第九話 帝国王族と食事会
「陛下、愚考と承知で言わせてもらいます。それは難しいのではないでしょうか?」
「ほう、どうしてそう思うんだね?」
「幾つか理由がありますが、一番の理由としましては教えを請えたとしても教えて貰う私たちがその常識を受け入れられるかです。大陸の中でも実力主義と言われているベルヘンス帝国ではありますが、貴族や現兵士がそのジンの常識でプライドを傷つけられたと思うかもしれないからです」
「確かにそうだろう。現にスヴェルニ学園では彼の異質さを受け入れられなかった生徒たちは彼の事を嫌っていたからね」
「でしたら――」
「だが、彼の考えを真正面から受け止めた生徒はこれまでに無いほどの成長を遂げているのも事実だ。その証拠に団体戦ではジン君が率いる11組の生徒が冒険科代表としてし出場したのだからね。それにプライドは大切だが、それに縛られ停滞した者に強くなる資格はないと我は思っている」
「へ、陛下……」
難しい。お父様が言っていることは間違ってはいない。だけど今の役職や地位に満足している貴族や役員からしてみればそれはあまりにも難しいとしか言いようがありません。
「それで、もう一つの理由はなんだ?」
「はい。それはジンが素直に強さの秘訣を教えてくれるかどうかです」
「ま、一番の問題はそこだろうね。部下にも色々と調べさせてはいるがハッキリとしないしね」
「と、良いますと?」
「確かにジン君はスヴェルニ学園に在籍していた。だけどそれは今年の4月からなんだ。つまりは編入生と言う事なんだが、それ以前の情報がまったく入ってこない。分かっている事といえばジン君に最初にであったのがルーベンハイト家の令嬢であり、ルーベンハイト家が編入試験を行うように言って来たって事ぐらいだ。それ以外はまったく情報がない」
「ジンはヤマト出身だと言っていましたが?」
「それも本当かどうか疑わしい。確かに顔立ちはヤマトの人間だ。だがそれはそう思わせるためにそう言っているだけかもしれない」
「確かに、それは無いとは言えませんが……」
「まったく謎だらけの存在だ。戦闘力も彼の存在そのものも」
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夜になり俺はシャルロットたちの家族と食事をすることになったが、なんだこのハリウッド家族は!全員が全員美男美女ばかり。別の意味で俺がこの場に居ることが場違いに思えてくる。
そして何より驚いたのが食事がとても家庭的であることだ。
「ジン君、驚いたかね?」
「え、ええ。色んな意味で驚きました」
いや、マジで。
現在この場には俺を含めて12人が居る。イオは執事として後ろに控えているだけだが。グレンダは俺の横に座っている。つまり9人家族と言う事になるのか。
「妻たちが料理が好きでね。我が家ではいつもこんな感じなんだ」
もっと豪華な食事をしていたかと思っていたけど。家庭はそれぞれだしな。
「それじゃ、家族を紹介するとしよう」
名前を覚えられるか不安だが、聞いておこう。
「まずはエリーシャだ」
「エリーシャ・ルヴェル・ベルヘンスと申します。このたびは義娘を助けて頂きありがとうございます」
「大したことはなにも」
青いミディアムヘアにブラウンの瞳。確か種族は人間だって話だったがいったい幾つなんだ?どうみても20代後半にしか見えないんだが。
「で、こっちがもう一人の妻のレティシアだ」
「ジンさん初めまして。レティシア・ピルム・ベルヘンスです。娘を助けてくれてありがとうね」
「いや、本当に気になさらず」
駄目だ緊張する。ハリウッド家族なだけでも平常心がどうにかなりそうなのに、全員が王族だろ。もう意味が分からん。こんな緊張感はあの島では無かったんだぞ!
それにしても流石はシャルロットの母親だな。超美人だ。エルフってみんな美人な気なするけど。
「次に息子のライアンだ」
「エリーシャの息子のライアン・セレス・ベルヘンスだ。よろしく」
「よろしくお願いします」
青い髪に紫の瞳を持つ好青年って感じだな。どこかライオネルと似てる気がする。それにしても年齢的には24歳といったところか?エリーシャさんとカップルだと言われても俺は信じるレベルだぞ。
「で、こっちがカルロスだ」
「次男のカルロス・ドグマ・ベルヘンスだ。義妹を守ってくれて助かった」
「いや、成り行きですし」
金色の短髪にブラウンの瞳。それに鍛え上げられたガタイの良い体。第二王子って大半が戦闘系が得意なイメージなんだが。俺だけか?
それにしても美男美女、王族から何度もお礼を言われるって精神衛生上良くない。さっきから寿命が縮んでいる気がする。
「で、ジン君が助けてくれたシャルロットだ」
「改めて、シャルロット・デューイ・ベルヘンスと申します。先日は助けてくれてありがとう御座います」
「いや、本当に気にしなくて良いから」
うん、シャルロットだと気兼ねなく話せるな。
「娘のサーシャだ」
「第三皇女のサーシャ・ロート・ベルヘンスと申します。シャルロットお義姉さまを助けて頂き真にありがとう御座います」
青い長髪に紫の瞳か。エリーシャさんの娘だろうな。だけど年齢的にはシャルロットより1、2歳年下なんだろうがしっかりしているな。いや、しっかりし過ぎているような気もするが。
「鬼瓦仁だ。よろしく」
「で、息子のマオだ」
「マオ・フェント・ベルヘンスです。シャルロットお姉さまを助けてくれてありがとうございます」
「よろしくな」
金髪に紫の瞳の少年が可愛らしく挨拶してきた。リリーより少し年上って感じだな。
「で、最後にミアだ」
「みあ・えるげ・べるへんす、です。よろしくお願いします」
『おおおぉぉ!』
ミアちゃんの自己紹介に誰もが拍手した。3歳児なんだし当然か。それにしても今すぐ子役に応募したら合格しそうなレベルの可愛さだな。いや、待てよ。3歳児って事はボルキュス陛下が40前半の時に出来たってことだよな。元気だな。色んな意味で。
さて、ここでいったん整理してしておこうか。
まずエリーシャさんの子供がライアン、カルロス、サーシャ、ミアの4人。で、レティシアさんの子供がシャルロット、マオ。になるんだよな。ん?確かシャルロットは第二皇女って言ってたよな。でサーシャが第三皇女だから。第一皇女はどこだ?
「ボルキュス陛下」
「なんだい?」
「不躾な質問なんですが、第一皇女様はお仕事かなにかで居られないのですか?」
俺のそんな質問に一瞬にして食事の場が葬式場へと変貌した。もしかして地雷踏んだ?
グレンダにも睨まれてるし、間違いないな。
「確かに一人だけ居ないのは気になるよな。だが、安心してくれたまえ。少し体調を崩しているだけだ」
「そう言う事なら……」
体調を崩しているね。みんなの表情からして長い間部屋で寝ていると思ったほうが良いだろうな。余計な事を聞いてしまったな。
「ささ、食事としよう。せっかく妻たちが作ってくれた料理だ。遠慮なく食べてくれたまえ」
ボルキュス陛下の言葉で食事が始まった。きっとグレンダが伝えたんだろう俺のご飯だけおにぎりやサンドイッチが並べられていた。そして何より、
「美味しい!」
「それは良かったわ」
イザベラの家の料理長にも劣らないレベルだぞ。なにこの家系。見た目だけじゃなくてスキルもチートレベルなわけ?
「そう言えばジンさんはシャルロットにお会いする前はスヴェルニ王国にいたのですよね?」
「はい、そうです」
「スヴェルニ学園冒険科に通っているジュリアス・L・シュカルプって生徒ご存知ありませんか?」
「え、ジュリアスですか?」
まさか、王族からジュリアスの名前が出てくるなんて思わなかった。お前って実は何者なんだ?
「あら、その口調だと知っているのですね?」
「知っているも何もルームメイトでしたので」
「あら、そうだったの」
「武闘大会団体戦では同じチームメイトでしたし最高の仲間であり親友です」
「うふふ、それなら良かったわ」
「それにしてもどうしてレティシア様がジュリアスの事を?」
「ジュリアスの母親が私の従姉妹なの」
「なるほど、それで」
つまりジュリアスの母親の従姉妹がベルヘンス帝国第二王妃ってことだよな。なにこの変な家系は。いや、それよりも世間は何気に広いようで狭いな。
「なら、ジュリアスの秘密も知っているのかしら?」
笑顔の奥に隠れた殺意にも似た警戒心が俺に突き刺さる。正直その顔はやめて貰いたい。怖いから!
「ジュリアスが本当はジュリア・L・シュカルプであり、女だって事ですか?」
「ご存知でしたのね」
「安心してください。知ってはいましたが、誰かに喋ってもいませんし、男女の関係になった事はありませんから。逆に周囲からはおホモだちって思われていましたし」
「それは喜んで良いのかしら?」
困った表情をするレティシア様。ま、誰だってこんな話を聞けば困るよな。
「それにしてもジンさんはどうしてジュリアスの正体を知ったのかしら?」
ま、普通に気なるよな。
「編入した初日に偶然ジュリアスのクラスメイトがその事で脅していたのを耳にして知りました。で、ムカついたのでジュリアスのクラスメイトをぶん殴ったら一週間の自宅謹慎になってしまいましたが」
「そう、それは良かったわ。今の話を聞いていなかったら私が暗殺者を送っていたところよ」
「え?」
「冗談です」
いや、冗談には聞こえなかったんだが。なにこの人。本当は怖い人なんじゃ。
「レティシアが我と結婚する前は冒険者として活動していてね。ギルドの中ではアサシンの役職だったからな」
なにその怖い過去。絶対にレティシアさんは怒らせちゃだめだな。夜もおちおち寝てられないじゃないか。
「それにしてもジンさんは凄いわね。今年スヴェルニ王国で開催されている武闘大会でスヴェルニ学園個人選代表として出場する筈だったんでしょ。それも神童と謳われるルーベンハイト家のご令嬢を倒して優勝なさったとか」
エリーシャさんがそんな事を聞いてくるが、ボルキュス陛下から聞いたのか?
「お母様それは本当ですか?」
「ええ、ライアン。旦那様から教えて頂いたもの」
「ほう、そんな実力者だったとは一度手合わせしたいものだ」
カルロス様の目がマジだ。なんで闘うことが好きな奴ってみんなこうなんだ。
「スヴェルニ学園では能無しと言われていたんでしょ。それなのにどうして勝てたのか教えていただきたいですわ」
そこまで知っているのか。いったい誰から教えて貰ったのかとても気になるところだが、教えて貰えるわけないよな。
「ただ単にイザベラよりも俺の方が強かった。それだけの事です」
イザベラにも言われているし、あの島に住んでいた事は言わないほうが良いだろう。
「ならその強さはどうやって手に入れたのかしら?」
なんだか誘導尋問されている気分なんだが。気のせいか?スヴェルニ王国で行われる学生の武闘大会は他国でも有名らしいからな。そんな個人戦代表に選ばれた存在となれば気になるのも当然か。
「別に大した事はしていません。ただ実戦経験が豊富というだけです」
「だが、それはルーベンハイト家の令嬢も実戦経験が豊富だと聞いているが?」
カルロス様も知っているのか。何気に厄介な家族と関わってしまったかもしれない。
「そうですね。これはイザベラにも言った事なんですが、大抵の国が実力とは魔力量と魔法属性の数だと思い込んでいるみたいですが、それは間違いです」
「だが実際に魔力量が多い者が少ない者よりも有利だと思うが?」
「確かにその通りです。ですが、それは互いの力が拮抗していた場合の話です。実力、つまり戦闘力とは本来別物です」
「と言うと?」
「この世界に存在する生物には唯一等しく神から与えられた物があります」
「それは?」
「経験値です」
『経験値?』
俺の言葉に誰もが首を傾げる。ま、無理も無いか。イザベラたちもそうだったしな。
「そうです。鍛錬を行えば魔法発動の時間を短縮出来るように。敵を魔物を、倒せば経験値が得られます」
「確かに自分より強い魔物を倒せばそれなりの経験値を手にすることが出来る。そうすれば魔力量も身体能力も上がる。だが、自分より弱い魔物を倒したところで入る経験値は僅かだ」
「確かにその通りです。ですが弱い魔物を一匹ではなく10匹、100匹と倒して行けばどうなりますか?」
「それは確かにそれなりの経験値を得られる」
「その通りです。そして俺が強くなるにはその方法しかなかった。最初は弱い敵から倒していき、徐々に強い敵。弱い敵と遭遇しても躊躇うことなく倒す。それを俺は5年間森の中で続けました」
「5年間だと!」
「はい。生憎俺には両親はいません。ましてや魔力を持たない俺を育てようとしてくれる人たちも居ませんでしたので。そんな俺に出来ることがあるとすれば森の中で魔物と戦い、生き抜くことだけです。で結果的に俺は強くなり今があるわけです」
嘘は言っていない。育ててくれた人たちが居なかったってのも間違いではない。何故ならあの場所には人間は居なかったのだから。
「ん?」
なんだかまたしてもお通夜状態になっているんだが。
「ま、これが俺が強くなった成り立ちであり、強くなる方法ですね」
「ジンさん。教えてくれてありがとうね」
「いや、別に大した話してもなかったと思いますけど」
だからなんでそんな悲しげな表情をしているのか俺に教えて欲しいんだが。話を盛りすぎた覚えもないしな。
どうも皆さん、月見酒です。
王族と食事会と言う話でしたけど全員の名前を考えるのが、超大変!正直途中から嫌になるほどです。
でも名前が無いと後々、アイツって誰だっけ?みたいな事になるので考えました。(疲れた~)




