第六十一話 一学期終了!
昨日とはまるで別人かと思うほど闘志を燃やす女性陣と少し腑抜けた男性人を目の前に模擬戦が行われた。
結果だけ言えば俺の勝ちだ。ま、当たり前だよな。昨日よりヤル気が感じられない男性人が大半だったんだからな。ま、その結果、女性陣に思いっきり叱られているわけだが。勿論俺はそれを見て笑っているわけだ。
「貴方たち真面目に訓練するきがありますの!」
「コスプレをすることになったじゃない!」
なんて哀れなんだ。だが分かるぞその気持ち。男ならどうしてもみたいよな!だが、俺はそれに同情して助けたりなどしない。逆に傷口に塩を塗るのだ!それでこそ罰ゲームマスターだ!
「因みに闘った相手として言わせて貰えば昨日と変らず真面目に戦っていたのはオスカーとジュリアスだけだな」
「ロイド、どう言うことかしら?」
「お嬢様、誤解です!今の言葉は全て奴の虚言です!」
「だが僅かでも女子のコスプレ姿が見たいと思ったんじゃないのか?」
「そ、それは……」
「ロイドォ~」
「も、申し訳ありません!」
「まったくムッツリスケベはこれだから困るよな」
「誰がムッツリスケベだ!」
「なら、チェリーボーイか?」
「チェッ、チェリーボーイだと!」
そこまで反応しなくても良いだろうに。
「ま、ロイドを弄るのはこのぐらいにして女性陣はさっそく更衣室で着替えて来てくれたまえ」
「仕方がないわね……」
「屈辱ですわ」
「でもどんな衣装なのかちょっと楽しみでもあるわね」
女性陣は憂鬱な後姿を見送りながら俺たちはその時まで待つのであった。
待つこと20分。
俺たちの前に女神たちが光臨した。
『おおおおおおおおおぉぉ!!』
堂々としてるのはメリッサのみ。それ以外は恥じらいを隠し切れずに顔を赤くしていた。
因みに衣装はバニーガール、面積の少ない水着、巫女、ビキニアーマー、魔法少女、ナース、ブルマ、ゴスロリ、ボンテージと様々。この世界が現代と同じ発展をしていて良かったと初めて思った。
カシャッ、カシャッ、カシャッ!
「ちょっ!ジン、なに撮ってるのよ!」
「いや、記念に」
「何が記念よ!」
「それに俺は触らないとは言ったが、撮らないとは一言も言ってないぞ」
「くっ!」
やはりこの学園のレベルは高いな!凄い迫力だ。
少し離れていたところで見ていたジュリアスにこっそり近づいて話しかける。
「(男装していてよかったな)」
「(私も初めてそう思ったよ)」
皮肉で言ったつもりが真面目に返ってきてしまった。それだけ安堵しているってことか。
それから一時間が過ぎ女性陣は急いで着替えに戻っていった。
「これはトラウマだわ」
「最悪ですわ……」
凄い落ち込みようだな。そこまで嫌だったのか。可愛かったのに。
「でも、一応救済処置も用意してたんだがな」
『え?』
その言葉に女性陣の視線が集まる。
「俺は一時間コスプレして過ごすこと。とは言ったが、場所までは指定しなかったからな。着替えて更衣室内で一時間過ごせば俺たちに見せる必要は無かったんだ」
ま、そこまでは恥ずかしさで頭が回らなかったんだろうけど。
「って凄い形相でこっちを睨むなよ」
「誰のせいだと思ってるのよ」
「お前等が負けたせいだろ。俺は卑怯な手は使ってないぞ」
「ロイドたちを誘惑してたじゃない!」
「それはロイドたちの意思が弱かったせいだろ!それに男子たちへの罰ゲームは終わってないんだ。だから攻撃するなよ!」
「………分かってるわよ。負けた私たちが悪いんだってね」
何気に冷静な部分はあるようでホッとしました。
「で、男子たちへの罰ゲームだが………女子たちに任せる」
『え?』
「今回の敗因は敵に誘惑された男子たちが原因だ。だから10分間だけ好きなようにする事を許可する。殴るなり蹴るなり好きにして良いぞ」
「それは魅力的な罰ゲームね」
「そうですわね」
「少しは反省してもらわないと困ります」
修羅と化した女子たちによって男子たちは死屍累々と化した。南無。
でも昨日と今日である程度だが色々と分かってきた。やはりプロではないせいか精神面に不安が残る。ちょっとした事で心が揺さぶられてしまい、それが原因で連携の動きも悪くなっていたしな。
やはり力があっても経験が少ないな。
ま、そのことを教えてやるほど俺は優しくないけどな。
あれから月日が流れ終業式を迎えた。
因みに期末テストの成績が返ってきたのはその前の日だ。え?順位はって。冒険科4年生、600人の中では562位だ。赤点は免れたが流石に危なかった。もしも赤点なんて取った日にはイザベラとジュリアスに殺されるところだったからな。それと短期特訓は一度も負けませんでした。ま、最終日の模擬戦だけ2.1%出しちゃったけど。それはイザベラたちがここの力を上げ、改良し、それにあった戦術や戦略を考え、実行できるまで反復練習を行った結果だ。だから俺としては嬉しく思った。ま、イザベラたちはそれでも勝てなかったことに落ち込んでいたようだが、大丈夫だろう。
教壇に立つエレイン先生の話を聞き流しているとチャイムがなった。
「時間ね。それでは皆さん有意義な夏休みを送ってくださいね」
こうして一学期が終了した。
つまり俺は一ヶ月間の自由を手にしたのだ。夏休みの宿題は2年生までしかないらしい。それはつまりパラダイスを手にしたと言っても過言ではない!ビバッ、夏休み!
「ジン、また夏休み明けに会おうぜ」
「そうだな」
「ジン君、バイバイ」
「また夏休み明けにお会いしましょう」
「二人も二学期な」
教室を後にした俺は廊下を歩いていると頂上ジュリアスと出くわす。
「よ、ジュリアス」
「ジン、もう帰るのか?」
「ああ。玄関で待ち合わせだ」
「そうか」
落ち込んでいるわけじゃない。だが何かを考えているようではあった。
「ジュリアスも今日帰るんだろ?」
「そうだ。北地区に実家があるからな」
「そうか。なら次会えるのは二学期だな」
「そ、そうだな」
やはりいつもとは様子がおかしいような。
「どうかしたのか?」
「どうしてだ?」
「いつもと様子が違うと思ったからな」
「よく見ているな」
「別に洞察力があるわけじゃないぞ。ジュリアスは感情が表に出やすいからな。きっと誰だって気づくとおもうぞ」
「そ、そうか。今後は気をつけないとな」
「それでどうかしたのか?」
「………ありがとう」
「おいおい、急にどうしたんだ?」
ジュリアスらしくない態度。ちょっと不気味だ。なにかあるのか?まさか罰ゲームの仕返しか!いや、ジュリアスに限ってそんな事はしないか。
「この4ヶ月はこれまでの学園生活のなかで一番楽しかった。それは全てジン、お前のお陰だ」
思い出を振り返るように笑みを浮かべるジュリアス。やはりいつもと様子がおかしい。
「だからちゃんとお礼を言いたかったんだ」
「別にお礼を言われるような事はした覚えがないんだがな」
「そんなことはない。お前は無自覚かもしれないが私はそれで救われた。だから本当にありがとう」
「その気持ちだけは素直に受け取っておくよ」
まったく平然とそんな事が言えるな。聞いているほうが恥ずかしくなる。若いって凄いな。まさに青春だ。
「それじゃまた二学期にな」
「そうだな。ギンもまたな」
「ガウッ!」
ジュリアスと別れた俺は靴を履き替えて外に出ると既にイザベラたちが待っていた。
「遅い!12秒の遅れだぞ!」
「一々細かいんだよ。ロイドは」
「時間を厳守するのはあたりまえのことだ」
「友人と一ヶ月会えないんだ。話しても良いだろうが」
「どうせ二学期に会えるんだ。必要ないはずだ」
「なんて冷たい奴!そんなんだから友達が出来ないんだぞ」
「う、うるさい!僕にだって友達ぐらいいる!」
「ほう、なら友達と一緒にご飯を食べたり、遊びに出かけたりしたことがあるのか?」
「うっ」
「ないじゃねぇか」
「そう言うお前はどうなんだ!」
「俺か?俺はあるぞ。こないだもジュリアスたちと一緒に出かけたしな」
「そ、そんな……」
そこまで落ち込むことはないだろ。なんだか俺が悪いみたいじゃねぇか。
「二人ともそろそろ時間だから行くわよ。ロイドはもう少し力を抜いて話しかけてみなさいそうすれば友達なんて直ぐにできるわよ」
「イザベラ様……」
「イザベラ、教えるなよ。ロイドのボッチ姿をまだまだ見たかったのに」
「貴様!」
「こら、喧嘩しないの!」
プライベートジェットのある滑走路に向かう俺たち。
ここに来た時とは違い沢山の生徒が俺たちの事を見ていた。きっと奇妙な光景に見えたはずだ。
「何気にシックリくる3人組みよね」
「言われてみればそうね」
「なんて言うのかしら、昔ながらの友達?」
「それもあるけど、王を護る飛車と角って感じだな」
『それだ!』
そうでもなかった。きっと王はイザベラで、飛車がロイド、角が俺なんだろうな。
プライベートジェットで離陸した俺たちは再ライルビードに戻ってきた。
「なにか飲まれますか?」
学園に行くわけじゃないし、良いよな。
「なら、ビ――」
「駄目よ」
「なんで!」
「帰ったらお父様たちに報告しないといけないもの。酔った状態で会わせるわけにはいかないわ」
「チッ」
「その代わり夕食の時に飲むと良いわ。だからそれまではジュースで我慢して」
「仕方が無いか。ならオレンジジュースを頼む」
「畏まりました」
綺麗なお辞儀をするキャビンアテンダント。綺麗な人だな。
「ジン」
「ど、どうした?」
一瞬言葉に殺気が混じっていたような気がしたが気のせいか?
「節度は守りなさい」
「わ、分かってるって」
イザベラが鋭いこと忘れてたぜ。
50分ほどして都市ライルビードに到着すると既に執事のセバスが高級車で待機していた。
学園生活が長くて忘れていたがイザベラって超お嬢様なんだよな。
20分ほどして久々に見る豪華な屋敷の前に停車した。
『お帰りなさいませ、お嬢様』
執事、メイドが両サイドに並んで出迎えてくれた。凄い人望と財力。恐ろしい。
「それじゃ行くわよ」
「はい」
「ようやくか」
寝室に戻ったら銀と遊ぶか。最近まともに相手してやれなかったからな。
そんな事を考えながら開けれた扉をまた――
「ぐへっ!」
げなかった。
「不審者を確保」
「今すぐ焼却炉に放り込みに行きましょう」
「その前にしばらないとね」
この悪意しか感じない3人の声は。
「アスル、ブイ、ルージュ、離して。彼は私の客人なの。そんなに長い間居たわけでもないから忘れていたかもしれないけど」
「申し訳ありません、お嬢様」
「ごめんない」
「以後、気をつけます」
「よろしくね」
絶対に反省してないだろうな。
「てめぇら、客人だぞ俺は!」
「申し訳ありません。客人には見えませんでしたので」
「なら、何に見えたんだよ!」
「変態」
「変質者」
「ストーカー?」
「どれも不正解だ!」
それとルージュはなんで疑問系なんだよ。
「まったくお前等の中では俺ってどうなんてんだよ」
「蛆虫」
「ゴミ虫」
「実験虫」
「なんで全部虫なんだよ!」
「「「どれが良い?」」」
「どれも嫌に決まってるだろ!」
可愛らしく言っても悪意しか感じないっつうの。ルージュに至ってはどうみても自分の趣味が混ざってるだけだろ。
「貴方たち、いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「「「「いやいやいやいや」」」」
「一斉に否定しなくても……」
まったく帰省そうそうとんでもない目にあったぜ。すっかりクレイジーシスターズの事を忘れていた。
「イザベラお嬢様、ハロルド様がお待ちになっております」
「ありがとうセバス。ロイド、ジン行くわよ」
「はい」
「分かった」
イザベラの後に続いて俺たちはハロルドのおっさんの許に向かった。
それにしても本当に広いな。これだけ広いと管理も大変だろうに。いや、あれだけメイドと執事がいれば平気か。ま、それだけの従業員を雇えることだけで金持ちだってことが分かる。
「お姉様、ジンお兄ちゃん、お帰りなさい!」
そんな俺たちの前にリリーが飛びついてきた。
「ただいま、リリー。良い子にしてた?」
「はい!」
イザベラの髪は赤だが、リリーの髪は金髪だ。だけど顔立ちが似てるから姉妹だと直ぐに分かる。
「ジンお兄ちゃんもお帰りなさい!」
「ただいま」
で、良いのか分からないが、そう言っておこう。
「あとでいっぱい遊ぼうね」
「良いぞ。それまではギンと遊んでていいぞ」
「うわっ!前より大きくなってる!」
「銀も成長するからな」
「ギン、一緒に遊ぼう!」
「ガウッ!」
俺たちはそんなリリーとギンに視線を向けたあとハロルドのおっさんの許へ向かった。