウルナイト】はモンスターに近い存在。その宿った魂によっては、脅威となる……外に兵士達を配置しているが。どうにも霊太とかいう青年もやばい感じがする)
表情通りかなりの警戒心だ。
街の長として、注意深く考えている。ここまでならば、本当に街のことを考えているいい長だと思うだろう。しかし……。
(だが、隣の少女はなかなかの上玉だ。まだ若いがそこがいい……)
(こいつ……)
霊太の隣で、おいしそうにケーキを食べているフォルンを変な目で見ている。
「なるほど。そういうことでしたら、私としても助かります。なにせ、一度この街では悪魔が出没しまして。かなり警戒心が高くなっているんですよ」
「悪魔ってのは、聖女によって倒されたんだったな?」
とりあえずは怪しまれないように話に参加する。
だが、どうにもきな臭い男だ。
創作物特有の小太りな金持ちは何かを企んでいることが多いというのは、現実でもありうるのか。
「はい。リュテュカが誇る聖女エローカ様が」
「エローカ、ね」
地球には愛を司る神エロースという存在が居るが、似たような名前に、聖女……なかなかの偶然だと思いつつ話を続けた。
「もう倒されたんだろ? それにその聖女様が居れば心配はいらないはずだが」
警戒に越したことはない、ということは理解したうえで問いかけると。
「ええ。ですが、悪魔はどこからともなく表れ、人々を操る悪しき存在。それに倒されたのは一体。もしかすると、二体、三体とどこかに潜んでいるかもしれないとエローカ様がおっしゃられておりました」
「なるほど。さすがは聖女様です!」
「おい、クリームついてるぞ」
「え!?」
ケーキを食べ終わったフォルンが会話に参加するが、だらしなく口元にクリームをつけていた。慌てるフォルンだが、霊太が指で取ってやる。
「取れたぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「話を続けるが、まさかアルデンスがその悪魔かもしれないって疑っているのか?」
「……まことに失礼ながら、その通りです」
納得がいく理由だ。それを聞いたアルデンスは、なるほどと頷きながら再び紅茶を嗜む。
「そういうことであるなら仕方ない。普通の人から見れば、私は悪魔のような存在なのだろうから」
「そ、そんな! アルデンスさんは悪魔なんかじゃ!」
「はっはっはっは! 優しいね、フォルンちゃんは。しかし、一度悪魔が出てしまってはそう思う彼らの気持ちは理解できる。……グルドンさん。今後、このリュテュカに滞在する際に私には監視役のようなものがつくのかな?」
「悪魔ではないとわかれば監視は解かれます。なので、どうかそれまでは」
深々と頭を下げるグルドンに、アルデンスはわかったと頷きながらカップを置く。
「霊太くん、フォルンちゃん。そういうことなので」
「ここからは別行動ってことか?」
「ああ。君達とはもう少し一緒に居たかったが、このままでは二人に迷惑をかけてしまう」
アルデンスの言うことは理解できる。
監視役がついている中で、一緒に居れば二人も怪しまれて続ける。それに、元々二人とは街までの付き合いだった。
そういうことだろう。
「別に別れる必要はないだろ?」
「しかし」
「俺はあんたを気に入った。もっとあんたのことを知りたい。個人的に、あんたと別れるのはもったいない。だから……」
「……本当にいいのかな?」
「良いって言ってるだろ? フォルンもいいよな?」
「はい! アルデンスさんともっとお話がしてみたいです!」
そうか……と鎧のため表情ではわからないが、嬉しそうに天井を見上げる。
「では、そうさせてもらおう。嬉しい提案だ」
「決まりだな。てことで、話はこれで終わりだ」
すっと立ち上がり、部屋から出て行こうとする。
(ふっ、嬉しい提案か。それはこっちの台詞だ。怪しい二人が一緒ならば、監視する人員を割かなくて済む。さてさて、あの娘をどうやって……くっくっくっ)
(この親父は……)
グルドン邸から出た霊太は、最後に聞いた怪しい言葉がどうにも気になった。
やはり、あの男には何かがあると。
そして、確実にフォルンは狙われている。
「……」
「どうしたんですか? 師匠」
じっと見詰めているのに気づいたフォルンは可愛らしく首を傾げる。出会った時から、可愛らしいとは思っていた。
見た目も、言動も、動きも。
この街にも亜人は居るが、フォルンから他とは違う気品さというものを感じる。グルドンが上玉と言ったのは普通に納得がいく。
「可愛い奴だなってな」
「えええ!? どどどどどうしたんですか!? いきなり……しょんな……あうぅ!」
急に真顔で褒められ、嬉しい感情と恥ずかしい感情が一気に押し寄せたかのような表情で俯く。
「そういうところが、ではないかな? フォルンちゃん」
アルデンスも楽しそうに会話に参加してきた。
「だよな?」
「うんうん。歳相応な初心な反応だ」
「ふ、二人とも! あまりからかわないでくださいぃ!! もうー!!」
起こりながら杖をぶんぶん振るも、尻尾も一緒に激しく動いている。
やはり、嬉しいのだろう。
(兵士達の数は減ったようだが……監視のために、腕利きの兵士達に切り替わったと見ていいだろうな)
「では、さっそくだが宿を取ろうか? しばらくはここに居るのだろう?」
「そうだな。二日、三日ぐらいは居ようかと思っていたけど、もうちょっと引き伸ばそうかな」
「どうしてですか?」
「色々と気になることができたんだよ。えっと……宿はあっちだったよな」
地球でも人助けをしていたからか、ああいう怪しい男を見たり、何かが起こったと聞くと調べたくなってしまう。
体に染み付いたものはなかなか消えない。異世界に来ようとも。
何よりも、フォルンの危機かもしれないのだ。これは動かずにはいられない。




