第十八話 祝賀会
ホテルに戻った俺は風呂から上がると既に銀はベッドの上で寝ていた。銀も居酒屋ではしゃいでいたからな。疲れたんだろう。
俺もさっさと寝るとするか。
コンコン。
すると突然ドアがノックされる。夕方に誰かと会う約束でもしてたか?
ドアをあけるとそこにはミレイユが立っていた。それにしても服装変わってないか?冒険者風の服装だったはずが、普通にファッションしてるし、こう言うファッションなんて言ったけ?きれいめ系だったか?ま、男の俺に女性のファッションを知っているって方が無理か。それよりも、
「どうしたミレイユ。何用か?」
「少し話がある」
話ってなんだ?ここに来たって事は他の奴らに聞かれたくないってことだよな。
「なら、外に行くか。ここは銀が寝ているからな」
「分かった」
クローゼットから取るフリをしてアイテムボックスから上着を着た俺はミレイユと一緒に近くのバーに来た。
物静かでほとんど客も居ない。ここなら話せるだろう。
「で、話ってなんだ?」
「いや、改めて御礼をと思っただけだ」
「別に気にする事ないだろ」
「いや、これは私の問題なんだ」
「そ、そうか」
本当に気にしなくて良かったんだがな。誰もお礼目当てで助ける奴なんて居ないだろ。確かに冒険者は言い換えればそのお礼目的だ。金銭、名誉、名声と言った物が目的だったりする。中には憧れて冒険者になった者も居るだろうけど。だけどそれは依頼者も依頼を受けた冒険者も同意の上で行っているわけであり、咄嗟のアクシデントでは誰もそんな事を考えている奴なんて居ないはずだ。もしも居たとしたら相当の下種か、悪知恵が働く奴に違いない。
「いや、違うな。これは口実だ。ジン、私に付き合ってくれ」
「別に構わないが」
一杯だけお酒を飲んだ俺たちが向かったのはラブホテルだった。マジかよ。
ミレイユに引っ張られてラブホに入った俺だけど、これ夢じゃないだろうな。目が覚めたらホテルのベッドの上でしたなんてオチじゃないだろうな。
痛い。夢じゃない。
ドサッ!
俺はそのままミレイユに押し倒されてしまった。
「宴会の時に私が言った言葉を覚えているか?」
「なんの話だ」
「私は強い者が好きなんだ。で、お前は私の中の規定値を超えている。いや、助けてくれた時、嬉しかった。憧れた。そして何より格好良かった」
「なるほど」
言っておくが俺はもう自重も遠慮もしないと決めているからな。女性の方から誘ってくれるなんて思ってもなかったけど。これなら存分に楽しめそうだ!
「なら、遠慮なく食べさせて貰うぞ」
「ああ、好きにしてくれ」
その後俺とミレイユは朝までホテルから出ることは無かった。大満足。
9月6日木曜日。
時間にすれば朝の午前7時。正直眠たい。一睡もしなかったからな。互いに求め合い満足するまでしてたからな。
ホテル入ったのが午後の8時ごろだったからそれを考えると約半日か。我が息子のタフさは素晴らしいの一言だな。
で、ミレイユはと言うと俺の腕に自分の腕を絡ませて肩に頭を乗せながら一緒に歩いていた。
ヤバイ。クールで認めてない相手には毒舌のミレイユがここまで好意を向けてくるなんて今すぐホテルに戻りたい気分になってしまうだろうが!
「やはりジンは強いだけでなく、夜も凄いんだな」
「ま、まあな」
ヤバイ!その微笑は反則だ!
「寂しいが私は一度故郷に戻らなければならない。また会ってくれるか」
「ああ。今生の別れじゃないんだ。また会えるさ。俺はこの国で冒険者として活動するつもりだから戻ってくれば会えるさ。それに今はスマホあるしな。連絡してくれれば問題ない」
「そうだな。また戻って来たら連絡させて貰うよ」
やはり俺は思うぞ。ここが異世界なんだと。でないと前世ではありえないからな。魔物が平然と跋扈するこの世界で強く活躍する男性ってのはやはりモテるみたいだ。あの地獄の島で5年間も我武者羅に頑張ってきて本当に良かった~!
「それじゃ、また――」
「なああああああああああああぁぁぁ!!」
早朝のラブホ街に男性の絶叫が響き渡る。煩いな。周りに迷惑だろうがいったい誰だよ。って!
「カイ、なんでお前こんな所にいるんだ?」
「それはこっちの台詞や!なんでお前らこんなところ……に」
カイの視線が腕を組んでいる所に向けられる。
「え?嘘やろ。お前らって早くもそんな関係なん?」
動揺を隠し切れないカイの人差し指はプルプルと震えながら俺たちの腕に指差していた。
ミレイユに至っては恥ずかしいのか俺の後ろに顔を隠しているが、既にバレているから無駄だと思うぞ。
「ミレイユもあん時は銀が良いって言うてなかったか?」
「あれはあの場のノリだ。それはお前だって分かっていただろ。それに私だって女だ。好きな男ぐらい出来る」
「そんなアホなああああああああああぁぁぁ!」
またしてもカイの絶叫がラブホ街に木霊する。いい加減大声ださないほうが良いぞ。通報されるかもしれないからな。
それよりも早く帰らないと銀が怒るかもな。
「ミレイユ行こう」
「そ、そうだな」
「じゃあな、カイ。これがお前と俺の差だ」
「ガーン!」
なんたる優越感。これほど気分が良い事はない。
「最後なんて言ったんだ?」
「いや、男の勝負に決着が着いただけだ」
「そうなのか」
この後駅前で別れた俺はホテルに戻ると銀に思いっきり突進される羽目になってしまった。銀、そこまで怒らないでくれ。美味しいお肉を用意するから。
結局帰ってすぐ寝ることは出来ず、銀に美味しいお肉をたらふく食べだせた後でようやく寝ることが出来た。
スマホの着信音で目を覚ました俺はすぐに電話に出た。
「もしもし」
『あ、ジンさん。ようやく繋がりました』
「すまないな。疲れて寝ていたんだ」
『そうだったんですね。それで実は今日ジンさんの合格祝いをしたいと思っていまして申し訳ありませんが、今から王宮に来てもらえますか』
「分かった。今から向かう事にする。わざわざ祝ってくれてありがとうな」
『い、いえ!それではお待ちします!』
電話を切って画面を見ると時刻は午後5時40分になっていた。6時までには王宮に行っておきたいが、王宮までは徒歩30分は掛かるからな。少し急ぐか。
俺は急いで風呂に入り支度をすると銀を抱えてホテルを出た。
周りに人や公共施設物を壊さない程度の力で走る。結果的に俺は僅か5分弱で王宮前に到着した。楽勝だったな。
見張りをしている警備委員の元に向かい、入城を許可してもらう。
「鬼瓦仁だけど、入っても良いか?」
「では身分証明書を提出してください」
「冒険者カードでも良いのか?」
「はい」
初めて見る顔な事もあってか鋭い視線を向けられながら警戒されているが俺は冒険者カードを渡す。
「確認しました。入って頂ければすぐに迎えが来るそうです」
「分かった」
どうにか許可を貰った俺は王宮内に入る。
ガラス張りのエレベーターに複数の受付。スーツ姿の女性や軍服姿の男性。果てには白衣姿の女性までいる。まるで大手企業の本社に来た気分だな。いや、それ以上か。
「ジンさん!」
そんな1階ホールにシャルロットが嬉しそうに出迎えてくれた。その後ろには階級章が変わってるグレンダも居た。
「お久しぶりです!」
「久しぶりって前に会ってから一週間ぐらいだぞ」
「間違ってますか?」
「いや、間違ってないと思う」
そこらへんの感覚は人それぞれだからな。別に良いか。それよりも第二皇女様自ら出迎えてくれる俺に対して周りから凄い視線を感じるんだが。
「それでは参りましょう。お父様たちも待っています」
「そ、そうだな」
シャルロットに引っ張られ俺たちはエレベーターに乗り込むと何故かカードスキャンと指紋認証、音声認証、パスワードまで打ち込んだりしてるんだが。
「いったい何をしてるんだ?」
「今から向かう階層は私たち王族のプライベートフロアなんです。ですから王族である私たちのデータとパスワードが無ければ行く事が出来ないんです」
「なるほど」
現代の建築技術だけでなくセキュリティー技術まで織り込んだお城ってわけか。通りでエレベーターの中に監視カメラが二台も設置されてるわけだ。
入り口の上に表示されるはずの数字も表示されること無く気がつけば目的の階層に到着していた。
「さ、こちらです」
「お、おう」
この景色、前にも見たな。あの時はイオの案内で来たからエレベーターには帰りしか乗らなかったんだよな。昔ながらにある隠し通路で俺はいつのまにかこのプライベートフロアに来ていたわけか。全然気づかなかった。
廊下を歩きモザイクガラスの扉を開けるとそこは前にも見たリビング&ダイニングが広がっていた。
「やあ、ジン君!待っていたよ!」
「ボルキュス陛下、この度は私の冒険者合格を祝っていただき真にありがとうございます」
「なに、気にすることは無い。それよりも今宵は無礼講だ。そんな堅苦しい挨拶は抜きにして楽しもうではないか!」
「そう言っていただけるのでしたら、俺としてはありがたい」
「アハハっ!対応が早くて良いね」
そう言って貰えて良かった。他の人たちも不機嫌な顔にはなってないな。
「ささ、それじゃ食事を始めようではないか。ジン君も座りたまえ」
シャルロットの横に座った俺はシャンパンが入ったワイングラスを手に取る。
「それではジン君の冒険者試験合格を祝して乾杯!」
『乾杯!』
打ち付けるような事はせず、軽く天に掲げるだけの乾杯は、王族と一般のマナーの違いなのだと俺は思った。
そして俺の前にはこれまた豪華な料理が並んでいた。
「ジンさんでも食べられる料理にしてみましたから、遠慮なく食べてください」
「では遠慮なく」
デニッシュ、おにぎり、ピザ、生春巻き、唐揚げ、など手で取っても食べられる料理がずらりと並ぶ。美味い!美味すぎる!この一週間でまた王妃様二人は腕を上げてるな。やはりチートレベルの成長ぶりだ。
よく見ると銀はサーシャに抱かれながら食事をしていた。階級や種族関係なしに銀はモテるな。ま、銀が可愛いことは俺が一番知ってるけど。
「それでジン君、今回の試験は何でも過去10年で最も多くの受験者が一度に合格したそうだね」
「ええ。実技試験Ⅱで俺とパーティーを組んでいた仲間全員が合格しました」
「ほぉ……」
なんだ?急に視線が鋭くなったが何か拙い事でも言ったか。
「もしかして何か強くなる秘訣でも教えたのかな?」
「いや、今回はそんな事は無かったな」
「今回はか。で、何をしたんだい?」
「ただ受験内容を勘違いしていたから本当の事を教えただけだよ」
「本当の事ですか?」
俺の言葉に誰もが怪訝そうに首を傾げていた。そうか、この中に冒険者試験を受けたものは居ないんだよな。それなら知らないのは当然か。
「受験者の大半が年間に合格する人数は10人だと思っていたんですよ。あれは去年の合格者人数であって、規定人数ではないからな。むしろそんな規定人数は定めてないはずだ。なのに受験者たちはそれを勘違いをしていたため実技試験Ⅱで同じパーティーメンバーでありながら蹴落とすような事をしたり、警戒しあって連携どころか、コミュニケーションすらしない状態だった。あんな殺伐とした試験は初めてだったよ」
ま、試験をそんなに受けてきたわけじゃないけどな。
「確かにそれは問題だね。だからここ数年冒険者試験の合格者が少なかったんだね」
「なら、何故冒険者や組合の人間はその事を受験者たちに教えないのだ?」
「カルロス殿下」
「カルロスで構わない」
「では、カルロス。教えないわけは簡単だ。自分で気づいて欲しいからさ」
「自分で?」
「そうだ。初めての実戦。それは人間のいや、個人の本性が現れやすい場でもある。そんな場所で冒険者や組合の人間はそれを見て冒険者にすべきかどうかを判断する。何故なら冒険者の行動ひとつで他の冒険者にも迷惑が掛かる危険性だってあるからな」
「なるほどな」
「それに冒険者はギルドに入りパーティーとして依頼をこなす。それが当たり前の事すら出来ないような受験者を合格させてもギルドに迷惑を掛けるだけだからな」
「確かに自己中な人間が入ればパーティー内の関係は崩れるからな。それを未然に防ぐためか」
「冒険者学校や学園はパーティーの大切さを一から教えるが受験者はそうじゃない。何故なら受験者は一人だからだ。同じ受験者が周りに居てもそれは同じ試験を受ける仲間ではなく蹴落すべき敵でしかない。そんな考えの受験者を合格させたところでパーティーの大切さが伝わるわけが無い」
どうせ俺は一人でここまで頑張ってきたんだ。だから仲間なんて要らないって言うに決まってるからな。




