まんざいぶ、はいぼくをしる
そんな馬鹿をやっていると、きーんこーんかーんこーん、と聞き慣れた音を立てて最終下校時刻が訪れる。
「ああ、もう6時半ですね。
中学生くらいから俺の時間動いてないですよ」
「おっ、ポエマーだね北城!
私も幼稚園時代から時間が止まってるように思えるよ」
「うちの部活の先輩の自我の目覚めが異常に早い件」
俺がそう言うと、くすりと笑ったにゃんこ先輩が肩を組んでくる。
「さっ、帰るか北城!
今度こそハンバーガーは奢って貰うよ!」
「断固拒否ですね、にゃんこ先輩がおごるべきです。
天啓です」
「ほらいいから行くぞ!」
そう言って俺達は漫才部の部室を出て帰路に着くのであった。
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「あっ、東雲だ」
駅へ向かう途中、隣でハンバーガーを頬張っていたにゃんこ先輩が声を上げる。
因みにハンバーガーはお互いの分を奢りあった。
意味がないことしてる?学生なんて基本そんなもんだ。
因みににゃんこ先輩は渾名の通り猫舌らしく、俺はもう食い終わってしまった。
「東雲……どっかで聞いたことあるような」
あちらの少年もこっちに気付いたようでこっちに小走りで駆け寄って来るが、俺を見た途端何故か人でも殺せそうな目をこちらに向けてきてきた。
風貌はスポーツ刈りの細マッチョイケメンといった感じだが、その短い髪を赤に染めているところが特徴的だった。
身長は俺より少し低いくらいだから173くらいだろうか?
「南郷さん、そいつ誰なんですか?」
ヤバい……めっちゃ睨まれてる。
「部活の後輩の北城くんです!
こっちはまあ……中学の時の知り合いの東雲くん!」
「部ですらないっすけどね」
「ああ、北城さんですか……よろしく」
握手を求められた俺はそれに応じる。
……力入れすぎじゃね?
緊張してるの?
俺がそんなことを思っていると、東雲くんは信じられないものでも見るような目でこちらを見る。
「……骨折る気で握ったんだが……」
あるぇ~ちょっとこの子性格に難ありじゃないですかにゃんこ先輩?
そのまま折角だから一緒に帰ろうと言うことになったのだが、考えても見てほしいこの状況。
俺とにゃんこ先輩は知り合い、東雲少年とにゃんこ先輩は知り合い、俺と東雲少年は会ったばかり。
尚、東雲少年は俺の骨を折りたい模様。
即ち地獄である、即刻立ち去りたい。
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なぜ誰も言葉を発しない……
東雲少年はぶすっとしているままだし、にゃんこ先輩はにゃんこなのでこの空気の気まずさも気づいていなさそうだ。
いや気づいてるなこの人、俺らに挟まれて泣きそうになってる。
まじにゃんこ。
話すことがないので下らないことを考えていると、前の方に見知った後ろ姿があった。
「あ、禊」
「え!北城!?」
別にそんなに大きな声を出したわけではないのだが、禊は気付いてこっちに手を振る。
が、隣の二人を見た途端に表情が固まった。
「か、桂浜?」
そう声を上げたのは俺ではなく東雲少年。
なんだ、禊のセフレか?
その声で俺以外の人にも目が行ったのか、禊は少し訝しげに聞いてきた。
「なんで東雲と一緒にいるんだよ?
つかその綺麗な女の人誰?」
「あっ、北城の部活の先輩の南郷楓だよ!
よろしくね」
「私は多々良にいの幼馴染みの桂浜禊、
まぁ、よろしく」
そう手を差し伸べたにゃんこ先輩の手を禊は素直に取る。
……しかしあれは握手というより握力測定だ、どうした禊……
「ほ、北城の幼馴染みちゃん……なんかパワフルだね」
「にゃんこ先輩の知り合いは最早ワンダフルっすわ」
耳打ちしてきたにゃんこ先輩に俺は同じように耳打ちで答えると、後ろから2つの大きな殺気が飛んできた。
それに気付いた我らまんざいぶめんばーは、肩をビクッと震わせて話を変える。
「そ、そいえば東雲ってどこで北城の幼馴染みちゃんと知り合ったの?」
「学校が同じなだけです、それと南郷さん。
その人との距離近くないですか?」
「全くですね、ちょっと近すぎる気がします」
全然別のことを追求する東雲少年と、それに便乗する禊。
そして、総バッシングを食って涙目になりながらもっとこっちに寄ってくるにゃんこ先輩。
かわいい、撫で回して愛でたい。
「なんでにやにやしてるんですか北城さん」
「多々良にい、露骨すぎ」
もうこの精神攻撃で部室がどうとかの話よりも早く漫才部壊滅の危機が迫っているような気がする。
ぶくまにおくくらいほしい