まんざいぶはいがいとたのしーところかもしれない
俺は結局、シーツがぐしゃぐしゃになったベッドの上に座っている。
南郷先輩の残り香ですよ、喜べ童貞。
パジャマ女改め南郷先輩は何故か知らないが積み上がった漫画本の上に座った。
何でそこに座ったのかは全くわからない。
というか多分俺は一生彼女を理解できない。
「じゃあ早速漫才のネタを考えよう!」
「えっ?今からっすか?」
というかマジで漫才やるつもりだったのか……
あっけらかんと言い放った彼女に俺は失礼なことを思ってしまうが、彼女の方が10倍失礼なので気にしない。
思うだけなら土に沈むことはない。
「じゃあまず、私が痴漢するシーンからだね」
「ちょっと待て下さい。
なんすかそのシーン、普通逆でしょ」
「いいから大人しく触られてなさい!」
「ちょ……何で乳首の方に手伸ばすんすか!」
「これが本当の上方置換法」
「こじつけが酷い……
って痛い!
何で本投げてんだあんたは!」
「バカにされるのムカつくよぉ」
向いてねえよこいつ漫才……
今更なことを思っていると、いきなりバタンッという大きな音を立てて部室のドアが思い切り開けられた。
「おい、北城!!
授業サボってこんなとこでなにやってんだ!?」
姿を表したのは俺のクラスの担任。
ああやべえ今授業時間だったの忘れてた……でもこっちにも応戦材料があるのだ。
「違うんですよ先生!
なんか変な先輩に連れてこられて軟禁状態にされたんですって!」
俺は全く悪くないのだ。
バカトリオに絡まれパジャマ女に脅され、厄日である。
「ほぉ、じゃあ北城。
その変な先輩ってのはどこにいるんだ?」
……あるぇ~?
確かにどこを見渡してもパジャマ女の姿は見当たらない。
逃げられたってことか……
やれやれ……流石の俺でも参っちゃうぜ。
「北城、放課後職員室来い」
いや本当に参っちゃうから誰か助けて……
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てな訳で一杯食わされ、その後同じように五杯くらい食べさせてもらって俺は漫才部に所属しているというわけなのだ。
「相当な話数を私おいてけぼり食らってた気がするけど大丈夫かな?」
「支障はないっすね、今すぐ俺の前から消えてもらっても支障はないっすね」
「一生消えない傷を残されたいか」
「ごめんちゃい」
俺達が漫才部を結成して一週間。
やったことと言えば部屋の整理、ベッドの撤去、モーニングスターの廃棄。
これだけである。
まあ俺たちは基本やると決めたことを5秒で投げ出そうとするタイプの人間なので、仕方ないといえば仕方ない。
仕方ないと言えなくても仕方ない。
そして新しく設置してソファにぐでたましているにゃんこ先輩。
猫である。
「前から思ってたけどなんでこんな勝手が許されんすかね」
「それは簡単だよ、私が理事長の……」
孫ってか?
そういうのってドラマの中の話かと思ってた。
「孫の親友の母方の祖母の親戚の会社の役員の娘だからってとこかねえ」
「やけに遠かった」
何故横暴が許されるかは謎のままである。
「とりあえずまぁ許されるならなにしたっていいじゃないか、青春を謳歌しようぜ若人よ」
親指でサムズアップしてくるにゃんこ先輩。
言ってることと首から上だけはかっこいいのだが、首から下が休日のおっさんだ。
「分かったよ若人、今日もぐーだらやりますか」