まんざいぶのふたりはむちゃくちゃなかがいいのであった
「じゃあ北城、M1に出るためにはどうすればいいんだ?」
何故かあのまま俺の意見が可決され、部室の黒板にはえむわんぐらんぷりでゆーしょー、という文字が書かれている。
どっちかっていうとこれは年間活動テーマじゃないだろうか?
一月で達成しようとしてるとか流石部長、意識が高すぎる。
……これ考えたの俺だけど。
「そーっすね、無理なんじゃないすか?」
「そうだね、諦めよう」
「……」
「……」
「これは優勝間違いなし」
「M1は諦めましょう」
腕を組んで手応えを感じているにゃんこ先輩を遠い目をしながら諭す。
「なんでだ北城!
私は今観客が席を立って私達に拍手を送るところまで見えたぞ!」
「漫才でスタンディングオベーションってどういうこっちゃ。
それとにゃんこ先輩」
拳握りしめ幻を見るにゃんこ先輩には現実を知ってもらわなければ。
「ん?
なんだ北城、モーニングスターか?」
「どういう名詞ですかそれ……違いますよ。
M1は今月やりませんよ」
「じゃあやめるか」
「懸命っすね」
なんだかんだ言って凡てに於て適当な漫才部なのだ。
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「じゃあ北城、今月の活動目標を決めるのは私達には厳しいらしいので諦めよう」
黒板から離れてソファーにダイブすると、欠伸をしながら言い放ったにゃんこ先輩。
にゃんこ先輩は盛大な出オチをかました後キグルミを脱いで制服になっていた。
つまり……
あ、もうちょっとで見えそう。
……見えない
「俺らって活動目標も決められない無能だったんすね、特進の名が泣いてるっすよ」
そうなのだ、俺みたいな天才最強有能男子が特進なのはまぁ至極当然のことなのだが、なんとこの休日のおっさんの化身ことにゃんこ先輩も特進だったのだ。
しかも二人とも普通科志望なのに間違えて特進になったって言うんだから偶然ってすごい。
「じゃあとりあえず今日は漫才部らしくネタでも作ろうじゃないか!
私が幼稚園の時考えたネタがあるからそれやろうよ!」
といって鞄から取り出され、俺に手渡されたのは年期を感じさせる黄ばんだジャポ2カ学習帳。
「なんでそれを持ってきたんすか……というかにゃんこ先輩幼稚園の時からM1狙ってたのかよ」
そう悪態をつきながら渡されたの学習帳を見る。
園児にしては綺麗な字で漫才ノートと書かれたそれには言葉では表せない魅力がつまっているような気がした。
「……でも、なんかすごい懐かしそうな感じしますね……
なんかこういう古そうな物の匂いって俺好きなんですよ」
そう目を細めた俺は学習帳の匂いを嗅いでみる。
ああ、自分のものじゃないのに昔が思い出されるようだ。
「あ、それ朝お漏らししちゃって黄ばんでるだけだからさわらない方がいいかもね」
「うわきったな!!
つかなんでジャポ2カに引っ掛かるんだよ!
股に学習帳挟んで寝てたのか!?」
俺は学習帳をぶん投げて抗議すると、にゃんこ先輩はヘラヘラと笑ってそれを拾う。
「冗談だよ、まさか信じるは思ってなくて。
というか良いツッコミだね、近々M1狙ってみるか?」
「狙いませんし……じゃあもうとりあえず見せてくださいよ」
あんた以外だったら冗談で済むんだよ……
内心でぼやきながらそう言って頭をかいている俺を見て、上機嫌そうにうんうんと頷くにゃんこ先輩。
「にゃははー、乗り気なのはいいことだね北城!」
これ以上天然ボケかまされたら困るんですよ……