第三十五話 無意識の遠慮
「すまない。遅れてしまった」
「ジュリアス君遅いよ~」
「もう試合が始まっていますよ」
「そ、そのようだな。それでどっちが勝っている?」
「勝ってるのは『失われた王冠』ってい言うチーム。って言うか強すぎだよ。試合開始10分で三人が倒されて、今じゃ相手チームは残り一人になっちゃってるよ」
「そんなに強いのか……いったいどこのクラスなんだ?」
「全員が三年一組の生徒だ。だが、あの見た目からしてどうみても全員が」
「魔族だな……」
「そうみたいだ」
この世界で人間と魔族の戦争はない。昔はあったそうだが今は仲良く暮らしている。それどころか現在の異種族結婚の割合で言えば人間と魔族の夫婦が多いらしい。イザベラに地獄の勉強をさせられたときに教えて貰ったことだ。
「それにしてもあれだけの力を持つ奴らなら個人戦で目立っていた筈だが……」
「いや、誰一人個人戦には出ていない。個人戦には興味がないのか、自分たちの力不足を感じてたのか、それとも作戦なのか……」
「作戦だと私は思う」
「ああ、俺もそう思うぜ。特にあお一番後ろで踏ん反り返っている奴。試合が始まってから一度も動いちゃいない。全部他の奴らが闘っている」
「どういう事だ?」
「今後の試合を考えて手の内を知られないようにしたいのか、力温存なのか良く分からないな。ま、たぶん両方だろうが。その真意がまったく読めない」
それより俺としてはチーム名が気になる。失われた王冠ってどう言う意味だ。中二病臭い名前だが、あいつ等から何かをなそうとしている。使命感みたいなものを感じるんだが。
「やはり闘って直接聞いてみないことには分からないか……」
「ジン、今何か言ったか?」
「どう闘うか考えていたところだ」
「そ、そうか」
はぐらかした俺の言葉に影が落ちる。嘘を吐かれたことに落ち込んでいるんじゃない。まだ一ヶ月と半月とはいえルームメイトなんだ、それぐらい俺にだって分かる。
「ガルムたちとは上手く話せたのか?」
「え?」
「どうせお前の事だ。正々堂々と闘ってくれたクラスメイトに嘘をついているのが忍びなくて本当の事を話したんだろ。で、そんな勝手なことをした事に今度は俺たちに申し訳なさを感じてるってところか?」
「お前はエスパーなのか?」
初めて言われたが悪い気分じゃないな。今度からはエスパージンとでも名乗ろうか……ダサいから止めておこう。
「誰にだって分かるさ。ましてやルームメイトだからな。お前の性格ぐらい把握しているつもりだ」
「そ、そうか……」
「別に良いと思うぞ」
「え?」
「お前はしたいことをしただけに過ぎない。だいたい相手に知られた程度で負けるようなら俺たちはその程度だったってことだ。本当に強くなりたいんなら相手に自分の手の内を全て教えた上体でも勝ってみせるものだ。ま、それが出来たら苦労しないんだろうけどな。だから気にするな」
「あ、ああ………ありがとうな」
「なに、ルームメイトに優しくするのは当然さ」
「ジン……」
「だから、自主学習の勉強時間少し短くしてくれないか?」
「それとこれとは別だ」
「けっ、俺のルームメイトは優しくないこって」
まったくせっかく優しく慰めてあげたってのにこの仕打ちはなんだ。恩を仇で返すような人間になるなって爺ちゃんも言ってたぞ。別に見返りが欲しくて言った訳じゃないぞ。ただちょっとほんの少し、優しくして欲しかっただけだぞ。
「お、どうやら試合が終わったようだな」
「ああ、圧勝だ」
「そのようだな」
結局最後まであの男子生徒は一歩も動かなかったみたいだけどな。勝ち進めばそれだけ強敵にぶつかるのは至極当然だ。だけど決勝の相手があれか。一難去ってまた一難だな。
「それじゃ部屋に戻って作戦会議といこうか」
「賛成!」
「なら、美味しいお茶菓子でも持って行きますね」
「マジで!それは楽しみだ」
「ジンはお菓子より作戦を考えろ」
「分かってるよ」
まったく本当に俺のルームメイトは優しくないな。
二日連続で俺の部屋に全員集合した。で、俺はさっそくフェリシティーが持ってきてくれたお菓子を堪能していた。
「美味い!流石フェリシティー!こんなに甘くて美味しいシュークリームは初めてだ!」
「喜んでもらえて何よりです」
「てか、ジュリアスの手伝いしなくていいのか?」
「良いんだよ。家事はジュリアス、堕落が俺って分担してるから」
「そんな分担した覚えもないし、分担の内容がおかしいだろ!」
「でも、これどこで売ってたお菓子なの?」
「いえ、これは手作りです」
「なに!手作りだと!」
「そういえば、前に作ってたね」
こんなに美味しいのが手作りとは信じられない。
「お店だしたら俺毎日買いに行くぜ」
「うふふ、褒めて頂いてありがとうございます」
「ほら、ジンお茶だ」
「お、サンキュー」
「結局用意するんだね」
「まるで兄弟か、夫婦ですね」
「なっ!」
「だろう。俺は良い弟を持った」
「いや、どう考えてもジンが弟だから」
なんだ違うのか。で、なんでジュリアスは俯いてるんだ?
「それじゃ、明日決勝戦に向けて作戦会議といきましょうか」
「そうだね」
「明日こそぜってぇ活躍してみせる!」
やる気十分の三人をよそにジュリアスはゆっくりとすわる。
「それで明日の相手ってどれぐらい強いの?」
「私たちが闘ってきたどのチームよりも強いのは間違いないな」
「ジュリアス君がそこまで言うほどなんだ……」
「真壁たちでも大変なんじゃないか?」
「確かにマカベ君たちのチームでも難しいだろうね」
「そんなにですか……」
「ま、データを見たほうが早いな」
「そうだな」
俺の言葉にジュリアスがタブレットに表示してテーブルに置く。全員で覗いたら見づらいだろ。
「まず、開始五分で三人を倒した三人。ウェルド・リッター、ライラ・バロンとレイラ・バロンだ。ウェルドはパワー型の剣士だが、移動速度もずば抜けている。ジュリアスは後から着たから見てないと思うが、巨体からは考えられないスピードだ」
「そんな凄いのか?」
「準々決勝で戦ったスピードパンサーを覚えてるか?」
「ああ……」
「あれと同等、もしくはそれ以上だ」
「そんなにか……」
「だがスピードも凄いが、一番は一撃一撃の破壊力だ。軽く振り下ろしただけで地面に亀裂が入っていたからな。そうとうだ」
「それは凄いな」
「奴の使う属性は土属性のみ」
「魔族にしては少ないね」
「そうなのか?」
「うん、魔族は魔法の申し子みたいなところがあるから平均二つは持ってるよ」
「それでも、四つ以上の属性を持っている魔族は人間と同じで少ないですが」
「ふ~ん」
やはり魔族と人間の差はあれど、それほど大きいものではないみたいだな。
「でも、やっぱり肉体強化なしでも身体能力は魔族が上だね」
「ああ、獣人族と渡り合えるほどらしいからな」
なるほど、たまにレオリオたちが呟く情報はとても有用だ。ま、大半はくだらない内容だけど。
「それでバロン姉妹とはどのような人物なんですか?」
「ライラ・バロンは双剣使いだ。ウェルド以上の移動速度と正確な剣捌きは尋常じゃない。まるで無数の斬撃が一斉に襲い掛かってくる感じだ」
「うわ、嫌だな~」
嫌だな~って明日そいつらと闘うんだぞ。それにしてもライラってどこかで聞いた名前だったな……あっ!イザベラの母親の名前だ。見た目はお淑やかで優しそうなのに怒ったら超怖いらしいからな。少し苦手意識がついたかもしれない。
「属性は風のみ」
「彼女も一つなんだ」
俺としては一つでも持っていたら凄いと思うんだが。
「レイラ・バロン。ライラ・バロンの双子の妹だが彼女は魔導拳銃の達人とでも言っておこう」
「確かにあれは凄かったです……」
「フェリがそこまで言うんだ」
「命中精度、リロードの速さ、銃を使った近接戦闘の全てにおいて凄かったです。今の私では難しいです」
「ま、彼女は魔導拳銃だけだからな。それに対してフェリシティーが銃器、魔導銃器全般だから作戦の幅を考えるなら圧倒的にフェリシティーの方が良い」
「あ、ありがとうございます」
ん?こんどはなんでフェリシティーが俯いてるんだ?何かのゲームか?
「彼女の属性は水だ。この三人は魔力量が魔族の中でも普通らしく使う武器も魔導武器だ。ま、人間の平均から考えれば魔力量は常人の上を行くけどな」
「それで残りの二人は?」
「オリヴィア・グラーフ。魔力量は四人の中でもずば抜けていて使う武器も魔法武器だ。属性が水、風、雷の三属性持ちだ。みんなも知っていると思うが残り二人は彼女の魔法攻撃で倒された」
「さすが魔族」
「でも、これだけの力があれば絶対軍務科からスカウトされてもおかしくないよね?」
「ま、何かしらの事情があるんだろ」
チーム名から考えてもな。
「で、最後。失われた王冠のリーダーのサイモン・デューク。正直こいつの力は未知数だ。手に入れられる情報だけをあげるなら。武器は魔導剣。属性は火と雷と闇のこれまた三属性持ちだ」
「それも魔族でも数少ない闇属性の使い手だよ。もう嫌だ」
「エミリー嘆かないの。きっとジンさんがこれまで同様に素晴らしい作戦を考えてくれるわ」
あのー……フェリシティーさん。勝手にハードルを上げないで頂けるでしょうか。
「それでジンなにか作戦はあるのか?」
「無い!」
ガクリッ!
俺の言葉に全員が首を落とす。
「自信を持って言うな。馬鹿者!」
「仕方が無いだろ!作戦なんてそうそう思いつくもんじゃないんだからよ!強いて言うなら氷柱で相手の雷属性の攻撃を阻害する程度だ」
「だが、それは相手も予想しているだろ?」
「ああ、勿論だ。だから全然作戦が思いつかないんだ」
いや、作戦なら正直無いこともない。有るか無いかで言えば、有る。だがそれは俺が掲げている目立ちたくないという理由に反する。
「………なぁジン」
「どうした?」
「正直疑問に感じていたことがある」
「なんだ?」
「どうしてお前は団体戦に出ようと思ったんだ?」
「え?」
「だってそうだろ。怠惰の化身。めんどくさがり屋のお前が団体戦に出なければ作戦を考えることも無かった。ましてやずっと観客席で寝ていることも可能だった。なのにどうして出ようと思ったんだ?」
「そ、それは……」
あれ?なんでだ。どうして俺は出ようと思ったんだ?いや、理由はある面白そうだと思ったからだ。だけどそれだけじゃない。
「きっと俺はお前たちと出たかったんだ」
「「「「え?」」」」
「俺さ。この学園に来るまで同世代の友達って居なかったんだ。唯一一緒に過ごした奴も俺より年上で友達って言うよりかは師匠って感じだったしな。だから嬉しかったんだ初めて友達が出来たことに。だから残り一年でお前らと最高の思い出を作りたかったんだ」
「そうか。なら私から一言だけ言わせてもらう」
「なんだ?」
「遠慮するな」
「は?」
正直意味が分からない。なにが言いたいんだ?
「自分で言うのも変だが遠慮したことはあんまりないと思うが」
「確かに遠慮したこと無いな」
あれ?少しは遠慮してると思うけど。それは否定ですか。
「だが、一つだけ遠慮してるだろ」
「なにを?」
「力だ」
「っ!」
ジュリアスが発した言葉に体に電流が走ったかのように思った。
「一ヶ月と半月。ルームメイトとして同じチームとして共に過ごしてきた。だから分かる。ジン、お前はこの中にいる誰よりも強い。そして私たち全員で相手しても掠り傷一つつけられないだろう。きっと#失われた王冠__ロストクラウン__#の五人を同時に闘っても互角に闘えるはずだ。なのにお前はそれを遠慮し全員で力を合わせて闘える作戦を考えてる」
「そんなことあるわけが――」
「いや、あるさ……」
これほどジュリアスが優しく、そして悲しげな表情を見たのは初めてだ。
「正直それは力不足である私たちの責任だ。きっとお前が本気を出せばこれまでの試合も余裕で勝てただろう。だがそうなればジンのワンマンチームだと言われる。お前はそれが嫌だったんじゃないのか?」
「目立つからな。そりゃ嫌さ」
「はぐらかさなくて良い。お前は大切な者のためならば怖いぐらい突っ走る。それは私がよく知っている。あの事件の原因は私の心の弱さが原因だった。なのに処罰は私より遥かにお前の方が大きかった」
「ま、俺としては自堕落な生活が出来たから良かったけどな」
「だけど、その姿を見て悲しむ者も居ることは覚えておいて欲しい」
「………ああ、覚えておくよ」
まったくどうしていつも上手くいかないのかね。
結局この日は作戦を決めることは出来ず解散となった。明日までには考えないとな。




