まんざいぶにまいおりるしりあすてんかい、そーゆーのまぢむりなさくしゃはどうがんばるのか!?
「あ、じゃあいつものでお願いします」
俺は学校帰り、微妙に着崩した制服のまま美容院に訪れた。
春休みが始まってすぐ高校デビューの為にここで髪を染めたが既に色落ちが若干目立ってしまっている。
なんでも俺は色落ちしやすい髪質らしい。
前髪の毛先だけとはいえオサレ男子の俺としては見逃せない。
「すみませんお客様、当店に来られたのは2度目とおっしゃっていましたよね」
綺麗な美容師さんが困ったように眉をひそめて俺に問いかける。
「はい、そーっすけど」
「えーとですね、それだといつものと言われてもどんな風にしたかあまり定かではないのですが……」
「毛先染め直してください、あと適当に髪揃えてもらえますか?」
「あっはい、畏まりました」
おうおうなんだ、顔に最初からそう言えと書いているじゃないか……
おっしゃる通りでございます。
なんてバカなことをやっていると、美容院の窓の外に禊の姿が見えた。
あれ?あいつこっち通学路だったっけか?
しかしどこか様子がおかしい。
何か焦ったように足早になっているし、ちらちらと後方を気にしているようにも見える。
「……あいつどうしたんだろ」
美容師さんに聞こえない程度の声で呟いて、また視線を目の前の鏡に戻す。
「すみません、今なにか仰いましたか?」
聞こえてたよ。
俺は虎穴があったら入りたいよ……
あれ?それだと俺死んじゃうぞ?
おかしい。
しかし数秒後、アホなことで思考を埋められる状況でも無くなってきた。
あれ?
あいつら……禊の学校の制服?
窓から見えたのは数人の男女、明らかにそわそわしていて何かから隠れるような仕種をしている。
しかも向かっている方向が禊と同じ方向だ。
「なんかキナ臭いことになってきたぞ……
美容師さん!」
「はい、なんでしょうか?」
「あと5秒で終わらしてください」
「無理です」
ですよねー。
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案外時間食ったな……
俺は内心で毒づきながら帰路についていた。
兎にも角にも禊が心配だ。
昨日から様子がおかしかったし、後をつけられてたのも怪しい。
こめかみに指を当てて考えながら歩いていると、家に一番近い交差点に差し掛かる。
すると、何かやけに騒がしい声が聞こえてきた。
「あいつら、禊のことつけてた奴等か?」
禊と同じ学校の男女5人組が禊の家の前で何かしている。
俺は少しずつ近づいて、彼らの会話が聞こえるところまで来た。
電柱の裏で絶賛スネークしてる俺を見たらご近所の方々はなんと思うだろうか?
また北城のところのガキか、とか思うだろうね間違いない。
悲しい。
「マジなんか?
桂浜の話?」
背が高くて厳つい髪型の1人が怪訝そうな顔をして問い掛ける。
「嘘ついてんじゃね、こいつのことだし」
時代錯誤じゃないかってくらいケバい女子が半笑いで指差したのは痩せてて髪もボサボサの少年。
あまりこういう面々とつるむタイプでは無さそうで、露骨なほどに萎縮してしまっている。
「ほ、ほんとだよ!
ここのベランダで桂浜さんがエッチしてるとこ見たんだ!」
……あー、そういう話ですか……
うわぁ、最悪だな。
そりゃ泣くわ、俺だって嫌だ。
完璧に自業自得とはいえ原因は俺にもあるってとこがなんともいたたまれない。
「まあ嘘でもいいじゃん?
あいつなんか前からウザかったし、調子乗ってたんでしょ。
蹴落とす理由出来て万々歳って感じ」
「だべ、それは分かるわ」
「お前はフラレただけだろ」
「あーちょっと失礼、そこ俺んちの目の前なんだけど屯するのやめてもらっていいかな?」
俺は臆することなく柄の悪い集団のど真ん中に突き進んでいく。
「あーさーせん。
僕桂浜さんのダチなんすよ」
ホストみたいな茶髪の男子が胸に手を当てて答えた。
そうかそうか、なら話は早い。
「あー、そうなんだ。
じゃあ今から呼んできてあげるからちょっと待っててね」
「えっ、おい。
ちょっと待てよ勝手に……!」
「め、迷惑だよそんなの!」
言った途端焦り出す彼ら。
「じゃあそこで待っといてくれて構わないからさ」
有無を言わす気のない満面の笑みで俺は笑って見せた。
こういうときは昔から俺が首突っ込むよりあいつにやらせた方が早いからな。
まあそこで赤いマントを掲げて待っていたまえ若人よ、この俺様が眠れる闘牛を呼び起こしてきてやろう。
はい出たよ、俺あるある。
シリアス展開への異常な導入の甘さ……
ということで大幅修正入るかもしれないんでここで伝えときますね。