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魔力なし転生者の最強異世界物語  作者: 月見酒
第ニ章 おっさんは仲間を探す
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第十三話 実技試験Ⅰ

 俺の相手はカルル・ペッパーと言う褐色肌の女性だ。年齢で言えば20代後半ぐらいだろう。

 強さで言えばイザベラには劣るがガルムとは互角に戦うと言ったところか。

 それにしても試験とは言え、雰囲気が武闘大会に似てるな。


「それではこれよりカルル・ペッパー対オニガワラ・ジンの模擬戦を行う」

 でも、いつもの事だと分かってはいるが、勝利を確信した表情をするのはどうかと思うぞ。


「私もラッキーな相手に当たったわね」

 やっぱりそうなるよな。てか他国での問題だからなのか俺に関する情報ってあのクソ王子を殴って国外追放されたことしか知らないのか?


「両者とも準備はいいな?」

「ああ」

「ええ、いつでも良いわよ」

「それでは試合……開始!」

 ま、いつも通り戦うだけだが。

 地面を蹴って相手の懐を入り込んだら0.3%の力で殴り飛ばした。手応えが無いな。後ろにでも飛んで威力を殺したか。


「そ、そこまで!勝者、オニガワラ・ジン!」

「え?」

 いやいやまだ勝負は終わってないだろ。ってあれ?

 カルルに視線を向けるとヒキガエルのように伸びきっていた。え、これで終わり!アイツから感じた気配は嘘だったのか?

 正直俺にとっては不完全燃焼だが、勝利したんだし良いか。

 それよりも周りで見ていた受験者や試験官たちが未だに驚いた表情のまま固まっているんだが。なに、この国にもイザベラたちみたいに停止する風習でもあるのか?それとも何かの流行?

 怪訝に感じながらカルアの許へ戻ってみると。


「す、凄いですね!」

「何がだ?」

「だ、だって一瞬で勝ってしまうなんてどんな魔法を使ったんですか!」

「魔法って。別に普通に近づいて殴っただけだ」

「ほ、本当にそれだけですか?」

「ああ」

「す、凄い身体能力ですね!」

「ま、まあな」

 なんて圧力。そんなに凄かったか?てか目を輝かせて俺のことジッと見てるし。まるで熱狂的なファン。いや、オタクと言うべきか。好きなことになると前のめり以上に好奇心が擽られるってやつ。本当に冒険者に憧れてるんだな。まあ、俺は冒険者じゃないけど。


「それよりも、カルアは自分の模擬戦の心配をするべきじゃないのか?」

「そ、そうですよね。すいません。私好きなことになると周りが見えなくなってしまうんです」

 だろうな。押し迫って来てたし。

 一瞬にして顔を暗くするカルアだが俺に出来る事は何もない。厳しい言い方をするなら手助けをする理由もない。だけど既にアドバイスをしてしまっているし、偶然にも同じ冒険者試験を受けるライバルであり、仲間。そして偶然にも筆記試験で隣の席になった者同士だ。背中を押すぐらいの事はしても良いのかもしれない。


「次、カルア・テカータ」

「あ、私の番ですねって痛い!」

 そんな彼女の背中を俺は少し強めに叩いた。勿論彼女の体に怪我をさせないように手加減はしている。


「いきなり何するんですか!」

 あれ?そんな反応なの。いや、普通はそうか。でも今はこの言葉だけで良いか。


「必ず勝って来い!」

「………はい!」

 一瞬理解出来なかったみたいだが、直ぐに気合が宿った返事が俺の耳に届いた。うん、影が消えたな。


    ************************


 私の名前はカルア・テカータ。冒険者試験受験回数32回目という最高記録の保持者です。ですが全然嬉しくもありません。逆に情けないぐらいです。それに最高記録保持者ってこともあり、周りの受験者たちからバカにされます。ですが事実なのだから仕方ありません。ですが今回で見事合格してみせます!そうすれば記録は止まりますから。


「二人とも準備は良いか?」

「俺はいつでも大丈夫だ」

「は、はい!大丈夫です!」

 すっかり考え込んでいたせいで返事が遅れてしまった。恥ずかしいっ!でもなんでだろう。いつもなら混乱したり緊張したりするのに全然しない。そのお陰か視界がいつも以上に見える。

 きっとジンさんに背中を叩かれたからかな。それにまだ少し背中がヒリヒリする。でもそれが緊張を解してくれてるみたいで逆に心強い。

 ――必ず勝って来い!

 その言葉が未だに頭に響いて残っている。

 受験会場では全員がライバル。だからこそ何度も顔を見かける受験者が居てもけして応援されることはありません。

 孤独で誰にも支えて貰えない。応援して貰えない。そんな状況は私を不安や恐怖、緊張といったモノが襲い掛かってくる。なんど体験しても慣れない感覚。しかしそれに勝ってこそようやく冒険者としてのスタートラインに立てる。

 だからこそ私は今回は勝ってみせる。師匠のためにも。自分のためにも。そして初対面なのに私の緊張を解し背中を押してくれたジンさんのためにも絶対に勝ってみせます!


「それでは試合開始!」

 ホルスターから魔導拳銃を両手に構えた私は即座に敵に目掛けて発砲した。が、

 速い!

 既に最初の定位置には居らず目の前という距離にまで迫っていた。負けちゃう!

 ――剣や刀を使う敵の大半は接近して攻撃してくる。だからこそ一瞬で距離を詰めようとしてくるだろう。そしてその速度が自分の想像よりも速かった場合は、何も考えずに敵の足元と胴体に連射しろ。

 一瞬にして流れ込んでくる情報に従うように私は相手の足元と胴体目掛けて連射した。当たらなくても良い。そう思って狙わずに連射した。


「ちっ!」

 すると男性は回避出来ないと判断したのか接近してくるのをやめて数メートル下がった。嘘、本当に下がってしまいました。本当にジンさんのアドバイス通り。

 私は信じられない光景を見ている気分になりながらも攻撃の手を休めない。

 せっかく相手の攻撃を未然に防いだのだからこのチャンスを逃してはいけない!

 右、左、右、左、右、左の順にトリガーを引いていく。

 だけど最初の二発が当たった以外は全て敵に躱されてしまう。それに当たった2発も致命傷には至ってはいない。これじゃ少しだけリードしているのと同じ。それならこのリードを守れば……。

 ――少しリードしているからと言ってけして時間切れを狙って守りに入るな。それは勝利を自分の手で取ることを諦めたのと同じことだ。

 そうですよね!ここで諦めたら駄目ですよね!

 相手の動きを見て私は即座にリロードして再び敵目掛けて発砲する。

 残り時間も少ない。よし、これなら勝てる。

 私はそう確信した。一瞬も、一ミリも疑わなかった。

 それは慢心であり、油断となり、隙を生み出す行為なのに私はそれをしてしまった。

 だけどその事に気がついた時には遅かった。

 弾切れを起こした私は一瞬にしてどん底に落とされたかのような困惑と混乱が襲い掛かってきたのだから。


「い、急いでリロードしないと!」

 あ、あれ?マガジンが入らない。手が震えてこんな大切な時に私は何してるのよ!

 視界の端から徐々に大きくなり近づいてくる敵。

 もう嫌だ。逃げ出したい。なんで上手く行かないんだろう。一生懸命頑張っても緊張して何も思い通りにいかない。


 今回も諦めてまた今度受ければ良いか。


 そんな言葉が私の頭を過ぎる。

 そうだよね。どうせ私は最高記録保持者。ここで負けてもそれは変わらない。だったら今回も諦めてしまえば、


 ――必ず勝って来い!


「っ!」

 カチッ!

 言葉に押されるように綺麗にマガジンが填る。

 填ったのは片方の拳銃だけ。だけどそれは私にとって大きな救いの手であり、闇を照らす光であり、勝負に勝つための最後の武器。

 銃口を向けた時には敵との距離はほぼ零距離。だけどそれは運が悪いわけでも負けを意味するわけでもない。逆にこれはチャンス。既に相手も攻撃をする態勢に入っている。つまりは躱す事が出来ないということ。それにこの距離なら狙わなくても外す事はない!

 勝利を確信はしない。

 だけど願う。望む。貪欲に。

 醜いと罵られようが蔑まされようがこの場面で勝利を自らの手で掴もうと貪欲に行動しない者にけして勝利は訪れないのだから!

 バンッ!バンッ!バンッ!


「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ~……」

 静寂と化した会場に銃口から煙が立ち上る。


「勝者、カルア・テカータ!」

 嘘かとも思える審判の宣言に緊張の糸が切れ、ヘタリとその場に座り込んでしまう。

 そして改めて実感した。私は勝った。冒険者試験を受けて初めて勝った!それもちゃんとした勝利。判定じゃなくて相手を倒して初めて勝った!

 嬉しい。こんなに嬉しいと思ったことはない。これまで諦めずに頑張ってて良かった。

 そう思ったら涙が出そうになる。今は泣いちゃだめ。ちゃんとジンさんにお礼を言わないといけないんだから。


    ************************


 今にも泣きそうな顔でカルアは俺の許に駆け寄ってきた。


「ジンさん私は勝ちました!」

「ああ、見てたから分かってるよ」

 まったくどっちが年上なのか分からないな。


「これも全てジンさんのおかげです!」

「別に俺は何もしてないが」

「いえ、アドバイスもしてくれましたし、何より最後。諦めそうになった時にジンさんの、必ず勝って来い。って言葉のお陰で私は勝てたんです。だから本当にありがとうございます!」

 ペコリと頭を下げるカルア。いや、本当にお礼をされることはしていないんだが。ま、カルアがそう思うんならそれで良いか。


「なら明日の実技試験Ⅱも一緒に頑張ろうな」

「はい!」

 こうして俺たちは試験一日目、筆記試験と実技試験を終えて冒険者専用第4訓練所を後にした。

 銀と一緒にホテルに戻ってきた俺は今日の事を考えていた。

 気配で感じる限り強いと感じたのは5人だけだ。特にその中の一人はイザベラでも勝てないだろう。なんで今までそんな奴が有名じゃなかったのか不思議だ。

 大抵試験を受ける人間と言うのは冒険科、もしくは冒険者養成学校に通っていたなかった連中が受けるものだ。

 学園在学中にギルドに就職しなかったとしても学校を卒業してから2年間の間だけなら冒険者としての資格は持っていることになる。つまり冒険者の資格は言わば車の免許と似ているのだ。

 冒険者資格が2年で失効扱いになるのは学園を卒業してから冒険者活動を6回未満だった場合だ。つまり年に3回受ければ冒険者資格の期限が延びるのだ。

 だからギルドに所属していないフリーの冒険者も居たりする。

 ただしフリーの冒険者はギルドに所属していないため受けられる依頼が制限されているので大半が護衛やギルドからのヘルプだったりする。

 だから誰もが資格を得たらまず入社テストを受ける。学園や学校の生徒の大半はスカウトが殆どだが俺みたいに試験を受けた奴らってのは入社テストを受けなければギルドに入ることは難しいのだ。

 だからあの中で一番強かった奴の素性が不気味なのだ。

 年齢は20代後半。黒髪で片目が隠れるほど長い髪。身長は160後半と言ったところだったな。いったいどうすればそれだけの力を得られたのかが不思議だ。冒険者でない者が魔物と戦うのは死ぬことと同じことだ。ま、俺みたいに我武者羅に戦ってきたってのなら別だが、奴からはそんな雰囲気はない。なのに強い。いったい今まで何をしていたのか興味がある。出来れば戦ってみたいが、明日からはそうはいかにだろう。なんせ明日は魔物と実際に戦うのだから。ま、そこで力を見せて貰うとするか。今日の試合は俺と同様で一瞬で終わったからな。

 泊まっているホテルでは食事が出ないのでスーパーで買ってきた弁当と丸ごとハムを銀と一緒に食べて就寝した。

 明日の朝の分も含めて買ってきたはずのハムが一瞬にして消えた時は驚いたな。成長期は凄い。ま、銀が成長期に入ったかは分からないけど。

 リィリィリィリィン!

 お、電話だ。誰からだ?

 スマホの画面を見て見るとそこにはシャルロットの名前が表示されていた。何か問題でも起きたか?


「もしもし」

『あ、ジンさんですか?』

「まあ、俺のスマホだからな」

『そ、そうですよね。すいません……』

「いや、謝らなくても。それよりどうかしたのか?」

『い、いえ。ただ今日の結果が気になりまして』

「受けてるのは俺なのに随分と心配してくれてるんだな」

『当然です!』

「そ、そうか」

 そこまで強く言わなくても良いと思うが。それよりも他人のことなのに心配してくれるなんて、やっぱりシャルトットは優しい子だな。


『それで結果の方は……』

「結果は試験が終わってから2日後に発表されるからな。まだ分からない」

『そ、そうですよね。つい気になってしまいすいません……』

 だから謝るような事じゃないと思うぞ。


「ま、俺の自己採点で良いなら筆記試験はギリギリ合格で実技試験Ⅰは対戦相手を倒したから問題ないと思うぞ」

『そうなんですね!(良かった~)』

「最後、何て言ったんだ?」

『い、いえ!なんでもありません!明日からは実技試験Ⅱですよね。頑張って下さい!』

「ああ、必ず合格してみせるよ。シャルロットもわざわざ夜に電話してくれてありがとうな」

『い、いえ!私に出来ることと言えば、これぐらいですので……』

「そう過小評価しなくて良いだろうに。俺は嬉しかったぞ」

『は、はい!』

「じゃあな。明日も早いから俺は寝させて貰うよ」

『はい。おやすみなさい』

「おやすみ」

 電話を切った俺は応援してくれる人間がいる事に嬉しく思いながら就寝した。うん、いつも以上に寝られそうだ。

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