第四十三話 武闘大会個人戦学園代表選抜三日目第一試合
「二人ともお疲れさま」
「ジュリアスさんは残念でしたけど……」
いつものメンバーで下校中今日の試合の話題になった。残念ながらジュリアスはロイドに負けてしまった。
俺はマイラと話していて観戦することは出来なかったが、ハラハラドキドキされる素晴らしい試合を見せたらしい。ロイド相手にそれだけの試合をして見せたのだから素晴らしいことだ。と誰だって思う。俺だって同じだ。死ぬわけじゃないんだから落ち込んで立って仕方が無い。
「ジンさんも何か言ってあげてください」
「そうだよ。ルームメイトなんだから」
そんなこと言われても困るんだが……。
「帰ったら銀を抱いていいぞ」
「それだけ!」
「それはあまりにも冷たいのでは?」
どうやらエミリアとフェリシティーは納得していないらしい。
「いや、ジンは優しいよ」
「どうしてですか?」
「そうだよ。ルームメイトなんだからもっと言う言葉があるはずなんだよ!」
「明日の二試合目はジンと闘うんだ。だから今ここで何を言われても意味はない。それどころか逆に惨めな気持ちになってしまう」
「そ、そうでしたね。私たちの方が不謹慎でした」
「ごめん……」
「いや、二人とも慰めてくれてありがとう」
まったくジュリアス本人にフォローされたら意味ないだろ。
「そんじゃ、俺たちはこっちだから」
「また、明日ね」
「明日の試合、応援しています」
フェリシティーの最後の言葉はいったいどちらに対して言われた言葉なのか、ジュリアスと俺には分らなかった。2敗しているジュリアスに対してならば、それは同情からだ。しかしそれはジュリアスが最も望まないものである。そして俺に対して言われたものでもないだろう。全勝しているし、いつものように闘うと知っているからだ。だからこそ今の言葉は片方に対してではなく二人に対して言われたものだと俺たちは勝手に解釈した。それの方が幾分か気持ちが楽だからだ。
部屋に戻るとギンが出迎えてくれた。最近は下校してからしか相手出来なくてごめんな。団体戦で出場させる時以外は演習場につれていけないんだ。
銀を撫でる俺を視界に入れないように寝室へと向かうジュリアス。あのあと二人になってから一言も話していない。こんなの編入してから一度も無い。いや、ジュリアスの問題の時に似たような事があったがここまでではなかった。
「ジュリアス」
「なんだ?」
「さっき言っただろ。銀を抱いて良いって」
「そうだったな」
ジュリアスに抱かせた俺はコップ二つに麦茶を注ぐ。いつもはジュリアスがやってくれるがたまには俺がやっても罰はあたらないだろう。いや、逆にもっとすべきか。
「ほれ、麦茶」
「すまない」
「気にするな」
そこで話が途切れる。ほんとこういう時なんて言えば良いのか分らない。前世から合わせて37年生きている大人が情けない。
「ジン?」
ど、どうしたもしかして麦茶が不味かったのか?それともギンが粗相でもしたのか?
「明日の試合。手加減したら許さないからな」
「な、なにをあた――」
真っ直ぐ、闘志を燃やす瞳が俺に向けられる。ああ、こいつ本気だ。まったく悩んでいた自分が馬鹿みたいじゃねぇかよ、まったく。
「ああ、分ってるよ。その代わり後悔するなよ」
「誰に向かって行ってるんだ馬鹿者。そう言うお前こそ手加減して後悔するなよ」
「ほざけ」
不敵な笑みと言い難いが、互いに闘志の宿った笑みを浮かべあうのだった。別の意味で明日の試合が楽しみになったな。
武闘大会個人戦学園代表選抜三日目。日付に直せば6月20日水曜日。
今日の一試合目の相手は軍務科の生徒だ。
で、いつも通りステージに上がった俺は軍務科の連中から罵詈雑言を投げつけられていた。やっぱりプライドが高いと執念深いのかね。ま、闇討ちとかされないだけマシって言えるか。
『どうも皆さん今回から実況を行いたいと思います!実況はこの私、冒険科二年二組担任のミューラ・フォルス。そして解説はこの方!』
またミューラ先生かよ。生徒受けはよさそうだが教師の面子とか大丈夫なのか?絶対後で教頭とかに叱られるタイプだろう。
『軍務科三年一組担任のアビゲイル・デューラ・ヴィンセントです。どうぞ宜しく』
『アビゲイル先生は魔物生物の授業を担当しており、殺し方、解体、習性など様々なことを教えています』
『ミューラ先生、そんなことよりも選手紹介は良いんですか?』
『おっとそうでした!それでは間もなく始まる第5ステージで闘う選手たちの紹介と行きましょう!』
ハッスルなミューラ先生に対して軍務科の先生……たしかアビゲイル先生だったか?気力をまったく感じないんだが。本当に軍務科の先生なのか?生徒から反感買いそうなタイプに見えるんだが。
『武闘大会個人戦学園代表選抜三日目第一試合でまず闘うのは軍務科四年一組、ネルソン・ボーン・ガルシア選手!これまでの戦績は0勝4敗となっていますが、ここから巻き返すことが出来るのでしょうか!』
軍務科の連中全然応援してねぇ。ちらほら棒読みで「頑張れ~」って聞こえるだけだし。完全に期待されてないな。あれ?どうしてだ急に涙が。可哀相って思っちまったからか。
『そんなネルソン選手と闘うのは4勝0敗。これまでの全ての試合を一撃無双で勝利してきた冒険科四年十一組、オニガワラ・ジン選手!いったいどんな試合が繰り広げられると思いますか?』
『これまでと同じで一瞬で終わると思います』
『え!?先生がそんな事言って良いんですか!?』
『だってこれまでの戦績を考えたらそれしかないと思いますし』
『それはそうですけど。はっ!ええ……気を取り直して主審さん、どうぞ進めてください』
おいおい、主審も困ってるじゃねぇか。
「二人とも正々堂々と闘うように」
「分っています」
「ほーい」
ネルソンが睨んでくるが全然怖くない。それどころか未だに棒読みで「頑張れ~」という声が消えこる。駄目だ。涙が止まらねぇ!
『どうやら両者の準備が整ったようです!』
『この試合見る価値ありますか?』
『アビゲイル先生、もう少し本音を隠してくださいよ!』
もうネルソンには同情しか出てこないんだが。
「それでは試合……開始!」
『試合が開始され――』
「勝者、オニガワラ・ジン!」
『そして、試合決着!僅か一秒!いえ、僅か0.56秒で試合が決着してしまいました!』
だからと言って手加減はしないけどな。
『だから言ったのに』
『アビゲイル先生は少し黙っていてください!ジン選手勝利記録を更新し5勝0敗としました。午後からの二試合目も楽しみです』
さて、ジュリアスの試合でも見に行くか。いや、この後午後から闘うんだ。先に偵察するのはフェアーじゃないな。
俺は観戦するのを止めて廊下に設置してある自販機のお茶を飲みながら昼休みまで休憩することにした。ジュリアスが闘っている相手は確か相俺が初戦で闘った飛鳥だったな。勝ってると良いな。
「あ、あの……ジンさん」
一人で寛いでいると150センチはある赤黒い鋏を背負ったレーネが近づいてきた。
「レーネか。試合どうだった?」
「残念ながら負けてしまいました。これで1勝4敗です」
「そうか。で、相手は誰だったんだ?」
「軍務科のロイドさんです」
「よりよってアイツか」
「お知り合いなんですか?」
「ま、ちょっとな。それよりどうして俺に話しかけてきたんだ?」
「実は昨日の夜マイラが私にジンさんともう一度話してみたいって頼まれまして」
《そう言うことよ》
お前、持ち主を駒のように扱うなよ。
《良いのよ。頼んだらしてくれただけだもん》
ったく。それより俺と会話したこと話したのかよ。
《私が口止めされたのは貴方の過去についてだけだもの》
それはどうだが……いや、そんな事より何普通に話しかけてきてんだよ!
《駄目だった?》
当たり前だろ!お前みたいな危険人物と関わって良いことがあるとは思えねぇからな!
《酷いわね。私と貴方の仲じゃない》
昨日出会ったばかりだだろうが!なに、実は昔からの付き合いでした。みたいな言い方してんだよ!
《恋に時間なんて些細な事よ》
そんなわけねぇだろ!大体恋にって言うが俺はお前に恋愛感情を持ったことは微塵もないからな。
《私は見た時から持ってるわ》
それは恋愛感情じゃなたくて殺戮衝動だろうが!
《あら、よく分ったわね》
誰だって分るだろ。こんな快楽殺人鬼が考えそうなことなんて。
ああ、駄目だ。せっかく早く試合が終わったのに無駄に疲れてきた。
《もしかして寝不足?駄目よ、ちゃんと寝ないと。睡眠不足は殺人鬼の天敵なんだから》
誰のせいでこうなったと思ってるんだ!それとそれを言うならお肌の天敵!それから俺とお前を同類にするな!まったく、なんで一回の返事で俺が三つもツッコまなきゃならないんだよ!
《そんなに疲れるんなら相手しなければ良いのに》
ならこれから無視するか。
《無視したらこの鋏で貴方の息子をちょん切ってあげる♪》
楽しそうに脅迫してんじゃねぇよ!
《あら、突っ込まれちゃった、残念。でも嬉しい!》
文字表記が違う!俺に何をさせるきだ!
《うふふ……ナ・イ・ショ♪》
まったくこんなにツッコミを入れたのはあの島に居たとき以来だぜ。
《あら、そうなの。でも故郷を思い出させて良かったでしょ?》
全然良くねぇよ!無駄に疲れさせやがって。
《もしかして寝不足?駄目よ、ちゃんと寝ないと。睡眠不足は殺人鬼の――》
いや、その流れはもういいから!
《残念。せっかく楽しかったのに》
てめぇ……いつか木っ端微塵にぶっ壊してやる。
《うふふ、楽しみに待っているわ。その時はきっと最高のエクスタシーを味わえるんでしょうね》
知るかそんなの。
「あ、あの……マイラと何話してるんですか?」
「とても下らない話だ」
《私と彼の今後についてよ》
「え!?」
おい、なに適当なこと言ってんだ!破壊するぞ!
《ああ、やっぱり最高だわ!貴方の純粋な怒気。体の奥からゾクゾクして堪らないわ!》
駄目だ。こいつSでもあるがMでもあるんだっけ。もうどうすることもできねぇじゃねぇかよ。てか、体の奥がって肉体持ってないだろうが。
それよりも今はレーネに対して誤解を解かなければ
「レーネ気にするな。今のはマイラの冗談だ」
「そ、そうですか」
「それより一つ聞いても良いか?」
「なんでしょうか?」
「こいつとどこで出会ったんだ?」
「そう言えばジンさんはこの鋏のこと知ってるんでしたよね」
「ああ。噂は耳にしてたが、事実はマイラから教えて貰った」
「そうでしたか。私の実家は美容院を経営してまして、父が美容院を開くときに祖父から貰ったものらしいんです。大きな鋏で重たいし、錆びているのか開きもしなくて飾っていたんですが、10歳の時に私が触ると何故か扱えたんです」
「なるほどな」
素質を持ったものにしか扱えないってそう言う意味だったのか。
「でもマイラは性格悪いから大変だろ」
《あら、失礼ね》
「確かに意地悪な事を言われますけど、私の相談にも乗ってくれますから。それに私の最初の友達ですから」
《………》
「そうか……」
「はい」
それから一言も喋らなくなったマイラが何を考えていたのか俺には分らない。ま、大昔の戦争に兵士として借り出された快楽殺人鬼の考えなんてしりたくもないけどな。
「それじゃ私はこれで」
「ああ、午後からの試合も頑張れよ」
「はい。少しでも勝ち星を増やしてみせます」
優しげな笑顔を浮かべるレーネ。あんな子がどうして冒険者になりたがるのか分らない。きっと理由があるんだろう。ま、俺には関係ないことだ。
「ジン、こんなところに居たのか」
「お、ジュリアス。試合はどうだったんだ?」
「ギリギリだったがどうにか勝つことが出来た」
「そうか。なら一緒に飯食べるか?」
「いや、悪いが今日だけは遠慮させてくれ」
「そうだな」
午後から闘う相手と一緒に飯を食べるなんて出来ないよな普通。そのあと俺はレオリオたちと一緒にご飯を食べるのだった。一人少ないだけでこんなに違和感を感じるなんてな。不思議な感覚だ。でも午後からの試合はこれまで以上に気合を入れて行くか。どんな結末が待っていようともな。




