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魔力なし転生者の最強異世界物語  作者: 月見酒
第一章 おっさんは冒険者を目指す
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第十八話 喧嘩

 制服に着替えた俺はレオリオと一緒に寮へと戻る。ジュリアスも誘おうかと思ったが、どこで授業をしているのか分からなかったから、止めておいた。

 レオリオの部屋は四階らしく、そこで別れた俺は銀と一緒に部屋に戻った。

 茜色の日差しが少しだけ差し込む部屋はどこか寂しさを感じさせる。別に生活感が無い訳でも殺風景でもない。ただ何故か寂しく感じた。

 冷蔵庫からお茶を取り出しとそのままラッパ飲みをする。残りも少ないから別に大丈夫だろう。


「ガウ!」

「銀も喉が渇いたか」

 俺はアイテムボックスから銀用のペットボウルを取り出して水を入れてから床に置く。それを見た銀は嬉しそうに水を飲みだした。中世時代と違い現代日本と同じぐらい発展しているこの世界では普通に水道水が出る。あ、因みに銀に飲ませている水は水道水じゃなくて天然水だから。銀は水道水に含まれるアルカリの臭いが嫌みたいだからな。まったく我侭な奴だ。かわいいから許すけど。

 残り僅かなお茶を持ってベランダに出る。

 春上旬と言う事も合ってか、夕方はまだ肌寒いな。銀は平気みたいだが。ま、季節も天候も出鱈目な島で生まれ育った神狼だからな。当たり前といえば当たりまえか。


「ああ、煙草が吸いたい」

 前世では吸っていた煙草が今になって恋しくなる。よく仕事終わって家に帰ったらベランダで吸ってたっけ。まさかこんな事になるなんてあの時は思ってなかったからな。


「ガウ!」

「どうした。お、あれは」

 銀に教えられて下を見てみればジュリアスが寮に入ろうとしていた。ようやくか。1組は今まで勉強してたのか。まったく熱心なことで。

 肌寒くなってきた俺は部屋の中で寛いでいるとジュリアスが帰ってきた。


「よ、お帰り。遅かったな」

「…………」

「おい、ジュリアス」

「っ!ジン帰ってきてたのか……」

「随分なご挨拶だな」

「すまない……」

「どうしたんだ。暗い表情しているが。まさかまたアイツ等に何か言われたのか?」

「違う。そうじゃない」

「本当か?」

「本当だ」

「本当の本当か?」

「本当の本当だ」

「本当の本当の本当か?」

「しつこいぞ!だいたいジンには関係ないことだ!ほっといてくれ!」

「………」

「す、すまない!今言ったことは忘れてくれ」

 そう言い残してジュリアスは寝室へと消えていった。まったく本当に面倒なことばかり起きるよな。

 時間は過ぎ、夕食の時間になった俺は寝室のドアを叩く。


「ジュリアス夕食の時間だけど、一緒に行かないか」

「すまないが一人で行ってくれ。食欲が無いんだ」

「そうか、分かった」

 一人でご飯を食べていると、


「よ、ジン」

「レオリオお前も飯か」

「そうだ。隣良いか?」

「ああ」

「どうしたんだ。暗い顔して」

「そんな顔してたか」

「まあな」

 そうか。俺らしくもない。あの島では考えることいえば、毎日の食料といかに敵を殺すかのしか考えてなかったからな。色んな人とであって、色んな出来事があった。楽しくもあったが、面倒な事も沢山だ。本当に面倒だと感じるよ。


「それにしてもあの戦いは凄かったぜ」

「なんの事だ?」

「エレイン先生との戦いだよ。お前の事を馬鹿にしていた他のクラスメイト連中も考えを変えたらしいぜ」

「そうか」

「それだけ!」

「いや、俺には関係ないだろ。他人がどう思ってようが、俺は自分がしたいことをするだけだ」

 そう、したいことをするだけ。


「ほんと欲望や本能に忠実と言うべきが、その性格が羨ましいぜ」

「お前もそうしてみたらどうだ?」

「無茶言うなよ」

 そんな他愛もない話をしながら食事を終えた俺たちは自分の部屋に戻るために食堂を出た。

 食堂のおばちゃんに頼んで作って貰ったおにぎりとステーキを持って部屋に戻ると、


「ガウッ!」

「うおっ!」

 銀が飛び出してきた。


「どうしたんだ銀。そんなにお腹が減っていたのか」

 しかし銀は部屋に戻り寝室の扉を引っかく。無視ですか。

 テーブルにおにぎりとステーキを置く。ん、ドアが空いている。まさか!

 慌てて開けるとそこにジュリアスの姿は無かった。


「あの馬鹿っ!」

 やっぱり何か言われたんだ。考えられることと言えば今日中にお金を用意しろってところか。

 念のために部屋中探すがやはり居ない。もしかして外か!

 ベランダに出て外を見渡す。


「居た!」

 俯きながら人気の少ないマンション側面に消えていく。


「銀、行くぞ!」

「ガウッ!」

 俺と銀は慌てて部屋を飛び出して、ジュリアスの下に向かう。

 マンション横に向かうと、そこにはやはりジュリアスとあの不良三人組が居た。


「ちゃんと金は用意できたんだろうな」

「た、頼む!もう少しだけまってくれ。このお金は必要なんだ」

「はあん、ナメてんの?俺たちが親切にしてるからって調子乗るんじゃねぇよ」

「そうだぜ。ギドが切れたらどうなるかジュリアス君も知ってるだろ」

「そうそう」

「だ、だけど……このお金は私が新しい武器を買うためにお父様に頼み込んでくれたお金なんだ」

「だったらもう一度頼み込めば良いだろ。俺たちだって新しい武器を買うために必要なんだからよ」

 ギドとか言うリーダー的奴の言葉に仲間の二人が下卑た笑いを洩らす。どう考えても嘘だな。大抵こう言う奴等は遊んで使い果たす。


「良いから、渡せよ。俺たちも暇じゃねぇんだからよ」

「………」

「黙ってねぇで何とか居えよ。犯すぞ!」

 っ!また言いやがった。消して口にしてはならないセリフを言いやがった。これで二度目だぜ。クソったれ。

 今にも殴り殺したい気持ちを押し殺して俺は一歩踏み出した。


「だからなんとか――」

「おい」

 自分でも驚くほどの低い声で呼びかける。


「なんだてめぇ……」

 薄暗くて俺のことが分からないようだな。ま、それでも良いや。


「ジン!」

 ジュリアスは気づいたようだけど。


「ジン……?はっ、誰かと思えば11組でこのジュリアスのルームメイトの雑魚君かよ」

 見下しながら吐く言葉。その言葉を仲間の二人も嘲笑い出す。


「で、何しに来たんだよ雑魚」

「ムカつくてめぇらを殴り殺すためだ」

「……あははははははははっ!おい、今こいつなんて言ったぁ?」

「俺たちを殴り飛ばすだってよ」

「11組の雑魚の癖にジョークだけは一流だな」

「そんなに面白かったかよ」

「ああ、最高だぜ」

「そうかよ。なら早く殺ろうぜ?」

「編入生のお前は知らねぇのかもしれないが、学園での喧嘩は最悪退学なんだぜ」

「だから?」

「おいおい、雑魚だけじゃなくて馬鹿なようだな。だから喧嘩なんて俺たちがするわけねぇだろ」

「つまり、校則が怖くて喧嘩が出来ないってことか。まったくどっちが雑魚だよ」

「なんだと……」

 俺の挑発にギドの纏う雰囲気が変わる。伊達に1組に選ばれたわけじゃなさそうだな。


「いいからさっさと全員纏めて掛かってこいよ。雑魚共」

「後悔してもしらねぇぞ」

「おい、本当にやるのかよ」

「当たりまえだろ。あそこまで舐められて黙ってられるかよ」

「でも、もしも退学になったら」

「大丈夫だ。アイツをボコボコにしたあと、俺たちが口裏合わせれば良いだけの話なんだからよ。ルームメイトのジュリアスを脅迫していたところを俺たちが偶然見かけて、話しかけた瞬間殴り掛かって来たから返り討ちにしたってな」

「さすがギド君。実技だけじゃなくて学力も上位なだけはあるね」

「リンチ決定じゃん」

「そうだ。さっさと終わらせて金貰って帰るぞ」

「話は終わったか。ならさっさと来いよ」

「後悔してもしらねぇぞ」

 三人は一斉に殴り掛かって来た。襲い。鈍い。なんだこいつら。本当に1組なのかよ。さっきの気迫は嘘だったのかよ。

 攻撃を躱すと全員を殴り飛ばす。

 数メートル吹き飛ばされた3人はありえないモノでも見るような目で俺を見つめる。軽く殴ったからな。あの程度で死んで貰っては困る。


「何者だてめぇ!」

「俺か?俺は編入生で、11組の生徒で、そしてジュリアスのルームメイトだよ」

 それぐらい知ってるだろうが。


「ほら、立て。まだ始まったばかりだぞ」

「チッ!舐めるなよ」

 舐めるかよ。お前なんか舐めたら体が腐るっての。

 再び攻撃してくる三人の攻撃を今度は躱さずに先に相手の顔面に拳を打ち込む。拳にグリュという感触で鼻の骨が折れた事が伝わってくる。


「この程度なのか?」

 鼻を押さえる手の隙間から鼻血が滴り落としながら俺を睨む。まだ戦意はあるようだな。そうでないと俺が困る。


「おい、肉体強化だ!」

 ギドの指示で三人は肉体強化を行う。なるほどさっき感じた気迫はこれか。確かイザベラとの地獄の勉強で魔力は持ち主の感情で大きく左右されるとか教科書に書いてあったな。


「さっきまでのように上手く行くと思うなよ」

「良いから来いよ」

「くたばれやっ!」

 3度目の正直と言うべきなのか分からないが、確かにさっきより速く強くなったのが分かるが、遅い。なんだよ冒険者科の連中ってこの程度なのかよ。いや、きっとこいつ等が1組のなかでも弱いに違いない。

 殴る。蹴るの攻撃を躱しながら反撃の拳をお腹、顔に打ち込む。あ、肋骨が折れたな。


「もう終わりか?」

 弱い。弱すぎる。まだエレイン先生の方が強かった。遣り甲斐があった。なのになんだこの弱さは。ジュリアスはこんな雑魚共に脅されていたのか。


「ほら、早く立てよ」

「た、頼む見逃してくれ」

「は?」

 ギドの仲間の一人が変な事を言い始める。なに言ってるんだこいつ。馬鹿なのか?冗談にしては笑えない上段に怒りが込み上げてくる。俺はその男に近づく。


「見逃すはずがないだろ」

「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁ!」

 右腕の骨を折ると同時に強烈な叫び声を上げる。煩すぎるだろ。


「腕が折れたぐらいだ喚くな」

 言いながら鳩尾を抉り込むように踏みつける。


「ぐええええぇぇ」

 内臓が圧迫されたのか男は四つん這いになって胃の中の物を吐き出す。


「汚ねぇな。買って貰った服が汚れるだろうが」

 バンッ!バンッ!


「クッ!」

 乾いた銃声が暗く静かなマンション街に響き渡ると同時に俺の左脚と右肩に激痛が走る。

 薄暗くてよく分からないが、感覚的に何かに貫かれた痛みだ。少し懐かしいぜ。

 俺は振り返るとギドがどこから持ち出したか分からないがハンドガンを構えていた。


「なんでそんな物を!」

 驚きを隠せないジュリアス。ま、当然だよな。軍務や冒険科があるとは言え、使用時以外は武器類は厳重に保管されているんだからな。


「へへっ、ジュリアスを脅すために持ってきた物が、こうも役に立つとはな……」

 鼻を押さえる反対の出て銃口を突きつけてくる。


「ジュリアス動くなよ。編入生お前はイナンから離れろ」

 この男はイナンって言うのか。俺は指示に従いゆっくりと離れる。


「で、そのハンドガンでどうする気だ?」

「決まってるだろ。跪いて命乞いをしろ。そうしたら許してやる」

 まるで勝利を確信したように優越な笑みを浮かべる。


「断ったら?」

 バンッ!


「ジン!」

「こうだ」

 俺の右頬を掠めた弾丸は離れた気を難なくと貫通した。


「魔導拳銃か」

「その通りだ。普通の拳銃の5倍の威力がある。死にたくなければ命乞いをしろ」

 俺とギドが話てるうちにイナンともう一人がギドの傍まで来ていた。その二人もまた優越感に浸っていた。ほんと馬鹿だろ。まだ決着は着いていないって言うのに。

 俺は一歩一歩とギドに向かって歩き出す。


「し、死にてぇのか!本当に撃つぞ!」

「撃てよ」

 人も魔物も殺したことのない奴が撃てるかよ。


「し、死ねええええええええぇぇぇぇ!!」

 って撃ちやがった!

 魔法弾より遥かに速い弾丸は俺の頭目掛けて飛んでくる。あ、これ直撃コースだ。躱したいところだが、左足を撃たれていてそれは無理そうだ。

 覚悟を決めた俺は飛んでくる弾丸に集中する。一番大切なのはタイミングだ。側面から掴まないと手を貫通するからな。

 そして俺はタイミングを合わせて目の前で左フックを出すように魔導弾丸を側面から掴む。


「痛てっ!」

 魔導弾丸に含まれる魔力を霧散させると同時に身体にいつも以上の激痛が走るのを我慢して弾丸を掴む。きっと今の俺の動きはマッハ10を遥かに超えていただろう。


「お、おい……今、何をした!?」

「何ってこの通り弾丸を掴んだだけだ」

「ふざけるな!普通の弾丸でもそんな事不可能なのに、遥かに強化された魔導弾丸を掴むなんてありえないだろ!」

 目の前の現実が信じられないのか怒鳴り散らす。

 でも無理ないか。普通の拳銃の弾丸の速さは約秒速350メートルだが、魔導弾丸は硬化魔法、強化魔法など様々な魔法が付与されている。その威力は通常の拳銃の5倍~10倍と言われている。勿論拳銃の種類や付与する数や使い手が送り込む魔力量によって速度や威力は異なってくるが、それでも最低秒速1750メートルのスピードが出ている。つまりマッハ5以上のスピードが出ている事になる。そんな弾丸を片手で掴んだのだから当たりまって言えば当たりまえか。


「だが、現実だ」

 こうして話している間にも俺は奴に近づく。


「く、来るんじゃねぇ!」

 この距離なら大丈夫だ。右足で地面を強く蹴ると陥没した。


「き、消えた!?」

 どうやらギドたちには見えなかったようだな。

 困惑する隙に俺は拳銃を右手で払い飛ばし、


「しまっ――ぐへっ!」

 そのままギドの顔面に左フックを叩き込む。

 おれの一撃でギドは地面に叩きつけられる。


「さて、そろそろ終わらすか」

「「うわあああああああぁぁぁぁ!!」」

 逃がす訳ないだろ。俺は再び右足で地面を蹴って逃げ惑う二人の背後に近づくきそのまま後頭部を持って地面に叩き付け地面にめり込ませる。あ、こいつにまだしてないな。俺は三人目の脚を折ってからギドの許に戻る。


「よう」

「なんでそこまでするんだよ!」

「何を言ってんだ?」

「昨日編入したばかりのお前がどうしてジュリアスを助けるんだよ!」

「そんなのルームメイトだからに決まってるだろ」

 本当にこいつは1組の優等生なのか?どう見てもただの馬鹿だろ。


「さて、再開だな」

「まっ――!」

 俺は無視してギドを殴る。殴り続ける。何発も何発も殴る。鼻水、鼻血、涎、涙でグチャグチャになろうが知ったことじゃない。こいつは俺のルームメイトを犯そうとしただから殴る。


「#は、はほふ!ひゃへてふれ!__た、頼む!止めてくれ!__#」

 顔が腫れているせいかなんて言ったのか上手く聞き取れなかったが、なんとなく分かった。


「本当にお前馬鹿だろ。最初に言ったのよな。俺はお前を殴り殺すって」

「っ!」

 この時俺がどんな顔をしていたのかは分からない。ただギドの表情が一気に青ざめ絶望に変わった事だけは分かった。勿論その程度で止めるつもりはない。

 俺は再び左拳を振りかぶった。


「も、もういい!」

 その時、ジュリアスが俺にタックルする形で止めに入った。勿論その程度で吹き飛ばされはしない。ちゃんと受け止めた。


「もういい!私はもう大丈夫だから止めてくれ!」

「……分かった」

 俺はそこで止めて立ち上がった。


「おい、金輪際ジュリアスに関わるな。もしも次見かけたら今回以上に苦しめてやる」

「…………ふぁい」

 どうやら意識はあるようだな。


「さて、帰るか」

 俺たちはこうして部屋に戻っ――。


「何をしているの!」

 どうやら直ぐには戻れなさそうだ。はぁ俺の睡眠時間が減ってしまう。それに腹減った。


「銃声が聞こえたから着てみればなによこの惨状は!」

 よく見てみると、銃声を聞いた生徒たちが集りだした。


「あ、あの!マリリンさん。こ、これはには――」

「俺がやったんだ」

「ジン!」

「事実だろ」

「そ、それはそうだけど……」

 庇おうとしてくれてありがとうよ。でも俺の問題だからな。


「はぁ、なんとなく事情は分かったわ。先生方を呼んだから少し待ってなさい」

「「はい」」

「貴方たちは部屋に戻りなさい!」

 その後はマリリンに言われて駆けつけた先生たちによって俺とジュリアスは連行された。

 結局俺とジュリアスが開放されたのは深夜の0時過ぎだった。まったく全て話したってのにどうしてこうも時間を掛けるかね。


「重くないか?」

「これぐらい平気だ」

「そうか」

 運良く弾丸は貫通していたお陰で一大事には至らなかったが、流石に歩くのはしんどいのでジュリアスの肩を借りて寮に向かっていた。え、入院すれば良いだろって。俺は仕事、勉強の次に病院が嫌いなんだ。

 その後は一言も喋ること無く、部屋に戻ると、真っ暗になった部屋を月夜が照らしてくれていた。


「消灯の時間は過ぎているからな。やはり電気はつかないか」

「ま、明るいし大丈夫だろ」

 ソファーに座らせて貰うとジュリアスは床に座った。


「あ」

「夕飯要らないって言ってたけど、もしかしたらお腹が空くと思って持ってきたんだ。因みにそっちの冷えたステーキは銀のだ」

「私のより豪華だな」

「まあな」

「だけど嬉しいよ。有難く頂くとしよう」

 サランラップに巻かれたおにぎりを受け取るとラップを剥がして食べようとした。

 グウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥ………。


「悪い。動いたらお腹が空いた」

「……ぷっ、あははははははっ!す、すまない。あまりにもシリアスが向かない奴と思ってな」

「ほっとけ」

 俺だって悲しくなる時だってあるぞ。お腹が空いても食料が見つからない時や、寝たくても寝れない時や、発散したくてもオカズがなくて出来ない時とか。ほら、悲しくてとてもシリアスじゃないか。


「ジンも一緒に食べないか?」

「良いのか?」

「ああ」

 月光に照らされたジュリアスの表情はとても柔らかく優しげなものだった。ダメだダメだ!俺の欲望よ!性欲よ!今はダメだ!抑えろ!食欲に変換するんだ。

 俺はラップを剥がしておにぎりを頬張る。


「そんなにお腹が空いていたのか」

 煩い。誰のせいだと思ってるんだ。


「っ!」

 やばい!喉に詰まった!

 トントンッ!


「ちょ、ちょっと待ってろ!」

 気づいたのかジュリアスは慌てて水が入ったコップを渡してきた。


「ほら、飲め!」

 奪うように受け取った俺は水を一気に流し込む。


「プハッ。死ぬかと思った」

「一気に食べるからだ。馬鹿者」

「悪かったな」

 確かに俺のミスだが罵倒することはないだろ。まったく。


「……いや、馬鹿者は私のほうだ」

 急にジュリアスの表情が悲しげに曇りだす。


「自分自身の事なのに、問題を解決したのはジンなんだからな」

「別に気にする必要はないぞ。俺がしたことなんだからな」

「気にするさ!」

 悲しみを宿す瞳を見開けてまま迫り来る。ま、無理もないか。


「私が一歩踏み出していれば、ジンが咎められる必要はないんだ。怪我もすることも無かったんだ!全て私の責任だ」

「そんな事はないぜ。お前はちゃんと一歩を踏み出してたさ」

「え?」

「ちゃんと自分の気持ちをあいつ等に伝えていただろ?」

「聞いていたのか?」

「悪いと思ったけどな」

 いや、嘘だな。俺がしたいことのために必要だったからに過ぎない。


「だけど、あれは踏み出したとは――」

「いや、ちゃんと踏み出していた。どんなに小さくても、届かなくても踏み出したことには変わりはない。今回はただちょっと踏み出す一歩が短かっただけだ。だから俺がその分を補ったに過ぎない」

「どうしてそこまで……」

「どうしてって俺たちはルームメイトだろ?」

「それだけ?」

「それだけって酷いな」

「だってそうだろ。私とジンが出会ったのは昨日だ。時間にすれば一日と数時間だ」

「確かにそうだが、先にしたのはお前だろ?」

「え?」

「お前は出会って間もないのに、俺が11組と分かった瞬間、自分のことのように親身になって怒りだした。だから俺は恩人に恩返しをしただけに過ぎないんだよ」

「…………」

 なにやら黙り込んでしまった。俯いていて流石に表情も分からないか。こういう時の対象方なんて俺知らないぞ。………よし、決めた。寝よう。


「さて、俺はそろそろ寝るぞ。怪我してるし風呂は無理だな」

「待ってくれ」

「どうした?」

 立ち上がろうとしたがジュリアスに引き止められてしまった。まだ俯いているから表情までは分からないが。


「さっき立ち聞きしていたと言ったな」

「ああ」

「もしかして昼休みの時もしていたのか?」

 あ、ミスったな。さて、どう返答するべきか。正直に言うべきか。嘘を言うべきか。


「その無言で分かった。聞いていたんだな?」

「……ああ」

「なら、私が……お、女であることも知ってるんだな」

「ああ」

「それで、脅されていたことも」

「勿論だ」

「そうか……」

 いったいどうしたんだ。もしかして女とバレたから出て行けって事なのか?いや、流石に今は無理だ。怪我もしているし、どこで寝ろって言うんだよ。


「大丈夫だ。俺はここで寝るから。勿論寝室にもいかない。やく――」

「そうじゃない。確かにジンに知られた事は誤算だった。だけどジンがそんな事する奴じゃないことは今日の出来事で分かったつもりだ」

 スイマセン。さっき襲いそうになりました。


「だから、聞いてくれるか?私がどうして男装しているのか」

「良いのか?」

「ああ。ルームメイトだからな」

 まったく入ったばかりのルームメイトを信じるなよ。反応に困るだろ。


「私は男爵家の次女として生まれた。勿論家督を継ぐことはない。女である以前に兄がいるからな。だから私に与えられた道は普通科に通い、卒業と同時に結婚することだけだった。だけど私は冒険者になりたかった。別に現役の冒険者に憧れたわけじゃない。元々シュカルプ家は冒険者から貴族になった家系なんだ。私の曽祖父が冒険者の時に偶然次期国王になる第一王子を救ったのと実力が認められて男爵の爵位を賜ったんだ。で、家督を継ぐ長男と女性以外は冒険者になることが許された。なんで女性がダメなのかはなんとなく想像が出来た。貴族同士の交友を親密にするためだ。いわゆる政略結婚という奴だ。だけど私はどうしても冒険者になりたかかった。勿論最初は反対された。だけど私に才能がある事が分かると、一つの条件をクリアすれば認めると言うものだ」

「もしかして男装か?」

「そうだ。卒業までに私が女である事がバレなければ冒険者になることを認め。バレたら、即座に結婚と言うものだ。だけど、3年生の秋のことだ。私がいつも一人で着替えている事に不振に感じて張り込んでいたんだ」

「で、そこでバレたわけか」

「そうだ」

 なるほど、それで言いなりになっていたわけか。夢を叶えるために。俺には無理だ。絶対に耐えられん。


「一つ聞くが、その胸はさらしか?」

「そ、そうだが。それがどうした」

 しまった俺の欲望が言葉になって出てしまった。欲望に素直な自分を呪いたいぜ。だから胸を隠しながら睨まないでくれ。イザベラ並に怖い。


「別に大した意味はない。寝るときも巻いているのか思ってな。苦しいだろ」

「寝るときは巻いていない。ジンが寝た後にこっそり外している」

「朝は?」

「ジンが起きる前に起きて巻いている」

 そう言えば、朝起きたら既に起きて制服になっていたな。よし、なら今日は――


「言っておくが、もしも覗こうとしたりしたら殺すからな」

「わ、分かっているさ。何を言ってるんだ」

 流石は実技で3位の実力者。殺気が半端ない。


「もう一つ良いか?」

「なんだ。如何わしいことじゃないだろうな」

「俺をなんだと思っているんだ?」

「少しエッチなルームメイト」

 酷い。でも事実だから言い返せない。


「それで、なんだ?」

「その口調だよ。もう俺は正体を知ったわけだし、二人のときは普通に喋って良いんだぞ」

「学園に冒険者として入るために入学一年前から練習を始めてから4年目だ。元に戻すのは無理だ」

「そうか。ま、喋りやすい方で良いぞ。あ、それと?」

「なんだ?」

 いや、そこまで警戒しなくても。


「ジュリアスの名前って。ジュリアスなのか?」

「いや、違う。私の名前はジュリア・L・シュカルプだ」

「男として生きる為にスを付けたわけか」

「そうだ」

「なら、二人きりの時はジュリアって呼んだほうが良いか」

「ダメだ!」

「な、なんで?」

「そ、それは……誰かに聞かれる恐れがあるからだ」

「な、なるほど。確かにな」

 俺のせいでバレたとなれば最悪だからな。


「ま、話はそれだけだ。俺は寝る」

「分かった。私は着替えてから寝るとしよう」

 俺はそのまま自分のベッドに向かって横になった。流石に撃たれた事もあって体が休息を求めているのか直ぐに意識が闇の中へと引きずり込まれた。くそ、これじゃジュリアスの胸を確認できないじゃないか。

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