第二話 脱出計画
「つまりこのままでは貴様も命を狙われるってことだな」
「そういう事だ」
「も、申し訳ありません!私のせいで……」
「シャルロットが気にするようなことじゃねぇよ」
「そうですお嬢様」
「ですが……」
ああ、駄目だ。優しい美少女は好きだ。だけどこうウジウジしているのを見ると腹が立つ。
「なぁ、シャルロット」
「何でしょうか?」
「なんで悲しんでいるんだ?」
「き、貴様何を言ってるんだ!心優しいお嬢様は自分のせいでと思い、心を痛めておられるのだぞ!」
「別にシャルロットの優しさは悪いとは言ってない。それに優しさは美徳だ」
「そ、そんな大したものでは……」
「いえ、お嬢様。コイツの言うとおりです!」
コイツ呼ばわりかよ。今はそんな事に苛立っている場合じゃないな。
「だけど弱点でもある」
「弱点……」
「貴様……」
「グレンダ……頼むから少し黙っていてくれないか?話が進まなくなるから。それに俺はシャルロットと話してるんだ」
「何故、私が貴様の指示に従わねば――っ!」
(なんだ、この異様な重圧感は。まるで見えない手に押さえ付けられようとしているような)
「なぁ、頼むよ」
「………分かった」
よし。
「さっきも言ったが、優しいことは悪いことじゃない。人が傷ついてのを見て悲しめるのは素晴らしいことだ。だけど、それは今すべきことじゃないはずだ。今すべき事はこの後どうするか。じゃないのか?」
「っ!まさにジンさんの言うとおりですね」
「いや、気づいてくれただけで俺は十分だ」
でないと対処に遅れるからな。
「さて、ここで取引といかないか?」
「と、取引ですか?」
「そうだ。俺も命を狙われる羽目になった。つまりはお前たちと一緒なわけだ。そこで俺をシャルロットの護衛の一人として雇って欲しい」
「なっ!貴様は何を!」
「勿論永遠にじゃない。シャルロットが目的を果たすまでの間だけで良い。そうすればグレンダの負担も減る。今日みたいにシャルロットを一人にする心配もない。どうだ?悪くない話だと思うが」
「………取引と仰いましたが、何が望みですか?」
「それを話すには、まず二人の素性を知る必要があるな」
「「っ!」」
俺の言葉にシャルロットは戸惑い、グレンダは警戒心を強くする。
「何故、私たちの素性が知りたいのですか?」
「限度を知りたいからさ。平民でありながらミドルネームがある貴族の護衛付き。それもお嬢様と呼ばれている。そんなシャルロットがどこまで出せるのか。知る必要はあるだろ?」
ジンの言葉にグレンダは自分がしでかしていた失態に今になって気がついた。
「そうですね。ではお話しましょう」
「お嬢様!」
「仕方がありません。私が巻き込んだのは事実。それにジンさんの実力は本物ですし」
「護衛なら私一人で十分です!」
「俺が居なかったらシャルロットは死んでたぞ」
「くっ!」
「それに護衛のアンタなら分かるはずだ。シャルロットの命と自分のプライド、どっちを優先すべきかぐらいは」
「………分かりました。お嬢様にお任せします。ただし少しでも変な動きをしてみろその命はないと思え」
「分かってるよ」
なんて恐ろしい女。ロイドと比べ物にならないな。
「では、お話しますね。私の本当の名前は、シャルロット・デューイ・ベルヘンス。ベルヘンス帝国の第二皇女です」
「え、マジで?」
「はい」
どこかのご令嬢だとは思っていたが、まさかベルヘンス帝国の第二皇女だったとは。予想外だ。
ベルヘンス帝国はテメル自由都市国家から北西に国を二つ挟んだ先にある国で大陸でも上位3位に入るほどの武力と国土面積を持つ国だ。因みにスヴェルニ王国とは接していない。
そんな国の第二皇女だと。未だに信じられない。
「で、その第二皇女がこの国になんのようなんだ?」
「実はスヴェルニ王国に用事があり向かっている途中だったのですが、急遽お父様、つまり皇帝陛下から帰ってくるようにと言われてたのですが、その帰路の途中で暗殺者に狙われる羽目に……」
急遽の帰還命令か。
「またなんでスヴェルニ王国に行こうとしてたんだ?」
「私はあまりテレビは見ないのでよくはご存知ないのですが、スヴェルニ王国の王子が犯罪を犯したとかで帰ってくることに」
それってイディオの事だよな。
「その犯罪を犯した王子とシャルロットとなんの関係が?」
「婚約する予定でした」
「な、なるほど……」
よかった。アイツをぶん殴って本当によかった。あ、でもこれって俺が政略結婚の予定を壊したってことになるんだよな。この事は黙っておこう。
「どうかされましたか?」
「いや、別に。それよりも暗殺者に狙われる理由は分かっているのか?」
「それは……」
「それには私が答えましょう。急遽帝国に帰還することになった翌日。一日だけ観光して帰国する予定だった私たちは最悪なことにこの国の政治家が裏取引をしている現場を目撃してしまったのです」
「で、命を狙われる羽目になったと」
「そういう事です」
まったくどの時代でも権力者の闇ってのはあるんだな。関りたくないもんだ。あ、もう関ってんのか。
「敵の暗殺者を見る限りあれは闇ギルドではなく、この国の兵士。つまりこの国から出れば追われることはないでしょう」
確かに国境を越えれば一安心だが。確実ではないな。だからと言って無闇に敵と親玉に近づく理由もないか。
「さて、最初に話に戻るぜ。シャルロット・デューイ・ベルヘンス第二皇女殿下。アンタを無事に国に帰国させた報酬はどこまで出せる?」
「お金が欲しいと言うのであれば、ある程度。爵位や地位が欲しいのであれば私がお父……皇帝陛下に掛け合って最低でも男爵の地位までは約束しましょう」
「生憎爵位や地位には興味が無いんだ。俺が欲しいのは冒険者として正式に活動できる資格。それとお金だ」
爵位なんか貰ってみろ、領地経営なんかする羽目になるかもしれないだろ。それに俺は国に仕えたいとも思ってないしな。
「分かりました。もしも私を無事に祖国へ帰還させた時はその願いを出来る限り叶えられるよう努力致します」
努力するか。王族であるからこそ簡単に返事はしない。心優しいだけの皇女様じゃないってことか。
「なら、さっさと作戦を決めてこの国を出るとするか」
「はい」
「そうですね」
まさかこの国に来た初日に国を出る計画を考える羽目になるなんて思わなかったな。
8月26日日曜日。
昨夜考えた作戦の準備を始めた。
まず、する事は変装である。
そのため必要な服、アクセサリーなどを俺とグレンダで買い集める。シャルロットは部屋で待機してもらっていた。敵の第一目標がシャルロットである以上無闇に外に出るのは危険だからだ。
一時間程して必要な物を買い集めた俺たちは変装する。
「準備は出来たな」
「私は大丈夫です」
「私もだ」
ホテルを出た俺たちはタクシーに乗って駅に向かった。
この国を出る方法は全部で三つ。電車、車、飛行機である。
政治家を敵にしているならこっそりと国を越えるのが最善かもしれないが、それでは密入国になってしまう。俺は別に構わないが、一国の皇女がするわけには行かないのだ。それに一般人が沢山いるところで暗殺をするのは難しい。ましてや俺とグレンダが護衛しているのだ。殺される可能性が低くなる。だから俺たちは電車で国境を越えることにした。
30分ほどして駅に到着した俺たちは10時45分発の寝台列車に乗った。
変装の道具を買う際に俺が用意したものだ。
急遽用意したため空いている席は少なかったが、安全を考えてスイートルームにした。
「すいません。私たちのためにこのような部屋を用意して頂いて、帰国したときに料金をしはらいますので」
別に気にすることないんだがな。
「お嬢様が寝るには物足りないが、状況が状況だからな。しかたがない」
なんでお前が一番偉そうなんだよ。
「ですが、このまま何事もなければ深夜には国境を越えられますね」
「そうだな」
正直嫌な予感しかしない。偶然にも空いていたスイートルーム。学生であれば夏休みの時期に空いているなんて不自然だ。絶対になにかある。
「一応、怪しい場所は確認したが盗聴器の類はなかった」
昨日の今日だからな盗聴器を仕掛ける時間が無かったとも考えられるな。
トントン。
「「「っ!」」」
突然のノックに全員身構える。
「俺が出よう」
「頼む」
ゆっくりとドアを開けるとそこには小太りの車掌が立っていた。
「申し訳ありませんが切符の拝見をさせて頂いて宜しいでしょうか?」
「ちょっと待っていてくれ」
周りには誰も居ないか。
「ご家族でご旅行ですか?」
「ああ、そうだ」
「そうですか。では、御緩りと御寛ぎ下さい」
車掌は切符を確認すると会釈してまた隣の部屋へと向かって行った。
「どうでしたか?」
「ただの車掌だった」
「そうですか……」
だがこの変装は完璧みたいだ。俺たちがどこからどう見ても家族に見えるみたいだからな。
「ん?」
「どうかしましたか?」
「なぁ、部屋の入り口からシャルロットの姿って見えないよな?」
「何を当然な事を」
角度からして車掌にはシャルロットの姿は見えないなのに家族旅行だと何故分かった?どうやら早くも敵の刺客が来たようだな。
「グレンダ、警戒を強めるぞ。どうやら敵の刺客もこの列車に乗っている」
「なに!」
「それは本当なのですか?」
「ああ、さっきの車掌が俺に向かって家族旅行ですか?って尋ねてきたからな」
「それがどうかしたのですか?」
「車掌からシャルロットの姿は見えない。普通俺とグレンダを見たら恋人だと思うのが普通だ。なのに家族旅行だとあの車掌は言った。それはつまり」
「もう一人居る事を知っていた」
「そういう事だ」
やはり罠だったか。きっと列車と飛行機には予め部屋数を少なくしていたんだろう。で、急遽購入した客を尾行し確認するって魂胆だったか。
「どうする今すぐ電車から飛び降りるか?」
「いや、それは最終手段だ。出来る限り対処すべきだ。ただ用意される料理は食べないことだ。睡眠薬や毒が入っている危険性もあるからな」
「そうだな」
「生憎この部屋にはトイレに風呂も完備されている。部屋から出なければ夜までは大丈夫だろう」
「夜は危険なのですか?」
「夜こそ暗殺者の時間帯だ。ましてやここは個室殺したところで駅に到着するまでは誰にも気づかれないだろう」
「そんな………」
まさかこんなに早く来るとは想像もしてなかったな。何気にこの国の暗部は優秀らしい。
「今から仮眠だ。シャルロットは気にせず寝ろ。俺とグレンダは交代で仮眠だ。夜は寝ずに警戒しないといけないからな」
「分かった。さ、シャルロットお嬢様、ベッドに横になりましょう」
「ですが……」
「今は少しでも寝ておけ。寝られないのなら目を瞑っておくだけでも違う。あとは俺とグレンダが見張っておくから心配するな」
「分かりました」
それでも不安が無くなるわけじゃない。震える声音で返事をしながらベッドに横になった。
「私が先に仮眠するが構わないな?」
「ああ、大丈夫だ」
「悪いが頼んだぞ」
「了解」
さて、念のために確認しておくか。
気配からして右の部屋には誰もいない。左には老夫婦か。で通路には客が5人。動きからして怪しい奴はいないな。
3時間交代で俺とグレンダは仮眠する。
夕方になり食事が運ばれてきた。
「どうしますか?」
「念のために確かめてみるとしよう」
「どうやってだ。毒を調べる機材などないぞ」
「それなら大丈夫だ。銀」
「ガウッ!」
「ギンがどうかしたのか?」
「銀の鼻を超の優れものだ。毒が入っているか入っていないかなんて匂いで分かる」
「だが、無臭の可能性だってあるんだぞ」
「無臭と言ったって微量の薬品の匂いがするものだ。それに人間の鼻では無理でも銀なら余裕だ。頼んだぞ」
「ガウッ!」
クンクン、クンクン。
「どうだ?」
銀は戻ってくると首を横に振った。
「やはり毒入りか」
「そんな……」
「信じられない」
「なら、グレンダが毒見するか?」
「うっ……」
そう、それで良いんだよ。わざわざ自分から藪を突く必要はないんだ。
「だが、少しは食べておかないともしもの時に動けないぞ」
「それに関しては大丈夫だ。ほら」
「「っ!」」
アイテムボックスから俺はコンビニで買っておいた弁当やおにぎりなどを出す。んで、どうしてシャルロットたちはそんなアホ面してるんだ?
「今、どこから出した?」
「どこってアイテムボックスから」
「まさか迷い人なのですか?」
しまった。アイテムボックスを持っている人間は殆どいないんだったな。持っている人間の大半が迷い人か送り人のどちらかだったな。だからイザベラにも他人の前で無闇に使うなって言われていたんだった。
「違うぞ。俺は偶然持って生まれただけだ」
「そうなのですか」
ふぅ危なかった。人を疑う事を知らない美少女で助かったぜ。
「…………」
もう一人の美女には怪しまれているけど。
二人を驚かせてしまったが、俺たちは夕食を食べて夜に備える。




