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魔力なし転生者の最強異世界物語  作者: 月見酒
第一章 おっさんは冒険者を目指す
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第四話 炎龍退治

 部屋に戻った俺は苛立っていた。あの程度の蜥蜴野郎なら俺一人で十分に戦える。なのに俺は自分の部屋で待機だ。自分の力が疑われたのか、信頼されていないのか分からないが、別にその事で苛立っているわけではない。

 何もさせて貰えないことが悔しいのだ。

 あの場所では誰にも咎められる事無く自由に過ごしていた。大半は生きる為に戦ったわけだが。それでも魔物と戦うのに一々他人の許可なんて要らなかった。なんて面倒なんだ。規則、ルール、法、そんな物があるだけでこんなにも俺を苛立ちを覚える。どうやら俺もあの気まぐれ島に毒されていたらしい。あの場所にあるのは生か死。他人の考え、想い、感情なんて関係ない。腹が立つのならぶん殴って殺せば良い。理不尽だと思うなら強くなれば良い。強さこそが正義であり、弱さが悪。単純にして明解。弱肉強食の世界。

 それが、あの気まぐれ島である。


「あの場所に居たときは人肌が恋しかったはずなんだけどな」

 そんな事を思っていると途轍もない轟音と地響きが伝わってきた。どうやら戦闘が始まったらしい。だが、俺には関係ない。いや、弾き出された。命の恩人を助けるどころか手伝う事すら叶わない。これじゃあ爺さんとの約束を破る事になっちまう。

 前世に居たときの思い出が蘇る。


『仁や、良いか?人は一人では生きていけぬ』

『でも爺ちゃんは昔山の中で10年間一人で生き抜いたんだよね?』

『そうだ。だがどんだけ強かろうと関係ない。心が同じ人間を求めてしまうからじゃ。会話がしたい。温もりを感じたい。そう思ってしまうのじゃ。そんな孤独の世界での生活は心を腐らせ、やがて肉体をも腐らせ死に追いやるのじゃ。だから人は一人では生きて行けぬのじゃ』

『よく分からないよ』

『ま、仁はまだ小さいからの仕方がない。じゃがこれだけは覚えて置くとよい。助けて貰ろうた相手や命の恩人には必ずお返しをするのじゃ。そうすれば、けして一人になる事はない』

『うん分かった』

 爺さん……。相手が恩返ししたくても相手が望んでいない場合はどうすれば良いんだよ。


「クゥ……」

「銀心配してくれてるのか、ありがとうな」

 そう言えば、銀を助けた事があったな。たしかあれはまだ銀が産まれる前で俺がエレンのパシリで食い物を探しに森に行っていたときだったけ。

 出産でまともに戦えないエレンを狙って神切蟲(ゴッドワームイーター)が手下どもをつれて襲い掛かってきた時だったな。

 確か神でありながら神を切り裂く顎を持ってるっていう意味の分からん(やつ)だった。

 美味そうな魔物をある程度狩り終えた時にエレンの住家から戦闘音が聞こえて慌てて戻るとお腹の子を庇うように戦っていたっけ。いつも威張り散らして俺を奴隷のように扱う奴だったけど、あの時だけは違って見えたな。血まみれになりながらもけして怯む事無く相手に殺気をぶつけてたっけ。あの時ほどエレンが凛々しい存在に見えた事はなかったっけ。

 で、俺はそんなエレンとお腹の子を殺そうとする蟲共(やつら)を許せなかった。

 怒りで戦闘に乱入してエレンに襲い掛かる蟲共を片っ端から殺したっけ。

 確かその時エレンが――


『余計な事をするな。奴隷!』

 とか叫んでいたけど俺は、


『知るか!俺は俺の好きなようにさせて貰う!怪我人は洞穴の奥で寝ていろ!』

 って吼えたんだよな。


「っ!」

 俺は俺の好きなようにする………あはは、そうだよな。忘れていたぜ。俺はいつも好き勝手に生きてたんだ。だから助けたい奴を俺は助ける。


「銀、お前が思い出させてくれたんだよな。ありがとうな」

「クゥ?」

 首を傾げる銀。考えて教えてくれたわけないよな。

 床に銀を降ろすと俺は立ち上がる。


「行くぞ銀!蜥蜴野郎退治だ!」

「ガウッ!」

 俺と銀は意気込みを口にして外へと向かった。


    ************************


 戦闘が始まって30分が経過していた。

 最初は装甲列車に取り付けていた魔導兵器で走行しながら砲撃し牽制していた。停車すると同時に禁止区域へと出た私達は各々の武器で炎龍目掛けて攻撃を開始した。十数メートル上空を飛ぶ炎龍に対して近接武器は無意味。だから地に降り立つまで私の出番は少ない。

 そんな私が出来ることは指示を出すことだけ。一瞬視線を部下達に向けると魔導小銃やロケットランチャーなので応戦していた。

 魔導小銃には強化魔法の魔方陣が組み込まれており魔力を流すと、威力を抜群に引き伸ばす。弾丸一つ一つにも硬化魔法の魔方陣が組み込まれており、魔法有る無しでは性能が2倍~5倍も違う。勿論注ぎ込む魔力量にもよるため個人差はある。

 だが、未だに私達は致命傷どころか掠り傷すら負わす事が出来ていない。


「なんて強固な鱗なのよ……」

 思わず本音が漏れるが銃声で直ぐに掻き消され誰にも聞こえてはいない。良かった。リーダーが弱音を吐いたら直ぐに部下達に伝染してこの戦いは一瞬にして終わるところだったわ。

 それにしてもあれは本当にS+の魔物なの?実戦で私が戦った事のある最高ランクの魔物はA+。それを考えても強すぎる。

 たしか学園で、Sランク以上の魔物を相手にするのに一個師団の軍隊が必要だと習った。まさにその通りよ。

 たまにテレビでSランク以上の魔物を6名の冒険者パーティーが倒したって言うニュースを見る。いったいどうやって倒したっていうのよ。いったいどれだけの才能に恵まれていたのよ。

 思わず、先日の私を殴り飛ばしたくなる。

 そんな時だった。

 炎龍の口元から橙色の炎が漏れる。


「っ!全員散開!ブレスが来るわよ!」

 即座にインカムで知らせる。数秒遅れで炎龍のブレスが私達目掛けて放たれる。

 全てを焼き尽くすほどの業火は十数メートル離れた場所に居ても熱気で皮膚がピリピリと痛みを発生させる。

 よく見ると業火の中で数人の人影が見える。どうやら逃げ遅れた部下が居たらしく、私は思わず奥歯を強く噛み締める。でも今は悲嘆に暮れている場合ではない。今はこの状況をどうにかして打開する策を考えるのがリーダーである私の役目。


「全員、炎龍の目を狙って攻撃開始!少しでも弱点を狙って怯ませるのよ!そうすれば必ず疲れて地面に降り立つ筈よ!」

 部下達はそんな私の言葉を信じて炎龍の目掛けて一斉射撃を開始した。

 今はこれで良い。S+の炎龍とて体力は無限じゃない。いつか必ず疲れて地面に降り立つ時が来る。そう信じて私達は撃ち続けた。炎龍のブレスをなんども回避しながら撃ち続けた。

 が――


「イザベラ様、弾薬が尽きました!」

 インカムから届いた報告に私の頭は真っ白になった。

 どうして……どうして弾薬が無くなるの?あ、そうだ。氾濫した魔物の討伐で使ったから、少なくなっていたんだ。

 私は炎龍を見上げる。表情があるとは思えないけど、今だけは直ぐに理解できた。勝ち誇り、下等生物を見下す。そんな表情をしていた。

 普段なら苛立ち、逆に後悔させる。だけど今の私の頭に過ぎった言葉は違った。


「どうして……」

 どうして私達の前に炎龍が現れるの?ここは確かに禁止区域よ。でもB+までしかいない至ってレベルの低い禁止区域の筈よ。なのにどうして……。

 確かにSランク以上の魔物が少ないとは言え居ないわけじゃない。ましてやここは禁止区域。街や都市じゃない。遭遇する確立は格段に高い。それでもどうして今なの?まだしたいことも沢山あったのに。勿論恋だってしたい。恋人とデートだってしたい。結婚だってしたい。なのにどうして………。

 絶望し見上げた先に居た炎龍は嘲笑うようにブレスの準備をしていた。

 ああ……私の人生はここで終わりなのね。

 ロイドが慌てて私の許に駆け寄ろうとしているのが視界の端に見える。でも御免ね。もうどうして良いか分からないの。

 私は死を受け入れるため目を瞑ろうとした。

 ――その時だった。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!」

 閉じようとした瞼の隙間から激痛に悶え地面墜落する炎龍の光景が入り込む。

 その光景に閉じようとしていた目を見開き、再度確かめる。


「いったい何が起こったの……?」

 突然の出来事に思考が追いつかない私を含めた全員が呆然と悶え苦しむ炎龍を見つめていた。


「どうやら間に合ったようだな」

 背後から聞き覚えのある声に私は咄嗟に振り向く。


「ジン……」

 そこには笑みを浮かべ数個の小石を右手に持つジンとギンの姿があった。


    ************************


 どうにか間に合って良かった。思った以上に思い出に耽っていたらしい。

 それにしても車両から飛び出して外を見たときは驚いた。兵士が十数人が丸こげになってるし、誰もあの蜥蜴野郎に攻撃しないし、イザベラに至ってはその場で立ち尽くしているし、俺が物思いに耽っている間に何があったんだって聞きたいが、今は一つだけ聞く。


「イザベラ大丈夫か?」

「え、ええ。私は大丈夫よ。でも弾薬も尽きてどうしようもなくなったの」

 なるほどそう言う事か。通りで誰も攻撃しないわけだ。


「それよりどうして出てきたのよ!ジンは部屋に居てって言ったわよね!」

「そんなに怒るなよ。せっかくの美人が台無しだぞ」

「はぐらかさないでちゃんと答えなさい!でないと夕食を抜きにするわよ!」

「ぐっ」

 なんて恐ろしい女なんだ。俺の弱点を平然と使ってきやがる。言っている事は子供を叱り付ける母親と変わりないのに、勝手に口が動く。


「決まってるだろ。俺は好きでここに来た」

「なっ!ふざけないで!」

 そんな俺の返答が納得いかないのかそれとも馬鹿にされたと思ったのか、さっきよりも怒気を含んだ声音を荒立てる。


「ふざけてないさ。俺は好きでここに来て勝手に俺はお前を助ける。ただそれだけだ」

「何言ってるのよ!貴方は客人よ!ましてや貴方は栄養失調で倒れてたのよ。点滴と食事したからってまだ体は完全に回復したわけじゃないのよ!」

「それを言われると返す言葉もないな」

 ほんと相手の弱点を突くの上手いぜ。


「だったら――」

「ま、見てな。俺は勝手にお前を助けるからよ」

 俺は話を無理やり切り上げると蜥蜴野郎に視線を向ける。どうやら俺がイザベラと話している間に再び空に飛んだらしい。さっきの攻撃を警戒してなのか、より高い上空を飛んでやがる。


「ま、関係ないけどな」

 不敵な笑みを浮かべた俺は狙いを定めて右手に持っていた石ころを蜥蜴野郎目掛けて投げる。

 大きさにしてピンポン球ぐらいの石ころは音速を遥かに超える速度で真っ直ぐ飛んで行き、蜥蜴野郎の身体を楽々と貫いた。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!」

 激痛で上手く飛行出来なくなった蜥蜴野郎は頭から墜落する。まったくイザベラたちを苦戦させる敵だから少しは期待していたのに。なんだよこの脆弱な蜥蜴は。まだ気まぐれ島に居た巨靭兎(ジャイアントラビット)の方が手応えがあったぞ。


「弱すぎだろ」

 俺は思わず嘆息した。この禁止区域と呼ばれる場所に転移されてから一度も魔物と出会う事がなかった俺は初戦闘に少しだけ胸を躍らせていたんだぞ。期待外れもいいところだ。


「なら、お前をさっさと殺して夕食の材料にさせて貰うか。銀も蜥蜴の肉は好物だからな」

 蜥蜴野郎が逃げないように即座に近づき、翼を毟り取る。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!」

 お、簡単に千切れたな。ブチッブチッて筋肉が引き裂かれる音がしたからもう少し頑丈かと思ったが、蒼雷天大鷲アスルエクレール・ジャイアントイーグルの羽毛を毟り取る方が面倒で大変だったぞ。


「でもま、これで二度と飛ぶことは出来なくなったな」

 その時俺がどんな顔をしていたのかは分からない。だが蜥蜴野郎が恐怖の目で俺を見つめている事だけは理解できた。


「あとはお前の命を奪うだけだな。っと!」

 俺の言葉が理解出来たのか突然地団駄踏むように暴れだした。最後の足掻きって奴か。気まぐれ島に居たときも同じような事をしていた魔物が居たな。ま、これでこそ弱肉強食って感じもして良いが今の俺には関係ない。


「命の恩人のイザベラを悲しませた代償は大きいと思え」

 こう見えて俺、怒ってるんだよ?あれ、気づいてなかった?ま、良いけど。それよりもギャアギャア煩いし、チャッチャと殺すか。

 前足を持って仰向けにした俺は心臓があるであろう胸に拳を突っ込む。いや、ほんと柔らかいな。もう少し頑丈の方が拳を叩き込んだ感じを味わえた筈なのに。


「でもま、これで一件落着だな」

 俺は真っ赤に染まった右腕を蜥蜴野郎の体内から引き抜く。さて、後はイザベラたちに任せるか。

 念のために俺は確実に死んだことを確認してから蜥蜴野郎の上から下りた。

 おっと早くイザベラに報告しないとな。もしかしたら夕食抜きになるかもしれない。それだけはなんとしても阻止しなければ!

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