第四話 ホーツヨーレン王国
森の中で一夜を過ごしてから歩くこと一時間。
「ここら辺で一休みするか」
「賛成だ。お嬢様、大丈夫ですか?」
「ええ、なんだか探検しているみたいで楽しいわ」
「お嬢様……」
何気に図太い第二皇女だな。
「それでこれからどうするんだ?」
「近くに街か何かがあれば車を借りて国境を越えるんだが。そうも行かないしな」
「間違いなく検問所にも情報が回っているだろう」
「では他に道はないのですか?」
「あとはこそっり国境を越えるぐらいだな」
「お嬢様に犯罪を犯せと言うのか!」
「どうせ、お忍びなんだろ。だったら大丈夫だろ」
正直、早く国境を越えるならこの方法しかない。
「大丈夫なわけないだろ!どこの国も国境警備は厳重だ。見つかって撃ち殺されるのがオチだ!」
ま、そうだよな。
「となると、逆の発想しかないか」
「逆の発想ですか?」
「そうだ。今すぐ国境を越えるのはやめて。一ヶ月ほど身を隠す。そうなれば帝国は行方不明になったと知り捜索隊を出動させるだろう。それに敵も同じだ。今回みたいな派手な攻撃はおいそれと出来ないはずだ。自分が犯人であることがバレる可能性だってあるんだからな」
「確かにそれはあるが……」
「大きな問題がある」
「大きな問題ですか?」
「「相手が馬鹿な場合だ」」
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その頃、高級感漂うアンティークソファーに座る太った男は高級ワインを片手に秘書に問う。
「それで、小娘は殺せたのか?」
「いえ、どうやら失敗したもようです」
「フッン、運の良いやめ」
「どうら、護衛が二人いるようでして、その二人も並外れた力を持っており、差し向けた刺客3名が殺されております」
「小娘にそれだけの価値があると言う事か。なら殺すのは止めだ!捕まえて俺の前につれて来い。たっぷりと可愛がってやるわい」
「ですが、あの爆発で軍や警察、報道までもが目を光らせております。これ以上騒ぎを大きくしますと……」
「そのために上層部連中に金を払って動かぬようにしておるのだろうが!」
「ですが、これ以上は流石に拙いかと……」
「お前は、俺の命令に従っておればよいのだ!」
カッシャーン!
投げられたワイングラスは砕け散り、壁には赤い染みが出来あがる。
「それで小娘たちは今どこにいる?」
「警察が駆けつけたときには既に姿は無く、おそらく森の中に逃げ込んだのでは無いかと思われます」
「そうか。なら捜索隊を出せ。絶対に俺様の物にしてやるわい。グフフフフフッ!」
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「やはり危険だが、早く国境を越えるのが先決だろう」
「お嬢様に負担をかけてしまうが、それしかないか」
「ですが、国境を越えるとなると検問を通る必要があるのですよね?」
「そうだ」
「捕まるのでは?」
「だろうな。そこで1つだけ手がある」
「本当ですか!」
「ああ」
「その方法とはいったいなんだ?」
「それは成功してから教えてやるよ」
「今すぐ教えろ」
やはり堅物だな。
「シャルロット、黙って俺を信じてくれるか?」
「はい。ジンさんを信じます」
「皇女様が信じるとさ。側近よ、どうする?」
「くっ!卑怯者め」
卑怯であろうがなんであろうが、教えるわけにはいかない。それにしてもシャルロットよ。俺が言うのも変だが、昨日会ったばかりの人間を信じるのはどうかと思うぞ。
「それで街はあるのか?」
「この先にある。国境近くだから、それなりに賑わっていると聞く」
「そうか。なら俺とグレンダ二人で行ってくる。シャルロットは森の中で隠れていてくれ。一時間しても戻らないようだったら。俺たちは死んだものだと考えてくれ」
「待て!お嬢様を一人にするわけにはいかない!」
「大丈夫だ。銀もいる」
「たかが魔狼に何が出来る!」
そう言うと思ってたよ。
「銀、元の姿に戻って良いぞ」
「ガウッ!」
小型犬ぐらいだった銀は一瞬にして全長3メートルの巨大な狼へと変貌する。
「なっ!」
「これが銀の本当の姿だ。この姿だと目立つからな。小さくなって貰っているんだ。これでも文句はあるのか?」
「……分かった。ギン、お嬢様を必ずお守りしてくれ」
「ガウッ!」
それにしてもまた強くなっているな。魔物騒動の時に暴れたからか?
街近くの森まで3人で移動したあと俺とグレンダは街の中に溶け込む。
俺が最初に向かうのは銀行だ。今必要なのはお金だ。それもATMでは一気に下ろせない額が必要だ。
銀行に入り俺はお金を下ろす。初めてみる人が大金を下ろせば目立ってしまうが、仕方が無い。さっさ買い物をすませるとしよう。
「それで、何を買うんだ?」
「勿論車だ」
「確かに必要だな。だが、どうみても車を買うにしては下ろし過ぎだと思うが」
「ま、あとで必要だからな」
「?」
「それよりもグレンダは軍人だろ?」
「そうだ。実力を認められてお嬢様の側近をしているんだ」
別に自慢して欲しいわけじゃないんだが。
「なら車にも詳しいよな?」
「軍人が必ずしも車に詳しいとは限らないぞ」
「知らないのか?」
「私はこう見えても車やバイクが大好きだ」
知ってるじゃねぇか。でもそのスタイルでバイクに乗っている姿は似合うかもしれない。
「なら、任せた。もしもの時に頑丈で速い車を選んでくれ」
「任せろ」
んで、2000万RKはするスポーツカータイプの車を購入した俺たちはグレンダの運転で急いでシャルロットの許まで戻った。それにしてもハロルドのおっさん3000万も振り込んでくれているとは思わなかった。本当に感謝だな。
車で移動すること1時間。
「お嬢様、もう直ぐ検問です」
「そうですか。それは良かったです」
「だが、なんで私が運転なんだ」
「仕方がないだろ。俺免許持ってないんだから」
前世では一応持っていたが、こっちの世界で使えるわけも無い。それにきっと呪いで車も運転出来ないはずだ。
「それに、運転しているグレンダは格好良いぜ。な、シャルロット」
「はい。とても凛々しいです」
「そ、そうですか。お嬢様のためならどこまでも運転してみせますよ!」
予想通りチョロいな。
「それより検問だが、大丈夫なんだろうな」
「任せろ」
数分して検問の前までやってきた。
「パスポートを提示してください」
「ほい、3人分」
俺が変わりに渡す。因みにこの国の道路は全て右車線通行だ。少し逆走している気分だ。
「お、お前らは!」
検問官が俺たちに気がついた。やはり根回しされていたか。
「はい、ストップ。おじさん、少し良いか?」
「な、なんだ?」
どういう風に俺たちの事が伝えられたかしらないが、怯えているところから考えて脅迫犯罪者とでも言われてるんだろう。
「おじさん。ここの仕事始めてどれぐらい?」
「それがお前になんの関係がある?」
「良いから、教えてくれよ」
「10年目だ……」
「10年、随分と長いな。それで出世できた?」
「出世していたらこんな所にはいない」
だよな。
「なら、給料も安いんじゃないのか?」
「ああ、そうなんだよ。まともな就職したのは良いが安月給でな。家族を養うのも難しいんだ」
「家族が居るのか?」
「妻と娘が2人な」
「それは大変だな」
「そうなんだよ。もっと早く転職しておけば良かったんだが、もう30後半だしな」
「それは大変だな。そこでモノは相談なんだが。ここに1000万RKある」
「そんな馬鹿げた話があるわけないだろ」
「ほら」
鞄の中を見せる。
「本当だ……」
「俺たちを見逃してくれたら、これ全部やるよ」
「本当にか?」
「ああ。勿論汚い金じゃないから安心して構わないぜ」
「だが、俺は検問官として犯罪者を捕まえる義務が……」
やはり犯罪者に仕立てられていたか。ま、報道はされてなかったみたいだけど。
「今の安月給じゃ家族を養うのは厳しいんだろ。それに出世する可能性も低い。それならこのお金を受け取ったほうが懸命じゃないか?」
「そ、それは……」
「仕事と家族、どっちが大切なんだ?」
「家族だ」
「そうだろ。このお金が手に入れば。新しい服や家具。美味しいご飯だって食べさせられるぜ。想像してみろ。それを受け取って喜ぶ家族の顔を」
「妻と娘の喜ぶ顔……」
よし、考えてるな。
「どうする?早くしないと後ろの人たちに怪しまれるぞ」
「わ、分かった。見逃してやる」
「なら、パスポートとお金を交換だ」
「分かった」
「あ、それと今日の仕事が終わったら家族を連れて田舎にでも逃げた方が良いぞ。バレたら大変だろうからな」
「ああ、そうさせて貰うよ」
こうして俺たちは無事に国境を越えることに成功した。
「まさに悪魔の囁きだな」
「人聞きの悪いことを言うなよな」
「でも、相手の弱みに付け込むのはどうかと……」
「別に脅迫したわけじゃない。俺はここの通行許可を1000万RKで買っただけだ」
「それは賄賂と言うんだ」
「どうせ俺たちを殺そうとする政治家も賄賂や権力を使ってるんだ。少しぐらい真似したって罰は当たらねぇよ」
「だから私には言わなかったのか」
「そうだ。最初に言ったら反対しただろ?」
「当たり前だ。賄賂などあるまじき行為だぞ」
「だが、そのお陰で無事に国境を越えられたんだぞ」
「そ、それはそうだが……」
「終わりよければ全てよし。っとも言うしな」
「お嬢様、絶対にこの男の真似はしてはなりませんよ!悪に染まってしまいます!」
「まるで俺が悪者みていな言い方だな」
「みたいな。ではなく、そうじゃないか!」
酷い言われようだ。
国境を越えてテメル自由都市国家からホーツヨーレン王国にやってきた。
ホーツヨーレン王国は大陸でも二番目に大きな湖を持っている国で、その大きさはカスピ海の1.5倍。国土の3分の1を占める大きさだ。
特に湖で取れる魚介類が有名で今の時期の旬はアルフィッシュと呼ばれている魚だ。その魚を求めて各国から観光客が沢山来るらしい。これもイザベラに叩き込まれた知識だ。
んで国境を越えて2つ目の街で俺たちは食事をしていた。追っ手が来ている事も考えて念のために二つ目の街にしたが、正解だった。なんせ料理が美味しいからだ!
そう現在俺たちは旬のアルフィッシュを堪能していたからだ。
刺身にすれば白く輝き、焼けば油が弾ける。そして引き締まった身は噛めば噛むほど味が出てくる。なんて美味しさ。美味で仕方が無い!銀も嬉しそうに生と焼きを交互に食べている。
「それよりもなんで手で食べているんだ。行儀が悪いぞ」
「ま、色々と事情があるんだよ」
「手で食べなければならない事情か。それも本当かどうか」
「グレンダ。ジンさんには色々と助けて貰ってるんですから、そんな事を言ってはいけませんよ」
「それは、そうですが……」
やっぱりシャルロットは優しいな。イディオをぶっ飛ばして正解だったぜ。
「それでこの後はどうするんだ?」
「此処から西北に300キロ進んだ場所に空港がある。そこから飛行機に乗って帝国に行くつもりだ」
「なら、今日はどこかのホテルに泊まって明日の早朝にでも出発すれば昼には空港に到着だな」
「そのつもりだ」
食事を堪能した俺たちは近くのホテルに宿泊した。二部屋にするか、一部屋にするかで何故かグレンダとシャルロットが揉めたがグレンダが根負けして一部屋に決まった。
そこまで揉めることじゃいと思うが。
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その日の夜、ビルの一室では、
「なに!国境を越えただと!」
「は、はい!ホーツヨーレン王国にあるホテルにチェックインしている姿を目撃したと言う情報が入ってきております。調べたところ確かに国境検問所にて目標の3人が監視カメラに映っているのを確認しました」
「国境警備隊の連中は何をしてるんだ!」
「会話内容等は生憎とわかりません。しかし3人と話したと思われる隊員は仕事を終えてから姿が確認できておりません」
「どこまで俺様を怒らせば気が済むのだ!今すぐ追っ手をホーツヨーレン王国に向かわせるのだ!」
「で、ですがあそこは他国です!他国で問題を起こすわけには」
「このまま行けば俺様は終わりだ……つべこべ言わずさっさと追っ手を向かわせろ!」
「は、はい!」
「おのれ……まさかあんな小娘にあの現場を目撃されただけでなく証拠写真まで撮られるなど……今すぐにでも捕まえて俺様のペットにしてやる!」
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