まんざいぶふくぶちょーのおさななじみはあだるとです
「……ぁ……あ」
今の時刻は朝4時、俺の1日はこの時間ぴったりに起きるところから始まる。
知ってる天井を数秒凝視してみれば、段々と意識が覚醒して夢の世界から引きずり出されていくようだ。
今日は、モーニングスターを持った鰹に追いかけられる夢を見た。
冷や汗が尋常でない。
「……あ……ん」
4月のどこか気の抜けた空気を肌で体感し、ベッドに寝転がったまま背伸びを1発。
「いぃ……く、あ……」
自室の近くにある洗面台で顔を洗って部屋に戻る。
毎日のルーティンだ。
「……く……ん」
しかし俺の朝のルーティンには、まだもうひとつ欠かせないことがあるのだ。
「……う……あ……あ」
窓を開けベランダに出て隣の幼馴染みの部屋に向かって俺は大声を叩きつける。
「うるせえんだよ!
昨日から!いつまでヤってるつもりだ!?
もう4時だぞ!」
俺の声を聞き、がらがらとベランダを開けてツインテールで半裸の少女が姿を表す。
顔立ちは小動物系の美少女と言ったところか……
「えぇ、そんなのウチの勝手じゃん……
口煩い男はモテないよ?」
そう、北城多々良の幼馴染みである桂浜 禊は正真正銘のビッチである。
「毎日毎日てめえの矯声聞かされるこっちの身にもなれよホント……」
俺が疲れた声でそう告げると、禊の相手も半裸でベランダに出てきてしまった。
服を着ろ。
「おいなんだよ禊、あいつ誰?
禊の彼氏?」
ちげえよ、彼氏の部屋のベランダ越しでヤる奴が現実にいてたまるか。
「ちがうよー、ゆうくん。
あれは私の……親?」
「なわけあるかバカ女!」
「マジか、やべえな。
その年齢で……親子は性格まで似るってことか」
もうやだ話聞かないやつばっか。
因みに禊は中学3年生。
ピチピチのJC……の筈が既にこれである。
化粧が異常に濃いし髪だって金に染めていて中学生とは思えない。
こんなことが許されて良いのだろうか?
いいんです。
何故ならこいつの通う中学は私立木芽高校四面楚歌が1柱、西山原中学校。
そしてこれらの中学には1人番長的存在がいて、四面楚歌全ての中学の頭文字に方位が入っていることからその番長的存在は方位磁針というクソダサい異名を付けられなければいけないのだ。
とまあ話は逸れたが、異常な数の不良を抱える中学校なのであるこいつの通う中学は。
髪染め禁止の校則などあってないようなものだ。
「でもさぁ、毎日毎日律儀に怒鳴るって……
ウチのこと好きなん?」
ツインテールを弄りながらこっちを伺う禊。
「近所に迷惑なんだよ!
つかんなわけないだろ、お前みたいな奴好きになるとか俺どんだけ不憫なやつだよ……」
どっちかっていうと俺の怒鳴り声の方が100倍煩いとか知ったこっちゃないです。
それそうと、彼女は途端ムッとした表情になる。
「なによそれ!
マジ意味わかんない、死んじゃえ!
行こ、ゆうくん!」
どうやら今の発言が禊の琴線に触れたらしい、部屋に戻ってピシャリとベランダの窓を閉めた禊は最後にガラス越しにあっかんべーをしてきた。
小学生かよ……
「……はぁ、もう疲れた、マジ無理。
リスカしよ」
俺はそう溢して自室に戻る。
幸い今日は土曜。
あいつの聞きたくもない喘ぎ声で寝不足になろうがなにしようがいくらでも寝る時間が取れるのだ。