第六話 グレンダ救出作戦!
「グレンダ!」
シャルロットの言葉に俺は目を見開けていた。この状況で電話をしてくるだと、嫌な予感しかしないな。
「シャルロット、まだ出るな!」
「ど、どうしてですか!グレンダから電話が掛かってきたのですよ!」
「さっきも言っただろ。奴らには凄まじい捜索網があると、きっとグレンダもその事には気づいているはずだ。なのに電話をしてくるなんておかしいだろ」
「そ、そう言われてみれば……」
「もしも緊急の要件だったとしても、自分の電話から掛けて来るような間抜けなことはしないはずだ。となると相手は」
「敵……」
「その可能性が高いだろう」
「そ、そんな……では、グレンダは……」
「いや、殺されてはいないだろう。電話をしてきたってことは、シャルロットのスマホの中にある動画が目的だ。それを手に入れるには取引材料となるものがいる。そして向こうの取引材料がグレンダだ」
「なら、生きているわけですね!」
「絶対とは言えない。だが高確率でだ」
「分かりました。では取引します!」
即答しやがった。ま、シャルロットならそうするだろうな。でもそうなったら絶対にグレンダに恨まれるだろうな俺。
「なら冷静に応答しろ。良いな」
「わ、分かりました」
シャルロットはスマホを耳に当てる。俺も聞かせて貰うために耳を近づける。
「もしもし……」
『ようやく、出られましたか。危うく人質を殺すところでしたよ』
余計な事は言うなよ。
「貴方は誰ですか?」
『グフフ、そうでしたね。俺様はテメル自由都市国家議員、ゲルト・ウェルスだ。さてここからは本題と行きましょうか?』
ようやくか。それにしてもこの政治家馬鹿だろ。自分の名前を平然と明かすか普通。いや、馬鹿じゃなかったら他国であんなにドンパチしないか。
『俺様が欲しているのは貴方が持っている映像です。勿論取引材料は用意してますよ』
『お嬢様、来てはなりません!』
「グレンダ!」
チッ、やはり捕まっていたか。
『この女が殺されたくなければ、その動画を持って指定する場所に来い。勿論一人でだ。それとつれの男はそこに置いてこい』
「分かりました……」
指定場所を聞いたシャルロットは電話を切った。
「予想通りの展開だな」
「グレンダ……」
これまで共に行動してきたグレンダが敵に捕まっているんだ。そりゃ心が乱されてもおかしくないよな。
だけどやはり胸糞悪いな。女を人質にするなんて。力が道具だと分かっていても。
「ジンさん」
「まさかここに残れって言うんじゃないだろうな」
「いえ、そんな事は言いません」
一瞬にして変貌する表情。真剣な眼差しが俺を射るかの如く向けられる。ったくどうして気品ある女性ってこうも直ぐに表情を変えれるのかね。イザベラもそうだったが、まるで別人じゃねぇか。
「オニガワラ・ジン、雇い主であるベルヘンス帝国第二皇女シャルロット・デューイ・ベルヘンスが命じます。グレンダの救出を手伝いなさい!」
ただ優しいだけで、状況が把握できないお嬢様かと思っていたが違ったようだな。
「その依頼、この鬼瓦仁が引き受けたぜ」
一国の皇女と冒険者(仮)の二人の間に依頼が成立した。
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「これであの女は俺様の物だ。グフフフフッ!」
「ゲスが」
ゲルトはこの先の未来に下卑た笑い声を上げる。
現在私は廃墟ビルの一室で拘束されていた。何階にいるのかまでは分からない。ただ、6階以上であることは見える景色でなんとか分かる。
それよりもお嬢様が心配だ。お嬢様は優しい。死に掛けの猫を見つけたら病気が移るかもしれないことも気にせず王宮に持ち帰って皇帝陛下に治療して貰うように頼み込むほどだ。
そんなお嬢様が私を助けないなんて選択をするとは思えない。だからジン、お嬢様の言葉は無視して国に連れて帰ってくれ!
「そろそろ時間だな」
頼む!私のことなど無視してくれ!お嬢様が来てもこの人数を相手にするのは無理だ!
この部屋にはゲルトと私を除いても20人の武装した兵士が待ち構えている。きっとこの男の事だ。これだけじゃないはずだ。
「ゲルト様、少女が一人階段を上がってきます」
「グフフ、どうやら来たみたいだ」
そ、そんな……。
金具を軋ませながらドアが開かれた。そこには望んではいない結果が、来て欲しくなかった人物が、目の前に立っていた。
「お嬢様!」
「グレンダ!」
今にも泣きそうな顔で、震える足で私の名前を呼ぶ存在。来て欲しくなかったのに、望んでいなかったのに、どうしてこんなに嬉しいのよ!
「おっと、それ以上近づかないで頂きたい。では、取引と行きましょうか。例の動画は持ってきましたね」
「はい」
「では、こちらに渡して頂きましょうか」
「グレンダと交換です」
「いえ、そちらが先です。でないとこの女の頭を撃ちぬくことになりますよ」
「くっ!そ、そんな事してみなさい、この動画が全世界に流れますよ!」
今にもこの場から逃げたいでしょうに。一生懸命勇気を振り絞って虚勢を張っておられる。私はその姿を見れたことに嬉しくて、そして悲しくて仕方がない。
自分の命に関わることなのに私のために頑張ってくれるお嬢様の優しさと勇気に今にも泣きそうでしかたがない。そしてその原因を作ってしまったことに申し訳なくてしかたがない。
「良いでしょう。おい、その女を立たせて歩かせろ」
ゲルトの言葉で私はゆっくりとお嬢様に向かって歩かされる。
早く触れたい。早く抱きしめたい。その想いが募り気持ちが焦るのを抑えるので必死だ。
「では、スマホと交換です。こちらに投げて下さい」
「分かりました」
ゲルトの奴。いったい何を企んでいる。
「では、スリーカウントで行きましょう」
視界に兵士の一人が武器を構える。
まさか投げた瞬間にスマホを撃って破壊するつもりか!
最悪な事にお嬢様からは死角の場所。なんて下種な!
「では、始めます。3」
どうにかしてお嬢様に伝えないと。
「2……」
何か、何かないのか!
「1……」
ドオ――ン!
「な、何事だ!」
巻き起こる土煙と轟音に誰もが困惑する。
いったいなにが起こってるんだ!クソッ、土煙で視界が。
「(少し黙っていろ)」
「(そ、その声は!)」
いつも呑気にしていて、危機的状況でも平然としている男の声。声を聞くたびに苛立ちを覚えそうになる声。
「(お、おい!なにをするんだ!)」
私を荷袋のように担ぎ上げるなんて!
「(緊急事態なんだ。我慢しろ)」
仕方がない。今は我慢しよう。だがあとで覚えていろよ。
数分後煙が晴れると私はお嬢様と一緒に廊下にいた。
「どうやら無事に救出できたな」
「はい」
呑気そうな声。そしてお嬢様もまた嬉しそうに答える。
「これはどういう事なのか。説明してくれるんだろうな」
私はそんなジンに質問する。答えによっては覚悟してもらおう。
「悪いな、お前との約束を破って。だけど俺の雇い主はお前じゃなくてシャルロットなんだ。雇い主を裏切るようなことはできないだろ」
「グレンダ、ジンさんを怒らないで下さい。私が頼んだのですから」
「うっ」
卑怯だ。お嬢様を出されては私は何も言い返せないではないか。
「さてと、お前らはここで待っていろ」
「な、何をするきだ」
「何って決まってるだろ。あいつ等をぶっ倒すんだよ」
「「なっ!」」
この男は何を言ってるんだ。武器も無い、戦力も違う。それなのに倒すなんて無謀にも程がある。
「馬鹿を言うな!今は逃げるのが先決だ!」
「なら、このまま敵に狙われながら帝国に帰るのか?」
「そ、それは……」
「敵の親玉がこの壁の向こうにいるんだ。こんなチャンス二度とないかもしれないんだぞ」
「それはそうだが……」
確かにジンの言っていることは一理ある。だがあまりにも無謀すぎる。
「グレンダはシャルロットを守っていろ。あのクソッたれな下種男は俺がぶっ飛ばすからよ」
「それこそ無茶だ!」
「そ、そうです!他の作戦を考えましょう!」
「生憎とこの世界に生まれて無茶をせずに強くなれたことなんてなくてな」
「お前は何を言ってるんだ……」
こいつが今何を考えているのかまったく分からない。ただその顔には怒りのみが宿っていた。
「ま、俺を信じて待っていてくれ」
ジンはそう言うと壁をぶち壊して中へと入っていった。
なんて怪力だ。あの体のどこにそれだけの力があると言うんだ。
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さて、こいつらをぶっ飛ばして残りの時間は有意義に帝国に行くとするか。
「お前はあの小娘の護衛だな」
「そうだが何か文句でもあるか?」
「大アリだ!取引を破りやがってどうなるか分かってるんだろうな!」
「元々取引を成立させるつもりなんか無かっただろうが。お前みたいな屑の事だ。どうせ捕まえてペットにでもする考えだったんだろうが」
「チッ!」
やっぱりそうかよ。権力に酔いしれて何でも出来ると勘違いしている奴らの典型的思考だな。
「ま、それも今日で終わりだ」
「まさかこの人数を一人で倒すつもりなのか?」
「そのつもりだ」
「馬鹿なのかお前は」
「それは戦ってみれば分かることだ!」
シャルロットには悪いがこいつらに手加減できるほど俺は出来た人間じゃないんでね。
「遠慮なく殺させて貰うぜ!」
これだけの人数の人間と殺し合いするのは久しぶりだ。
あの気まぐれ島の化け物どもは全員が全員本当の怪物たちだった。なんせ魔物の癖に人間の姿にもなれるんだからよ。こっちが人間を殺せないことを良いことに好き勝手に攻撃してきたっけな。ま、それも最初の数十分の間だけだったけどな。俺も死にたくなかったしなにより大切な奴が傍に居たからな。
俺は目に付いた奴から殺していく。遠慮なんてしない。躊躇いもしない。嬉しさも、喜びもない。ただあるのは怒りという燃料のみ。それだけで俺はこいつらを殺せる。
エレンに言われたっけな。
『死にたくなければ躊躇うな。守りたいものがあるなら迷うな』
ってな。エレン、俺は迷ってないぞ。躊躇ってないぞ。俺はお前の習ったとおりに出来てるぞ。
銃声と俺目掛けて飛んでくる弾丸。一瞬確認しただけで分かる。あれは魔導弾だ。スピードも貫通力も桁違いの武器。
ただ予想していた通りこいつらはイザベラたちによりかも遥かに魔力量が少ない。だからこそ魔導弾を使うんだ。
ならイザベラが使う魔法攻撃を気にする必要はないな。
弾丸を躱し、一人、また一人俺は指突で敵の喉、心臓、頭を貫く。
両手が真っ赤に血で染まろうと関係ない。俺はシャルロットたちを守ると決めた。それだけで俺が戦う理由は充分だ。
「フッ」
笑いが零れる。
自分勝手に生きてきて、あの島でも自分のことしか考えられなかった俺が誰かを守るために戦うなんてな。いや、違う。これも俺が決めたことであり俺がそうしたいからそうするだけのこと。
とても小さな小さな、下らない自己満足に浸るために俺は戦うんだ。
時間にしたらそんなに時間は経っていないだろう。きっと5分ぐらいに違いない。
だが先ほどまで戦っていた兵士20人は血を流して地面に倒れていた。
「の、残りはお前だけだ」
「ば、馬鹿な!ありえない!こんなのありえない!20人を倒すなんてありえないだろ!」
「現実逃避するじゃねぇよ、この糞豚野郎。あとはお前だけだ。お前を殺せばすべてが終わる」
「待て!俺を殺せばお前は罪人になってしまうぞ!」
「それはどうかな。犯罪の証拠を消そうとして他国にまでやって来た糞政治家を見事倒したんだ。それも人質を救出してだ。逆に英雄になるんじゃないのか」
「そ、それは……」
「それにな、生憎と俺は既に国外追放された罪人なんだよ」
「なっ!」
「だからお前を殺してもなんとも思わないんだよ!」
「ブヒィ!」
渾身の一撃を糞豚野郎にお見舞いする。
見た目通りの鳴き声を吐いた糞野郎は殴り飛ばされた勢いで柱に激突して気絶した。
さすがに首謀者を殺すわけにはいかないからな。殴り飛ばすだけで許してやるよ。




