第二十八話 武闘大会個人戦学科別代表選抜準決勝
今日は5月18日金曜日。
いよいよ、準決勝と決勝が行われる。二試合とも勝ち抜けば冒険科の代表選手として出場することが出来る。俺としては商品だけ貰えればそれで良いんだが。代表なんて目立つし色々と面倒そうだし嫌だぁ~。前世の時から人前で話すのは得意な方じゃ無かったしな。
「どうしたジン。今日の二試合とも勝てば代表だと言うのに、随分と憂鬱そうだな」
「いや、もしも代表に選ばれたら目立つだろ。それが嫌なんだよ」
「確かにジンは悪評が多いからな。嫉妬や嫉みで色々と言われるだろうな」
「まあ、それもあるんだが……」
「?」
「変に目だって注目を浴びるのが嫌なんだよ」
「まあ、めんどくさがりやお前からしてみればそうかもしれないな」
金曜日で明日は休みだと言うのに憂鬱な気分で学園に登校することになるなんて、土曜日なのに出勤しないといけなくなった時のようだ。ま、今回は慰めてくれるジュリアスがいる分まだマシか。
HRを終えた俺たちは演習場へとやってきた。
すでに他のクラスの生徒も来ていてレオリオたちの声援を受けながら選手たちの横にならんだ。
壇上にこれまでと同じ丸刈り先生が話し出す。短いと良いな。
「これより準決勝、決勝を行うわけだが、今日の結果で冒険科の代表が決まる。3、4年生は今年の大会が最後だ。心残りがないよう全力で戦って欲しい。以上だ」
うん、やっぱり話が短くて好感が持てるな。
「それでは選手の皆さんは自分のグループに移動して下さい」
緑の腕章をつける先生たちの前に俺を含め4人が並んだ。
「それでは改めてルールを説明するわね。試合時間は準々決勝と同じで十五分で主審一人と副審四人ね。他に説明はいるかしら?」
挙手するのを待つエレイン先生だが、誰も挙手しないと分かると再び説明し始めた。
「準決勝は同時に試合を行わず一試合ずつ行います。すでに対戦相手が誰なのか知っていると思うけど大丈夫ね」
その言葉に互いに視線を向け合う。うん、視線を感じるな。俺は向けないけど。
「それで、なんだけどどちらから準決勝を行いたい?私たちのほうで決めても良いけど貴方達だけで決めて頂戴」
今後の冒険者たとして生きるために意思表示が出来るようにするためだろうな。ま、俺は元社会人だしそこらへんは大丈夫だけど、正直最初の方が気が楽で良いな。
そう思って挙手しようとした時だった。
「先生、自分たちが最初で良いですか?」
「確か君は一組のガルム君だったわね」
「はい。未来の人生を大きく左右するこの試合で未だに眠たそうにしているこの男をさっさと倒しておきたいんです」
うん、俺の相手だ。まったくロイドといい。俺は真面目な奴からは好かれないタイプらしい。それを言うならジュリアスもそうか。だけどアイツは真面目だが、堅物じゃない。相手の話を聞く柔軟性を持ってるからな。
「私たち教師陣は別に構わないけど、他の3人はどうかしら?」
「別に良いか?」
「ああ、そんな魔力の無い能無しをさっさと倒してくれ」
「俺も同意権だ」
もう一組の奴らも同意見らしい。ほんと嫌われてるな俺。ま、男に好かれたいとは思わないけど。
「お前も良いよな?」
「ああ、俺も構わねぇよ。さっさと終わらせたいって思っていたからな」
「クッ!」
俺の言葉が癇に障ったのか三人から殺気襲い掛かる。ま、あの気まぐれ島にいた連中と比べれば気にするほどでもないけどな。
欠伸をするジン、敵意をむき出しにすガルムたちを見てエレインは内心嘆息していた。
(まったく、相手が魔力が無いからといって見下して。魔力が無いのにここに居ることが脅威なんじゃない。まったくまだまだ経験が足らないわね。ま、その事に気づかないのもジン君のやる気のないあの態度が原因なんだけど。それともわざとそうして気づかせないようにしているのかしら?)
「それじゃ、最初の準決勝はガルム君対ジン君の勝負とします」
エレインの宣言によって第一試合が決まった。ま、俺はいつも通りに闘うだけだけど。
その後は準備のため一旦壁際で待機していたが数分してアナウンスで呼び出された。
ステージには各角に副審が立ち中央に主審が選手が来るのを待っていた。
「それではこれより準決勝第一試合、四年一組ガルム・ウィトウィッキー対四年十一組オニガワラ・ジンの試合を始めます」
エレイン先生の言葉に観客席から声援が聞こえてくる。俺に対しては罵詈雑言が聞こえてくるが。あ、レオリオたちの声援が聞こえる。サンキューな。それより、ガルムの敵意が半端ないほど突き刺さるんだが。
「それじゃ二人とも、準備は良いわね」
「はい」
「ああ、いつでもいいぜ」
その言葉にエレインはこれまでの主審同様右手を振り上げ――
「試合…………開始!」
振り下ろした。
と、同時にガルムは地面から大量の土柱が出現した。しかしそれは俺に対して攻撃するものではなくどちらかと言えば、
「接近させないためか……」
「その通りだ。お前はこれまで開始直後相手の懐に入り込んで気絶させている。だったらそれまでに直線でこられないようにするだけだ」
なるほど、よく考えたな。
「てっきり馬鹿にされているかと思ったんだがな」
「ここまで生き残った奴に対して見くびる俺じゃない。お前と戦うと分かった昨日は徹底的にお前の事を調べさせて貰った」
「え、嘘でしょ……」
「両腕で体を庇うな!俺が男好きだと思われるだろうが!」
ナイスツッコミ。どうやらこいつはジュリアスやロイドと同じタイプらしい。これまで通り楽には勝てないだろうな。ま、俺が少し力を出せば勝てるが、それじゃ面白くもないし強くもなれない。今の力で倒さなければこれ以上強くなる未来はやって来ないからな。
「確かにお前には魔力が無い。だがそれを補い相手を倒せるだけの身体能力と動体視力を兼ね備えている。これまでの試合では掌底打ちだけで勝ち上がってきたため流派は分からなかったが、体術使えると判断した」
体術は我流だけどな。だけど随分と分析されているな。
「それに武器はパチンコ玉とふざけた内容だったが、これまでの試合で使わなかったことを考えると殺傷能力や決定打には欠けると判断した」
「なるほど、それで?」
「ならばお前を近づかせず、この距離から攻撃すれば勝機はある!」
そう言うともう一つの魔導小銃で攻撃してきた。
鳴り響く銃声。術式が組み込まれた魔導弾丸は通常の何倍もの速度と威力を持って俺に襲い掛かってきた。
俺は即座に土柱を壁にして隠れた。
「自分の策で攻撃が当たらないんじゃ意味無いぜ」
「安心しろ。それも計算のうちだ!」
「なっ!」
信じられないことに盾にしていた筈の土柱が消滅した。おいおい!このままじゃ裸の鼠じゃねぇか!
俺は即座に近くの土柱に身を隠そうと移動した。が、
「また消えた!」
俺の移動先を推測して先に消滅させていく。ったく完全に相手に主導権を奪われたな。まったく戦略を練ってくる奴ってのはどうしてこうも面倒なんだ!劣化版ライオネルじゃねぇかよ!
「どうした逃げてばかりじゃ勝てないぞ!」
「うるせぇ、分かってるよ!」
ったく調子に乗りやがって! ん?さっきよりガルムの野郎が良く見える。そうか!土柱を消したことで足止めとしての機能が低下したんだ。だったら!
俺は即座に転進してガルム目掛けて走る。まだ土柱も残っているこれをジグザグに走れば懐に入り込める!
「それも推測どおりだ!」
なに!
叫び声と同時に再び大量の土柱が出現する。
「チッ!これもお見通しってわけかよ!」
「そうだ」
「まったくこれほどの戦術を考えてくるとわな。これまで闘ってきた生徒《相手》よりもやり辛いぜ」
「それは褒め言葉として受け取っておくよ」
土柱は長さ、太さ、強度を一定にしていれば土属性を持っている奴なら誰だって使える初級魔法だ。それを大量に出してこんな使い方するなんてよ。まったく強力な魔法より考えに考え抜かれた戦略を組み込んだ小魔法ほど厄介な物はないとはよく言ったものだな。
「それでどうするんだ。このままタイムオーバーになれば俺の優勢勝ちになってしまうぞ」
奴の言うとおりだ。このまま長引けば俺の負けになる。まったく敵意剥き出しにしていたからてっきり見下してやがるのかと思ったが、全然違ったな。俺の考えもまだまだだな。
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まさかジンが追い込まれるなんてね。
私は予想外の展開に驚かされていた。ジンとは編入初日から何度も手合わせしてきた。だからこそ彼の実力はある程度知っている。だからこそこの学園に彼に勝てる者は居ないと思っていた。
だけど彼のことを徹底して調べ上げ戦略を立ててくるなんて思いもしなかったわ。一組は私が予想しているより遥かに強い。でもガルム君には感謝ね。実技は兎も角座学はいつも居眠りしていて何度注意しても直さないから苛立ってたのよね。ましてや私より強いからキツくは言えないし。自分が悪いと思ったら正直に言うこと聞くから、扱いが難しかったのよね。だからちょっとスッキリしたわ。
でもねガルム君、残念だけど君では彼には勝てないわ。
――絶対にね。
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さて、このままだと本当に負けてしまう。ん?手汗?ふふ、まさか久々に手汗をかくなんていつ振りだ。レオリオたちの時でも汗なんてかかなかったぞ。
でもま、これが勝負だよな。闘いだよな。
「なに笑っている」
「不快に感じたのなら悪いな。ただ嬉しいんだよ」
「嬉しいだと……」
「ああ。このままでは負けてしまうっていう焦燥感に駆られたのはいつぶりだって思ったら嬉しくてな。つい笑ってしまったんだ」
「なにを言ってる?」
ま、理解できないよな。理解されたいとも思わないが。
「ガルム」
「なんだ?」
「確かにお前は強い。これだけの土柱を出せる魔力量。相手を調べ戦略をたてられる頭脳。だけど、お前は一つだけミスを犯した」
「ミスだと」
俺の言葉が不愉快だったのか眉間に皺がよる。無理も無いか。
「ああ、俺が今までパチンコ玉を使わなかったのは、殺傷能力が低いわけでも決定打に欠けるわけでもない」
ポケットから無造作にパチンコ玉を取り出す。
「これまでの相手が使うのに値しなかっただけだ!」
そう宣言すると親指で一発弾いた。
土柱を貫通するとガルムの頬を掠めた。
「………」
ツーと紅い血がガルムの頬を伝い落ちる。
「さて、仕切りなおしと行こうか」
「チッ!」
どうやら自分の推測ミスを悟ったらしい。
しかめっ面で連射してくる。
「だが、もう遅い!」
俺は連続でパチンコ玉を弾いて土柱を破壊していく。
さて、俺のパチンコ玉が無くなるか、そっちが弾切れを起こすのが早いか勝負だ。
互いに相手の攻撃を躱しながら連射する。その結果土柱は破壊されては再び出現しを繰り返す。まったくどれだけの集中力なんだ。魔導小銃に魔力を送り込み狙って連射しながら土柱を出現させるなんて芸当、ジュリアスでも難しいはずだ。
それでも始まりがあれば終わりがある。
先に弾切れを起こしたのはガルムのほうだった。俺はその隙を見逃すことなくパチンコ玉を数発打ち込み倒した。
「勝者、オニガワラ・ジン!」
エレインの宣言と同時に物凄い歓声ではなく罵詈雑言が俺に対して投げかけられた。あれ、おかしくね?それでもレオリオたち十一組の連中からの歓声だけは確かに耳に届いた。
ステージを下りようとした俺にエレイン先生が話しかけてきた。
「貴方にしては随分と時間が掛かったわね。私の時より力は出してないでしょ?」
まったくそれが分かるなんて恐ろしい女だな。
「さて、どうかな」
視界の端に入り込む残り時間に、俺もまだまだだな。と思いながら退出した。
――残り時間2分42秒。
ま、どうにか決勝戦には進めたな。午後からの試合でもこれほど楽しい闘いが出来ればいいな。




