第七十三話 懇親会
渋々カフェに入り俺とレオリオはそれぞれ飲み物だけを頼み、ジュリアス、エミリア、フェリシティーはパフェやケーキなどを美味しそうに食べていた。
「それにしてもいきなりジン君からメールが来たときは驚いたよ。まさか王都に居るなんて思わなかったもん」
「確かにそうですね」
「イザベラ様の付き添いで来たのか?」
「いや、明後日に個人戦、団体戦の学園代表者が集まって懇親会を行うらしい。場所は王宮の一室で行われるそうだが」
「本当に!羨ましいな~」
「そう言えば、前回もあったと聞いたな。そうかもうそんな時期か」
どうやらジュリアスは懇親会の事を知っていたらしい。
「そういう事なら、ジン気をつけろよ」
「どうしてだ?」
「さっきも言ったが既に貴族、冒険者の間ではお前の話題で持ちきりだ。そんな奴が懇親会に出てくるとなれば間違いなくお前の事を知ろうと近づいてくるものもいるだろう。最悪喧嘩を売られる可能性だってある」
「だが出席するのは代表の生徒だぞ」
「両親に言われて勧誘や品定めをしてくると言ってるんだ」
ああ、そういう事ね。
「だけど、喧嘩を売るような奴がいるのか?自分が通う学園や家の恥晒しになるぞ」
「それを覚悟の上でやってくると言ってるんだ。だいたい大半の選手が貴族や冒険者家系だ。喧嘩を売ったところで全員が力量を測りに来たと思うだろうから、そこまで恥晒しにはならないだろう」
「マジか」
面倒な事になりそうだ。
「出席を拒否するって考えは……」
「無しだ」
「ですよねー」
なら飯だけ食べてこっそり部屋を抜け出すか。
「言っておくが王宮内をうろつくような事はするなよ。そっちの方が学園の恥になるんだからな」
「わ、分かってるよ」
同じ学園の奴に抜け道を潰されるなんてどんな脱出ゲームだよ。
なら、最初から出席を辞退するか。
「辞退なんてもっての他だ」
「お前はエスパーか!」
「怠惰の化身であるジンの考えそうな事なんてだいたい予想がつく」
「そうかよ」
その後は雑談を一時間ほどして、エミリアに街を案内してもらって解散した。
屋敷の扉を開けると、またしてもイザベラと出くわした。最近よくバッタリ会うな。同じ屋敷に住んでいるんだから当然か。でもロイドたちよりも頻繁に会っている気がする。
「どこか出かけていたの?」
「ジュリアスたちとお茶してきただけだ」
「なるほどね。それでジュリアス君たちは元気だった?」
「ああ、元気だったぜ。暑いのに訓練や家の手伝いがよく出来るなって思ったほどだ」
「ジンはジュリアス君たちを見習うべきね」
「見習ったら冒険者になる必要がねぇだろ」
「その考えはおかしいわよ」
「そうか?」
ま、個性と一緒で考えも人それぞれだし構わないだろ。
「もう直ぐ夕食だから遅れないようにね」
「ああ」
8月8日水曜日、午後6時50分。
あれから時間が過ぎ、懇親会の日がやってきた。
始まる時間は午後7時から。
王宮にある舞踏会用の一室で行われ、既に学園、学院、学校等の全24の代表選手が学校の制服姿で集まっていた。
個人戦、団体戦の選手が集まっているため400人以上は居るだろう。ある意味壮観だな。
だけど。いや、やはりと言うべきだろう。噂を耳にした他校の代表者の視線が集中して鬱陶しい。それに俺以外の学園代表メンバーも有名人のためか、これまた目立つ。既にコソコソ話してるし。
俺としてはさっさと始めて欲しい。そうすればこの美味しそうな料理を堪能できるって言うのに。因みに懇親会は毎回立食形式で行われるらしい。そっちの方が他校と会話も出来るからだそうだ。言わばこの懇親会は二学期に行われる武闘大会のための視察と卒業後のパイプ作りと言う訳か。
サラリーマンだったころ俺もよく上司に言われて色んな会社のお偉いさんに挨拶したな。さっさと帰って録画したアニメが見たいって思ってたけど。
あ、それと飼っている魔物や動物を持ち込むことは禁止されているため、銀には悪いがお留守番して貰っている。最初は悲しそうだったがリリーが相手してくれているから大丈夫だろう。
「皆様静粛に」
突如、会場の明かりが消えて壇上のみが照らされる。
「これより各代表選手同士の懇親会を始めたいと思います。それでは最初にスヴェルニ王国第一王子、ルアル・レイ・スヴェルニ殿下に開会式の挨拶をして頂きましょう」
タキシード姿の司会者の言葉で壇上中央にこれまた金髪碧眼の男性が登場する。
それと同時に拍手が一室に響き渡る。これまた随分とイケメンだな。年齢にすれば27、8歳と言ったところか。
「各校の個人戦、団体戦を勝ち抜きよくここまで辿り着いた事を賞賛したいと思う。おめでとう。この中には個人戦、団体戦両方に出場する生徒もいるだろう。だからと言ってここに居る全ての者を侮ってはいけない。それだけは肝に銘じて欲しい。そして9月20日に行われる武闘大会本戦での君たちの活躍を国王陛下と共に楽しみにしている。私からの言葉は以上だ」
軽く会釈をしたルアル王子は壇上をあとにした。
「それでは皆様、短い一時ではありますが懇親会をお楽しみ下さい」
司会者の言葉と同時に始まった。よし、さっそく食べまくるぞ。
「待ちなさい」
そんな俺をイザベラが止める。
「なんだよ。せっかく楽しみにしてたんだから邪魔するなよ」
「はぁ、並べられている料理を手で取るつもりでしょ」
「それしか方法が無いからな」
「そんな事をすれば学園の品に関わるわ。ロイド悪いんだけど適当にジンの好きそうな物を持ってきてくれる」
「しかし……」
そんな嫌そうな顔をするなよ。俺としてはロイドをこき使えるから嬉しいけど。
「今はあの時の事は忘れなさい。それよりも今は学園の品を守ることよ」
「分かりました」
「毒なんか入れるなよ」
「入れるか!」
そう言ってロイドは料理を取りに行った。その間俺はジュースでも飲んでるか。
この場にいる大半の生徒が成人しているが、それでも未成年はいる。そのためウェイターが運ぶ飲むものは、ジュースやお茶、水などのノンアルコールなのだ。まったくこういう時ぐらい民主主義的に多い人数を優先するだろ普通。
「お酒が飲みたいんでしょうけど我慢しなさい」
「分かってるよ」
壁際でイザベラと二人で話す。
因みにアンドレアやオスカーたちは他校の貴族の息子や令嬢と話している。アイリスはいつの間にか居なくなっていたし、他の団体戦代表者はどこかに居るだろう。
「それでイザベラは他校の生徒と話しに行かないのか?」
「そうしたいけど、貴方を放って置く訳にはいかないでしょ。何をしでかすか」
酷いな。俺ってそんなに信頼されてないのね。
「ロイドが戻ってきたら話に行けば良いだろ?」
「私も最初はそう考えたけど貴方と二人にすると喧嘩しそうだし、なによりロイドが一人にしてくれるとは思えないわ」
「王宮の中なんだから危険はないと思うが」
「知ってるでしょ、ロイドの真面目さを。一年生の時、休み時間にトイレの前で待機された時は羞恥で次からは行けなかったわ」
「ああ………それはご愁傷様」
ロイドよ、それは真面目すぎると言うよりも、融通が利かな過ぎだろ。
お、ロイドが戻ってきたみたいだな。
「ほら、持ってきてやったぞ」
「毒入りじゃないだろうな」
「入れるわけないだろうが」
「そうだよな。疑って悪かった」
「分かれば良い」
まったくそんなに怒ると眉間に皺ができるぞ。
「イザベラ、これ食べないか?」
「どうして私に勧めるの?」
「いや、毒が入っていないかと思ってな」
「つまり私に毒見をしろと?」
「そう言う事だ」
「死にたいの?」
「じょ、冗談です」
あれほど強いガンを飛ばされたのは初めてだ。思わずチビりそうになったぜ。
ロイドが取ってきてくれた料理の大半はおにぎりやサンドイッチなどだった。俺の呪いの事を考えて選んだんだろうな。まったく素直じゃないな。うん、予想していた通り王宮の料理人が作る料理は格別だな。イザベラの屋敷の料理長にも負けてないぜ。
「少し宜しいでしょうか?」
「ん?」
料理を堪能していると俺たちの前に女子生徒が話しかけてくる。
黒色の長髪と目。整った顔立ち。
「初めまして。私は土御門蓮華と申します」
何より名前。間違いない。コイツは迷い人か送り人だ。
「俺は鬼瓦仁だ」
「ジン殿ですね。覚えておきます」
なんて言うかまさに大和撫子って感じの人だな。お淑やかで優しそうだが、逆に何を考えているのかまったく分からないから怖いな。
「イザベラ様もお久しぶりでございます」
「久しぶりね、レンカ」
「そう言えば二人は一度闘った事があるんだったな」
「はい。前回の武闘大会準決勝で相対しましたわ。結果は私の敗北で終わりましたけど」
「そんな事無いわ。正直貴方の魔法には手を焼かされたもの」
「神童と謳われるイザベラ様にそう言っていただいて光栄ですわ」
あ、女狐だ。絶対そうだ。
「謙遜しなくても良いわよ。実際事実だもの」
イザベラもそれが分かってるって感じだな。
「で、そんなイザベラ様を倒したジン殿。実に興味深いですわね」
「勝ったと言ってもギリギリだったけどな」
「ご謙遜を。同世代で一度も負け知らずだったイザベラ様に初めて黒星を付けた殿方ですよ。興味を持って当然ですわ」
間違いない女狐だ。そしてイザベラよ、よく堪えてるな。
「きっと貴方もジンには勝てないわよ。なんせ私が負けた相手だもの」
「そうかもしれませんわね。ウフフ」
「フフフ」
怖い。マジで怖い!女の戦いってこんなに怖いものなの!
「なぁ、ロイド」
「なんだ?」
「あの二人って仲が悪いのか?」
「いや、そんな事はない。と思う。きっとだが、大会前だから警戒しているだけだと思う」
「それにしては怖いんだが」
「そこは我慢だ」
俺にとって一番難しいことを。
「食べ終わったから何か飲み物取ってくるぜ」
「貴様、俺に任せるつもりか!」
「お前はイザベラの護衛だろうが!」
「くっ!」
俺はこの場から逃げるようにして飲み物を探しに行った。危なかった。あの場に居たら間違いなく巻き込まれていた。俺の勘がそう告げている。
「あら、ジンさん。イザベラ様と一緒にいらしたのでは?」
「アンドレアか。いや、少し面倒な事になりそうだったから逃げてきた」
「面倒なこと?」
「まあ、それは置いといて何を食べてるんだ?」
「ケーキですわ」
ケーキにしては随分可愛らしいケーキだな。ま、立食パーティーだから当たり前か。
「一つどうです?」
「良いのか?」
「ええ、構いませんわ」
皿のを一つ掴んで口に放り込む。うん、美味しい。肉ばっかりだったからちょうど良いな。
「どうです?」
「ああ、おいしか――」
バンッ!
物凄い音を響きあせながら突如扉が開かれた。いったい何事だ?
「へへっ、本当にやってるぜ。偶然聞いて来てみたがちょうど良いや」
俺たちと同世代の金髪のイケメンが出てきたが、どこか傲慢というか下卑た笑みを浮かべていた。って言うかなんで唇にまでピアスしてんだ、あの男は。面倒ごとになりそうな気がするな。
「あの方は!」
「知っているのか?」
「この場で知らないのは誰も居ませんわ」
いや、俺が居るんだが。
「あの方の名前はイディオ・フェル・スヴェルニ。この国の第三王子ですわ。あまり良い噂は聞きませんが」
つまりは悪いことばかりしてるってわけね。
「どんな噂があるんだ?」
「自分が王族であることを良い事に権力を振りかざして女を食い物にしてるとか。従わない相手には暴力も平気でするって聞きますわ」
まるで金持ちのボンボンみたいな奴だな。てか、無理やりって強姦だよな?
「まさに女の敵だな」
「そうですわね。そしてイザベラ様の婿候補の一人でもありましたわ」
「マジで!」
よく候補者に入れたな。
「ま、イザベラ様に一瞬で倒されましたけど」
「強くないのか?」
「第三王子は王族の中でも才能に恵まれなかった方ですわ。それでも魔力は常人以上で、属性も二属性持ちですわ」
いや、普通に才能あるじゃん。でも王族の中では駄目なのか。それならグレる可能性もあるな。




