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慈愛の公認会計士 神野里美 2

4話目です。


もう少し書こうと思いましたが本編で同じやり取りが大変めんどうなので切りました。


前話程では無いですが、重めです。

人生で初めてかも知れません、失敗の許されない仕事。

そしてそれを完璧に遂行してみせると誓う事も。。



最初にした事は、お師匠様とあの子の養子縁組です。

まず、委任状と全ての書類や実印を持って弁護士事務所と行政書士の元へ向かいます。その後御二人を伴い市役所住民課の前へ。個室を使いたい事を伝え責任者を連れ立ち三人揃って名刺を差し出しました。そして書類とボイスレコーダーを……


「この名前の彼の事は知っていますね?」

当然だと思う事でも確認の為に聞きました


「はい。」


そして姿勢を正し、やや高圧的だと思える声で続けます

「今回の事は彼の未来にも掛かっています、もしも!この養子縁組の事が、此処から外部に漏れた場合、こちらには貴方や市役所を訴える用意があります。その事はご了承戴きます。」


「………。」


これは確定事項なので相手には断る事もできませんでした。


「沈黙は肯定と受け取らせて貰います、それでは、こちらの書類の不備等を確認の上、速やかに手続きをお願い致します。」


ある訳が有りません、私の尊敬するお師匠様が作成し、書類のプロフェッショナルである行政書士に確認して頂いた物なんですから。


部屋に入ってから僅かに20分程で手続きが完了しました。

責任者の名刺とボイスレコーダー、秘密厳守の念書を回収し速やかに市役所を後にしました。。


そして、お師匠様の葬儀を、あの子と私の二人だけで行い見送りました。。


次は裁判です、の筈だったのですが。

あの子の話題が余りにも大き過ぎた為に、父親の手術をマスコミに調べられない様に、いくつか出てしまった内部告発を押さえ込むために、病院側からの和解を申し立てられました。


訴訟を下げる事と、今後外部への公言をしない事を引き換えに。

公には出来ませんが、この手の和解金としては破格の金額を提示してきました。


事故を起こした葬儀社の方も、当時の運転手の余りな素行の悪さの為に、何一つ酌量される事無く、こちらも莫大な慰謝料を払う事になり介護や葬儀社のバブルのこの時代にも耐えることが出来ずに破産管財人により処理されたそうです。


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全てが終わり、あの子の手元にはとんでもない大金だけが残り、今までの人生の殆どを無くしました。。結局、大学進学は諦めてしまいました、高校の方は残り期間が少なかったからか、中途退学には成らず特別に卒業証書と証明書を贈ってくれました。


ですが、これから先は、あの子の未来は私が守ります。

亡くなった家族の為にも、信じて託された尊敬するお師匠様の為にも、何よりもこれからを生きるあの子の為に!



-------------------------


先ずは居場所を作らなくてはいけません。


二人で話し合い、あの子の希望を重視して考えます

あの子の為だけの場所なんですから、安心して住める居住空間を造り上げます。



少し大きなお金が動いてしまいましたが、気にしません。

誰も文句を付ける人もいませんし、御家族やお師匠様もあの子の為になるのなら許してくれるでしょう。


お師匠様が残された土地に、新しくマンションを建てる事になりました

小さな物ですが、1棟全てが彼のものです。


新しい名前で契約し、その内の何部屋かは私の名義で借り上げます事務所や住居の名目で。あの子の居場所がわからない様に、何号室に住んでるかわからない様に、

もし名前がバレても私名義の部屋に逃げ込める様に。。



何重かの安全策を取って二人で案をだしました。

完成までは数カ月掛かるでしょうし、それ迄には少しは落ち着くでしょう。

それ迄不便な生活になりますが、買い物や家事等は私が支えます。


完成したらそちらに移る予定ですが、その後のフォローも手伝います。

あの子を守り続けるというこの気持ちは絶対に無くしません!

もう一つの気持ちは…………これからも隠し通します。。



-------------------------


あの子の居場所が完成しました。

少し離れた場所になるのが寂しい気がしますね。

でも、これは出発です!ちゃんと送り出します。



私名義で揃えた家具等は、あの子の希望通りに配送してもらいました。

そして、前の家にある業務用冷蔵庫を運びたいと言ってきました。

「なぜそんな物を?」

と聞くと、それはあの子にとっての大切な思い出だそうです。

僅かしか過ごせなかった新しい家族の、そして父親の……


以前、私はあの子にはお金以外の殆どを無くしたと思っていましたが

ちゃんと大事な物は残っていたのです………

運びましょう。あの子が一番拘って造り上げたあの部屋に


想像していたよりも大きな物だったので、普通に運び入れることが出来ず

クレーンを使って3階まで吊り上げることになりました。

落とさないか心配そうに見ていましたが、きちんと収まったのを確認して久し振りにあの子の笑顔を見る事が出来ました、まるで自分の家に家族を迎え入れた様に。


これからこの場所から新しいスタートです。

前よりはかなり噂は落ち着きましたが、もうしばらくは出歩かない方がいいかも知れませんね。しっかりとサポートしなければ………



-------------------------


何をしてるんだ私は!

あの子を守ると言ったのに、頼まれたのに、誓ったのに………



最近の私は浮かれていたのかも知れない、某商業誌に紹介され美人会計士等ともてはやされ、お師匠様から受け継いだコネクション以外にも新しい契約会社が何件か増え忙しさにかまけ、あの子のフォローを疎かにしてしまっていた。


ある日帰宅したらあの子からメールが届いていた。

時計を見ると夜の23時を過ぎていたが確認の為に電話をする事にした。

どうせあの子はこの時間にも起きているのを知っていたから。。


聞いてみると何やら証券会社からの書類審査でマルシンがどうとか意味が解らないので近い内に来てくれないかと言う事らしい。


あの子、株なんかやってるんだ?お師匠様の遺産や家族の保険金等を下らない事に使ってるんじゃないかと。。正直に少し腹が立っていた、忙しい時にそんな事で呼び出すなんてと………。私は電話口にあの子に言ってしまった。


「じゃあ、明日の昼前に事務所に来なさい。えっ?大丈夫よ、最近噂なんか聞かなくなったし。たまには君も外に出掛けなきゃ駄目よ!待ってるから必ず昼前に来なさい?お昼は奢ってあげるから、じゃあ明日ね!」


電話を終えた私はその時はこう思っていた。。

あれから何ヶ月も経ったんだし、そろそろあの子も外に出す良い機会だと。

切っ掛けを作ってあげたのだと。


勝手に納得して、反対に自分は良いことをしたのだと、そんな事を考えてその日はそのまま床についた。。


次の日、昼時になってもあの子は来なかった、遅れているのかと仕方なく出前を取って事務所で待った。。昼食を終えて、14時を過ぎてもまだ現れない。。


あの子が約束を破ったのだと、私を裏切ったのだと……

忙しい中で待っていたのに、たまには一緒に御飯でもと“せっかく”呼んであげたのにと…………。


私はあの子に電話を掛けた。『お客様のお掛けになった電話番号は現在………。』

出ない、きっとすっぽかして怒られると思って電源まで切ってるなんて……


そう思っていた、あの子のへの信頼を勝手に投げ捨てた。。


16時過ぎに電話が鳴った。登録していない固定電話の番号だった。

新しい企業からのアポ取りかも知れない、又顧客がふえるのかと。


電話先は聞いたことのない病院からだった、ここ迄来てまだ私はそれが仕事の電話だと、次は病院か………


「神野里美様の電話でよろしいですか?」


会計事務所という単語が抜けている。イラッとしてぶっきらぼうに対応した


「あぁ、はい。そうですけど。。」


「…………が……………に…まして………直ぐに…………………。」


そこからの会話も、どうやって病院まで行ったのかも覚えていない。

病院名だけは最初に聞いたので覚えていたんだろう。


ロビーに着いた時に外から救急車のサイレンが聞こえてきた、あの子がそれに乗っている訳もないのに……


何度も頭の中に過ぎる、あの時のバス事故の事が………


あの子は治療中で、その間に警察に話を聞くことができた。

右腕上腕部の骨折と大腿骨あと肋骨の何本かにもヒビが入っていると。

どうやら右側からぶつかったらしいと、そして轢き逃げであると………


犯人はすくまに捕まった様だ。

あの子は人通りの少ない裏路地を歩いていたらしい、きっと、人混みが怖かったのだろう……そして一時停止違反の車に右側から当てられたと、頭をぶつけなかったのが良かったと。もし、頭を打っていたらあの骨折の具合から見て危なかったのではないかと。


危なかった??もし、頭を打っていたら?…………


通りがかりの看護師さんが教えてくれた。

午前中に運ばれた後、脳波やCT等の検査を終え、いくつかの診察が終わった後に

持っていたスマホが壊れていて、誰とも連絡がつかない事、御家族の誰かに連絡するので教えて欲しいと。


家族は居ない……あの子のスマホに登録されている個人の番号は私しか居ない。

もし、電話が生きていたら確実に私に連絡が来ていた筈だ。


それでも、普通は登録してある電話番号なんて覚えている人は少ない、普段なら番号を呼び出して指で触れるだけで良いのだから。


それであの子は、私が公認会計士である事、ホームページに事務所か携帯の番号が載っている筈だととっさの思い付きで答えたらしい。


そして私に電話が掛かって来た様だ……

あの子はまだ治療中だ………


17時を過ぎた頃に犯人の取り調べを担当していた刑事さんが、治療の終わった後にあの子の話を聞く為にとやって来た。そしてその内容を聞いた私は自分の自覚が間違っていた事を思い知った。


犯人は20代の男性らしい、あの子を跳ねた後、一度車から降りてきたらしい、そして轢いてしまった人に駆け寄って驚いたと。

覚えていたのだ、あの子の顔をしっていたのだった。


よりによって、あの騒動の本人を轢いてしまった、コイツに関わると“不幸”になると、人が集まってこれがマスコミにばれたら自分の人生が終わってしまうと。

そう思って逃げたのだと…そんな事を言っていたらしい。


またあの言葉が………まだ終わってないのか。


通報者が目撃者だったらしい。

犯人が降りてきたのに被害者を救護せずに車に乗って走り去ったと。

勿論、犯人の顔も車の特徴もナンバーさえみて覚えていたらしい。

そして救急車を呼びながら被害者に駆け寄って何故逃げたのかも判ってしまった。


この目撃者もあの子の顔を知っていた。僅かに二人の接触者なのにその両方がまだ覚えているなんて、やはりまだあの子を外に出すべきでは無かったと。

違うのは、その男性は野次馬が集まって彼の事が知られてしまったら大変な事になると。折角世間が忘れようとしているのにまたマスコミが騒ぎ出す、この子が可愛そうだと。


そう判断して汚れる事も厭わずにあの子に上着を掛けて顔を隠してくれたらしい、

そんな風に思ってくれていた人がいた事に感謝した………けれど。


その役目は私がしなければいけなかったのだ、彼の事を世の中から守るのは私だったはずだ。



治療が終わり、簡単な事情聴取を受けて刑事さんは帰って行った。


そのまま入院の手続きを行う、もちろん個室にして貰う。

大部屋で他人に接触させる訳にはいかないから。。


一応の退院は3週間後には可能らしい、でもそれは右腕を吊った状態であり尚且つ松葉杖では支えられないので歩行器か車椅子が暫く必要と言うのだ。


それでは無理だ、一人では勿論私の仕事もある、これも調子に乗って仕事を増やした私の責任かも知れない、全てを投げ出す訳にも行かない、そんな事はあの子の祖父であるお師匠様の顔まで潰しかねない。


それに私にはもう……あの子のそばに居る資格がないかも知れない。

退院する迄は守り抜こう、今度こそどんな事をしてでも。。


私はステーションに向い完治まで入院させてもらえる様に頼んだ

そして膝を付き涙を流して土下座した、誰に見られても良い、それであの子を守れるならばと


「あの子の事は、事故にあった事やここで入院している事は誰にも言わないで貰えませんか?もし、又あんな事があれば、あの子は今度こそ未来を諦めてしまうかも知れない、次は立ち上がれないかも知れない。だからどうか………お願いします。」


看護師長さんらしき方は、私の手を引いて椅子に座らせ、笑顔てま言ってくれた

「当たり前ですよ、そんな事をすれば病院が潰れてしまいます。バラシてしまったらその人だって何処にも雇って貰えなくなりますからね。」


と周りに言い聞かせる様に…


それは本当の事なのだろう。でも、それだけでは無い気がします。

きっとこの方もあの子を守ってくれる人なんだと思いました。


病室の扉を開けるとそこには痛々しいほど包帯を巻かれたすがたのあの子がベッドで寝ていました、私に気付き目を開けました。


目が合った途端に、扉から一歩進んだ場所のその位置から近づく事が出来ず

涙と謝罪の言葉しか出て来ませんでした。


「ごめんなさい……ごめんなさい。」


繰り返すだけの私に折れていない左手で招き寄せ病室の椅子を指差します

「座って…。」


恐る恐る言われる儘彼の目の前の椅子に腰掛けました。

それを確認した後に私の目を見て話し出しました。


「俺はね、嬉しいんだ」


「えっ?」


「ずっと怖かった、外に出ることが。それは噂やあんな事があったからだけじゃなくて、外に出たら死ぬんじゃないかと本気で思っていた」


「そんな事は…」


「うん、だけど車に轢かれても俺は生きてる。きっと母さんや親父、じいちゃんも…それに里美さんだって守ってくれてる。」


この子は、お師匠様と私の約束を知っているのかもしれない。


「まだ人混みとかは無理だけど…近いうちに事務所まで遊びに行くよ………だって」


「だって?何?」


彼は笑って「まだ、昼飯奢ってもらってないしね!」そう言い切った……。


守る事を約束してそれが出来なかった私を。

思い詰めて、退院したら去るつもりだった私の居場所をこの子が守ってくれた。

まだ居ても良いんだと………。




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あれから4ヶ月が流れた。

あの子は驚異的な早さで回復し、2ヶ月と少しで退院した。


3週間で大腿骨と肋骨はほぼ修復し個室での歩行訓練が始まった。

リハビリ室だと他人に見つかる恐れがあったので病室内のみのリハビリですが

私が呼び出した事で事故にあったなどと罪悪感や負担を掛けたくないのでしょう、痛みや辛さ等の弱音は一切見せる事はありませんでした。


入院7週目を過ぎる頃には右腕の骨も殆ど繋がりギプスが外されました、長い間利き腕が使えなかったのにも関わらず、私が御見舞に訪れるたびに『左手が器用になったよ、両効きになったら便利になるかもね?』等と強がって見せました。


ギプスが取れて2週間も経たないうちに右腕のリハビリも終え完治の診断が下されました。その次の日、わたしが退院の手続きを済ませ変装用のマスクと眼鏡帽子を受け取ると私の付き添いも断り昼前には一人で病院を後にして行きました。。




退院して数日後にあの子から『友達が出来た』とメールで知らされました。

事故に合って、あの子の中で何かが変わったのでしょうね。とても強くなった気がします。

少しずつ私の手が掛からなくなって行くあの子を嬉しくも寂しく感じます。


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最近あの子の様子が可怪しいのです。

退院してからと言うもの、かなりのお金が使われています。


入居時には家具や生活必需品などを揃えるのにそれなりのお金は使いましたが

それ以降は食料や衣服本や雑貨等、ネットで買い物する以外は毎月の出費はほとんど変動しなかった筈なのですが。


退院後からは高額の引き落としが口座から無くなっていきます。

まず不思議なのは冷蔵庫を購入しているのです、それも3台。

あれだけ大きな業務用冷蔵庫があるにもかかわらずにです。


最初は独り暮らしに良く使うようなワンドアタイプの小さな冷蔵庫を購入しました、飲み物専用の小型が欲しいと言う理由で、まぁ解からなくはないですね。


2台目は家庭用のファミリータイプで少し大きいけれどもまぁ普通の物です。

それもまだ理解しましょう。


最後の1台が問題なのです…ストッカーと呼ばれる偶に外国映画で地下室に置いてあり良く死体等が凍って入っているアレ……。何に使うのかと聞いた所、業務用冷蔵庫は有るから今度は業務用の冷凍庫が欲しくなったとか……本気で言っているのなら、もう一度入院させなければ。。


それ以外にも海外のサイトから、何か如何わしい商品を何点か発注している様です

それが結構な高額で、一度に数万から十数万単位の金額が動くのです。


電話で問い詰めても口籠ったり適当な事を言って、詳しくは教えて貰えません。

最近出来たと言う『友達』が何か関係しているのかも知れません、騙されたり犯罪に巻き込まれたりしていたら………

これは一度マンションを徹底的に調べてみない事にはいけない様ですね。。



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やっと時間が取れました、あの子が居ないとは思いませんが一応連絡は入れておきますか。

現在7時27分ですね、まぁ寝ていても電話で起こして問題ない時刻でしょう。


トゥルルルル

『はい、もしまし?』


「里美です、本日午前10時にそちらへ伺います。」


『えっ?!』


ブチッ


はい、連絡完了。

もう何を購入したのか聞く必要は有りませんね。

この目で確認すれば良いのですから……全室監査チェックです。。





前半は調子良かったのに、何やってるんですか?

フラグ立て過ぎなんですよ!辞めてください里美さん。。

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