第七十六話 脱走
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「どうしてなの。今のはどう考えても罪状とは別のもの。裁判官も弁護士もどうして何も言わないのよ!」
「きっとイディオ王子の差し金だろう」
「それってつまり……」
「ああ、あの場にジン君の味方は居ない」
「そんな……」
こんなの不正裁判だわ。でもどうしてジンは自分が不利になることを言うのよ!なにが狙いなの!
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はぁ、あれから20分が過ぎた。なのに裁判が終わる気配がない。いったい何がしたいんだ。
「それでは次の質問で――」
「なぁ、もうやめないか?」
「被告人は無断で喋らないで下さい」
知るかよそんなこと。
「俺は罪状を認めたんだ。あそこに居るクズを蹴り飛ばした。事実だって言ってるし、あの場にはそれを目撃した生徒が何百人と居るんだ。だったらこんなまどろっこしいことする必要はないだろ。さっさと判決出してくれよ。取調べでこっちは寝不足なんだから、俺としてはさっさと牢屋で寝たいんだよ」
「君はいっさい反省していないようだな」
「あたりまえだろ」
「くっ!裁判長、見ての通り彼は王族に暴力行為を働いたにも拘らず反省しておりません。よって私は被告人を死刑にするべきだと意見いたします!」
反省しようがしまいが、死刑にするつもりだったくせに。で、弁護士も何も言わないと。予想はしていたがやっぱりと言うべきだな。
そのあとも面倒なことに話が続いた。
「それでは最後に被告人は今回の事件についてなにか言いたいことはありますか?」
言いたいことか。
「さっさと牢屋に戻って寝たい」
俺の言葉にイディオを含めた俺の敵は全員が怒気を膨らませていた。
「これより被告人に判決を言い渡す。被告、オニガワラ・ジン。国家反逆罪で死刑とする!これにて閉廷」
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「そ、そんな……こんなのおかしいわ」
「普通なら判決時期を言って終わりだ。なのにそれを飛ばして判決を言うとはそうとう手切れ金を貰ったみたいだな。あの裁判官」
「なら、訴えれば!」
「それは無理だ。証拠がない」
「くッ!」
誰もが悔しくて堪らなかった。こんな不正裁判が罷り通るなんて。この国はおかしいわ!
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「思い知ったか!王族に手を出せばどうなるか!あの世で後悔するんだな!」
裁判所から出て行こうとする俺に嬉しそうに言い放ってくる。こんな奴が王族なんて世も末だな。
「だが、ある意味ラッキーだよな」
「何がラッキーなんだ?」
「だってそうだろ?今すぐお前を殺したところで罪が重たくなることはない。だって一番重たい死刑なんだからな!」
「ひぃ!」
俺の脅しに腰を抜かす。所詮は権力で踏ん反り返ってるだけの奴かよ。これならまだ学園で決闘を挑んできた奴等のほうが見所があったな。
「さっさと来い!」
「へいへい」
手錠されて俺は牢屋へと戻っていった。さて寝るぞ!
牢屋に戻った俺に死刑執行日がさっそく伝えられた。あのクズ野郎がやりそうな事だな。
執行日は一週間後の8月18日土曜日となった。思いのほか遅いがま良いや。その間イザベラたちの訓練を手伝う必要もないしな。
次の日、俺は面会する事になった。それにしてもこれまた大勢だな。ハロルドのおっさんたち以外の奴等がきてるんじゃないのか?てか、よくこれだけの人数が入れたな。普通一人か二人だと思ったんだが。
「まさかこんな形で話すなるとは思わなかったぜ。人生何が起こるか分かったもんじゃないな」
「なにヘラヘラしてるのよ!貴方、死刑されるのよ!」
「それは今日じゃない、一週間後だ。まだ一週間も自堕落な生活がおくれる。ま、イザベラの家に比べたらベッドは固いし飯は不味いけどな。ま、お前等の訓練の相手しなくてすむから楽だけどな」
「何を馬鹿なことを言ってるのよ……」
「ジュリアスたちも数日ぶりだな。まさか次話すのが面会室になるなんて思わなかっただろ?」
「あたりまえだ馬鹿者!」
「そう怒るなよ。ま、殴られないから怖くないけどな」
でも睨まれるとやっぱり怖いな。
「で、何しにきたんだ?」
すっかり本題を忘れていた。
「ジン、私たちは諦めてないわよ。必ず恩を返してみせるから。それだけよ」
「お、おい!」
俺の返事ぐらい聞いていけよ。まったく。
8月13日。つまり次の日。またしても面会者がやってきた。俺ってこんなに人気者だったか?
面会室に入るとそこには真壁が居た。
「お前が来るなんて思わなかったぞ」
「君に聞きたいことがある」
「俺に?」
「どうして君はあの時、行動できたんだ?」
あの時ってのは懇親会のことだよな。
「僕はあの時なにも出来なかった。正義の為にって言いながら僕は何も出来なかった!」
「法律を守ることは正義だろ?ならお前は間違ってないだろ」
「それはそうだが!でもあれはどう見ても正義は君にあった」
正義か。俺にはどうでもいい事だ。
「教えてくれ、どうして動けたんだ!」
「お前はよく口にしてたよな。正義の為に戦うって」
「そうだ……」
「だけど、お前も体験したように正義であるはず法律に守られ平然と悪行を行う奴がいる」
「………」
「お前にとっては難しい難題なのかもしれないが俺にはどうでも良いことだ」
「どうでも良いだって君には正義感はないのか!」
「無いな」
「なっ!」
「自ら他人を傷つけたりするつもりはないけどな。そして俺にとって大切なのは正義だの悪だのじゃない。大切な友人が傷ついていたら俺は助ける。友人を殴っている奴がいるならそいつを殴り飛ばす。そこに法律なんて関係ない。俺がそうしたいからそうしてるだけだ。だから俺に答えを求めるな。お前自身がどうしたいのかだ」
「僕がどうしたいか」
「そうだ。法律とか一旦忘れて自分がしたいことをすればいい。それだけだ」
「分かった。良い事を聞けた」
「そうか。あ、それと自分の考えや意見を口にするのは良いが、押し付けたりするなよ。中にはお前の正義感が鬱陶しいって思うやつらだっているだろうからな」
「君は鬱陶しかったのか?」
「さあ、どうだろうな」
話し終わった俺はさっさと牢屋に戻る。
時は流れて8月16日になった。
またしても面会者がやってきた。ましてや面会開始時間の8時丁度にくるなんていったいどこの馬鹿だよ。
面会室に行くとそこにはロイドが一人でいた。お前かよ。
「お前がくるなんて、明日槍でもふるんじゃないのか?」
「………」
何も言い返してこない。
「なにがあった?」
嫌な予感がする。こいつがこんな顔で俺の前にくるなんて相当な事だ。
「イザベラお嬢様が今朝から見当たらないんだ」
「なに!」
信じられない事に俺は思わず立ち上がった。
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私は寝室で考え込んでいた。
面会室でジンと話したけどいつも通りあっけらかんとしていた。一週間後に処刑されるって言うのに。どうして……いえ、命の危機なんてジンにはあたりまえなのよね。あの島で5年間も過ごしてたんだから。
でも、私は平気じゃない。まだちゃんと謝ってない。お礼も言えてない。あの場で言ってもよかったけど。ガラス越しじゃなくて、ちゃんと言いたい。だからなんとしても助ける。
でもその助ける手段が全然思いつかない。
あれから数日が過ぎたって言うのに!何が神童よ!命の恩人を、何度も助けてくれた友人を救えないで何が学園最強よ!
リリリリィン!
突然スマホに着信が入る。こんな時に誰よ。
「知らない番号」
いったい誰からなのか分からない。だけど出ないといけない気がした。
「……もしもし」
「やぁ、イザベラ。元気にしてるかぁ」
「イディオ殿下!」
なんで彼から電話が掛かってくるのよ。いえ、それよりも。
「どうして私の電話番号を知っているのですか?」
「王族である俺が調べられないわけないだろ」
また誰かを脅して無理やり調べたのね。昔から変わらない。ほんと反吐が出そう。
「それで私に何か御用ですか?」
「単刀直入に言うぜ。オニガワラ・ジンを助けたくないか?」
「っ!」
「俺が許してやれば死刑されることはない。ま、それでも刑務所で何年かは過ごして貰わないとならないだろうがな。勿論交換条件付きだけどな」
「その条件と言うのは?」
「俺の物になれ。そうすればあの男は助けてやる」
イディオらしいクズな発想。分かりやすく、単純。ほんと怒りしか沸いて来ない。
「それでどうする?」
「………」
「言っておくが俺は気が短いんだ」
「………」
「なら、処刑で――」
「分かりました」
「へへへっ。ああ、それで良い。なら今から言う場所に朝の5時に来い。勿論一人で来いよ。それと電話が終わったらスマホは壊しておけよ。場所は――だ」
「分かりました」
「待ってるぜ。俺の可愛い可愛いイザベラちゃん」
「っ!」
その言葉を最後に通話は終わった。これほど吐き気と寒気が襲ったのは初めて。ジンと戦ったときとは別の感覚。気持ち悪い。生理的に受け付けない。まさにその言葉の通りね。
「それでも私は行かないといけない。ジンを助けるために」
スマホを壊した私はベッドに寝そべる。怖い。それでも怖い。誰かの為に身を犠牲にしてようとしている。魔物と戦う時とは違う恐怖。ジン、貴方は怖くなかったの?
今の時間は深夜の3時10分。この時間帯では電車は動いていない。となると車か自転車になるけど、車は運転できないしセバスに頼むわけにはいかない。自転車はそもそも持ってない。となると徒歩。走れば一時間半で到着する距離。
なら、それまでに出来ることだけしておきましょ。
私はベッドから起き上がりクローゼットを開ける。出来るだけ目立たない服。暗闇でも怪しまれないような。
準備を終えた私はバレないように屋敷を抜け出した。今からだとギリギリね。
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駄目だ。ここで怒鳴っても何にもならない。冷静に……冷静にだ。
「どうして居なくなったんだ?」
「分からない。ただ部屋に入ってみればスマホが壊されていた」
「スマホが」
となると誰かと話していたと考えるのが普通だだよな。スマホで話して誰にも言わずに屋敷を抜け出したんだ。そんな事をするような奴じゃないイザベラは。それなのにそうしなければならなかった相手。そんなの一人に決まってる。
「あの野郎……」
どこまでクズ野郎なんだ。あの島でも居なかったぜ。
そもそも何でイザベラは俺のためにそこまでする。普通どおりに話せるようになったとは言え、あの時の事を許して貰った訳じゃない。なのにどうして?
その時、ふと頭に数日前の言葉が蘇った。
『ジン、私たちは諦めてないわよ。必ず恩を返してみせるから。それだけよ』
恩返し……まさか!
「おい、ロイド。全て知っているのか?」
「何をだ?」
「数週間前の魔物騒動の事だ」
「………全てハロルド様から聞かされた。そしてそれを知ったイザベラお嬢様は後悔して泣き崩れていた。俺も同じ気持ちだ」
「なるほど……そう言う事か」
馬鹿が!なんであの時、気づかなかった!恩返し。その言葉で気づいていればこんな事には!いや、後悔している場合じゃない。今、すべき事は決まっている。
「どうした?話はオわ――」
見張りの警官を気絶させ奪った鍵で手錠を外す。これで自由に動けるな。
「お前は何を考えてるんだ!」
「ロイド、下がれ」
「何を言ってるんだ!こんな事をすれば」
「良いから、下がれ。怪我するぞ」
「おい、まさか!」
「おらっ!」
ガシャーン!!
俺は拳で強化ガラスを粉砕する。ロイドにはあたってないな。
「これでよし」
「なにが良しだ!お前まさか脱走するつもりか!」
「正解!」
「そんな事をすればお前は!」
「既に死刑宣告された身だ。死ぬのが早くなるか遅くなるかの違いだ」
「おまえ……」
「今のは何の騒ぎだ!なっ、これは!」
あらあら、今の音を聞いて警官たちが集まってきやがった。それなら俺はこうするぜ。
「おっと動くなよ。少しでも動いたらこいつの命はないぜ」
「うっ!」
「ロイド様!」
ロイドの首に手を回して軽く首を絞める。
「なんて下劣な」
「悪いな。少し野暮用が出来たんだ。殺されるのはその後にしてくれ」
ドオオオオォォ!!
「じゃあな」
壁を蹴り壊した俺はロイドをつれて脱走した。




