第四十話 武闘大会個人戦学園代表選抜開始!
************************
私の名前はイザベラ。いつも通りロイドと二人で昼食を食べ終えた私たちは教室に戻っていた。ふと昼前にスマホで武闘大会学園代表選抜に出場してくる冒険科の生徒たちを確認したことを思い出した。
そこに見知った名前があったことにやっぱりと感じていた。
「それにしてもジンは出てきたわね」
「忌々しい事にそのようです」
何でロイドがジンの事を嫌っているのか分からない。性格の問題なのかもしれないけど、それでも私としては仲良くしてほしい。
「でもまさか団体戦にまで出てくるとは思わなかったわ」
彼は誰とでも自然に仲良く出来る不思議な力を持っている事は知っている。だけど本当の実力を知らない冒険科の生徒にとって彼は魔力の無い落ちこぼれの生徒として写るはずだ。そんな人間が誘ったところで一緒に出場してくれる生徒がいるとは思えなかった。
「そうですね。ですがデータを見る限り四年一組のジュリアス以外警戒するほどでもないでしょう」
確かにデータを見る限り脅威となりうるのは可能性があるとすればジュリアス君だけ。だけど。
「ロイド忘れたの。私たちは三人がかりでもジンを倒せなかったのよ」
「勿論忘れてなどいません。あれほどの屈辱的敗北を忘れることなど……!」
そんなにジンに負けたことが悔しかったのね。
「それにあの攻撃を弾く能力は脅威ね。ましてやあれは称号によるもの。固有スキルでも止めることは不可能だもの」
「まったく呪いを逆の発想で使うなど奴の頭の中はどうなっているんだ」
ほんとロイドって素直じゃないわよね。特にジンの事になると。
「でも一番の問題はジンがどのタイミングでどの程度本気を出してくるかよね」
「はい……」
力を制限していてもスマホにステータスが表示できないほどの力を持った存在。そんな人間相手にどうすれば勝てるのかまったく検討もつかないわね。
「イザベラ様、そろそろ時間です」
「そう、なら少し急ぎましょう」
「はい」
これから私はチームメイトと作戦会議を行う。学園最強や代表確実と謳われていても勝てるかすら解らない相手が存在する以上今から作戦会議をするのは間違っていないだろう。ジン、見てなさい。必ず次は勝って見せるわ。
************************
「ん?」
「ジン、どうかしたのか?」
「いや、なんでもない」
一瞬強い闘志を感じたような気がしたが気のせいか。
「それより話ってなんだ?誰も居ない教室にこなせやがって」
まったくせっかくのお昼寝タイム減るじゃないか。
「軍務科との学園代表戦に向けてこれからどうするか話し合っておくべきだと思ったんだ」
「で、何を話すんだ?」
「まず、一番の目的はチーム全体の戦闘力向上だ」
ま、当たり前だよな。
「でも、普通過ぎないか?」
「ジンはそう思うかもしれないが、私を含め他の三人は違う」
「どう言う意味だ?」
「団体戦決勝……あれほど己の未熟さを思い知らされた試合はない」
その言葉にジュリアスだけでなくレオリオ、エミリア、フェリシティーまでもに影が落ちる。
「結果だけ言えば私たちは優勝した。だがそれはジン一人のお陰だ」
俺のお陰。まあ俺の力を持ってすれば当然ってふざけてる空気じゃないな。
「何馬鹿げたことを言ってるんだ。エミリアだって一人倒したじゃねぇか」
「だが、それ以外はジンお前が一人で倒したんだ。一組でありながらたった一対一でも勝てなかった相手をった一人で全て倒したんだ。これほど惨めなことがあってたまるか」
いや、そこまで言わなくても……
「お前は知らないかもしれないが、あの試合を見ていた冒険科の生徒の中にはジンのワンマンチームだって言っている者たちだっている。ジンが居なければ負けていたとな」
「………」
「私はそれが悔しくてならない!」
仲間でありながら、自分は仲間を助けることも守れることも出来ない。その事が悔しく、己の弱さに憤りを覚える……か。ああ、分かる。その気持ちは十分過ぎるほど分かるさ。
「そしてそれは私だけではない。レオリオ、エミリア、フェリシティーの三人も同じ気持ちだ」
「いやな、十一組だから負けるのは当たり前だって前までは思ってたんだけどさ。試合に勝っていくにつれて思っちまうんだよ。もっと上に行きたい。もっと強くなりたいってな」
「それに私たちより遥かに強い相手を倒した時の達成感や込み上げてくる嬉しさはやっぱり忘れられないよね」
「魔力があり武器も使える私たちがジンさんに頼りっぱなしと言うのも情けない話ですしね」
「お前ら……」
ほんと俺って良い仲間に巡り合えたな。ありがとうよ。
「でもどうやって鍛錬するの?代表チームとの模擬戦闘は禁止されてるよ」
「そうなのか?」
「お前はルールを覚えろ!」
すいませんね。物覚えが悪くて。
「個人戦、団体戦の代表に選ばれた生徒は授業以外で軍務科、冒険科関係なく代表同士で模擬戦闘を行うことは禁止されている。ただし、個人戦の代表が同じチームである場合に限っては禁止されていない」
「そうなのか」
色々と規定があるんだな。
「つまり、代表に選ばれなかったチームとなら模擬戦をしても良いんだ」
「その口調からして、目ぼしいチームでも見つけたか」
「さすがジン。その通りだ。既に話して了承を貰っている」
「やっぱりやることにぬかりがないなジュリアスは。でそのチームって?」
「銀の斧だ」
「「「「銀の斧!」」」」
確かにあいつ等は準決勝で俺たちと闘って敗れた。だけど
「よくも相手が了承してくれたな」
「ま、まあ色々と条件を提示されたがな……」
おい、なんで目を逸らす。そしてなんで落ち込む。
「そ、それよりもだ。第6演習場を放課後使わせてもらうことになった。そこで銀の斧のみんなと模擬戦だ」
「「「おう!」」」
「ちょっと待った!」
「なんだジン。せっかくみんなやる気になっていたんだぞ。まさか面倒だから参加するのは嫌だ。とか言うんじゃないだおるな」
睨むなよ。そして俺をなんだと思ってるんだ。
「違うさ。別に模擬戦することに反対してるわけじゃない」
「だったらなんだ」
「俺は模擬戦だけじゃあいつらに勝てるとは思えないんだ」
「つまり模擬戦する意味がないと言いたいのか?」
ジュリアスよ。前から思ってたが被害妄想が激しすぎだろ。
「そうじゃない。模擬戦は仲間との連携を強化するうえで効果覿面だ。でもそれだけじゃ勝てる相手でもないことはジュリアスたちだって分かってるだろ」
「そ、それは……」
「だから根本的な部分の強化と上手くいく保障もないが新しい魔法の手にする必要があると俺は考える」
「だが、残り4週間でどうこうできる問題では」
「そこをやるんだよ。でないと優勝どころか代表枠を手にする事だって難しい。いや、代表に選ばれるのは簡単だ。この俺が一人で闘えばの話だ。だけどお前たちはそれを望んでいないだろ。だからする必要があるんだよ。初戦の相手がどのチームになるか分からないが、そこまで強くなければ練習する時間も増えるしな」
「そう言う事ならジンに従おう。それで何をすれば良いんだ?」
「まずは各々の強化だが、一番は魔力制御だ。授業で教わったが魔力制御の練習方法は体内に魔力の球体を作り維持するってものらしいな」
「その通りだ。球体を一定の大きさに保ちそれを長時間維持することで魔力制御が上手くなる。そうなれば自然と魔法発動時間の短縮、魔力量を細かく扱うことができる」
「そうみたいだな。で試合中にエミリアとジュリアスがそれぞれ土柱と氷柱を出したのを覚えているか?」
「ああ、ジンの作戦で何度かしたやつだな」
「そうだ。その時見ていて思ったんだが、どうやらジュリアスの方が発動するのが早いんだ。それはつまり魔力制御が上手いってことだろ」
「確かに上位クラスの生徒なら魔力制御の練度は高い。つまりジンはエミリアたちに基礎からやり直せって言いたいのか?」
「やり直すわけじゃない。もう一度やって貰うだけだ。魔力制御ならどこでだって出来るんだろ?だったら朝起きて直ぐ5分だけとか、寝る前に10分だけとか毎日して貰うんだよ。そうすれば習慣になっていけば無意識にでも魔力制御が出来るようになると俺は考えている。ま、魔力が無い俺が言ったところで説得力の欠片もないけどな」
「いや、ジンの言うとおりだ。現役の高ランク冒険者は確かに凄まじい攻撃を放つ。それは魔力量が多いのもそうだが、それは魔力制御がしっかり出来ているからだ。それに魔力制御の練習をすれば少しだが魔力量も増えることが分かっている。これは試す価値が十分にある!」
「そ、そうか」
予想以上の賞賛だな。
「なら、こうしよう平時に演習場が使えるのは3時間一時間を模擬戦に使い残りは魔力量の強化や新技の開発。これでどうだろうか」
「賛成!」
「俺も問題ないぜ!」
「魔力制御が上手くなれば魔導弾丸に込める魔力量も自由自在になりますからね」
「なら、今日の放課後から特訓だな」
「「「おう!」」」
俺たちの特訓は今まで以上にやる気に満ち溢れたものとなった。さてイザベラ、そして軍務科連中。存分に驚いてくれよ。
あれから3週間が経ち今日は6月18日となった。
チームメイトと銀の斧の奴らに手伝って貰いながら俺たちは鍛錬を続けてきた。正直物凄い速さで成長したと俺は思っている。
そして今日から武闘大会個人戦、団体戦学園代表選抜が始まる。
出場人数は俺を含めて十二人。この中から三人が学園代表として出場する。因みに前回の大会ではイザベラとオスカーと当時の軍務科の4年生だったらしい。冒険科から一人も出場者無しとか悲惨すぎる。でもそれは真壁すら出場出来なかったということらしい。
「それではこれより武闘大会個人戦、団体戦学園代表選抜を始める!」
見たことの無い先生の一言で開会された。スキンヘッドだからスキン先生で良いか。
「個人戦は今週。団体戦は来週行う。では個人戦の戦闘方式を説明する。学科別戦の時とは違い、学園代表戦ではリーグ戦で闘って貰う。勝利数が多い上位三名が学園代表として二学期に行われる武闘大会本選出場資格を手にする。また日数の問題もあり最終日に限り三試合行って貰う。これは決定事項のため異論は認めない。それではこれよりリーグ戦のクジを引いて貰う。まずは軍務科四年一組イザベラ・レイジュ・ルーベンハイトから」
「はい!」
凛々しい返事とともにイザベラは壇上に上がる。観客席から軍務科たちの声援が聞こえるな。
「イザベラ・レイジュ・ルーベンハイト、1番!」
いきなり一番って。さすが学園最強の生徒。番号も1番とはな。
それにしても本当に人数多いな。大きなライブと間違ってもおかしくないぞ。
「次、冒険科四年十一組オニガワラ・ジン!」
お、俺か。さっさと引かないと前みたいに起こられるからな。
それにしても俺の名前を呼ばれた瞬間、軍務科連中の嘲笑う声が凄いな。ま、油断してくれていれば闘い易いからありがたいけど。軍務科で笑ってないのはイザベラとロイドとあれは一つ後輩のオスカーだったな。ま、俺に興味がないだけだろ。あとアンドレアたちもそうだな。
「オニガワラ・ジン、11番!」
11番か。俺と同じクラス番号だな。縁起が良いかは分からないが、イザベラと闘うのは最終日の二試合目だな。
全員が引き終わるとスキン先生が喋りだした。
「30分後に一試合目を行う。代表選手は各ステージ付近まで移動しておくように、以上だ」
さて、俺も移動するかな。
「ジン」
「お、ジュリアス。お前と闘うのは三日目の二試合目だな」
「なんだ、ちゃんと見ていたのか」
「失礼なやつだな」
壇上の超巨大モニターに五日間の対戦相手表が映ってるんだから誰だった目に入るだろ。
「はは、冗談だ」
「それで、そっちの相手は誰なんだ?」
「私の一試合目の相手はイザベラさんだ」
「おいおいいきなりかよ」
よりにもよってイザベラとか運なさすぎだろ。
「勝算は低いだろうが全力で闘うつもりだ」
「そうか、頑張れよ」
「それでジンの相手は誰なんだ?」
「俺の相手は同じ冒険科の渡辺飛鳥だ」
「ジンもいきなり迷い人か。運が良いのか悪いのか」
「ま、俺はいつも通り闘うだけさ」
「その図太さは相変わらず凄いな」
「お前も戦いになれれば身に付くさ」
そう言って俺は自分のステージ付近まで移動する。別れ際に一瞬ジュリアスの表情に影が落ちた気がしたが気のせいだろう。それより今は試合だ。初めて迷い人との勝負だからな超楽しみだ。