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魔力なし転生者の最強異世界物語  作者: 月見酒
第一章 おっさんは冒険者を目指す
22/205

第二十一話 変な講義の時間

 俺の意識が戻ったのは一時間後の事だった。マジで最悪の気分だ。


「それで本当にジンはルーベンハイト家のご令嬢と知り合いなんだな」

「そうだ」

「そうか……」

 少し落ち込むジュリアスだが仕方が無いか。勝手に疑ったりしたわけだし。


「気にしないでいきなり押しかけて疑われても可笑しくない事をしたのは私なんだから」

「そうだそうだ」

「ジンは黙ってなさい」

「はい……」

 駄目だ。今のイザベラは完全にお怒りモードだ。


「今日はジンに用事があって来たわけだけど、その前に自己紹介するわね。私の名前はイザベラ・レイジュ・ルーベンハイトよ」

「僕はロイド・サウス・グリードだ。お嬢様の護衛をしている」

「二人の武勇は冒険科まで届いております。私の名前はジュリアス・L・シュカルプです。父は男爵の爵位を国王陛下より賜っております」

「勿論知っているわ。お父様からも大変素晴らしい方だと聞き及んでいるわ」

「それは、父が聞いたら大変喜ぶと思います」

 なんだこの豪華で品のある空間は。ここはどこにでもある普通の部屋だったはずだぞ。


「それに貴方の事も軍務科でも有名よ。氷属性の魔法と古流武術の組み合わせが凄く、『#氷刀__アイス・ソード__#』の異名を持つ生徒が冒険科に居るってね」

「いえ、自分などまだまだ未熟者です。それに『神童』や『#紅炎の剣姫__フレイム・ヴァルキュリー__#』などの異名を持つイザベラ様には到底及びません」

「私の事はイザベラで構わないわ。同い年なんだし」

「いえ、しかし。同い年であろうと爵位が違いますし」

「この学園では爵位や権力を振り翳すのは禁止なのは知ってるでしょ」

「わ、分かりました。ではイザベラ……さん」

 まだぎこちなさが残るが今後喋っていれば慣れるだろ。


「さて、自己紹介も終えたしジン」

「は、はい」

 やばい、これは長時間の説教コースだ。だが今の俺にこれを回避する手段がない……終わった。


「どうして編入初日に暴力事件を起こせるわけ?」

「なんで知ってるんだ?」

「すでに学園中に広まってるわよ!編入したばかりの生徒が1組の3人を病院送りにしたってね!」

「それはそれは随分と俺も有名人になったものだな」

「殺されたいの?」

「いえ、何でもありません」

 まったく冗談も言えないじゃないか。


「で、どうして編入して早々暴力事件を起こしたのか説明して貰えるかしら?」

 そんなイザベラの言葉にジュリアスが挙動不審になりつつあった。自分の責任ではあるが、自分の正体を知られるわけにはいかない。そんな悪循環に嵌っていた。


「そんなのムカついたから決まってるだろ」

「なら、ジンはムカついたら直ぐに暴力事件を起こすわけ?」

「そう言う訳じゃないが、今回は怒りが抑え切れなかっただけだ」

「でも結果的にジンは暴力事件を起こした。今回は初犯で編入したてってこともあって一週間の停学で済んだけど、次どうなるかは分からないのよ」

「ご尤もです」

「冒険者になるのが夢なんでしょ。だったら無駄に事件は起さないこと。分かった?」

「はい」

 この流れは良いな。早く説教が終わる流れだ。


「反省してないでしょ?」

「ソンナコトハナイゾ」

 だからどうしてそんなに鋭いんだよ!


「だいたいジンは――」

 これまでのことで不満があったのか完全に長時間コースへと突入した。ああ、俺の休日がどんどん減っていく。

 一時間後。


「だからね、今後は――」

「あ、あの!」

 その時、ジュリアスが声を上げてイザベラの説教を止めてくれた。ナイス、ジュリアス!


「ど、どうしたの?」

「実は今回の暴力事件……全て私の責任なんです」

「どういうこと?」

 その言葉にイザベラとロイドの視線が鋭くなる。


「全ては話せませんが、家の事情で秘密にしている事があるんです。その事で同じクラスのギドたち、ジンに病院送りにされた三人に脅されていたんです。で、その事を知ったジンが解決してくれたんです」

「なるほど、そういう事だったのね。どうしてもっと早くそれを言ってくれなかったの?」

「言えるわけ無いだろ。ジュリアスとの約束なんだから」

「それもそうね。でも少し分かるわね。家のしきたりで悩むのは」

「はい。僕にもその気持ちは分かります」

 どうやら貴族生まれにしか分からないしがらみがあるようだな。


「貴族ってのも面倒なんだな」

「お前には分かるはずもないだろ。平民」

「黙れ愚民」

「誰が愚民だ!」

「はいはい喧嘩しないの」

 一触即発の状況をイザベラは慣れた対応で宥める。


「でもジンには分からないでしょ」

「分かるわけないし、分かりたくもない。貴族としてのプライドや振る舞いだので腹が膨れるわけでも、一銭にもなるわけでもないからな」

「ほんと変なところで合理的よね」

「ただ欲望に素直なだけかと」

「お前に褒められても嬉しくねぇよ」

「誰も褒めとらんわ!」

 なんだ違うのか。


「少しだけ残念がるな。僕が悪いみたいじゃないか」

「全てお前が悪い。今回の暴力事件もお前の責任だ」

「なんでそうなる!?」

「はいはい、コントはもういいから。話を進めるわよ」

「お嬢様流石にそれは酷いです」

「なんだもう終わりか」

「お前は少し黙っていろ!」

 はいはい。せっかく面白かったのに。


「でもどうして喧嘩なのよ。決闘ってシステムがこの学園にはあるのよ」

 そう言えばマリリンがそんな事言ってたな。すっかり忘れていた。


「ジンは編入したてですので知らなかったのでは?」

「そうかもね」

 ナイスアシストだぜジュリアス。


「それで一つ窺っても宜しいですか?」

「あら、何かしら?」

「ジンとはどういった関係なのですか?」

「俺とイザベラの関係か?」

「そうだ」

 なんだそんな事か。


「友達兼命の恩人だ」

「友達兼保護者よ」

「え?」

 意味が分からないと言った表情だな。これほど簡潔で分かりやすい説明もないと思うが。


「よく分からないのですが」

「説明すると初めてジンに会った時、ジンは餓死寸前で倒れていたの」

「え!」

 信じられないと言わんばかりの目で俺を見てくる。


「事実だぞ。で、そこに通りかかったイザベラに助けられたってわけ。だから俺にとっては命の恩人なわけ」

「なるほど、そういうことか。では保護者ってのは」

「だってどうみても怠惰の化身みたいな人でしょ。だからまともに勉強や仕事が出来るか心配なの。だから保護者よ」

「超納得」

「おい」

 まったく誰が怠惰の化身だ。俺はただ好きなことだけして生きたいだけだ。ジュリアスも納得するな。


「分かって貰えて何よりよ。それじゃ私たちはこれで」

「なんだ。本当に説教しに来ただけなのか」

「当たり前でしょ」

 いや、そこで当たり前って言われてもな。される側にもなって考えてくれよ。面倒以外の何者でもないぞ。


「なんだかもっと説教した方が良いような気がしてきたわ」

「いいからさっさと帰れ。まだ怪我は治ってないんだから。休ませろって」

「それもそうね。それじゃロイド帰るわよ」

「はい」

「ジュリアス君、また学園で会ったら話しましょうね」

「はい。分かりました」

「ジンはちゃんと休んだ分の勉強をするのよ」

「分かってるって」

 てか既にジュリアスに無理やりやらされたっての。

 こうしてイザベラたちは自分たちの寮へと戻っていった。


 あれからまた数日が過ぎて4月18日になった。水曜日の今日から久々に学園に通う。ああ、久しぶりだな。退屈続きだったけどまた今日から授業だと思うと憂鬱だな。


「ジン何をしている。早くしないと遅刻するぞ」

「分かってるよ」

 ジュリアスに急かされながら俺は部屋を後にした。


「まったくどうしてお前はそんなにだらしないんだ」

「そんな事言われてもな。学園に早く行ったところでする事なんてないだろ」

「朝から実技だったらどうするんだ」

「それなら制服のしたに着込んで行けば良いだろ」

「まるで海に行く子供だな」

「効率的と言ってくれ」

 そんな下らない話をしながら寮を出て学園へと続く道を歩く。

 全ての生徒がマンション街に住んでいるため学校に近づくにつれて生徒が増えるなんて事はない。いや、実際増えているんだろうが、ハッキリとは分からない。

 しかし、一週間前に学園に通った時とは違う点が一つだけあった。それは周りから感じる視線だ。恐怖や敵意といった視線が大半だが、中には品定めするような視線も混じっていた。あの島で暮らしていたせいか視線には敏感になったからな。殺意や敵意、獲物を狙う魔物どもの巣窟だからな。あそこは。

 ジュリアスも気づいたようでどこか落ち着きがない。ま、無理も無いか。だけどこの視線をどうにかする事は出来ない。出来るかもしれないが、それはまた面倒ごとを起すだけ。そうなればイザベラの説教コースだ。


「ジン、ジュリアス君おはよう」

 学園に向かっていると後ろから俺たちに挨拶する奴がいた。誰だそんな酔狂な奴は。


「ってイザベラか」

「何だかとても失礼な含みを感じたんだけど気のせいかしら」

「気のせいだ。心配するな」

「ジュリアスさん、ロイド君。おはようございます」

「おはよう、ジュリアス君。敬語じゃなくて良いわ。普通にお願い」

「善処します」

 この堅物に気楽に喋れって言うほうが無理な話だ。


「フンッ!」

「痛てっ!何するんだよ」

「いや、何だから腹が立ったから」

「なんだよそれ」

 まったくどうして俺がそんな理不尽な目に合わないといけないんだ。


「で、ジン今日から久しぶりの学園だけど大丈夫?」

「大丈夫じゃない。今すぐ部屋に戻って寝たい気分だ」

「へぇ~」

「も、勿論冗談だ!だからそんなに殺気を出すな!」

「別にそんな物は出していないけど?」

 出してるっての!ドス黒いオーラがメラメラ出てるじゃねぇか!


「はぁ、まったくどうしてジンはそんなにも面倒臭がりなの?」

「え、だって働くなんて嫌じゃね?」

「それは誰だってそうだけど。働かないと生きていけないわよ」

「いや、俺働かなくても生きていけたけど」

「ジィン~」

「いや、なんでもない!そ、そうだな働かないと生きていけないよな!」

「?」

 危ない危ない。ジュリアスには内緒だった。

 そんな感じで学園に到着した俺は科が違うイザベラとロイドと別れ、その後にクラスが違うジュリアスと別れて教室へと向かった。まだ一日しか行ってないけど場所は覚えていたな。銀も久しぶりで楽しみなのか尻尾を振ってるな。

 扉を開けると既にクラスメイトの大半が座って雑談なんかしていた。だけど、俺の姿を見るなり、登校しているときにも感じた視線を向けてくる。ま、予想はしていたけど。

 俺はそんな視線を無視して誰も居ない列の席に座る。さて授業が始まるまでなにするかな。


「よ、不良元気にしてたか」

『っ!』

 喧嘩でも売るかのような台詞を投げかけてきたのはレオリオだった。


「誰が不良だ」

 勿論この程度で怒ったりキレたりはしない。てかこの程度で怒る奴って居るのかよ。


「当たり前だろ。喧嘩は禁止されてるのに編入初日にしたんだから。それも暴力事件とまで言われるほど相手を痛めつけたんだからな」

「仕方が無いだろ」

「でもま男としては尊敬するけどな」

「なんの話だ?」

「既に噂になってるぜ。ルームメイトを助けるために喧嘩したんだってな」

 いったいどんな噂が流れたんだ。


「あ、それ私も聞いたよ。なんでも持ち出し禁止の魔導拳銃を持ち出してクラスメイトを脅そうとしてたんでしょ。それを助けるなんて凄いね!」

 大声でエミリアが噂の内容を喋るがなんか微妙に喧嘩の内容がずれてるような。


「私も聞きました。ましてや相手は1組の生徒3人組。エレイン先生と素晴らしい模擬戦を繰り広げていた時から只者ではないと思いましたが、まさか実技では上位の成績をとるギド君たちに勝手しまうなんて凄いですね」

 なんか噂に尾鰭がついて拡散している気もするが、気にしないようにしておこう。

 だけどそんなフェリシティーたちのおかげもあってクラスの雰囲気が和らいでいった。まったく優しい奴らだ。


「別にそこまでじゃないと思うが」

「そんなことねぇよ。それにお前のお陰で俺たちも良い思いしてるしな」

「どういう事だ?」

「ほら、俺たちって下から2番目の落ちこぼれクラスだろ。でもお前が1組の連中を倒したお陰で他のクラスの奴らが俺たちを馬鹿にしなくなったんだよ」

 なるほど、そういうことか。


「何言ってるんだ!そいつのせいで俺たちまで変な目で見られるんだぞ!」

 そんなレオリオの言葉に反発する声が上がった。


「そうだ。俺たちまで不良扱いされるなんて最悪だ」

「ならお前は一生馬鹿にされても良いのかよ!」

「そ、それは嫌だけど。でもその編入生のせいで俺たちにまで変な目で見られるなんて御免だ!」

 ま、人の考えなんてそれぞれだ。ポジティブに考える奴も居れば、保身のためにネガティブな考える奴だっている。まさに十人十色だな。


「なあ、レオリオあの二人は誰だ?」

「お前クラスメイトの名前ぐらい覚えておけよ」

「いや、俺この教室来たの今日で二日目だし、自己紹介とかされてないし」

「そうれもそうか。最初に文句言ってきた緑髪の男子はハルト・クローバー。で紫髪の獣人がイトリ・クローバーって言うんだ」

「クローバーって双子か?それにしては似てないが」

「いや、従兄弟同士らしい。それがどうかしたのか?」

「ハルトとイトリ」

「な、なんだよ」

「そんなに変な目で見られるのが嫌なのか?」

「当たり前だろ。誰だって嫌なはずだ」

「俺も嫌だ」

「だったらなんで暴力事件なんて起したんだよ!」

「ルームメイトが脅されていたから」

「うっ」

 俺が人助けしたことは間違いではないはずだ。ただその方法が間違っていただけの話。正直俺にとってはどうでもいい事だ。だけど残りの1年間ぐらい蟠りなく過ごしたい。


「確かに俺がとった解決方法は間違っていた。考えなしの行動だ。なら聞くが大切な友人や兄弟。恋人なんかが脅されているのを目撃したとして、お前たちならどう解決する?俺は馬鹿だからな喧嘩しか思いつかなかった。でもお前たちならその方法を知ってるよな」

「そ、それは……」

「知らないのか?」

「け、決闘だよ!この学園には決闘ってシステムがあるんだ!」

「そういうシステムがあるらしいが、相手は平然と持ち出し禁止の魔導拳銃を持ち出して脅しに使う1組の生徒だ。そんな相手にお前たちは勝てるのか?」

「そ、それは……」

「無理だよな。なぜならもしも決闘で負ければ自分が悪者で、脅しをしていた相手が正当化されてしまうんだから」

 俺の言葉に苦虫を噛み締めた表情をする。それはハルトやイトリだけでなく俺の話を聞いているクラスメイト全員が似たような表情をしていた。


「この決闘ってシステムの上手いところは、公式に行われることだ。そこには教師や興味本位や好奇心で観戦しに来た生徒たちが目撃者であること。そこで負ければどんなに相手がクズ野朗でも正義として見られ、負けた自分が悪だと認識されてしまうところだ」

「ならどうするんだよ!」

「簡単だ。強くなれば良い」

「そんな容易く言うなよ!」

「その通り。そう簡単に強くなれるわけがない。ならどうするか。人一倍頑張るしかない」

「でもそれじゃ遅いんだよ!」

「だから今のうちに頑張るしかないんだよ。お前たちは俺と違ってそんな目にあってないんだ。だったらそんな時とために頑張るしかないよな」

「くっ!」

「そしてそれで強くなればそこそこ良いギルドにも入れる。そして学園は素晴らしい生徒を輩出したと言われ、国や色んなところから賞賛される。あれ?これって学園の思う壷だよな。でもこの学園の理念は弱肉強食。間違ってはいないのか」

「なんだよそれ……」

「そう決闘ってシステムは生徒たちに奮起させ自主的に鍛錬をさせることが目的の一つなんだよ。でも生徒たちはただ喧嘩を正当化するためのシステムだと思い込んでる。これが学園側と生徒側と違いだ。勿論暴力事件ゼロっていう建前もあるんだろうけどな」

「だからジンは決闘をせずに喧嘩したのか?」

「いや、ただ単に知らなかっただけだ」

「なんだそりゃ」

 前のめりにこけそうになるレオリオ。別に喜劇をしてる覚えはないんだが。


「で、変な目で見られないようにする方法もまた同じ。強くなればいい。それだけだ」

「だからそんな簡単に言うなよ!俺たちだって努力してるんだ!だけどお前みたいに強くはなれないんだよ!」

「本当に努力してるのか?」

「なに」

「俺は先週ここで自己紹介した時言ったよな。魔力を持っていないって。それを聞いてお前たちの大半は鼻で笑ったり内心馬鹿にしてた奴だって居たはずだ。だけど俺はそんな現実に抗うために我武者羅に行動した。どうやったら強くなれるのか。どうやったら勝てるのか。俺は考え、行動した。その結果が今の俺だ。魔力を持たない俺が強くなれて魔力を持っているお前たちが強くなれないわけがないだろ」

『っ!』

 俺の言葉に目を見開ける生徒が何人かいた。それがどういう意味なのか俺には良く分からないが、前向きな意味で捉えてくれていることを願うだけだ。

 そのあと直ぐにエレイン先生が教室入ってきて講義みたいな時間は終わった。まったく俺らしくも無い事をしてしまった。

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