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魔力なし転生者の最強異世界物語  作者: 月見酒
第一章 おっさんは冒険者を目指す
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第十話 模擬戦

 4月4日水曜日。

 次の日、朝食を終えた俺は何故かまた訓練所に来ていた。せっかく地獄の試験勉強も終わり、ようやく自由ライフがやってきた!と思ったのにな。

 現在訓練所には俺、銀、イザベラ、ロイド、ライオネル、ハロルド、ライラ、リリーが来ていた。てか、ルーベンハイト家全員じゃねぇか!


「それで、今日は俺に何をさせたいわけなんだ?」

 衣食住の世話になっている俺としては我侭は言えない立場だけど、流石に理由は知りたい。


「すまないね、ジン君。実は君の実力が知りたくてね」

「実力?」

「そうだ。君が昨日の編入試験で試験官を瞬殺した事はイザベラから聞き及んではいる」

 別にテトルの野朗は殺していないが。


「でもやはり、自分の目で確かめたいんだ」

 なるほど、そう言う事か。


「ごめんねジン。どうしても言うこと聞かなくて」

 申し訳なさそうにしてくるイザベラ。別に良いけど。


「分かった。それで俺は何をすれば良いんだ?」

「まずは遠距離攻撃を見せて貰えると助かる。魔力もなく、武器も持てない君がどうやって攻撃するのか知りたいからね」

 いったい何が狙いなんだ。確かに何も知らない相手を屋敷に泊めるほど危険な事はないが、それでも何かがおかしい。


「考えていても仕方がないか……」

 仕方が無い。さっさと終わらせて街の探検にでも行くとしよう。


「なら、始めるぞ」

「ああ、いつでも構わないよ」

 そうか。なら――

 ヒュィッ。

 俺は100メートル離れた射撃用の的の中心目掛けて、その場に落ちていた石ころを投擲する。


「これで良いか?」

「え?もうしたのかい?」

「そうだけど?嘘だと思うんならあの的を調べてみると良い」

「……セバス」

 俺が指さした的に視線を向けるハロルドのおっさんたち。だが信じられないのか、ハロルドのおっさんはセバスの名前を呼ぶ。


「畏まりました」

 するとセバスが的に向かう。いつの間に来ていたんだ。てか居たのかよ。本当に神出鬼没だな。

 そんな事を考えている間にセバスが戻ってきた。


「どうだった?」

「確かに的の中心に穴が開いております」

 出来るだけ簡潔に答えるセバスの言葉にハロルドのおっさんたちは一瞬目を見開けた。


「的は新しい物に変えていたんだよな?」

「はい。先日旦那様に言われて変えておきました」

「そうか……」

 それでも納得がいかないのか、なぜか恨めしそうに睨んでくる。あ、ライラさんに叩かれた。いったいどういう事なんだ?イザベラはそれを見て嘆息してるし、全然分からん。


「なら、次は近接戦を見せてくれ。そうだな、相手は………」

「父上、僕にやらせて貰いませんか?」

「ライオネル、お前がか」

 意外そうな表情を浮かべる。


「僕もジン君の実力をこの身で体験してみたいです。ですからお願いします」

「……良いだろう」

「そ、それなら私もお願いしますお父様!」

「イザベラ……」

「ハロルド様、僭越ながら自分もこの男と戦ってみたいと考えております」

 そしてそれはハロルドだけでなく、イザベラ、ロイドも同じだった。


「ロイド君、君もか。君は娘を止めてくれる立場だと思っていたんだが」

「申し訳ありません」

「ま、仕方が無い。気が済むまで存分にやりたまえ」

「「「はい!」」」

 なんだか、勝手に話が進んでいるんだが。それにしても俺っていつの間にこんなに人気者になったんだ。全然嬉しくないけど。


「さて、ジン君始めようか。3対1になってしまうけど構わないよね」

「お兄様!」

 どうやらイザベラは1対1で無いことに不満があるようだけど、正直3対1の方が有難い。さっさと終わらせられるからな。


「ああ、問題ない」

「ジン!」

「大丈夫だから、心配するなって。テトルの時と違ってちゃんと手加減するから」

 怪我なんてさせたら間違いなくハロルドのおっさんが激怒するだろうからな。そうなれば今後の俺の人生、何をされるか分かったもんじゃない。面倒事だけは避けなければ。


「へぇ……手加減ねぇ……この私に向かってそんな事言ったのは奴はいつ以来かしら……」

 あれ?イザベラさん。なぜか分からないが随分とご立腹のようですね。俺何か悪いことでも言ったか?


「なら、こっちは遠慮無く殺してあげる。ただし楽に死ねると思わないほうがいいわ」

 怖い!なんだあのイザベラは!まさに悪鬼じゃねぇか!どうやら俺は虎の尾じゃなくて悪鬼の足を踏んだらしい。原因は分からないが。


「ロイド君、悪いけど僕と一緒にイザベラのサポートに回って貰えるかな」

「わ、分かりました」

 どうやらライオネルとロイドも理解したらしい。反応はそれぞれ違うけど。


「それじゃあ、始めましょうか」

「お、おう……」

 俺も死なないように頑張らないと。


「それじゃ………始め!」

 ハロルドのおっさんの号令と共に模擬戦が開始された。

 その瞬間、イザベラが俺に対して突進と見間違う勢いで接近してきた。それなりには速いな。


「死になさい。ジイイイイィィン!!」

 放つ殺気は恐ろしいほどだけど。

 イザベラは銃が存在する世界でありながら、両手に携えた剣で接近戦をしかけてきた。

 縦、横、斜め、突き、ありとあらゆる剣技で俺に攻撃してくるが、生憎と俺はそんなに優しくないため、楽々と全ての攻撃を躱し反撃に転じる。

 それをも考慮していたかのようにサポート役に徹していたロイドとライオネルが左右から同時に銃口を向けてきた。これはちょっと拙いな。

 そう思った時には既に遅く、大量の弾丸が襲ってくる。ま、躱せるけど。

 一旦、反撃は止めて弾丸の嵐から回避する。ふう、流石に人間相手の実戦は初めてだからな。学ぶことが多いな。え、テトルとの戦いがあっただろうって。あれはどうみてもノーカンだろ。どちらかと言えばアホの対処法を学んだって言うべきだな。

 距離をとった俺だったが、それはイザベラたちの狙いだったのか、武器を変えて、こちらに銃口を向けていた。なんだあの銃は。炎龍の時に見たのとは違う形をした銃だ。銃口も普通の拳銃より大きい。


「これは躱せるかしら!」

 不敵な笑みを浮かべてトリガーを引いた3人。くそ、美男美女だと不敵な笑みを浮かべても絵になるな。腹立つ。おっとそんな事を考えている場合じゃなかった。ってなんだよあれ!

 ライオネルの銃口から発射された弾丸は途中で雷の獅子に変貌し、ロイドの水の弾丸は一瞬で複数に分裂して散弾へとなり、イザベラが放った炎の弾丸は一本の剣と形を変えて襲ってきた。


「おいおい、そんなのありかよ!」

 俺は思わずツッコミを口にするが、当たり前だ!普通は呪文を唱えてするものだろうが、なんで銃口から獅子や剣が出て来るんだよ。

 すぐさまイザベラたちの攻撃を躱す。が、


「追従してくるのかよ!」

 躱して終わりかと思えばUターンして何度でも襲い掛かってくる。ったく魔法のくせにホーミング機能なんて生意気だぞ!

 魔法攻撃は魔力で防がないと危険だ。あの気まぐれ島で生き抜いたおかげで魔法攻撃耐性はあるが、当たったら通常の攻撃より痛いんだぞ!


「チッ!これならどうだ!」

 俺はアイテムボックスから石ころを取り出して追従してくる魔法攻撃目掛けて投げる。しかし石ころは接触と同時に砕け散る。やはりただの(・・・)石ころじゃ駄目か!

 なら仕方が無い!この手はあんまり使いたくなんだけどな!

 俺は回避するのを止める。


「まさか、まともに受ける気!」

 俺の行動にイザベラたちは目を見開ける。さて、驚いて貰うとしましょうかね!

 視界と気配を屈指して1番最初に俺に接触する魔法攻撃を見極め、掴もうと(・・・・)した。

 すると、ロイドが放った水の弾丸は一瞬にして霧散した。でもやっぱりチクっとするな。でも、この程度なら平気だな。

 俺は次々に魔法攻撃を掴んで霧散させていく。


「いったい何が起こってるの!?」

 どうやらイザベラたちには俺の動きが捉えることが出来ていないらしい。ただ己が放った魔法攻撃が霧散していくのだけが脳内に焼き付けられていた。


「これで最後だな!」

 俺は最後にライオネルが放った雷の獅子を掴んで霧散させた。


「ふう……なんとか終わったようだな。さすがにこの数は久々過ぎて危なかった」

 俺は両手をプラプラとしながら感想を口にした。


「いったい何をしたの……?」

「ん?」

 どうやら未だに理解出来ていないらしく、混乱気味にイザベラが聞いてくる。ま、無理も無いか。


「別に大した事はしてないぞ。ただ掴もうと(・・・・)しただけだ」

「つ、掴んだですって!ふざけないで!」

 いや、ふざけてないんだが。


「魔力を持たないジンがどうして魔法攻撃を掴んだだけで霧散させられるのよ!それも無傷で!」

 もう気にしてはいないけど、そうハッキリ言われると傷つくんだが。


「イザベラ、俺が気まぐれ島に5年間も住んで何も学んでいないと思うのか?」

「っ!」

 きっと今の俺は不敵な笑みを浮かべてるんだろうな。だからイザベラも気づいて目を見開けているに違いない。


「俺はあの気まぐれ島で生き抜くために我武者羅に魔物たちと戦った。だけど、魔力を持たない俺が大量に魔力を保有する魔物たち相手になんの対策も考えずに戦うと思うのか?」

「………」

「答えは否だ。徹底的に俺は考えた。魔力も無い。武器も持てない。そんな俺がどうやったら、あの化物たちと戦って勝てるのか。そして俺は閃いた」

「……ど、どうやったの?」

 恐る恐る尋ねてくる。ま、当たり前か。


「イザベラ俺が持ってる称号の一つを覚えてるか?それを見て俺に怒った称号の事だ」

「………『創造の女神を怒らせし者』」

「そうだ。称号ってのは普通手にした者に対する賞賛と褒賞を意味している。称号一つで途轍もない力を持っているからな。勿論称号によっても効果の落差はあるが」

「その通りよ」

 この知識はイザベラに教えて貰ったのではなく、気まぐれ島で知った俺の知識の一つだ。


「だけど、称号の全てが素晴らしい贈り物とは限らない。その一つが『創造の女神を怒らせし者』だ。その効果は魔力皆無と武器となり得る全ての物を持つことを禁ずるというものだ。剣や銃は勿論、木の棒、ナイフ、フォークですら持とうとすれば身体に静電気が走り弾く。その時思ったのさ。もしも魔法攻撃を持とうと、つまり掴もうとすればどうなるのかってな。結果は見ての通りだ」

 ここで一つ付け加えるのであれば武器の威力、この場合は脅威度と言うべきだろう。

 その脅威度が高ければ高いほど無力化する際に手に走る痛みも強くなる。


「霧散……」

「その通りだ。武器となり得る物体を掴めば弾くから持てない。と考えるのではなく、掴むことで相手の物理攻撃を弾き飛ばし、魔法攻撃なら霧散させる。俺はそう考えたのさ。ま、簡単に言えばポジティブ思考に変換してみたのさ」

「そんな……」

 信じられないと言わんばかりの表情で呟く。ま、無理もないか。

 でも、未だに俺ですら分らないのが掴める物と掴めない物の区分だ。俺から言わせれば大抵の物が武器になる。コップだって鈍器として使えるしな。たぶんだが、あの糞女神にとって武器かそうでないかで決まるんだろうけどな。


「神が与えた称号だ。その力は絶大だからな。並大抵の攻撃は弾き飛ばすぜ。ま、その分身体に痛みが走るんだけどな。なんせ、武器となり得る物を掴もうとしてるんだからな」

「でも、おかしいわ!」

「なにがだ?」

「武器となり得る物は弾き飛ばすってのを利用した無力化ってのは分かったわ。でも、どうしてロイドの水の弾丸も霧散できたの!大きさで言えばジンが使ってる石ころと変わらない筈よ」

「なるほど。やっぱりイザベラは頭が良いな。これは俺の推測だが、俺が使える武器は別に石ころじゃなくても良いんだ。一定の大きさを超えない物であれば持って投げることが出来る。つまり石ころじゃなくても弾丸でもなんでも良い。ま、大きさはゴルフボール程度までって分かってるだけどな。なのに何故ロイドが放った水の弾丸が霧散したのか。それは魔法だったからだ」

「魔法だったから?どう言うこと?」

「なあイザベラ。魔法ってなんだ?」

「魔法とは魔力を媒体にして呪文、術式を用いて引起す現象のことよ」

「うん、俺もそう思う。なら魔法を発動するにあたって欠かせないモノってなんだ?」

「そんなの、呪文か術式でしょ。いえ、待って。私達みたいな熟練者ならイメージだけで発動する事が出来るわ。そうなると……」

「多分だけど、魔力だと思うよ」

「その通りだ」

 考え込むイザベラの代わりにライオネルが正解を口にした。

 流石はイザベラの兄だ。頭も良い。ムカつくけど。


「魔法を発動させるのに必要不可欠なモノ、それは魔力だ」

「それが、どうしたって言うのよ」

 あれ?分からない?頭の良いイザベラなら分かると思ったんだが。


「今、馬鹿にしなかった?」

「イエ、ベツニ」

 鋭いのはいつも通りか。


「………まさか!」

 どうやらライオネルは気がついたようだ。 


「イザベラ、ロイド君が放ったのはなんだ?」

「そんなの水の弾丸よ。だから私は気になってジンに――」

「確かにそうだけど、ロイド君が放ったのは魔法攻撃だ」

「それがどうしたって言うの?」

「魔法攻撃。つまり元になっているのは魔力だ。魔力を持たないジン君にとっては魔力の塊に過ぎないんだ」

「だから?」

「はぁ……つまり、魔力皆無のジン君は称号によって魔力は武器だと指定されているんだ。だから掴んだだけで霧散させることが出来た。そうでないと説明がつかないからね」

 どうやら頭の出来はイザベラよりライオネルの方が上のようだな。


「その通りだ。一定の大きさまでなら石ころじゃなくても持てる俺が水の弾丸を霧散させる事が出来た理由、それは魔力によって具現化したモノだったからだ。それを掴むだけで痛みを感じるだけなら、攻撃を受けるよりよっぽどマシだ。なんせ外傷を負う事がないんだからな。理解できたか?」

 これで、理解できなかったら説明するのが苦手な俺にはどうしようもない。もう諦めてくれ。


「つまり、こう言う事でしょ。剣や銃による攻撃は弾き飛ばし、魔法による攻撃は霧散させる事ができる」

「その通りだ」

 簡単に言えばそうだ。てか、最初にそう言わなかったか?


「なによそれ、反則じゃない!触れただけで無力化出来て、人間離れした身体能力。もうチートじゃない!」

「それが、そうでもないんだな。今回はこうして上手く行ったが、チートってわけじゃない。チートってのは最初からある異常な力や才能を意味するんだ。そこにデメリットは存在しない。俺の身体能力はあの気まぐれ島で生き残る為に我武者羅に戦った結果、少しずつ強くなっていっただけだ。あの最悪な称号も俺がポジティブ思考に考え出した結果に過ぎない。ご飯食べる時は手で持って食べられるものじゃないといけないし、掴もうとすれば身体に静電気が走ったみたいに痛みが発生するし、今の攻撃だってタイミングよく掴もうとしなければ、まともに攻撃をくらっていた。だから全然チートじゃないんだよ。5年間あの島で生き抜いたお陰で手に入れた力に過ぎないんだからな」

 そう、全然チートじゃなんかない。成長チートでもない。ただ目の前の現実に、運命に抗った結果、少しずつ手に入れた身体能力とポジティブ思考による称号の使い方が上手くいっただけなんだからな。だから俺の動体視力でも追いつけない魔法攻撃を喰らえば間違いなく今回みたいに上手くはいかない。おっと、模擬戦闘中に過去に浸るなんてあるまじき行為だったぜ。


「それで、続けるのか?」

「勿論よ。絶対に一撃は入れて見せるわ。そうじゃないと悔しいじゃない」

「その割には楽しそうだな。悔しいって思うのが久しぶりだからか?」

 イザベラの表情は苦虫を噛み締めた時のように歪んではなく、嬉々として不敵な笑みを浮かべていた。


「………そうかもしれない。こんなに悔しくて楽しいって思うのなんて何年振りかしらね?」

「4年ぶりじゃないかな」

 ライオネルの野郎もやる気満々のようだな。


「僕はお嬢様に従うだけです!」

 ったく、お前らしい答えだな。


「それじゃあ、再開といこうか!」

 俺はそう叫んだ。こんどはこっちから攻めさせて貰うぜ!

 数メートル離れていた距離を一瞬で、ライオネルの背後に回った。後は首筋に手刀を落として終わり――


「チッ!」

 攻撃を中断してすぐさま、地面を蹴る。

 パンッ!

 それとほぼ同時に銃口から弾丸が飛び出す。早めに気づいて喰らうことはなかったが、先制攻撃に失敗してしまった。

 一旦距離をとった俺はライオネルに不敵の笑みを向ける。


「やっぱり凄いな」

「そんなんじゃないよ。全然見えてなかったしね。ただ、もしかしたら僕の背後に回り込んで攻撃してくるんじゃないかな、と思っただけさ。僕は生憎とイザベラみたいな才能は持ち合わせていないんでね」

「まったく皮肉のつもりか。イザベラから聞いて知っているぜ。魔力量も属性の数もイザベラには劣るものの、魔力量は常人の2.5倍。属性も三属性持ち(トリプル)。常人以下の俺からすれば十分に天才だっての」

「ジン君にそう言われると嬉しいな」

 ったく爽やかな笑顔で皮肉かよ。

 それにしても予想以上に厄介だ。洞察眼、観察眼、それによる戦術の立案と先読みの早さ。1番やり辛い相手だ。でもま、これが人間同士の戦いなんだろうな。気まぐれ島にいた時は人間並の知能を持っている奴は少なくは………なかったな。それでも、俺が1番嫌いなタイプだ。


「よく言うぜ。今の攻撃だって魔法じゃなくて唯の弾丸だっただろうが」

「そうだね。魔法攻撃は、その攻撃力と多種多様な攻撃が出来ることが魅力的だけど、ジン君には効きそうもないからね。だから、攻撃力は低いけど魔法攻撃よりかは遥かに発射速度が速い普通の弾丸を使わせて貰うことにしたんだよ」

 だから嫌なんだ。才能に頼りきらない相手ってのは。

 それにライオネルの事だ。俺の弱点にも気づいた筈だ。


「イザベラ、ロイド君。僕の指示に従って動いて貰えるかい?」

「分かりました、お兄様」

「お任せします」

「ありがとう。なら、作戦その一。相手に反撃の隙を与えない。全員で魔法攻撃をしかける」

「でもお兄様、ジンには」

「うん、分かっているよ。だから魔法攻撃はすべて弾丸系統のものによる大量攻撃を行うんだ」

「「分かりました」」

 そう言うと魔法拳銃で一斉射撃を開始した。やっぱり気づいたか。

 トリガーを引くと同時に発射された魔法弾の属性は土、火、水の三つだ。その全てが弾丸の形で、それも大量に襲い掛かってきた。さすがにこの数だとキツイな。ライオンや剣と違って弾丸は小さいから掴むタイミングが難しい。それに込める魔力量も微量で済む分、連続攻撃に向いている。

 俺は無力化しながら動き回る。それでも圧倒的に多過ぎる魔法弾全てを躱す事は出来ず何発か喰らってしまう。

痛てぇな。


「あれだけ、攻撃が当たらなかったのにどうして……」

 俺が弾丸との攻防を繰り広げる姿に驚くイザベラは信じられないといった表情をしてるんだろう。だけど今の俺に説明を求めるなよ。そんな余裕はないからな。


「簡単な事だよ。小さいくて多いからさ」

「小さくて多いから?」

「そうさ。イザベラ、大きな攻撃一発、そうだねバスケットボール大の魔法攻撃と弾丸サイズの一斉攻撃躱すのが難しいのはどっちだい?」

「それは前者よ」

「その通り。だけど小さくても数が多ければどうだい?」

 そんなライオネルの言葉にイザベラは考え込む事もなく、直ぐに気が付き目を大きく見開ける。


「気づいたようだね。そう、さっきは僕のライオンやイラベラの剣は当たれば効果は絶大だけど楽々と躱されて無力化されてしまった。それは魔法自体が大きくて視認しやすく単体だから躱すのも楽だからさ。だけどロイド君の魔法攻撃は威力より確実性を選んだものだ。数も多く小さいから全てを把握するのにどうしても時間が掛かってしまう。さっきはロイド君だけだったから、全て無力化されてしまったけど、僕達3人が同じ弾丸系統の攻撃をすれば流石のジン君も全てを躱しきるのは無理だと考えたのさ」

「ですが、それなら両手で無力化すれば」

「僅かな時間の間に両手だけで無力化出来る数はたかが知れてる。それに攻撃してくる弾丸が小さいから掴むのも大変な筈だよ」

 ライオネルの言うとおりだ。

 魔法が大きければ躱す動作が大きくなるが、視認しやすくなり無力化するのが楽になる。

 だが大量の小さな弾丸ならば話は別だ。

 視認するのに精神力を大きく消耗するし、無力化出来なかった場合は攻撃を受けてしまう事になる。なら回避した方が肉体が怪我することも精神が消耗することもない。

 だがこの状況はライオネルの掌で踊らされているだけにすぎない。


「それじゃあ、作戦その二だ。今すぐ拳銃による止めだ」

 二人はライオネルの指示に従い魔法弾丸と攻防しているジンに銃口を向ける。


「撃て!」

 ライオネルの指示に号令とともにトリガーを引く。

 三発の弾丸はジン目掛けて真っ直ぐ飛んでいく。

 流石にこのままじゃっ!この感じはヤバイ!俺は危険を察知して左に跳ぶ。そのせいで残りの魔法弾を全て浴びてしまった。


「ああ、痛てぇ……」

 土煙の中から立ち上がる俺の姿にイザベラは少し安堵した表情を漏らしていたが、直ぐに真剣な表情に戻ってしまう。


「やっぱり回避したね」

「やっぱり気づいたか」

 鋭い視線を向け合う俺達。


「ったく服がボロボロだ。これ修理しろとか言わないよな?」

「勿論言わないよ。賠償も求めないから安心して」

「それは良かった」

 いや、ほんと良かった。無一文の俺に賠償金を払うお金なんてないからな。


「あ、あの、お兄様」

「なんだい?」

「どうしてジンは魔法弾をまともに喰らったのですか?」

 視線だけライオネルに向けて質問するイザベラ。どうやらまだ気づいていないようだ。

 正直話して欲しくはないが、それは無理だろう。

 そんな俺の諦めは現実のモノになり、ライオネルが説明し始める。


「それは僕達が撃った弾丸によるせいだ」

「弾丸ですか?ですけど、ただの弾丸ですよ?」

「そう、ただの弾丸だから良いんだよ」

「え?」

「ジン君の無力化する称号の弱点はね、ゴルフボール以下の大きさの物理攻撃を無力化する事が出来ないって事だよ」

「あっ!」

 その通りだ。でないと俺が石ころを持って投げる事が出来ないからな。ま、石ころだけ大丈夫という指定かもしれないが、石の種類も色々あるからな。


「さっきの魔法弾が無力化できたのは、それが魔力によるものだったから。無力化できるメリットを残しておけば、間違いなく、ジン君は無力化に集中すると思ったからね」

 ほんと、俺が嫌なタイプだ。なにが好青年だ。考えを改めないとな。

 爽やかな笑みを浮かべていたライオネルだったが、その表情は一変して冷や汗を流しながら頬を軽く引きつらせていた。


「でも、僕にも少しは誤算があったんだよ」

「誤算だと?」

「うん。あの地獄島(ヘル・アイランド)で生き抜いたジン君の危機察知はずば抜けている。そんなジン君が弾丸に気づかないわけ無いからね。でも回避すれば残った魔法弾による集中攻撃を受けてしまう。魔法弾は普通の弾丸よりも威力が高い。だから魔法攻撃を防ぐには魔法でないと危険なんだ。でも魔力を持たないジン君にそれは不可能。なのにどうして平然としているんだい?」

「そうでもないぞ?」

「確かに服はボロボロで上半身は丸見えだけど、なんでほぼ無傷なんだい?」

 ああ、なるほど。そう言う事か。魔力を持たない俺が魔法攻撃を受けてなんで軽症で済んでいるのか気になるのか。


「確かに魔法攻撃は通常攻撃に比べて威力が高い。痛みも比較にならないほどだしな。だけど、この程度の魔法攻撃はあの島では虫に刺された時よりも軽いぜ」

 さっきの嫌な攻撃の意趣返しにと俺は不敵な笑みを浮かべて皮肉交じりに挑発する。


「なるほど。そうだったね。僕としたことが考慮に入れるのをすっかり忘れていたよ。君はあの島で戦って生き抜いてきたんだってね」

 その通りだ。お前達の攻撃は海沿いに住む魔物の攻撃より軽い。中央に住んでいた神クラスの魔獣どもの攻撃に耐え生き抜いた俺からしてみれば虫に刺された程度なんだよ。

 でも、こいつらは強い。才能が全然違う。ただ経験の差が違うだけだ。

 お、太陽があんなに高い場所に。そろそろ昼食の時間だ。すっかり没頭してしまったな。


「なら、そろそろ終わらせて貰うとするか」

「出来るものならやって――」

 イザベラは喋りながらその場に倒れて気絶した。勿論ロイドとライオネルもだ。


「しょ、勝者、ジン!」

 こうして模擬戦は終了した。さぁ、さっさと帰って昼食だ!その前に風呂かな。服もボロボロで汚れたしな。

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