まんざいぶふくぶちょーのくろれきし
北城くんの、木芽高校入学時無茶苦茶いきり腐ってた時のおはなしです。
……あまりにも長くなりそうだったので区切ります、一話書くのに何日かかってんだ俺は……
「っしゃ、行くか……」
春休み入ってすぐに染めた前髪に毛先の金髪、ちょっと気だるそうな眼、染み一つない白い肌、中学時代宜しく着崩した制服。
やたらと広い洗面所で鏡に写る自分は、頬を両手で叩き、気合いを入れるように呟く。
今日はついに、記念すべき私立木芽高校の入学式で
ある。
特に仲のいい友人はほぼ遠い高校に進学してしまったが、俺の出身の南霧谷中学の生徒はほぼこの学校に入学するというので、俺も猛勉強の末この高校を受験した。
--彼が入学したのは、特進です。
俺の回りの人間なんて勉強してるようには見えないのに、偏差値60を優に越える高校を余裕で受かる等と聞いた時は流石に耳を疑った。
でもまぁ俺もこうして入学しできた訳だし、ボッチになる必要なく素晴らしい青春を謳歌できるというわけだ。
--彼が入学したのは、特進です。
俺は二階の自室から程近い洗面所から出た後、新品の学生鞄を持って階段を降りる。
--特進の制服を着て
玄関に入ったら、新しく用意したピカピカの革靴を履いて重い玄関を開け放った。
「ヨウくん、またね!」
「じゃあね、禊ちゃん!」
閉めた。
玄関を開けた瞬間に聞こえてきたそんな声。
大方俺と冷戦状態の禊さんが遠方の小国と同盟を結んだ歴史的瞬間だろう。
これが本当の遠交近攻、やかましいわ。
とりあえず十数秒待った後、俺は鉛色のドアノブを回す。
流石にもう行っているだろうからな。
「……なんでさっき閉めたんだよ?」
めっちゃ居た。
不機嫌そうに腕を組み、制服の胸元部分を大きく膨らませながらこっちを睨む我が幼馴染み。
「忘れもんだよ忘れ物、後お前もうちょっと静かにしろよ。
声丸聞こえ……」
俺がそう言った瞬間、禊は身を震わせて怒鳴った。
「っ!?
どうだっていいじゃん!
信じらない!」
ほほぉ、空は青々と煌めいて、そよ風は優しくたなびく、こんな絶好の入学式日和で俺の気分も清々しかったというのにこいつときたら……
こちょこちょでもしてやろうかと思ったものの、正直ご近所の評判が岩盤突き破ってブラジル旅行するのは避けたい。
ここはもう適当にあしらって俺の華々しい高校生活への道を歩み出そうではないか。
「はいはいわかったっての……
俺は今日から華々しい高校生活への道が拓けるんだ、あんまりピリピリしたくないんでな」
--彼が入学したのは、特進です。
まだ何か言うことのありそうな禊を押し退けて、駅への道を歩みだす。
こんなに勉強したんだ、高校では沢山友達を作って楽しい学校生活を楽しもう。
--彼が入学したのは、特進です。
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俺は浮わついて鎮まらない気持ちを押さえながら今まで乗っていたJRから私鉄に乗り換える為、閑散としたホームの列の一番前に陣取る。
隣には耳が隠れるくらいの長さの髪の毛を重力に全く逆らわせずに垂らしている同校の制服を着た女子生徒。
ブレザーの下にはフード付の可愛らしいパーカーを羽織った小柄で可愛らしいヘッドフォン少女だ。
少し格好付けたような刺々しい印象を受けるが、新入生特有の落ち着かない感じが抜けていないところがまた可愛らしい。
はぁ……こういう子と青春を……
ってまぁ俺は頭悪い方に入ったからな……
なんだかんだ頭の良さそうなこの少女とはお別れになりそうだ。
--彼が入学したのは、特進です。
なんて考えている内に、電車が到着したようだ。
俺も、隣の彼女に倣うように、電車の音で音楽が聞こえなくならないように、緊張で自然と強ばる体を解すように、イヤホンの音量を数段階引き上げて黄色い線を踏み越える。
途中、電車は止まるようなこともなく至って順調に運行して私立木芽高校駅に到着。
強いて言うのならば、ドアの近くの手摺のところに寄り掛かった俺と反対側に身を置いたヘッドフォン少女の視線が、お互いに気を使って話しかけるべきか否か思案しているあまり仲が良くない知り合い同士ばりに交錯しまくっていたことだが……
目が合う度にわざとらしくそっぽをむかれるもんだから、なんか可愛くてずっと遊んでいた。
……自重しよう、勘違いだったら恥ずかしいとかのレベルの問題ではないだろうから。
なんたってこれから俺は木芽高校での夢にまで見た学校始まる前から陽キャ確定のスクールライフを送れるんだからな、南霧谷の北城という名前は高校デビューの大きなアドバンテージになること間違いなしだ。
--彼が入学したのは、特進です。
俺はいつの間にか姿が見えなくなっていたヘッドフォン少女のことも忘れて、意気揚々と木芽高校への道を一歩一歩着実に進んでいく。
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道中、鯖のキグルミを着た少女が町中を走り回っていたり、明らかに小学生にしか見えない女子生徒が何故か木芽高校の制服を着ていたりしていたが、俺自体は至って順調に歩を進めることができた。
いや、この場合出来ていた、といった方が適切であろう。
事件が起きたのは、木芽高校の学舎まで百数十メートルくらいのところであった。
「あの、すみません……
セリノってどこか分かりますか?
携帯の電源切れちゃって……」
車がギリギリ通れない位の幅の道を歩きながら住宅の敷地からはみ出ている草木と格闘していると、突然後ろから綺麗なアルトボイスが聞こえてきた。
驚いて振り向くと、高級そうなバッグと赤のドレススカートに身を包んだ女性がいた。
年齢は二十代くらいだろうか、身長は175くらいと見た感じ俺と同じくらいだが、ヒールを履いているので信用はできない。
「セリノ……っすか……
えっと……ここからあっちに行った先にあるコンビニのところで右折して……直進したところの踏切を渡ってすぐに左折してそれから……」
セリノとは、木芽高校駅の駅ナカと繋がっている大規模商業施設だ。
これのせいで電車が毎日滅茶苦茶混む。
と、ここまで話したところで目の前の女性が綺麗な顔を難しげに歪めていることに気が付く。
そして、女性の方も俺の視線に気が付いたのか慌てて謝ってきた。
「あ、あぁ……ごめんなさいね……
ちょっと混乱してしまって……」
だろうな……口で言われたって理解できないことはザラだ。
心の中でそう呟いた俺は、春休みに買い換えた最新型ののスマートフォンをスリープ状態から起動させた。
時刻は7時57分、始業式開始が8時30分、学校から駅まで片道10分……余裕だな。
「分かりました。
良ければ案内しますよ?」
俺が言うと、女性は顔を喜色に染めた。
「ありがとうございます!
助かります!」
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「どうしてこうなったぁぁ!?」
俺の叫びは、朝特有の静けさに包まれた住宅街によく響いた。
ゴミ出しをしているおばあちゃんに奇っ怪なものでも見るかのように見られたが、この時間にゴミ出しをしているあんたも大概おかしいぞ。
そう、もう既に現在時刻9時14分。
この時間では、とっくに始業式は始まっているし、ゴミ収集車は既にゴミ処理場へ走っている。
どうしてこんなことになったかって?
たださっきの綺麗なお姉さんがお礼に何か奢るとか言ってくるもんだから、某有名31アイス店舗でミント味をペロペロしていただけだ。
まあそれだけなら遅刻になるようなことはないのだが、先天的に腹の弱い俺は違った。
入学式への緊張と、アイスの冷たさによって、突発的な下痢を引き起こしてしまったのだ。
アホである。
まあそんなこんなで木芽高校へダッシュしている最中な……うっ、また腹痛くなってきた。
腹痛に耐えながら走り続けていると、やっと木芽高校の校舎が見えてくる。
外から見えるように校舎壁に貼り付けられた木の芽の校章が輝かしい。
今日から俺も高校生だ。
俺は校舎内に侵入し、長方形の大きな建物を見つけ出す。
あれが体育館、今は入学式が行われているだろう……が、これ途中で入るの凄いだるくないか……?
そう思った俺は、体育館の純白の外壁に貼られているクラス表を見つけることが出来た。
それを暫く眺めていると、普通科E組出席番号24番に北城の文字が。
「……とりあえず入学式終わったタイミングで合流しよ」
俺は真顔でそう呟き、そう心に決めたのだが、それと同時くらいに体育館が騒がしくなってきた。
大方新入生が教室へと案内されるのだろう。
不味いな……教師にでも見つかったら初日から面倒なことになる……
思案を巡らしていると、もう既に生徒が出てきてしまっている。
そして気付くと何故か俺はその列に混じっていた。
いやなんでだよ……誰か一人は気付いてくれよ……
何食わぬ顔で一糸乱れぬ整列に溶け込んでいると、不意に隣から声がかかる。
「あれ?
北城クンじゃん、なにやってんのお前……」
「鈴元!?」
鈴元は、スポーツ刈りを赤く染めた典型的なヤンキーといった風貌の少年だ。
中学の時はそこまで仲がいいわけでもなかったが、木芽に入学してきたメンツの中ではそれなりによく話していた方だったような気がする。
「いや鈴原なんだけど……」
「そうだったっけ?」
「……鈴元だったかもしれない」
「どっちでもいいか」
「そうだな」
「そいつの名字鈴切だぞ」
名前なんてどうでもいいという結論に至って意味もなくゲラゲラと笑い合っていると、またもや俺の後ろから声が掛かった。
「身長154センチ体重120キロの百瀬忠雄!?」
「違う、身長190センチ体重72キロ百川忠則だ。
欠片も合ってねえよ」
肩まで掛かる明るい茶色の長髪を軽く払って言う青年が、俺の頭をパシっと叩く。
「いってえなぁぶち殺すぞ!?」
「キレすぎだろ……お前……で、どうしてこんなとこ居るわけ?
もう始業式終わったぞ
初日からバックれとかやるじゃねえか」
半眼でこっちを睨む百倉に、俺は頭を掻いて見せた。
「いんや、ただの腹痛よ。
態々来たのに学校行かねえのもダルいから来ちゃった感じ」
「はーん、じゃあ北城クン自分のクラス分かる感じ?
ここA組だけど」
今度は鈴……太郎、そう、鈴太郎が気を利かせてくれる。
「E組だってよ、後から後ろに合流するつもり。
ありがとな鈴次郎」
「いいってことよ!」
「名字ですらないんだけど……」
「んで桃太郎、E組って誰が居たか分かる?」
「絶対来ると思った」
ため息をついた桃太郎は、お越しに付けた吉備団子を……じゃない、校内の案内図を鞄から出して見せつけてきた。
「……食べられないよ?」
「吉備団子じゃねえんだけど……」
「いや北城クン、ワンチャンあるかもだぜ」
「ねえよ……
んで北城、もうすぐC棟にある俺ら一年の教室に着くぞ。
聞くより早いだろ」
「うるせえ吉備団子よこせ」
「ひっぱたくぞ」
言う前にひっぱたかれていたせいでヒリヒリと痛む後頭部をを擦りながら、俺は眼前を見渡す。
5人並んで歩いても余裕がありそうな広い廊下は新築のように光輝いていて、壁には学校行事の知らせや、インターン、推薦、大学の学園祭などのチラシが貼られている。
だがまぁこれもすぐに普通科の柄の悪い生徒たちによってぶち壊されるに違いない。
俺は、一ミリの誤差の無いように、生徒に見やすいように、気を使って貼られたそのチラシたちに憐憫の目を向けながら、これから始まる学校生活に大きな期待を寄せるのであった。
先月くらいに電源切れてるから調べものができないとか言われたからスマホを貸したんですよ、
そしたら検索エンジンの履歴を消し忘れてました。
どうなったかって?
……その日からあだ名がDMMになりましたね(トオイメ
そしてついでに慈悲のブクマと憐憫のポイント評価を……




